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001 黒い世界

 LITE 『Ef』

*-*




 誰もが一度は生まれた意味を追い求める。

 自身の存在を、行為を肯定するために。

 日常に潜む不安と向き合うために。


 しかし一体どれだけの人が “答え” に辿り着けるのだろう?

 真理は夢のまた夢。当人にとって満足に足る答えすら、多くの場合五里霧中の闇に紛れている。




 狭間の世界で一人、根源の魔王ワルドは答えのない自問自答を繰り返す。

 次々と襲い来る者たちを討ち滅ぼしながら───




*w*




「混沌の化身魔王ワルド! お前の命運、俺が今日ここで断ち切る!」

「・・・。」

「喰らえ、"ディバイン・レイ"!」


 私を倒すべく城に踏み込んだパーティの一人、いかにも勇者といった様相の男が魔法を大剣に纏わせて斬りかかった。

 私は静かに剣を抜き、今まさに私の体を光の奔流で斬り裂かんとする大剣を受け止める。


 バキュイッ! と、およそ光景にそぐわない音が広間に響き渡り、私の剣と名前も知らない彼の大剣がギリギリと交差する。


「クッ! 流石は根源の魔王・・・! だが!」


「"業火の矢"!」

「"無限怨嗟"。」

「"クリティカル・ディフェンス"!」


 彼の言葉に触発された仲間たちが次々に魔法を唱える。

 押し寄せる熱波、蠢く闇、大剣の彼を眩く包む防御陣・・・。


 しかしそのどれもが、私にはひどく頼りなく思える。

 私が消滅した世界で、私の守るモノを明け渡すに値するとは、到底思えない。



 一息に大剣を押し返し鍔迫り合いを止め、剣の一振りで炎熱も闇も霧散させる。


「・・・なっ、何だと?!」

「グリム! アレを!」


 大剣の勇者グリムは仲間の声に感化され、決死の形相になった。


「そうだ・・・今こそ力を解き放つ・・・ "ワールドエンド・スーパーノヴァ" !」


 瞬間、グリムの首飾りの宝石が砕け散り、終焉を想起させる赤い閃光が広間に迸った。

 拡散した光はウネウネと彷徨い始め、やがて中心に立つグリムに収束し、グリムの姿は直視し難いほどの赤で輝いている。


「光の理よ! 結束せよ!」

「闇の行方よ、邂逅せよ。」

「慈愛により調和せよ!」


 仲間たちがグリムに魔法を施し、彼の体を覆う光が大剣に流れ収束してゆく。


「これで終わらせる! 喰らえ魔王、"リ・バース" ッッ!!!」


 そして、今や深紅の光となった大剣は振り下ろされ───



 ───私の剣の一振りで灰燼に帰した。


「なっ!? ば、馬鹿な! ・・・ありえない、こんな、こんなことが・・・。」


 絶望の表情で固まるグリムと彼の仲間たち。

 ・・・きっと私も、彼らとは違う理由で絶望の表情を顔に貼り付けていることだろう。


 しかしもはや、私は彼らに用はない。


「安らかに眠れ。"絶界"───」



 闇ですらない無秩序が剣筋を追う様に駆け、全てを飲み込み、数瞬の後には何も無くなった広間に再び静寂が訪れた。




───




 私自身であり、私が守るモノでもある、私の剣。

 鈍く煌めく漆黒の剣身と柄。

 歪の結晶。

 世界を壊す鍵、あるいは世界の崩壊を留める杭。




 ふと気付いた時、私は既に完成された存在としてこの城に存在していた。

 この剣と共に。


 漠然とした不安、哀しみ、怒り、焦燥感・・・。

 何一つ分からない状況にあって、ただ一つ確信できたことは、この剣こそが世界の中心であり、私は剣を守る運命にあると云うことだった。


 例え無数の自称強者が私に襲いかかろうと。

 例え彼らが私を悪と断じようと。

 例え、彼らの言葉を否定する言葉を私が持ち合わせていないとしても。


 私にとって剣を、それを守る私を存続させ続けることは絶対の指針であり、しかし私は私自身の存在が不可思議で仕方なかった。


 だから問いかけた。


『なぜお前たちにとって私は悪なのだ?』

『私が世界を保っているのだと、なぜ誰も理解しない。』

『崩落した世界を再び救えるほどの力が、お前たちにあると断言できるのか?』


 自称英雄に、自称勇者に、自称救世主に、名乗りもしない者たちに。


『悪が自らの悪に気付くことなどない。』

『お前が保っているのは、世界の混沌だ!』

『何を言っている? 俺たちは魔王が・・・お前が世界を崩壊させるのを、止めに来たんだ。』


 ・・・違う、そうじゃない。

 お前たちは何一つ分かっていない。




「誰か・・・。誰でもいい、私に答えをくれ・・・。」


 伽藍堂の心を空の箱にすぎない城に溢しても、虚しいだけだ。




 そしてまた扉が開かれる。光が差し込む。

 私は仮面を被り、陰鬱な気分で開かれた扉に顔を向ける。


「・・・お前がワルドだな。俺は勇者ダラス。お前を、討ち滅ぼす者だ!」


 招かれざる敵。

 淡々と、代わり映えのしない結末が繰り返される。




*-*




 "基本世界" と呼ばれる星で生まれ続ける膨大な "情報" はいつしか基本世界から溢れた。

 行き場を失った "情報群" の中からいつしか "概念存在" が生まれ、概念存在たちは情報群の新たな "世界" を生み出していった。存在意義を果たすべく、しかしなぜその役割を課されたのか知らないまま。

 新たな世界の形成による情報群の浄化という隠された目的を果たすことに "成功" した世界は存続し、反対に "失敗" した世界は創造主たる概念存在と共に消滅の運命を辿っていた。


 ある時を境に、状況が一変する。


 ガイナという名の概念存在が創造した世界に生まれた、基本世界からの転生体であるクレア=ソロジー。彼女はガイナの司る概念 "メタフィクション" を介して概念世界に存在を確立し、"基本世界"、"情報群"、"概念存在" と、概念存在が生み出す無数の "世界" の関係を解き明かした。


 概念存在たちはクレアの提唱する世界の成功方法に順応し、基本世界から溢れ続ける情報に概念世界が汚染されないようにと、創造される世界は増えていった。

 試行回数が増えるに従ってより確からしい方法論が生まれ、当然失敗の回避方法も模索されていく。


 失敗回避方法で主流になったのは、世界創造の際 "リトライ" の概念を司るネルに介入してもらうやり方だった。

 ネルが介入した世界は一度だけ失敗を無かったことにでき、ネルの介入時点から "リトライ" することになる───





「これは私の予想だけど、無かったことにされた "一回目の世界" の情報が集積したものが、この "黒い世界" なんだと思う。」


 談話室の一角で、歪な気配を漂わせる星を容れた透明な球体を 3 人の人物が囲んでいる。


「じゃあネルの "リトライ" は本当の意味では機能していないってこと?」

「いや、機能しているけれど副産物があったってことじゃないかな。ガイナたちの司る "概念" には分からない事が多いから。」


 概念世界や基本世界を情報群による破滅から救済すべく活動しているクレアが、彼女が概念世界に顕現する要因でもあるガイナの問いかけに自論を返す。

 クレアはオレンジに煌々と輝く瞳が目を引くものの、あまり印象に残りにくい顔立ちのやや背が低い若い女性だ。

 一方のガイナは黒髪清楚系の皮を被った溌剌とした美少女である。


「困るのはこの "黒い世界" の影響が未知なことだけれど、ネルの介入した世界の失敗率・・・リトライの割合は増えているみたいだから、良い傾向ではないね。」

「そうね。リトライ発動ごとに黒い世界の歪さが増しているのも、きっと気のせいではないでしょうし・・・。」


 二人の会話に、絶世の、としか表現できない美女、ペイネ=ボウェルが割り込む。


「クレアが黒い世界には介入できない事が、特に異質ね。考えたくないけれど、新しい体系が生まれたのかしら?」


 ペイネの言葉にクレアはもどかしさを滲ませながら答える。


「・・・魂、かな。」

「魂?」

「もしくはそれに準じる何か。」


 クレアは球体をじっと見つめて言葉を続ける。


「私は介入できないけれど、黒い世界への転移は条件付きで出来るはず。」

「この間教えてくれた、"未確定" の世界からは干渉できそうって言ってたアレね。」


 ガイナの返答にクレアは頷く。


「うん。きっと私はガイナの世界の住人として、存在に "成功" が刻まれているんだと思う。仮定が正しいとして、"一回目" の集合体である黒い世界は真の意味での消滅は逃れているから "失敗" ではないにしても、"成功" でもない。だから "未確定" の世界からは干渉できると思う。」

「もしそれが本当なら、適正のある素体を見つけるところから始めないといけないのね・・・。」


 ガイナは途方もない手間が必要そうな問題解決の端緒に立っていることを察し、既に表情に疲れを覗かせ始めている。

 他方、ペイネはクレアに穏やかな表情で微笑みかけた。


「ねぇクレア。」

「何?」

「いつかクレアが言っていた "本当の敵" ではないにしても、今こそ私たちの力も必要なんじゃないかしら?」


 クレアはペイネの言葉に表情を和らげる。


「・・・そうだね、ペイネ。心強いよ。」


 ふふっ、とペイネは笑って、彼女たちは談話室を後にした。



 はじめに、でも触れましたが、各話の前書きに私の好きな曲を載せています。

 もちろん本文と直接の関係はありませんが、お聴き下されば幸いです。

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