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死神補佐になりました : 来世のための少女の奮闘記  作者: 水無月 都
少女は転生を強く願う新たな補佐と出会う
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第六章 第五話 浮気男を調査せよ

この度もお読み頂きまして誠にありがとうございます。

新作と並行して書いていたらストックが……お話のストックがまたなくなってきました。

時間を見つけて書かないと……。

本日もどうそよろしくお願いいたします。

「あいつが、その最低浮気男ね」

「は、はい。そうです。事前に死神さんに見せてもらった写真と同じ方だと……」


 華の提案で悪霊となった浮気相手に呪われている男性を探し回った。顔はネクラが死神から写真を見せてもらっていたため問題はなかった。この会社のどの部署で働いているのかも(死神の命令とはいえ)事前にネクラが下調べをしていたため、直ぐに居場所を突き止める事が出来た。


 2人は男が所属する人事部の入口から男の様子を遠目で窺っていた。名前は源信孝みなもとのぶたか


 彼はデスクに座り黙々とパソコンに向き合っている。30代半ばと思われ、堀が深く、唇は厚めで整った色気のある顔立ちはまさに『甘いマスク』と言う言葉がふさわしい。細身に見えるが肩幅が広く、遠目からでも筋肉質である事が分かる。

 


 外見だけを見れば確かに女性の注目を集めてしまうと言うのも頷けるが、ネクラの調べと死神の情報によると、彼の魅力はそれだけでなく、外見も然ることながら人当たりも良く、仕事もできるため、立場や性別を問わず人気者だったらしい。


 それを華に伝えると、彼女は汚らわしいものを語るかの様に言った。


「どんなに人望があったとしても、妻がある身で浮気してたんでしょ。しかも浮気相手を騙して。そんなゲス野郎がどうして平然と会社勤めができるのかしら。気持ち悪い」

「……。仕事ができるのと浮気は別、という事ではないでしょうか。この会社に必要とされていた人間だったからこそ、浮気相手の方の方が世間から追い詰められたのかもしれません」


 ネクラが悲しそうに言うと、華も切なげな表情になった。


「ゲス浮気を仕掛けた方は生き残って、騙された女性は世間から糾弾された後に悪霊化。嫌な話よね」

「そうですね、本当にそう思います」


 複雑な思いを抱きつつ、ネクラと華はなにかおかしなところはないかと信孝の行動に集中する。


「見たところ、特に変わりはない様ね」

「そうですね。呪われているって聞いたから。もう少しやつれているのかと思いましたが」


 今回の悪霊は信孝を相当恨んでおり、強く呪われていると聞いたのだが、その割には普通だ。多少疲労がある様に感じられるが、極端にやつれている様子はない。彼を観察している2人はそれが不思議でならなかった。


「近くに悪霊の気配もないし……。妙よね」


 華が瞳を細めながら男を見つめて考え込む。


「でも、悪霊に繋がる手がかりはあの男性しかありませんし……。このまま様子を窺うしかないですよね」

「そうね。それに他の社員の話でも聞ければもっといいわね。そうだわ、化粧室と給湯室に行ってみましょう。適当に歩いていれば見つかるでしょ」


 華が視線を男性からネクラへと戻してそう提案した。しかし、その提案の意味が解らなかったネクラは不思議そうに聞き返す。


「ええっと……何故、化粧室と給湯室へ?」

「あら、あなたにはわからないかしら。まだ学生だから?」


 本気で分からないと言った表情をするネクラを華が驚いた表情で見つめ、そして言った。


「噂話は男よりも女の方が好きな傾向がある。そして女は密室で集まって噂話や愚痴、悪口を言う事が多いのよ。あなたは経験ないかしら」


 私はあるわよ。と言う華にネクラは納得しつつも苦笑いで答えた。


「生憎、私にはそう言った事を言い合える友人はおりませんで……。でも、華さんの言う事は何となくわかります。確かにそう言った場所で色々な話が聞けそうですね」

「でしょ。火のないところに煙は立たないと言うし、浮気した男なんてウワサ好きな女子の格好の的よ。特に変化がないあの男には張り付いているよりも行動した方が早く突破口がみつかるかもしれないし。急ぐわよ」


 華は無収穫だった男の観察に早々に見切りをつけ、踵を返す。ネクラへの苛立ちは抑えてくれた様だが急いでいる事には変わりはない様だ。


 どうして華はこんなに転生を急いでいるのだろう。今日の仕事次第で今日中の転生が可能だと言っていたが、それにしても必死になりすぎている気がする。


 そう言えばギスギスした険悪な出会いだったせいで、ほぼ妥協の流れで華と行動を共にする事になったが、自分は華の事を何も知らないのだなと思った。

 まあ、自分の事も話していないわけであるから、その点についてはお互い様なのだが。


 ただ、虚無や柴の時も思ったが、自分たちの様な立場の存在はお互いの事を知るには複雑すぎる問題を抱えている。

 彼女が転生を急ぐ理由、それは恐らく彼女が自ら命を絶った事に繋がる。そんな事を軽い気持ちで聞けるわけがない。

 募る疑問を振り払う様に、ネクラは足早に歩き出した華を追いかけた。


 現在は午前中のため、給湯室よりも化粧室の方が人の出入りがあるのではないかと言う話になり、そちらへ向かう事になった。


 姿が見えないとは言え化粧室の中で待ち構えるのはいかがなものかと思ったため、扉の前で待ち、人が入ったり中から会話が聞こえた際に侵入する事にした。


 暫く待っていると女性二人組が楽しそうに話ながら連れ立って化粧室へと入っていた。それをみたネクラと華は目配せをした後頷き合い、扉をすり抜けた。


 女性が化粧室を利用する目的は決して用を足すためだけではない。化粧直しや身だしなみを整えるために利用する場合もある。特に誰かと連れ立って利用する場合はそれ以外に他愛ない話から愚痴や内緒話まで、色々と話す場所でもあるのだ。


 先ほどの女性たちは個室ではなく、まっすぐに鏡に向かった。身だしなみを整えに来ただけの様だった。


「はぁ。出勤してまだ数時間だけど、なんかもう帰りたい気分だわ」


 肩までのくせ毛気味のミディアムヘアの小柄な女性が溜息混じりに気だるそうに、自分で肩をもみながら言った。


「わかるー。私も帰りたぁい。何だったら席に着いた瞬間から帰りたかったわよ」


 ショートカットのボーイッシュな女性も同じく気だるそうにそれに同意する。


 彼女たちはポーチから化粧道具を取り出して化粧を直しながら愚痴をこぼし始める。そこから会社の愚痴と言う、特に意味のない会話が繰り広げられる。


 給料が少ない、仕事が多い、暖房が古くて部署が寒い、課長がセクハラ気味で気持ち悪いなど、そんなにたくさんの不満を持っているのによくここに勤めているなと思いながらも、可愛らしい容姿で毒を吐き続ける女性たちを見ながらネクラが苦笑いを浮かべていると隣で同じ光景を見ている華の舌打ちが聞こえた。


 音が大きかったため、ネクラの耳はその音をしっかりと拾いビクッとして華の見ると彼女は大層不機嫌な表情で右親指の爪をギリギリと噛んで苛立ちを露わにした。


「チッ、自分たちで努力もしてない癖に文句だけ言うなんて、腹立たしいっ。どうせあんたたちだって碌に仕事してないんでしょ」


 華のヒステリックな部分が現れ始め、少し恐怖を覚えた。せっかく雰囲気が柔らかくなってきたと言うのに、また怖い華に戻ってしまってはいけないと思い、ネクラは勇気を出して華に呼びかける。


「は、華さん。どうかしましたか」


 僅かに震える声が華に届き、彼女はハッとして頭を振った。


「なんでもないわ。気にしないで」


 そう言った華だったが身に纏うオーラは未だに怒りを示していた。先ほどまでの雰囲気と比べると幾分かましになっているが、それでも機嫌が直ったと言う風には見えない。


 しかし、追及しても恐らく更に彼女の機嫌を損ねる事になり兼ねないため、気にはなったが、それ以上は何も聞かない事に決めた。


「はぁ。この人達はハズレね。他の人が来るのを待ちましょう」

「そうですね」


 華が頭を押さえながらそう言ったのでネクラもその提案を受け入れた。見れば女性たちは化粧直しを終え、最後に髪の毛を整えていた。


 会話も途切れ、この人たちからは収穫はないだろうとネクラ思ったその時、ミディアムヘアの女性が言った。


「ねぇ、あなたはあのウワサ、どう思う?」

「あのウワサ?」


 何の事かとショートヘアの女性が聞き返すと、ディアムヘアの女性は辺りを気にしてから、ショートヘアの女性に耳を寄せて小声で言った。


「人事部の源さんの事よ。聞いた事ない?」

「「!!」」


 その言葉を聞き、ネクラと華が同時に瞳を見開き、息を飲む。人事部の源さん。先ほど確認したが、人事部で源と言う姓は信孝しかいなかった。つまり、今話題になろうとしている源さんは自分たちが今回のキーパーソンとしている人物、源信孝の事だと2人は確信した。


「ああ。源さんね。でも、どのウワサ?あの人、最近たくさんウワサを抱えているでしょ」


 ショートヘアの女性もピンと来た様で頷いていた後、改めて聞き返す。どうやら源信孝と言う男は現在、いろいろと抱えている様だ。

ああそうね。とディアムヘアの女性は言った後、自分が話したい話題を切り出した。


「人事部の源信孝さんには死神が憑いているってやつ」

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