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死神補佐になりました : 来世のための少女の奮闘記  作者: 水無月 都
少女は転生を強く願う新たな補佐と出会う
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第六章 第四話 気まずい空気と緩んだ空気

どうも水無月です。

今回登場の華さんは性格はちょっとアレですが、悪い人ではないのですよ。それを表現できたらなぁと思います。

あと、おじさま死神・鐵の見せ場も用意したいです。

本日もどうぞよろしくお願いいたします。

 建物の中に入った2人は無言で人は行き交う廊下を突き進んでいた。華が前を歩き、ネクラが後ろを歩く。


 現在の時刻は午前で、建物の中はスーツ姿の大人たちが忙しなく動き回る。そんな中を同じくスーツ姿で歩く華はすっかりこの光景に溶け込んでいた。


 もちろん、霊体である2人の姿は周りからは視えていない。それを良い事に華は人が行き交う廊下のど真ん中をずんずんと突き進んで行く。

対するネクラは視えていない、人にはぶつからないとわかっていても誰かとぶつかりそうになる度に避けながら歩いてしまう。そのため、華との距離はどんどん離れて行く。


 それでも追い付こうとネクラが華に追い付こうと頑張っていた時、華の動きがピタリと止まったので、不思議に思ったがネクラも歩みを止める。


「特に悪霊の気配がないわね……。そろそろ仕事の概要を教えて頂戴」

「え、あっ!はいっ」


 突然そう聞かれたネクラは思わず背筋をピンと伸ばして返事をし、死神から聞いた情報と自分で調べた情報を華に詳細に話した。

 少しでもおかしなことを言えばまた華が気を悪くしてしまうかもしれないと心臓をバクバクさせながら丁重に説明する様に心がけた。


 自分が知りうる事を全て話してそっと華の様子を窺うと、彼女は真剣な表情で思考を巡らせている様子だった。

 特に気を悪くした様子もない。ネクラはひとまず安心したが、背中と心の奥は緊張で冷たいままだった。


「あなたは、今回のターゲットがこの建物のどこにいるかまではまだ調べていないわけね」


 先ほどまでのヒステリックで張り詰めていた態度が嘘の様に、華が冷静な口調でネクラに問いかける。

 あまりの態度の急変ぶりにネクラは内心で戸惑っていたが、ここで同様を見せればまた厳しい言葉を浴びせられるかもしれないと思い、しっかりとした口調ですぐに返答する。


「はい。地縛霊になってしまっている様なので、ここから離れる事はないと思うのですがそれ以上は……申し訳ございません」


「どうして謝るの」

「え」


 突然聞こえて来た冷たい口調に驚き、ネクラの肩がビクリと震える。

 自分は何か変な事でも言ったのだろうか。そう思って恐る恐る華を見ると彼女は眉間に皺を寄せ、ひどく不機嫌な表情でネクラを見つめていた。


 問いかけても応答がないネクラに対し、更に苛立ちえ覚えたのか先ほどよりも強い口調で同じ言葉を口にした。


「ねぇ、聞こえなかった?どうして謝るのかって聞いてるんだけど」

「どうしてって言われましても……情報が少なくて申し訳ないと思ったからです」


 おどおどとしながらも理由を述べたネクラに華は更に厳しい視線を送り言った。


「本当にそうかしら。心の底から申し訳ないって思って謝罪を口にした?口癖みたいに謝ったんじゃないの」

「そ、そんな事は……」


 ない、とも言いきれない。ネクラは口ごもる。情報が少なくて申し訳ないと思った気持ちに嘘はない。紛れもない本心だ。


 しかし、心の底からと言われてしまうと違う気がする。確かに自分は会話の中が自分に都合が悪い内容だった場合に謝罪の言葉を付け足している様な気がする。

 怒られたり、文句を言われる予防線として今まで謝罪をしていたのかもしれない。謝る事が口癖と言う華の表現は正しいのかもしれない。


 そんな事を思いながらネクラが黙り込むと、華が腕を組みフンと鼻を鳴らしてから言った。


「特に悪いと思っていないなら謝らないで。そんな薄っぺらい謝罪の言葉なんていらないから」

「はい、すみませ……あっ」


 言われた先から謝罪しようとしている自分に気が付き、ネクラは思わず口を押える。それを見た華が見るからに嫌悪の表情を浮かべたが、昂る感情を抑え込むようにして言った。


「はぁ。あなた、本当に私をイラつかせるのが上手ね。そんなウジウジした性格で今まで良く補佐を続けて来られたわね」

「い、イラつかせているつもりはありません!それに、自分のそう言うところが他人に迷惑をかけているのは自覚しています……でも、中々直せなくて、それでも!努力はしているんです」


 ネクラは精一杯強気に反論をする。弱々しいが眉を上げ、スカートの裾をぎゅっと握りしめるネクラを見つめ、華は眉間に皺を寄せたまま溜息をつく。


「はあ。もういいわ。私も悪いから」

「えっ」


 意外な言葉が返って来たのでネクラのスカートを握りしめていた力が抜け、呆けた表情で華を見つめる。

 華は決してネクラと視線を合わせようとはしなかったが、言葉尻を柔らかくしてポツリと言った。


「私もあなたがついウジウジしてしまうのと同じ。焦るとヒステリックになるのよ。そう言う性格だから。自分でも抑えが利かないのよ……生前からね」


 それはとても静かな声で、まるで自分へ言い聞かせている様な声だった。雰囲気が変わった事を華を不思議に思ったネクラが話しかけようとすると、華がぐんっと勢いよく首を動かしてネクラの方に向き直った。


「ひゃっ!?」


 突然の行動とその勢いの良さにネクラの口から情けない上ずった声が漏れる。驚いて瞳を見開くネクラに華は人差し指でビシッと差して言った。


「いい?私たちの相性が悪いのは仕方がないわ。あなたは私をイラつかせない様にウジウジしない。私はウジウジするあなたにイラつかない、プレッシャーをかけない。今後はそうやって行動しましょう。私たちが協力して任務を達成するにはそれしかないわ」


 これは、もしかして自分に歩み寄ろうとしてくれているのか。ネクラがそう思い華を見ると、彼女は眉をキッと上げて顎を軽く動かす。恐らく『わかったか』と言う意味だろう。


「は、はい。わかりました。努力します」


 ぎこちなくだがネクラが頷くと華は機嫌良く微笑んでネクラを指していた手をおろした。出会って初めて華の笑顔を見た気がした。


「私も努力はする。お互い穏やかに行きましょう」


 ヒステリックな時の彼女はとても怖い印象を受けたが、こうして穏やかな一面を見ると少し厳しいがしっかりした大人の女性と言う印象を受ける。


 スーツ姿である華の生前は間違いなく社会人だと思われる。また、彼女の言動や行動から仕事に一生懸命な人だったのだろうとネクラは思い、そして気が付いてしまった。死神の元に辿り着く魂の姿は命を絶った時のものと聞いた事がある。

 

 それは衣服も同じで、現にネクラは制服姿で命を絶ったため、今も当時通っていた学校の制服を着ている。と言う事は華はスーツ姿で……。

 服装は自由に変更できると死神は言っていたが、動きやすさを考えると余程の思い入れや趣味的要素があれば別だが、わざわざスーツとパンプスは選ばないだろう。


 それに仮にネクラの推測が合っているとして、いまも動きにくいスーツ姿で補佐の仕事をする理由がなにかあるのか。もしかしたら、彼女が早期の転生を望んでいる事となにか関係があるのかのしれない。


 そんな事を思いながらぼんやりとしていると、華がネクラの顔の前で手をヒラヒラさせながら呼びかける。


「ちょっと、なにぼーっとしてるのよ。早く目的を達成するわよ。早く悪霊を見つけましょう」」

「見つける……どうやって見つければいいのでしょうか」


 ネクラが自分も考えを巡らせながら華に意見を求めると、彼女は少しだけ考えた後に言う。


「そうねぇ。その悪霊が呪っている男、そいつのところに行けばなにかわかるかもしれないわ。行きましょう」


 華はネクラの返事を待たずに足早に歩き始めた。突然行動を始めた彼女をネクラは必死で追いかけた。


「ま、待ってください!華さんっ」


 ネクラがそう叫んだ時、華の歩みが止まる。どうしたのだろうと思ったネクラだったが、直ぐにある事に思い当たった。さきほど慌てていたとは言え、許可をされていないのに彼女の名前を呼んでしまったのだ。


 まさか、気を悪くさせてしまったのか。ネクラは恐る恐る立ち止まったままの華を覗き込む。そして勝手に名前を呼んでしまった事について必死で取り繕おうと試みる。


「あああ、あの。ついうっかり名前を呼んでしまいましてっ。でも、今私たちが貰っているのは仮の名前だし、でも名前がないと呼びかけの時とか困るし……そのっ、なんと

お呼びすればよろしいですか」


 ネクラは自分でも何を言っているかわからなくなっていたが、華の機嫌を損なわない様にと必死に言葉を紡いだ。

 暫く停止し、ネクラを見る事なく真っすぐ正面を向いていた華だったが、やがて数秒無言だった彼女の口がゆっくりと開く。


「……。私は急ぐって言ったでしょ。早くついて来なさい……ネクラ」

「えっ」


 自分の名を口にした華をネクラは思わず見つめた。しかし華はやはりネクラを見る事も表情を変える事もなく、再びコツコツとヒールを鳴らして歩き始めた。


 当初は今回の仕事を華と共同で請け負う事に不安を覚えていた。正直に言えば彼女を自分勝手だと思っていたし、ネクラを置いて単独行動を取ってしまうかもしれないと不安に思っていたが、実際はそんな事はなかった。


 確かに短気でヒステリックなところはあるかもしれないが、彼女はそれを自覚している。自分の様なウジウジしたタイプは苦手なはずだが、彼女からわかり合おうと提案されるなど、ネクラに取っては意外だった。


 仕事を確実に遂行するため仕方なくそうしているだけかもしれないが、そうであっても歩み寄ろうとしてくれる事実は変わらない。彼女は気難しいだけで悪い人ではないのかもしれない。


「私も、頑張らないとね」


 自分にそう言い聞かせ、ネクラは再び足早に歩く華の後を小走りで追いかけた。


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