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死神補佐になりました : 来世のための少女の奮闘記  作者: 水無月 都
少女は転生を強く願う新たな補佐と出会う
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第六章 第三話 根暗と短気ほど相性が悪いものはない

この度もお読み頂きまして誠にありがとうございます。

新キャラをなるべく活躍させたい……。その想いで書いておりますが、難しいですね。

あと、説明くさい文章になってしまうのが私の悪いところですよね……。そうならない様に頑張ります。

本日もどうぞよろしくお願いいたします。

 普通の人間に姿が見えないネクラたちは当然の様に誰の目にも触れる事なく建物に侵入でき、裏手までやって来た。


 もう長い間この場所を利用していないのか、草木が多い茂り、日が当たらない場所のためか暗くジメッとしており、嫌な雰囲気を漂わせていた。


 そんな重苦しい場所で、前を歩いていた死神2人が振り向き、先に生じたトラブルの話し合いが始まった。


「さて、華とか言ったかな。君はどうしてそんなに転生を急いでいるんだ」


 死神が少し呆れた表情で華を見ると彼女はツンとして言った。


「早く生まれ変わって次の人生を歩みたいと思うのは当然でしょう」

「それにしても他の死神補佐の仕事を取ってまで急ぐのは異常じゃない?あんまりいないよ。そう言う奴」


 死神にそんな事を言われ、華の表情が険しくなる。今にもまたヒステリックになりそうな彼女よりも先に鐵が身を乗り出しそうになった彼女より先に口を開く。


「この子には少し事情があるんだよ。まあ、性格的なものもあるから、どうか言葉を選んで話してやってくれ」

「なにそれ、面倒くさいな。そんな子、ネクラちゃんと相性最悪じゃん」


 死神が心の底から嫌そうに言い、ネクラも不安な気持ちに拍車がかかった。

 華はとても気難しい性格だ。良く言えば自分の意志を持ち、自分のやりたい事を達成するために、迅速に行動しようとしている様に思えるし、悪く言えばヒステリックでわがままと言う印象を受ける。


 後ろ向きで何をするにも戸惑いや不安の感情が優先されて二の足を踏んでしまうネクラは彼女から見ると相当ストレスの対象なのだろう。

 先ほどからおどおどしているネクラを苛立たしげに睨んでいる。あまり瞳を合わせるのは良くないと判断したネクラは華から視線を外した。



 ギスギスする空気を察知し、死神が大げさに溜息をつく。


「はあー。まあ理由なんてどうでもいいか。それで、ネクラちゃんの仕事を譲って欲しいって話だったよね」

「そうよ。ねぇ、どうなの了承してくれるのかしら。ダメなら次に行きたいから早くして」


 死神が本題に入った途端、また華は急かす様な言葉を口にする。ネクラはその様子に戸惑いを覚えつつ、死神を見た。


「あの、死神さん。補佐の仕事って譲渡できるものなんですか」

「ん、ああ。まあね。禁止されているわけではないよ。めずらしい事例だけどね」


 どうやら仕事の譲渡自体は禁止されているわけではないらしい。そうなってくると気が弱くて優柔不断なネクラに戸惑いと迷いが生じる。


 自分は早急に生まれ変わりたいわけではないが、この仕事に関しては先ほどまで自分の力で頑張って情報を集め、悪霊の情報に辿り着いたのだ。

 それを譲れと言われてしまうと、頑張った意味がなくなってしまう様な気がして簡単には了承できなかった。


 しかし、ここで断ってしまうと華はまた機嫌を損ねてヒステリックになるのではないだろうか。

 仕事は譲りたくないと言う思いと同時に、華の機嫌を損ねたくないと言う気持ちも湧き上がる。


 そんな思いがネクラの中で交錯し、一言も発する事ができないままモゴモゴとする事数分。未だに決断できないネクラに華が足をダンダンとつま先で叩うてイラつきを露わにし始めたため、ネクラの心中をさっした死神がフォローに入る。


「一応、ネクラちゃんは自力で捜査してここまで辿り着いたわけだから、輪廻ポイントは獲得できているから、君の頑張りがゼロになる訳ではないよ」

「え。そうなんですか」


 ネクラの表情が少しだけ明るくなる。それに対して死神は渋い顔で言葉を付け加える。


「ただし、仕上げとも言える悪霊を見つけると言う仕事を彼女に譲渡してしまうと、ネクラちゃんのポイントは極わずかになっちゃうよ」

「うっ、そうなんですね」


 また悩みの中に落ちそうになったネクラだったが、痺れを切らした華の声によってそれは防がれた。


「ちょっと。いつまで悩んでないで答えなさい」

「ご、ご自分の補佐としてのお仕事はどうされたんですか」


 威圧をかけられながらも、ネクラはなんとか言葉を返す。ネクラはずっと疑問に思っていた。華は仕事を譲れと言い、会話の内容から今までも譲ってもらった経験がある様な様子だった。


 早く転生したいなら、自分が人より多く仕事をこなせばいいはずだ。わざわざ他の候補から仕事を取る様な事をする必要はないのではないか。


「何?私が自分の仕事をせずに、他人の仕事のおいしいとこ取りをしているとでも言いたいの?」

「そ、そこまで思ってないです」

「じゃあ、何が言いたいのよ」


 華が腕組みをしながらネクラを睨みつける。そのあまりにもきつく、痛い視線にネクラはたじろぎ、反論ができないままその場で立ちすくむ。


「華、君は少々気が短すぎるよ。相手の気持ちを汲み取る事も覚えなさいと何度言えばわかるんだね」


 消える事のないギスギスとした空気とネクラと華の埋まらない溝を見兼ねた鐵が、華をなだめる形で割って入る。


「だってこの子、はっきりしないくせに、私が自分の仕事を疎かにしていると思っているのよ。そんなの許せないわ」

「だ、だからそんな事、思ってないですっ」




「華が言葉足らずですまないね、ネクラさん。でも、勘違いはしてあげないでくれ。この子はしっかり自分の仕事をこなしたうえで、他の候補たちの仕事を譲ってもらっているんだよ。今しがた、自分の仕事を終えたばかりさ」

「つまり、他の人の倍は補佐としての仕事をしていると」


 それはすごい事だ。早く転生したいからとは言え、死神補佐の仕事は危険を伴うものが多い。下手をすれば仕事中に悪霊にやられてしまい、転生を資格を得る前に消滅してしまう可能性だってあると言うのに、人の倍の仕事をこなすとはすごい事だ。


 ネクラがちらりと華をみると彼女はツンと顔を背けた。余計な疑問を持ったせいで更に嫌われてしまったなと、ネクラはしょんぼりと肩を落とした。


「実はね、華は今日の仕事量次第で転生の資格を得られるかもしれないんだよ」

「えっ」


 苦笑いをしながら言った鐵をネクラが瞳を見開いて見る。そのあと顔を背けたままの華を見て、再び暗い顔で思い悩む。その様子をみた鐵が慌てた様子でネクラを気遣う様に言った。


「ああ!そんな、真剣に悩まなくてもいいんだよ。これは華の問題だ。君が華を気遣って仕事を譲る必要はないよ。私のところに新しい仕事が入るかもしれないしね」

「もう1つ仕事を終えたら転生できるって教えてくれたのは鐵じゃない。だから仕事終わりに1番近くにいる子に仕事を譲ってもらって、今日中に転生しようと思っていたのに、こんなはっきりしない子だったなんて」


 口を開けばヒステリックな言葉ばかりを発する華にすっかり嫌われてしまったネクラは自分がはっきりできない情けなさと、当てつけの様に責められる悔しさで唇を噛んだ。


 このままではらちが明かないと思ったのか、死神が少し大きめな声で手を左右に振りながら言った。


「はいはい。ウジウジもイライラも終わり!話をまとめよう」


 死神の声と動きに反応し、注目が一点に集まる。死神は小さく咳ばらいをしてその場にいるそれぞれに視線を送る。


「まず、ネクラちゃん。君はまだ迷っているね。特に急いでいないから、仕事を譲ってもいいけれど、自分が反面受けた仕事は最後まで全うしたいと思っている」

「は、はい。そうです」


 自分の心の内側を代弁され、ネクラはコクコクと頷いた。続いて死神は華を見る。彼女は視線を送られ不機嫌そうな顔をしたが、文句は言わず死神の言葉を待っていた。


「で、君。華、と言ったかな。あと1つ仕事をこなせば転生できると言うこのラッキーチャンスを逃したくないから、本日中にどうしても仕事が欲しい。他の仕事が来るのを待ったり、他の補佐を探して仕事を譲ってもらう交渉の時間も正直おしいと」

「ええ。その通りよ。できればその子に今日、この場で譲って欲しいわね」


 死神の言葉に同意した後、キッとネクラを見て華が言った。ネクラはそれに耐えきれず身を縮こまらせた。


「うん。で、物は相談だ。鐵」

「なにかな」


 死神に呼びかけられた鐵が落ち着いた様子で返事をする。どうやら大方予想はついている様子だった。


「どちらも譲れないって言うんなら、これは協力するしかないんじゃないかな」


「「協力!?」」


 ネクラと華が同時に叫び、そして一瞬だけ見つめ合って華が睨みを利かせた後にソッポを向き、ネクラも気まずそうに華とは反対の方向に視線を下に逸らした。


「まあ、それしかないだろうね」

「嫌よ!こんな子、絶対に足を引っ張るじゃない」


 鐵が納得した様子である事に焦った華がネクラを指さしながら異論を唱える。しかし、鐵は優しい口調ながらも厳しさの籠った声で言った。


「君が急ぎたいと言うなら、方法はこれしかない。生憎、新しい仕事が入って来る様子も、他の候補の子も近くにいる気配はない様だしね。それに、他人を悪く言うのは良くないよ。それは君が1番よくわかっているんじゃないか」

「……っ」


 鐵の言葉を聞いた華が一瞬だけ動揺を見せた。瞳が揺れ、吊り上がっていた眉が下がる。様子が変わった華に今度は死神が軽い口調で言葉をかける。


「そーそー。死神ポイントは競争するもんじゃないし。一緒に頑張れば同じ様にポイントが与えられるんだしさ。1番いい方法だと思うけどなぁ」

「死神ポイントってなんだ」

「ん、補佐の仕事を達成したら貰える徳の事」

「またお前はそんな軽いノリで……」


 鐵が死神の言葉あった奇妙なワードに疑問を持ち、ふざけた答えをさらりと口にした死神を呆れた顔で鐵は見つめた。


 一方、正論を真っ向から投げかける死神2人に対し。華が悔しそうに唇を噛み、そして心を落ち着かせようとしているのか、鼻で息を吸ってゆっくりと吐く。


「わかった。転生のためよ。協力関係になるわ。あなたも、それでいいわよね」

「えっ、あっ……は、はいっ」


 強い口調で同意を求められたネクラはオドオドとしてほぼ反射的に頷いた。華はふうともう一度息を吐いて、ヒールをコツコツと鳴らしながら歩き始めた。


「決まったんなら、早く仕事を終わらせましょう。行くわよ」

「え、あの。死神さんたちは」


 話が急展開で進み、ネクラは焦った。いきなり華と2人だけで行動する事になるのか。そう思い2人の死神を見ると、ご愁傷様と言わんばかりの笑顔が2つ返って来た。


「今日の仕事はこの建物のどこかにいる悪霊を見つける事。見つかったら俺たちが合流するけど、それまではあの子と2人っきりで頑張って」

「悪いね。どうか、華をよろしくたのむよ」

「う、うう。そんなぁ」


 不安と恐怖で吐き気と涙目になるネクラを遠くから鋭い声で華が呼ぶ。


「早く来なさい。今回の悪霊の情報を知っているのはあなたなのよ」

「は、はい。今行きますっ」


 ネクラは慌てて立ち上がり、名残惜しそうに死神の顔を見た。視線を感じた死神は微笑んで小さく手を振る。


「あの子はちょっと気が強いだけで、君に危害を加える様な事はしないよ……多分。万が一の事があって俺が出て行くから。行ってきな」

「……はい。頑張ります」


 死神の優しい声色に少しだけ安心したのか、ネクラは固くしていた表情を少しだけ緩めて華の元へと走って行った。


 補佐の2人がいなくなったその場所で、死神たちがポツリと会話をする。


「華の様な早期の転生を望む者は、スパルタと名高いお前向きかもしれないな」

「そうかもしれないけど、俺はあんなわがままな奴はごめんだね」

「はは、そうか」


 死神が悪態をつき、それに対して鐵が穏やかに笑い2人は姿を消したのだった。


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