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死神補佐になりました : 来世のための少女の奮闘記  作者: 水無月 都
少女は転生を強く願う新たな補佐と出会う
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第六章 第二話 ヒステリックな死神補佐とロマンスグレーな死神

この度もお読み頂きまして誠にありがとうございます。

第六章第二話です。

キャラを似通わない様に表現するのって難しいですね……。しっかり各キャラの魅力をお伝えする事が出来ていれば幸いです。

本日もどうぞよろしくお願いいたします。

「何、君。仕事をよこせって、それどういう意味」


 突然仕事をよこせと言われ、現状が分からず固まって動けないネクラの代りに死神が言うと、華と名乗った女性は平然として、自分の手に胸を当て当然の事の様に言った。


「だって、私はもうすぐ輪廻転生の資格を得る事ができるんですもの。だから1つでも多く仕事がしたいの」

「ははあ。君はうわさの子かぁ。死神の間で話題になってる」

「あら、そうなの?」


 自分が話題になっていると言われた事が嬉しかったのか、尖った空気を持っていた華の雰囲気が和らぐ。

 

 死神は気分よくにやける華に向かってにこやかに言った。


「積極的に仕事はするけどわがままで空回りな子がいるって」



 その言葉を聞いた途端、華の表情は上機嫌なものから一変して不機嫌なものに変わる。そして今度は死神を睨みつけてヒステリックに言った。


「なんですって!あなたも私をバカにする気!?」

「バカになんてしていない。事実を言っただけだよ」


 死神が毅然として言うと、華は唇を噛みしめて顔を真っ赤にしながら死神に掴みかかろうとしていたが、死神はそれを避ける様子もなくその行動を受け入れた。

 どうすればいいかわからないネクラがオロオロとし、華の手が死神の首元へとかかった瞬間、皆の頭上から低音の少し年配と思われる男性の声がした。


 声のした方へと視線を向けるとそこには黒いマントで全身を覆った、推定2メートルはある大きな人影があった。

フードで顔が隠れており、顔を確認する事は出来なかったが耳が痺れるほどに渋さを感じる低音の声から、ネクラよりも遥かに年上だと言う事が判断できた。


 その人影はゆっくりと地上に降り立ち、そして死神の首にかかる華の手を掴み、戒めて厳しい声で言った。


「やめるんだ。暴力は良くないと何度言えばわかる」

「……。くろがね、止めないで。こいつは私をバカにしたのよ」


 鐵、そう呼ばれた人物をネクラは凝視する。死神も黒ずくめの大男だが、それをも超える突如現れた、謎の黒ずくめの存在を前にネクラは恐怖を感じて身構えた。


「これ以上勝手な行動ばかりとると黄泉の国へと送るぞ」

「そ、それはダメ!」


 華の手が死神の首元から離れる。解放された死神がやれやれと肩をすくめて鐵をじろりと見て言った。


「ちょっと、部下の管理もできないなんて、死神としてどうかと思うけど」

「言い訳の余地もないな。悪かった」


 死神に偉そうに文句を言われても、鐵は反論する事なく素直に頭を下げた。ネクラはますます状況が分からなくなり、戸惑いながら死神に聞く。


「し、死神さんのお知り合いですか」

「ん、ああ。そうそう、知り合い。こいつも死神だよ」


 こいつ、と言いながら失礼にも鐵を指さす死神と、その流れでネクラに視線を送られた鐵は深くかぶっていたフードを取り、その姿を見せる。


「初めまして。紹介にあずかった通り、私は死神で名を鐵としている。我が担当の華が迷惑をかけた事、深くお詫びをするよ。申し訳ない」

「い、いいえ。私は別に失礼をされたなんて思っていません。ああ!私はネクラと言います。よろしくお願いします」


 ネクラは緊張しながら頭を下げた。それもそのはず、黒ずくめの大男のフードの下から現れた顔は40代後半ぐらいの男性だったからだ。

 

 白髪と言うよりはグレーに近い髪色に、口元のひげが彼のダンディさを引き立て、顔には深い皺を蓄えているがそれすらも哀愁を感じる。まさに『大人の男性』と言う感覚を覚えて妙な恥ずかしさと緊張感に襲われた。


「ネクラちゃん、まさかこういうオジザンがタイプなの?俺と初対面した時と全然反応も態度も違うじゃん」


 死神が唇を尖らせて言うのでネクラは慌てて首を横に振った。


「ち、違います。見た目が年上の方だから緊張してしまっただけで……」

「俺も一応、君よりは年上だけどね」

「そうなんですけど、そうじゃないと言うか」


 確かに死神も見た目は自分と年齢の離れた大人だが、溢れ出る大人オーラが全く違う。鐵の方が玄人である印象を受ける。

 そんな事を正直に言うと死神が拗ねると言う事は分かっているのでネクラは決してそれを口にしなかった。


「ま、そんな事はどうでもいいんだけどさ。ねえ、鐵。そこの子、ホントに一体どうなってるの」


 死神が腕を組んで苛立たしげにしている華を親指で指しながら苛立ちを含んだ口調で言うと、鐵は申し訳なさそうに眉を下げた。


「本当にすまない。とても華は頑張り屋でね。仕事は問題なくこなすんだが、少々前のめり過ぎるところがあるんだよ」


 鐵が釈明するが、華は眉を吊り上げ、腕を組んだままヒステリックに言った。


「前のめりじゃないわ。私は早く生まれ変わりたいだけなの。そのためにたくさん仕事をしてその資格を得たい。ただそれだけなの」


 強気の態度を改めない華に鐵は溜息をつき、それに対して死神が毅然として立ち向かう・


「君の気持ちはわからないでもない。でも、君が人の仕事を奪えばその人の転生時期が遅れるんだよ。それに罪悪感はないのか」


 死神は冷たい眼差しで華を見つめたが、彼女がひるむこ事はなく、やはり強気のまま死神の問いにきっぱりと答えた。


「他人の事なんてしらないわ。私に仕事を奪われた人が転生の資格を失うわけではないし。それに、私は仕事を譲ってもらえるかどうかきちんと確認しているし、悪い事はなにもしていないわ」


 ツンとして死神から視線を背け、そしてネクラを視界にとらえて苛立ちと敵意が籠った口調で言った。


「それとも何?あなたは転生を急いでいるわけ?」

「わ、私は……」


 華の問いかけの後、その場に佇む死神2人もネクラに視線を向ける。妙な緊張感がその場を包み込み、ネクラは生唾を飲み込んでから消え入る様な声で言った。


「急いでいるわけでは、ないです」

「そう。なら問題はないはね。あなたの今回の仕事、私に譲りなさい」


 華が急かす様にネクラに詰め寄る。

 しかし、ネクラは納得ができなかった。仕事をよこせと言われてもその方法が分からないし、そもそも死神候補同士で仕事を譲渡など許されているのか。


 ネクラの中で色々な考えや思いがモヤモヤと渦を巻き、黙り込んでしまうと中々首を縦に振らないネクラに業を煮やした華が足をダンッと強く踏んで鬼の形相で言った。


「はっきりしなさいよ!私に仕事をくれる気があるの?ないの?」

「う……」


 威圧され、たじろぐネクラの前に死神がスっと立ち、華をあしらう様になだめた。


「はいはい。ネクラちゃんがはっきりしなくて腹立たしいのは分かるけど、そんな態度じゃいつまで経っても返事はくれないよ」

「なによ。あなたには用はないんだけど」


 華の何度目かの威嚇に対して死神はきっぱりと言い放つ。


「俺はこの子の担当死神だからね。その手の用事は俺に言うべきだよ」

「……っ!なによ、ムカつくっ」


 正論を言われてしまった華がもどかしそうにネクラの姿を自分の体で隠した死神を睨むが、それを鐵がたしなめる。


「落ち着きなさい、華。まずは事情を話さない事にはなにも始まらないだろう。要件を伝えるだけが交渉ではないよ」

「……。わかったわよ。事情を話せばいいんでしょう。手短に話すわよ」


 担当死神である鐵に注意された華は苛立ちを抑え、渋々引き下がった。華の敵意が一時的に消えたため、ネクラが胸を撫で下ろす。


「落ち着いて話がしたいから、とりあえず場所を移動しようか。今回の俺たちのターゲットは地縛霊だからこの場所から離れる事はないよ」


 死神が目の前にそびえ立つビルを眺めなて言う。そしてその場の全員に向けてもう一つ付け加えた。


「でも、悪霊は憑りついた相手の命を奪おうとしているから、急いだ方が良いのは確かかもね」

「そうだな。ならいっそこの建物の裏手に行くと言うのはどうだ。敷地内にいれば、その悪霊が何か動きを見せても対応ができるだろう」


 死神の言葉に同意をした後、鐵が案を出す。

 建物の敷地内に入ると言う意見を聞いたネクラは少し気が引けた。自分たちの姿が見えないとは言え、無断でよそ様の敷地内や部屋に侵入する事はいつまで経っても慣れない。


「おっけー。それで行こうか」


 そんなネクラの心情を他所に死神はその案をあっさり受け入れた。

 確かに、悪霊の拠点である建物の敷地内で、今後どう動くかわからない悪霊を監視しながら、華と話ができるのは良いかもしれない。死神2人は効率重視でその案を受け入れている。


 だかネクラは違う。悪霊がいる場所と言う恐怖、いつ悪意が動くかわからない焦り、そしてそんなただでさえ緊張してしまうその場所で、出会った事から敵意むき出しの華と話し合いをしなければならないと言うのはネクラにとっては不安でしかなかった。


 ネクラが華の方をちらりと見やると瞳が合い、鋭い視線を送られた、こっちを見るなと言われている様だった。


「それじゃ、2人とも。建物の裏手に回ろう」


 死神が当然の様に建物の敷居を跨ぎ、鐵、そして華も平然とその後に続く。ネクラはその様子を戸惑いながら見つめていると死神が手招きする。


「ネクラちゃーん。早くおいで」

「は、はいっ」


 3人の視線を受けて急がなくてはと思ったネクラは知らない建物の敷居を跨ぐと言う罪悪感を覚えながらもなんとかそれをやり遂げた。


「こっちから裏に行けるね」

「ああ。そうだな」


 死神2人が遠慮する事無くどんどん歩みを進め、ネクラと華がその後に続く。死神補佐である2人の間には会話はなく、その気まずさにネクラが必死で耐えていると華が口を開いた。


「敷居も跨げないなんて、あなたって本当にどんくさいわね。イライラするわ」

「う、すみません」


 厳しい言葉を掛けられたネクラが小さくなって謝るが、華からの反応はもうなかった。ネクラは小さく溜息をつきながら、歩みを進めた。

 その様子を前を歩いていた死神がそっと横目で窺っていた。

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