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死神補佐になりました : 来世のための少女の奮闘記  作者: 水無月 都
ぞれぞれの物語
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【番外編】クリスマス企画!皆でクリスマスパーティー

この度もお読み頂きまして誠にありがとうございます。

季節ネタの番外編です。実はこれもクリスマス辺りに投稿できればと少し前に書いたものです。若干修正はしましたが(汗)

三章のネタバレ(死神のバイト先)が書かれていたり、五章のキャラが出ますが、本編の確信には触れておりませんので、問題なくお読み頂けると思います。

本日もどうぞよろしくお願いいたします。

皆様、良いクリスマスをお過ごしください(私は仕事とゲームが恋人です)

「シングルベール、シングルベール、ふっふふふふーん」


 ある日、死神が楽しげに歌いなが現在の拠点である探偵事務所風の部屋を飾り付けていた。

 折り紙で作られた輪っかの飾りに、キラキラと光る電飾、クリスマスツリーとリースまである。

 自分には馴染み深いそれらをネクラはまじまじと見つめながら上機嫌に飾り付けをする死神に聞く。


「なんですか、このクリスマス使用……」

「ん、ああこれね。番外編は基本的にIFの世界だから、こういう現世のイベント事にかぶれるのもいいかなぁ。と思って」


 手を止めて笑みを向ける死神をネクラは何とも言えない表情で見つめる。と言うのも、この飾り付けは突然始まったからである。


 死神補佐の仕事が落ち着き、ネクラが椅子でに座り漫画を読んで寛いでいると姿が見えなくないと思っていた死神が大荷物を抱えて部屋に入って来て驚いた。


 一緒にいなくなった虚無はどうしたのかと聞けば、後から来ると言われたが、虚無はこの事態を知っているのだろうか。


「あの、なにか手伝いましょうか」


 色々と思うところもあったが、とりあえずネクラは流れに乗る事にした。

 死神は嬉しそうに笑い、クリスマスツリーを指を差した。それはネクラの身長ほどのツリーで、使用感はあったが立派なものだった。


「ありがとう。じゃあツリーの飾り付けお願いね。オーナメントはそこの箱の中だよ」

「はい」


 ネクラは素直にツリーの飾り付けを始める。クリスマスの飾りはどれもキラキラしていて、なんだかワクワクしてしまう。

 そう言えば生前はよく家族とクリスマスを過ごしたが、毎年浮足立っていた事を思い出した。なので今、こうしてツリーを目の前にするとその時の気持ちが再び湧き上がり、ネクラもクリスマスソングを鼻で歌いながらツリーを彩って行く。


「そう言えば、このクリスマスの飾りたちはどうしたんですか」


 ツリーの飾り付けが一段落したネクラは疑問に思っていた事を死神に問うとさらりとした返答があった。


「職場でもらったんだよ。新しいの買い替えるって言うから」

「なるほど、大手芸能事務所のお古でしたか」


 死神は現世で遊ぶ資金欲しさに大手芸能事務所で裏方のアルバイトをしている。数多くの売れっ子芸能人を抱えるその事務所のお古だ。通りで古い割には手入れが行き届いている上に豪華なはずである。


「でも、飾り付けなんてして何をするつもりですか。まさか、クリスマスパーティでも開催する予定です?」


 どうせ気まぐれで飾り付けだけしてクリスマス気分を味わおうと思っただけだろう。そう思っていたネクラは冗談半分で言うと、死神はにっこりと笑って言った。


「そうだよ」

「ええええっ!マジですか」


 まさか肯定されると思っていなかったネクラは自分でも驚くぐらい大きな声で叫んでしまった。

 死神もネクラが大きな声を出して驚くとは思っていなかったのか、飾りを手から離して手で耳を塞ぎ、うんざりとした表情でネクラを見る。


「もー、声が大きい。大げさに驚きすぎ」

「す、みません。なんか癖になってるみたいで」


 口を押えながらネクラが謝罪すると死神が迷惑そうな表情を浮かべていた。


「大きい声で驚くのが癖?」

「はい……」


 申し訳なさそうにシュンとするネクラを見下ろしながら、死神は手に持っていた星の飾りを死神が絶賛ハマり中の漫画が並ぶ本棚に貼り付けた後満足げに言った。


「ネクラちゃんの癖はどうでもいいとして、飾り付け完成!」

「わぁ。派手になりましたねぇ」


 改めて周囲を見回すと探偵事務所風の簡素な部屋は赤に緑、金や銀の飾りつけが施され、小さくカラフルな電球が点滅を繰り返す瞳が眩むほどの鮮やかな場所へと変貌していた。


 自らが飾り付けたツリーも色合いをバランスよく配置できたとネクラは思った。クリスマス色に染められた部屋を見て、ツリーを飾り付けていた時からの高揚感が増し、浮足立つ。


「すごい!本当にクリスマス気分です!皆にも見せてあげたいなぁ」


 虚無はもちろん、最近になって信仰が深くなった柴やカトレアにもこの情景を見せたいとネクラは思った。

 特に虚無や柴はネクラと同じく現世を生きていたため、きっとクリスマスのワクワクを共有できるだろう。

 ネクラがそんな思いを抱いていると、死神がにこやかに言った。


「大丈夫。そろそろ来る頃だから」

「えっ」


 ネクラが疑問を胸に瞳を見開いた瞬間、部屋の扉が開かれ大きな袋が3つ歩いて来た。否、姿が隠れてしまうほど大きな袋を抱えた虚無、柴、カトレアが入って来た。


「死神さーん。言われて来たもの買ってきたッス……ってわぁ!部屋がクリスマス仕様になってる!」


 柴が元気よく、そして明るい笑みを浮かべて袋を机の上に置いた後、すっかりカラフルでキラキラになった部屋をみてはしゃぎ始める。

 その後に続く虚無とカトレアも同じように袋を並べて置いた。

 虚無とカトレアは柴と異なりとても不機嫌なオーラを放っていた。2人とも眉間にくっきりと皺が寄っている。


「私は雑用係じゃないのよ。買い出しとか頼まないでくれる?」


 カトレアはこめかみがヒクつくほど不満を露わにしている割には、袋を丁寧に置いてから死神に詰め寄った。


「いいじゃん。そのかわりパーティに参加してもいいし、全部俺もおごりって言ったよね」

「そう言う問題じゃないの。論点は私をパシリにした事にあるわ」


 顔面すれすれまでカトレアの怒りに満ちた顔を近づけられ、死神は顔を引きつらせながら彼女を必死でなだめていた。


 その様子を無表情で眺めている虚無にネクラがそっと近づいて話しかける。


「お帰りなさい、虚無くん。皆でどこに行ってたの」

「ああ、死神サンに頼まれて買い物に」

「買い物……?」


 ネクラがパンパンに詰められているせいで傾き始めている、机のに並ぶ大きな袋を覗くとそこには色とりどりのごちそうが詰まっていた。


 特大サイズの七麺鳥に固まりのローストビーフに、ぎっちりとしてしるミートローフ、レタスやトマトのブロッコリーが色合いが美しく盛られたサラダに、てんこ盛りで白い山の様になっているマッシュポテト……底の方は見えないが、覗いて見える限りでも部屋の装飾に負けないほどチカチカと色彩を放つ、魅力的な食材たちがこれでもかと言うほど詰まっていた。


「わぁ!すごーい。おいしそう」


 生前でもあまり見た事も口にした事もない食べ物たちにネクラが心を躍らせ瞳を輝かせる。

 ネクラの声を聞いて、部屋中の装飾を見て回っていた柴が小走りで彼女の隣へとやって来た。


「ね!ヨダレが出そうッスよね。ちなみにこっちはもっとすごいッスよっ」


 柴がウキウキとしながら並べてある袋の内の1つから大きな箱を取り出した。真っ白い真四角な箱、それは特別な日に目にするもの。ネクラの瞳が期待の色を浮かべ輝く。


「それって!まさか……」

「そうッス!クリスマスと言えばケーキッスよね」


 その言葉と同時に箱が開けられ、白い生クリームでコーティングされたケーキがその姿を現した。

 クリスマス用のケーキらしく、メリークリスマスと書かれたチョコプレートと、マジパンのサンタとトナカイが仲良く並んでいた。


「かわいい!それにおっきなケーキでだね」

「死神さんから10号のケーキを頼まれたんでそれにしました」

「10号!?それはすごいね。何人分だろう」


 ネクラは大きさを計ろうとしているのか、意味もなくケーキを前後左右から観察する。


「10号は約30センチ。一般的には14人~16人ぐらいだな」


 ケーキの事になると気分が乗るのか、口数が少なかった虚無が突如として会話に入って来た。号数まで把握しているとはさすがはスイーツ死神見習い(柴命名)である。


「しかも10号が3つもあるんすよねぇ」

「3つ!?」


 柴はそう言いながら袋から同じ形状の箱を取り出して次々に並べて行く。ネクラはその様を驚きと動揺から口を開けて見ていた。

 机に並べられたのは、先ほどの生クリームのものに加え、シンプルなスフレチーズケーキ、そして艶やかな輝きを放つチョコレートケーキだった。


 先ほどまでクリスマスのごちそうに心を躍らせていたネクラだったが、見た事もない食料とケーキの量の多さに、さすがに戸惑いを覚えて顔を引きつらせた。


「えっ、これ全部食べるの……?」

「いや、いけるだろ」

「そりゃ、虚無くんはケーキが好きだから……」


 さらりと完食宣言をする虚無にネクラが戸惑っていると柴がけらけらと笑いながら言った。


「今の俺たち満腹って言う感覚はないから余裕ッスよ」

「そうかもしれないけど見てるだけでお腹がいっぱいだよ」

「でも一応、全部死神さんが買って来いって言ったものなんスよ。しかもおごりで」

「え、そうなの……どこにそんなお金があるの……」


 芸能事務所の裏方はそんなに儲かる職業なのか、それとも死神の貯蓄がえげつないのか、そんな事を思いながら引き気味に目の前に並ぶケーキとごちそうを見ていると、お怒りモードのカトレアから逃げて来たと思われる死神がひょっこり現れた。


「貯蓄したものを使ったんだよ」

「わ、びっくりした。それにしても買いすぎではないですか。と言うか死神さん、クリスマスは何の日かご存じで?」


 ネクラが聞くともちろんと死神は笑った。


「キリストの降誕を記念するお祭りでしょ。でも、現世……特にネクラちゃんたちの国ではごちそうを食べる日みたいなものじゃん。この度はそっちを採用してみました」


 茶目っ気たっぷりに言った後、死神は指をパチンと鳴らして広く大きなテーブルを出現させた。袋を乗せていたテーブルではこの大量の食材は乗り切らないと判断したのだろう。


「ちょっと!話は終わってないわよ」

「あ、君もこれ並べるの手伝ってよ」


 逃げた死神を追いかけてカトレアもずいっと袋を渡し、カトレアが文句を口にするより前に死神が指示を出す。


「さ、皆!パーティの準備だよ。綺麗に並べてね」

「はーい!」


 柴が元気よく返事をし、ネクラも柴も動き出したため、文句を言うと雰囲気を壊してしまうと感じたカトレアが渋々引き下がった。

 こうして5人で協力し大量の食材を並べる事になり、大きいと思っていたテーブルは袋がぺしゃんこになる頃には見事に埋め尽くされ、とても魅力的なものへと変貌を遂げた。


「すごい、アレみたいッスね!レオナルド・ダ・ヴィンチの最後の晩餐」


 ごちそうで埋め尽くされるテーブルを前に柴がはしゃぐが例えが悪いのでネクラがツッコむ。


「その例えはちょっと縁起が悪いんじゃないかな」

「あ、そうなんスか。俺、あの絵の意味が良く分からないんスよねぇ」


 2人の会話を聞いた死神が笑って言った。


「大丈夫。ここには裏切りものはいないよ。さ、皆。好きな場所に座って!クリスマスのごちそうを楽しもうじゃないか」


 そして皆が各々がそれぞれの場所に着席し、死神がメンバーの年齢に配慮して用意したぶどうジュースを掲げ元気よく叫んだ。


「かんぱーい!そしてメリークリスマス!」

「メリークリスマス」


 ノリノリで叫ぶ者、面倒くさそうに言った者、反応しなかった者。それぞれの『メリークリスマス』の後、机に並ぶごちそうに手が伸ばされた。


「チキンうまっ!!俺、七面鳥は初めて食べたッスけどおいしいッスね。見た目も豪快だし、最高!」

「ミートローフがふわふわでおいしい。ハンバーグとは違った味わいだね。あっさりしてる。中の卵と食べるとよりおいしさが増すね」

「どのケーキも甲乙つけがたいほどのうまさだ……ワンホールいけるな」

「え!このサンタとトナカイ食べられるの!?噓で所しょ!?」

「マッシュポテト、しっとりしてておいしいな。これが芋とか信じられない」


 柴が七面鳥を頬張り、ネクラがミートローフに感動し、虚無がおかずをそっちのけでケーキを食べ、カトレアがサンタとトナカイのマジパンに驚いて、死神がマッシュポテトを楽しんでいた。


 こうして時の流れに支配されない、どこでもない空間で聖夜の宴が開かれたのであった。

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