表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
死神補佐になりました : 来世のための少女の奮闘記  作者: 水無月 都
ぞれぞれの物語
84/155

【番外編】 気に食わない同僚 ~死神とカトレアの昔ばなし 後編~

この度もお読み頂きまして誠にありがとうございます。

死神とカトレアの昔話は長くなったので適当なところで切って三編に分けました(番外編は全て書き溜めており、それをコピペで投稿しております)

そのため読みにくい様でしたら大変申し訳ございません。

本日もどうぞよろしくお願いいたします。

「嘘でしょ。本当に複数体いるの!?」


 目の前の少女を見ながら信じられないと言った様子で口を開けるカトレア。対して男は何かを考える様な素振りを見せる。


「複数体いるにしても、個体が同じと言う事が引っかかるな」

「えっ」


 カトレアが驚くと男は自分が疑問に思っている事をカトレアに話す。


「複数の霊がいるなら普通はそれぞれ違う霊のはずだろ。でもあいつは姿も声も全部さっき俺が斬った奴と同じだ。そして霊体の反応も未だに1つ。それって変だと思わないか」

「それはそうね。でも、どうしてかしら……」


 カトレアが少女の様子を窺いながら言うと、それを聞いた少女が触手をうねらせながら笑う。


「ふふ、そうよ。私は複数体いるんだ。私の力は最強、例え死神でも私を倒す事はできないわ。そんな事より、遊ぼうよ!遊ぼうよ!遊ぼうよ!久々の遊び相手だもの。いっぱい私の相手をしてよ」


 まるで2人を自分のおもちゃの様な発言に男が不機嫌を露わにしながら少女に向かって言った。


「子守をしに来たんじゃないんだよ。絶対に折檻してやる!」

「わーい。いっぱい楽しめるといいなっ」


 少女が喜びながら右手を上げる。背中から生えた触手がうねり、攻撃が来る。と2人がそれに備えた瞬間、背後から殺気を感じた。


 それに勘付いた2人は瞬時に振り向き、その場から飛び退く。そして殺気を放っていた者の姿を見て驚いた。


「同じ、顔!?」


 男が見たままを口にする。そう、2人の目の前には先ほどまで対峙していた少女と全く同じ顔をした少女が、背中から触手を生やして立っていたのだ。


「どう言う事なの……」


 流石のカトレアも動揺した表情を浮かべている。

 死神2人が動揺する姿が愉快だったのか、少女は気分よく言った。


「言ったよね。私は複数いるって」


 少女が両手を広げるた時、死神とカトレアはおびただしい殺気を感じた。そして瞳に映った光景に驚愕する。

 数えきれない数の全く同じ顔をした少女たちが2人を取り囲んでいたのだ。


「うわ、気持ちわるっ。ゲシュタルト崩壊起こしそう」

「くだらない事言ってんじゃないわよ」


 無数の同じ顔を見て気分を悪くした男が口元を押さえ、カトレアが状況を考えろとその頭をはたく。


「「「私たちの攻撃に耐えられる?」」」


 少女が笑みを含みながら言う。無数の少女が同時に喋り、声が幾重にも重なって辺りに響く。

 そして無数にいる少女から生える無数の触手が放たれ、2人を襲う。

 これは流石に避けられない。男が内心で焦りを見せた時、カトレアが前に立った。


「ちょっ!なにしてんの!?」


 自分を庇おうとでも言うのか、男が驚いて叫んだ時、重い何かが分厚い壁にぶつかる様なゴンゴンと言う重い音がした。

 男がカトレアを見ると彼女は左手を前に掲げ、手から透明な壁を作り出していた。よく見るとその壁は大きなドーム型になっており、これが防御壁だと言う事がわかった。


「ひゅーう。やるぅ」

「茶化さないで」


 口笛を吹きながら自分をほめる男をカトレアが睨みつける。


「「「わ、バリアなんてずるーい」」」


 ステレオ調で拗ねる少女の声を耳障りに感じた男が顔を歪めて耳を塞ぎながら悪態をつく。


「うるさい。同時に喋るな」

「そんな事より、防御だけでは何の解決にもならないわ」


 止む事のない攻撃を防ぎながらカトレアが言うと男も唸る。


「うーん。そうだよね。こんなにたくさんの霊の攻撃を防ぎながら戦うのは厳しいよねぇ。しかも全部同じ顔!鏡まみれの部屋にいるみたいで気分が悪いよ」


 考えよりも先にまた悪態が出た男の言葉を聞いたカトレアの表情が変わる。そして周りを囲む少女たちを見て鏡を見た時、彼女は確信した。


「そう言う事ね……鏡よ」

「は?鏡がなんだって?」


 カトレアの言葉に、真相に辿り着いていない男が疑問符を浮かべる。


「霊は元々1体だったのよ。あの子が憑りついているのは学校じゃない。あの鏡よ。鏡は悪霊が時空を歪めるために使っている媒介じゃないわ。あの鏡こそあの子の本体なのよ」


 カトレアが壁に埋まる鏡を見ながら言うと、男も納得する。


「なるほど、だから時空を歪めて気配も消せるし、ターゲットを引きずり込める。そしてコピーも生み出せるから複数いる様に判断されたと言うわけか」

「今までの死神はコピーを倒していただけなのよ。でも本体である鏡を壊さなければ意味がない」

「……となると、やっぱり鏡を破壊するしか方法はないのか」


 男はこちらに攻撃する事をやめない少女たちを見ながら思案し、そしてとある事を思いつき、防御壁で攻撃を防ぎ続けるカトレアに言った。


「ねぇ、君は防御壁を張るのが得意みたいだね」

「まあね。守る術には自信があるわ」


 その言葉を聞いた男がにやりと笑い、手招きをする。一瞬だけ怪訝な表情をしたカトレアだったが男に顔を寄せ、耳打ちを受け入れる。


「俺が子供の霊たちを一か所におびき出すから、合図したら霊たちを防御壁で包め。なるべく巨大で協力やつでお願いね」

「わかったわ。ヘマしても助けないからね」


 瞬時に男の策を理解したカトレアは笑みを浮かべて言った。男は笑い返し、自信たっぷりの表情で言った。


「任せておいて」



 一方、死神2人が防御壁から出て来ず、攻撃が無意味なため退屈し始めた少女の攻撃と態度が徐々にヒステリックなものへとなっていく。


「「「ねぇ、いつまでもズルしてないで出て来てよぉ。ねぇ、ねぇ、ねぇ、ねぇ!!!」」」


 無数の少女が同じ言葉を紡ぎながら防御壁をガンガンと叩き、壁が揺れ始めたのを見計らい、男が防御壁から飛び出した。


「「「あ!お兄ちゃんから遊んでくれるの?」」」


 少女たちの視線が全て男に向く。やはりそうか、と男は思った。本体が1体で他が鏡から生み出たコピーなら、動きは全て同じだと踏んでいたのだ。注意を一か所に逸らせば全ての敵がそちらを向く。


「「「あーそーぼー」」」


 少女たちが次々に触手を振りまわして男を追いかける。男はそれを時には走りながら、時に飛び退き、時には大鎌で弾きながらアクロバティックな動きで全ての攻撃に対応する。


「はっ。やっぱりガキだな。たいした事ない攻撃だ」

「「「むぅー、いじわるだなぁ。これならどう」」」


 少女たちが男の四方を取り囲み閉じ込めた。全ての少女が自分の周りにと集まったと確信した男性はカトレアに向かって叫ぶ。


「今だ。やれっ」

「しっかり逃げなさいよ」


 カトレアの応答と同時に少女たちを大きなドーム型の防御壁が包み込む。


「「「やだ!何これ!出られない」」」


 防御壁の中に閉じ込められた少女たちは、何とか逃げようと壁を叩くがそれは置ても無意味な行為でしかなかった。


「よし、とどめだ」


 防御壁が張られる直前に瞬間移動でその場から逃れていた男が鏡の前へ走り、その勢いで手に持つ大鎌で渾身の力を込めて鏡を叩き割る。


「いやだーーーーっ」


 少女の甲高い絶叫が響き、防御壁に閉じ込められていた少女たちが次々と砕け散って行く。最後に本体と思われる少女が全身に亀裂まみれの状態で残っていた。


 その場にへたり込み、先ほどまでの不気味な雰囲気から一変して年相応の子供らしい顔つきで大粒の涙を零して訴えた。


「わたし、わるいこと、してないのに。ひがいしゃ、なのに」


少女の言葉はとてもたどたどしかった。声も揺れ、消える寸前であったが、まだ伝えたい思いがあるのか少女は言葉を続ける。


「いじめられて、くるしくて、だれもみてくれなくて、だからわるいひとを、おしおきして、なにがわるいの」


 男たちの端末の情報では、少女が悪霊化して命を奪って来たのはいじめっ子や、生徒に不遜な態度を取る教員だけだった。

 いじめられ心身ともに傷付けられて自ら命を絶った少女は、自分の死のきっかけを作った人間と同じ性質を持つ人物の命を今日まで奪い続けて来たのだ。


 それは誰にも自分と同じ思いをして欲しくない正義感なのか、それとも自分を貶めた輩への復讐心の歯止めがきかなくなったのか。


 男とカトレアはそんな思いを抱えながら、涙を流してこちらを見るひび割れた少女を見つめ返す。


「お前が命を奪った者たちがグズだったとしても、神でもなんでもない、ただの悪霊のお前が命を奪って良い理由にはならないよ」


 少女の行動を全否定する男の言葉にカトレアが瞳を丸くし、少女の瞳が絶望に染まる。


「どうして、いじわるをいうの」


 涙声で問いかける少女に男はバッサリと告げた。


「人の命を奪おうと思った時点でお前はそいつらと同じだからだよ」

「おなじ、わたしが……」


 自らの手を見ながら少女は涙と絶望に震えていた。


「だから、さっさと黄泉の国へ行け。それがお前の永遠の住処だ」

「いや、いや!いやああああっ」


 最後の死神の言葉が引き金になったのか、少女の体中に入った亀裂が深く、大きくなり始め、自らの最期を悟った少女は絶叫と同時に砕け散った。


「バカな子だよね。憎しみに飲まれなければ、来世にチャンスはあったのに」


 粉々になった鏡を見つめて男が言うと、一連の流れを見届けていたカトレアがそれに返答する。


「そうね。でも、誰かに憎まれる様な事をしてしまい、誰かを憎んでしまう。それが人間なのよ。だから悪霊が生まれるの」

「ふーん。そんなものなのかなぁ」


 男は真顔で人間の心理は理解できないなと呟いて、そしてカトレアと瞳が合うとにこりと笑って言った。


「でもこれで仕事は終了!死神のツテもできて嬉しいよ。何かあればよろしくね」


 男が笑顔で右手を差し出すと、カトレアはその手を数秒見つめた後、柔らかく笑ってその手を握り返した。


「こちらこそ。よろしく」


 友情が生まれた瞬間、と思いきや男の一言でその空気がぶち壊される。


「でも、今回は俺のおかげだよね。俺が優秀だった事に感謝しなよ」

「はぁ!?複数いる悪霊のからくりに気が付いたのは私よ。それに防御壁を張ってサポートしたわ」

「打開策を出したのは俺のだろう」


 どちらも間違った事を言っていないため、お互いに唸りながら睨み合う。


「あなたと協力なんて金輪際お断りよ。絶対あなたより優秀な死神として活動して見せるわ」

「はっ。やれるもんならなってみなよ」


 2人の死神は互いに顔を背けて夜の学校から姿を消した。



「ってわけで、俺たちの腐れ縁が始まったわけよ」

「死神さんもカトレアさんも昔から変わらなかったと言う事ですね」


2人が犬猿の仲であるのは同期だからではない。恐らく、お互い主張が強く、自分に自信があるもの同士であるが故に意見がぶつかり反発してしまうのだとネクラは理解した。


「今思えば、あの頃はまだかわいげがあったかもねぇ。それに衣装も黒のドレスだったのに、今は派手な紫でしょ。年々趣味が悪くなっていっている気がするんだよね」

「ファッションは自由ですよ。それに、今の紫のドレスもすごく似合っていると思います」


 カトレアの身に纏う紫のドレスは彼女に似合っている。ネクラは本当にそう思っていたので、フォローを入れると死神は納得のいかない表情を浮かべていた。


「ええ、そうかなぁ。身なりにばっかり気にしているから、同時期に死神になったはずの俺に劣るんだよね」


 やれやれと死神がカトレアをバカにする様な発言をした時、ここにいるはずのない者の声がした。


「私のいないところで随分楽しそうね」

「げっ」

「わ!カトレアさん」


 話に夢中で気が付かなかったのか、それともカトレアが気配を消していたのか、彼女は突如ネクラたちの前に姿を現した。


ネクラが目を丸くして驚き、死神がまずいと言う顔になるがもう遅かった。カトレアの切れ長な瞳がどんどん吊り上がる。


「なんでここにいるんだよ。柴くんはどうしたの」


 死神が焦りながらも強気に言うと、カトレアが瞳に怒りを宿したまま妙に冷静に、つらつらと言う。


「仕事終わりに虚無くんと会って、柴くんが一緒に鍛錬したいって言うから承諾したの。後からネクラちゃんにも会いに行くとか言い出したから、鍛錬が終わるまでここで待たせてもらおうと思ったのよ」

「そ、そうなんですね。どうぞおかけになってお待ちください」


 雰囲気が怖いカトレアに座る事を促すが今の彼女にはそれは届いていなかったらしく、死神の机をバンッと音が出るほど両手で強く叩いて怒りを吐き出す。


「誰が、誰に劣っているですって!」

「だって事実だよ。俺の方が仕事もたくさんあるし、難易度も高い」

「そんな事ないわ。勝手な事ばかりいわないで」

「勝手な事ってなんだよっ」


 いつもの様に騒ぐ2人を見ながら、ネクラは確信した。あの2人、本当は馬が合うんだろうな。


 そんな事を思いながら、騒動が収まるまでの間ネクラは部屋に並ぶ漫画を読むことにした。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ