【番外編】死神のもっと知りたい!人間界の食べ物たち ⑤ おむすび
この度もお読み頂きまして誠にありがとうございます。
番外編その⑥となります。私、番外編好きでけっこう書き溜めているんですよね。
本編(六章)もだいぶ準備ができて参りましたし、クリスマス~年始辺りに投稿できれば……と考えております。もしかしたらもう少し早くなるかもしれませんが。
もう少し番外編にお付き合い頂けますと幸いです。
本日もどうぞよろしくお願いいたします。
「あてんしょん!このお話は限りなく本編に近いIFの話だよ。ツッコミどころ、ギャグテイスト、キャラ崩壊があるかもしれないから注意してね。時系列が曖昧だから本編のネタバレがある場合もあるよ。自己責任でよろしくねっ」
「よろしくでーす」
相変わらず何もないところへ向かって注意事項を述べる死神に乗っかる形でネクラも頭を下げた。
「で、死神さん今回のテーマはなんですか」
「ネクラちゃん、この展開に慣れて来たね」
この始まり方はいつもの『現世の食べ物について』のだろうと予測したネクラは死神が言うよりも早く聞くと、死神は感心した様な反応をした。
しかし、そんな事で感心されても嬉しくないため、ネクラは素っ気ない態度で言った。
「どうせ虚無くんも応接間で待機しているんでしょう。待たせちゃ悪いですよ。早く行きましょう」
ネクラは死神が歩き出すよりも先に歩き始めて応接間に向かう。死神はそのいざぎ良さに目を丸くしてその背中を見送ったが、直ぐに笑みを浮かべ上機嫌でネクラの後を追いかけた。
応接間につき、それぞれの定位置に座り、例によって死神が今回のテーマを発表する。
「今回は、おにぎり?おむすび?の具について教えて欲しいな」
死神の言葉にネクラが口を傾げる。
「そう言えばおにぎりとおむすびの違いってなんなのかな」
「俺が記憶にあるのは形の違いだった様な気がするぞ。三角型がおむすびで丸型がおにぎりじゃなかったか」
ネクラの疑問に隣に座る虚無が淡々と答え、ネクラはそれを聞いて納得した。
「ああ。なんとなく想像がつく気がする。三角の方が『結んでる』って感じがするよ」
「諸説あるとは思うが一般的な考え方としては間違っていないとは思う」
若干話が脱線しかけた気配を察知した死神が両手を振って止めに入る。
「はいはい。おにぎりでもおむすびでも、同じものなんでしょ。なら呼び方なんてどっちでもいいよ。それより、具だよ。具!君たちのおすすめのおむすびの具は何?」
元々の話を思い出し、ネクラと虚無は頭をひねって記憶を辿る。と言うのもおにぎりの具など無限にあるからだ。
クレープやお好み焼きと言い、なぜ種類が多い食べ物を毎回テーマにするのか。考えるこっちの身にもなって欲しい。
そしてネクラは自分が好きな具、と言われた事から1番良く買っていたものを言う事にした。
「私は和風ツナマヨが好きですね。コンビニの商品なんですけど、醤油風味でおいしんです。家で作るとどうしてもべちゃっとしちゃったり、水分が出ちゃったりしてお弁当にするのは難しいんですよね……。この味だけはどうしてもコンビニだよりになっちゃいます」
ネクラに続いて虚無も続いて発言する。まだ悩んでいるのか、顎に手を当て考える姿勢のまま言った。
「俺は……定番だがやはり梅だろうか」
「おむすびと言えば!って感じだね。私も家ではよく梅を入れるよ」
ネクラが虚無に笑顔で同意をすると虚無は小さく頷いた後、再び黙り込んだ。
「和風ツナマヨと梅ね……他にはどんな味があるのかな。好きな味以外でもいいから教えてよ」
死神が前のめりで質問をしたため、ネクラと虚無は思いつく限り食べた事があるものから、目にした事があるものまで、次々と意見を出す。
「唐揚げが入ってるのもあるよね。小さくてパサパサなのもあるけど、たまに近所の唐揚げ屋さんで唐揚げおむすびを売ってたな。お店の唐揚げだから大きくてジューシーでおいしかったなぁ」
唐揚げおむすびを思い出し、ネクラがよだれを垂らす勢いでうっとりとしていると虚無も頷いた。
「確かに肉と白飯は合うな。店のものなら生前、俺がよく家族と言っていた焼き肉屋の肉巻きおむすびもうまかったぞ。巻かれた肉のタレが染みた白飯とか」
「ああっ。それはおいそうだね。食べてみたいな」
ネクラが肉巻きおむすびを想像していると、先ほどから死神が2人の話を聞きながらメモを取っていたため、その行動の理由を聞く。
「死神さん。さっきから何をメモしているんですか」
「ん、ああ。気にしないで。忘れない様にメモしているだけだから」
死神は微笑んで答え、そして他にもどんな具があるのかを聞いて来たため、ネクラと虚無は色々な意見を出した。
スタンダードなもので、昆布・おかか・しゃけ、すこし大人な味の高菜など。
変わり種も知りたいとの事で、天かすにぎり・いくら・つくね・煮卵なと。
また、具をいれずともチャーハンやシンプルな塩むすびもあると伝えると、死神は具がなくても楽しめるんだねと興味深そうに頷いてまたメモに書き込んだ。
「よぅし!こんなものかな」
一通り意見が出たところで死神がメモを見ながら満足そうに頷いた。そしてメモを黒マントへとしまい、上機嫌にネクラと虚無に言った。
「俺はちょっと現世に行ってくるから、ふたりはここで仲良く待っててね。特に虚無くん、勝手に自主トレに出て行かない様に」
「チッ……わかった」
どうやら虚無は死神がいなくなった隙にここから出て行こうとしたらしい。しかし、死神に先手を打たれたため、悔しそうに舌打ちをした後に渋々頷いた。
「じゃ、そうい事で。ヨロシクー」
死神はウィンクをしながら片手を上げてその場から去って行った。
お騒がせな存在がいなくなった後、ネクラは部屋にある漫画を読みながら、虚無は軽い体操をしながら時間を潰していた。
時間と言う概念がないこの空間で、どれほど待ったのだろうか。ネクラが数十冊目の漫画に突入し、虚無が逆立ち腕立てを始めたその時、部屋の扉が開く。
「ふぃー。重かったぁ」
「え。柴くん?」
扉から入って来たのは死神ではなく柴だった。何かがたくさん入った大きな袋をドサリと机の上に置く。
「私はあんたの小間使いじゃないのよ。わかっているの!?」
続いて部屋に入って来たのは死神は死神でもカトレアだった。ヒステリックに文句を言いながら部屋へと入って来る。
手には柴よりも大荷物を抱えていたが、細身の体で軽々とそれを持ち上げており、ネクラは驚いた。
一番最後に部屋に入って来たのは死神だった。彼もカトレアと同じぐらいの荷物を持っており、それらの荷物は部屋にある2つの机を埋め尽くすほどの量だった。
「なんですか、これ。ん……お米とおかずいっぱい」
ネクラが何事かと袋を覗き込むとそこには米袋が10袋と数えきれない量のおかずらしきものが入っていた。
「まさか……」
同じく袋を覗き込んだ虚無が眉間に皺を寄せて呟くと死神はにこりと笑って言った。
「そうだよ。皆でおむすびを作ろうと思って食材を買って来たんだ。荷物が多いから黒マントにしまおうかと思ってたけど、現世にカトレアと柴くんがいたから荷物を持ってもらっちゃった」
「ホント、驚いたッスよ。悪霊折檻を終えて帰ろうとしたとことで大量の荷物を抱えている死神さんが現世にいるんスもん。俺、二度見しちゃったッス。そんでこれを食べたくばこの荷物を持ちなさい。って言うからお手伝いしたんスよ」
柴が死神の言葉を補足する様に言った。どうやら死神は現世におむすびの具を買い出しに行っていた様だ。
先ほどのメモはそう言う事だったのかとネクラが納得していると、カトレアが死神を睨みながら言う。
「マントの中に入れちゃえば問題ないのにどうして私と柴くんに労働を強いたのかしら」
「働かざる者食うべからずって言う現世の言葉があるでしょ。ネクラちゃんと虚無くんは俺の部下だから娯楽を無償で提供するけど、君たちは違うし」
死神の反論にカトレアが目くじらを立ててさらに反論する。
「私、おむすび?が欲しいなんて一言も言っていないわ」
「柴くんは食べたいっていったもん。彼だけ来ても良かったんだよ。ごちそうになる気も荷物を持つ気も満々だったし。いらないなら君が荷物を持つ必要はなかったんだ」
「荷物持ってあげたのに何よ、その態度!」
毎度同じみの言い合いが始まったため、収集がつかなくなる前に柴が間に入る。
「まあまあ。カトレアさん、最近は現世の食べ物も悪くないって言ってたじゃないッスか。せっかくですし、おむすびパーティに参加しましょうよ」
「う、柴くんがそう言うなら……」
現世の食べ物に興味が出て来た事は嘘ではないのか、柴にそう言われたカトレアは大人しく引っ込んだ。
「よし、うるさい約1名も納得した事だし、まずは調理開始だね。お米とか炊ける?」
自分は炊けないのか、ネクラ・虚無・柴の3人を見て死神が言う。そして3人ともが手を上げ炊けると返答し、そしてネクラが肝心な事を聞いた。
「おむすび作りは良いのですが、キッチンは何処に?」
「心配ないよ!こっち」
死神がその場にいる皆を促し、いつの間にか現れていた扉を開けるとそこには、ほぼ最新鋭思われるキッチンが広がっていた。
なぜか調理器具や冷蔵庫も揃っている。ピカピカのキッチンに若干テンションが上がりながらも、ネクラは聞いた。
「このキッチンは一体……」
「この空間は模様替えできるって前に言ったでしょ。それにIFの世界だから細かい事は気にしなくていいの」
死神が強引に締めくくり、おむすび&おにぎりの調理パーティーが開催された。生者が握れば腱鞘炎になる事間違いなしの量のおむすび&おにぎりをたった4人で全て食べつくした。
手巻き寿司パーティーは分かるがおむすびパーティは珍しいなとネクラは思いつつも、もくもくとおむすびを食べた。
その場にはおかずはおろか米粒1つとして残されておらず、おむすび&おにぎりを取りつくされ、綺麗になった皿だけが輝いていた。
~おまけ~ それぞれの食レポ~
ネクラ
米の固さ: 柔らかめ
海苔の具合 : しっとり派(味付け海苔)
ベストワン : 明太マヨむずび
「いつもはコンビニのを買うけど今日は手作りだから明太子もマヨネーズもたくさん入れちゃった!ピリッとした明太子をマヨネーズがねっとり優しく包んでくれておいしい」
虚無
米の固さ: 固め
海苔の具合 : パリパリ派(味付け海苔)
ベストワン : 鮭
「まさか死神さんが生の鮭の切り身を買ってくるとは思わなかった。そしてそれを焼く事になるとは……だが、手作りだから塩加減と焼き加減も調節で来てよかった。シンプルが一番だな」
死神
米の固さ: 具によって変わる(焼肉など汁やタレがあるなら固め・それ以外は柔らかめ)
海苔の具合 : パリパリ派(焼き海苔)
ベストワン : チャーハンおにぎり
「冷凍のチャーハンで作ってみたのは良いものの、油で滑るし、パラッとしすぎてて中々まとまらなくて苦労したよ。さっき2人の話を聞いた時、食べてみたいと思ってトライしてみたんだよね。虚無くんには『手作りするのにチャーハンをおにぎりにする必要ありますか』って言われちゃったけど、気にしなーい」
カトレア
米の固さ: 柔らかめ(今回食べてみてそう思った)
海苔の具合 : 口の中でワシャワシャして不快なため海苔はいらない
ベストワン : エビマヨおむすび
「マヨネーズって最初はねちゃっとしてて抵抗があったけど、食べてみるととても好みだったわ。クリーミーで食べやすいわね。エビの衣が少し薄くてはがれやすいのが難点ね。死神は市販の海老天だからしょうがないって言っていたわね」
柴
米の固さ: 固め
海苔の具合 : パリパリ派(味付け海苔)
ベストワン : 肉巻きおにぎり(ガーリック風味)
「肉って幸福感があるッスよねぇ。ガーリックも胃にガツンと来て『飯食ってる』って感じがするッス。あとこの甘辛いタレが染みたごはんがいいなぁ。ある意味、肉本体よりも魅力的ッス……。手作りしたからタレでご飯がべちょべちょになったのは反省点ッスね。あと、死神さんガーリックペッパー買ってくるとかヤバすぎっしょ。肉焼くときに使ったけど……」
※三角型をおむすび・丸型をおにぎりと表現させて頂いております。