【番外編】死神のもっと知りたい!人間界の食べ物たち ①お好み焼き
この度もお読み頂きまして誠にありがとうございます。
予告していました通り、今回から暫く番外編を投稿していきたいと思います。
一月には本編に戻る事ができると思いますので、少しの間番外編でお付き合い頂けますと幸いです。
なお、番外編の時系列としまして二章以降になりますので、本編は読んでいないけど、番外編は読むよ。と言う方は一応、ネタバレ注意でお願いいたします。
本日もどうぞよろしくお願いいたします。
「あてんしょん!このお話は限りなく本編に近いIFの話だよ。ツッコミどころや、ギャグテイスト、キャラ崩壊があるかもしれないからご了承下さい」
「死神さん、誰に向かって何を言っているんですか」
ネクラがどこかへ向かってウィンクをしながら奇妙な事を言う死神に若干引き気味に言うと、死神はけろりとして言った。
「なんでもないよ。見ている人たちへの注意事項。もっと言うなら作者の代弁みたいなものだから」
「見ている人?作者?」
眉間に皺を寄せて疑問符を浮かべて自分を見るネクラに死神は笑顔で言う。
「ネクラちゃんは気にしなくていいの。ささ、座って」
「は、はあ……」
グイグイと死神に背を押され、ネクラは応接間の椅子に座る様に促される。ふと見るとそこには既に虚無がの姿があり、普段は無表情な顔から不満を駄々洩れにさせながらも大人しく椅子に腰かけていた。
「あの、今から何をするんですか……?」
ネクラが1人立ってる死神を見上げて聞くと彼はにんまりと笑った後、声高に言った。
「君たちに人間界の食について教えて欲しくてね」
「人間界の……」
「食……?」
突然言い渡された意味不明な言葉にネクラと虚無がそれぞれ言葉を発し、顔を見合わせる。
死神は2人の正面の椅子にドサッと座ると気分よく事の詳細を語り始める。
「俺が人間界の文明や文化を好んでいる事は知っているだろう。最近、その中でも食が俺の中でアツくてね。元々現世にいた君たちに色々と教えてもらおうと思って」
死神はにこにことしているが、ネクラと虚無はまだ話について行けなかった。
「と、言われましても……。私、友達もいなかったし、家でも外食とかはあまりなかったので、おいしいお店とか詳しくないですよ」
「同じく」
ネクラと虚無は突拍子もない、そして面倒くさそうな死神の提案をやんわり断る様な口ぶりで言ったが、死神にはその思いが届かったのか、断りたい空気を感じていたがそれを無視したのかは不明だが、死神は引き下がることなく話を進めた。
「あ。そう言うのじゃなくて、もっと手軽な感じでいいの。そうだなぁ……今回はお好み役について教えてよ」
「お好み焼きって粉ものの?」
死神の口から出るとは思えない食べ物の名前にネクラが常識的な質問をすると死神は呆れた様にネクラを見つめて言った。
「それ以外何があるの」
そんな事もわからないのかと明らかに馬鹿にした視線を送る死神に怒りを覚えつつもネクラはとりあえず死神の質問を受け入れ、虚無に話を振る。
「お好み焼きって関西で食べられているものと広島で食べられているものは違うよね」
ネクラに話を振られ、もうこの場からは逃げ出せないと悟った虚無は非常に嫌そうな表情を浮かべながら返答した。
「……関西や広島以外にも粉もの文化はあるしな」
「そっか、もんじゃ焼きとかね」
ネクラが思いついた事を口にすると、死神は首を横に振った。
「それもそれで魅力的だけど、今回はお好み焼きがいいの!関西でも広島でもいいからどんな味があるか教えてよ」
「ああ。味だけでいいんですね。それなら私でもなんとかなりそうです」
お好み焼きの歴史を紐解けなどと言われては自分の知識では無理だと思っていたネクラはホッと胸を撫で下ろした。
「私は主に関西で食べられているタイプが好きですね。混ぜて食べるのが楽しいです」
「俺は広島で食べられている方が好みだな」
虚無がポツリと言い、ネクラがそれに興味深そうに虚無を覗き込む。
「上にいっぱい重ねていくやつだよね。虚無くん、意外とガッツリ派なんだ」
「意外か?」
「意外だよ。虚無くん細いし」
ネクラがうらやましそうに虚無を見つめ、虚無はネクラから視線をそらす。その様子をみて死神が手をパンパンと鳴らして言った。
「はいはい。イチャつかない。そう言うのは俺の質問に答えてからにして」
「い、イチャついてないです!」
「ああ。まったくだ」
死神に指摘され、ネクラと虚無はそれを否定した。
そしてネクラは気を取り直して考えを巡らせる。
「ええっと。味ですよね。スタンダードなものだと、どうしてもソースの味が勝ってしまうので、ガツンとソースを味わいたければそれが1番だと思いますが、私はもち明太チーズですね」
「もち入り……お前も大概ガッツリじゃないか」
虚無に指摘の指摘がネクラにぐさりと刺さる。お好み焼きともち。炭水化物と炭水化物と言うだけで既にカロリーの暴力。
ネクラはそれを理解しつつも頬を膨らませて虚無を睨む。
「いいのっ!お好み焼きにもちもち触感がプラスされておいしいんだよ。明太子のピリッとした辛さもすごく好きだし、ソースや明太子の味をマイルドにしてくれるチーズも最高なんだから。それに、たまにしか食べないんだからカロリーとか関係ないんだから」
そう言うとネクラは頬を膨らませたままプイッと虚無から顔を逸らした。
その様子を見て死神が楽しそうに笑う。
「食のカロリーを指摘されて拗ねるとか、ネクラちゃんにも年頃の女子のらしいところがあったんだねぇ……。あ、虚無くんはどんな味が好みなの」
死神が拗ねるネクラを放置し、虚無に聞く。話を振られた虚無は無表情で考えつつも淡々として言った。
「味、と言うよりはトッピングになるが、焼きそばと卵と牡蠣がのっているものが生前に食べて一番うまいと思ったな」
「わっ、何それ!おいしそう」
頬を膨らませていたネクラが怒りを忘れて瞳を輝かせながら虚無を見る。
「具と生地を混ぜない分、具をガッツリ味わえるのが好きなんだ。半熟の黄身に焼き色のついた牡蠣を絡めて生地と食べるとうまかったな」
「ああっ、わかるよ。私も卵は半熟派だから。半熟は好きな人からしたら罪の味だよ。あのトロっとしたのがいいよねっ。チーズとはまた違ったマイルドさがでるよねっ」
ネクラが両手を頬に当てながら、半熟卵に想いを馳せる。
「はあ、なんか食べたくなっちゃったなぁ。お好み焼き……。ね、虚無くん」
「……いや、俺は別に」
口に溜まるよだれに耐えながら、隣に座る虚無に同意を求めると彼からは短い否定の言葉が返った来た。
「うそ。間があったよ。ちょっとは食べたくなってるよね」
「なってない」
「うっそだー!!」
「はいはい。人が話を聞いている最中に争わなーい」
無意味な言い合いを始める2人の間に死神が割って入る。
自分たちがしょうもない争いをしている事を自覚し、ピタリと争う姿勢をやめた2人に死神が言った。
「よし、じゃあ今から皆で現世に食べに行こう」
「「えっ」」
ネクラと虚無の声が重なる。
死神を含め死者である2人は基本的に食べる必要がないのだが、食べても問題はないのだ。
味覚は残っているが満腹感を得る事はないし、かと言って空腹になる事はない。故に通常はあまり『食べる』と言うことから縁遠くなってしまっていた。
たまに死神が気まぐれで人間界のお菓子を買ってくる頃もあるがそれも稀だった為、久々の『食』となる。
「いいんですか?それは光栄ですが、お金が……」
ネクラが申し訳なさそうに聞くと、死神は心配するなと言う表情をして自慢げに言った。
「俺のおごり。最近あんまり使う事なくてお金も貯まってるし、関西も広島も両方のお好み焼き食べに行こう。2人の姿はキチッと視える様にしてあげるから!ねっ」
死神は人間界でアルバイトをしているため、この中で唯一の現世で使えるお金の持ち主なのである。
死神が無表情を貫く虚無に呼びかけ、虚無はチラリと死神とネクラの顔を見た後に頷いき、同行する意思を見せた。
「わ、私、家族以外と食事するのは初めてかもです」
ネクラたちは霊体のため、通常は生者に姿を認識される事はない。だが死神の力で現界させてくれる事に加え、皆でご飯と言うのならそれはとても嬉しい。
ネクラが何故か頬を赤らめながら言うと、死神は若干引いた様な表情を見せてから言った。
「そんな事自分で言わない方がいいよ。ね、現世に行ったらさっきの味以外にも色々と教えてよ。満腹にはならないんだし、予算の範囲内でいっぱい食べよう」
「はいっ」
カロリーを気にしないで良い事が嬉しいネクラが嬉しそうに頷き、虚無もまたお好み焼きを食べる事ができる機会ができて嬉しいのか、いつもより柔らかな表情で頷いた。
暫くして、現世のとある店で信じられない量のお好み焼きを捌く細身の男女3人の姿があり、ちょっとした話題になったとか。
~おまけ~ それぞれの食レポ~
ネクラ
食べた総枚数 : 15枚(太る事のない体とわかっていながらも、やっぱり怖くてひよった)
選ぶ傾向 : 他人の意見に左右されがち
ベストワン : 広島の牡蠣お好み
「牡蠣の出汁が出ておいしい!しかも噛んだらプリってしてるのに、口の中でほどけていくよ……。ボリュームがあって注文するの迷ったけど『広島の牡蠣お好み』頼んでよかった!乗って焼きそばもおいしい。お好み焼きに使われているソースとは味が違うんだね!」
虚無
食べた総枚数 : 60枚
選ぶ傾向 : 好きなものを食べた後は自分が食べた事のないものに挑戦
ベストワン : キムチーズお好み焼き
「キムチーズお好み焼き、侮れん。キムチとチーズは合うと思ったが、どちらもソースの味に負けないコクとうまさだな。キムチも辛すぎないし、触感が良いアクセントになっている」
死神
食べた総枚数 : 100枚
選ぶ傾向 : 最初は珍しいものを選ぶがスタンダードに戻る
ベストワン : 豚玉
「結局スタンダードなやつが一番なんだよね。カリカリの豚肉が最高。豚肉の脂って甘いんだねぇ。初めて知ったよ。玉子もうまい、半熟サイコー。でも俺はソース少な目めの方が好みかな」
※総枚数は同じメニューを何度食べてもカウントしております。