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死神補佐になりました : 来世のための少女の奮闘記  作者: 水無月 都
少女は特級の妖こっくりさんと対峙する
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第五章 第十五話 カトレアの真意と事件の終わり

この度もお読み頂いてありがとうございます。

明日、小噺を投稿する予定ですが、五章はこれで終了です。

実は最近多忙を極め、明後日ぐらいからは書き溜めていた番外編を投稿しようと思っています。

詳しくは明日、ご報告いたします。

本日もどうぞよろしくい願いいたします。

 全てが終わった後、死神結界を解き、気を失った男児と放心状態の男児、そして息絶えた結崎をそのまま放置して帰るのは流石に良くないと思った死神たちは、人間のフリをして警察と消防に学校に備え付けの公衆電話から連絡を入れた。



 夜も遅いため、学校からの通報などいたずらと思われないか不安に思っていたネクラだったが、ほどなくしてサイレンの音が聞こえ、警察官と救急隊員が学校に駆け込んできた。


 その中には男児2人の母親らしき姿もあり、男児たちの捜索願が出ていた事から、深夜の学校からの連絡でも悪戯扱いされにくかったと思われた。


 人間たちが忙しなく動く様子を見届けてから、ネクラたちは現世から姿を消した。 

一同は探偵事務所風の拠点へと戻っていた。そして最初の通り、応接間の革製の椅子に女性と少年が隣り合って座り、机を挟んだ正面にネクラと虚無が腰かけ、死神は少し離れた場所にあるいかにも探偵局トップが使いそうな革製でキャスター付きの椅子に座った。


「ねえ、なんで君たちもいるのさ」


 死神が不満げな声でジトリと柴とカトレアを見る。そんな視線を送られ様ともカトレアは一切動揺する事無く、しれっとして答える。


「別にいいじゃない。休憩ぐらいさせなさいよ」

「休憩なんてここじゃなくてもできるだろ」


 2人の空間にまた険悪な空気が流れ始めたのを察して、ネクラは話を逸らそうと柴に話しかける。


「でも、こっくりさんを倒せてよかったね。柴くん」

「……はいッス。皆さんのおかげッスね」


 柴はぎこちなく笑っていた。こっくりさんを倒せたとは言え、父親の行動や姉の事にまだ心の整理がついていないのだろう。


「あの時、いつもより力が操りやすかったのは、死神さんのおかげッスか」

 死神の方を見て柴がそんな事を言った。そう言えば柴が五円玉を稲妻で打ち抜いた時、死神はずっと柴の傍に立っていた事を思い出し、カトレアと火花をちらしている死神を見ると彼はカトレアから視線を外し、微笑んで答える。


「そうだよ。柴くんが小さな五円玉を確実に一撃で仕留められる様に、俺が柴くんの肩に手を置いてサポートしてたんだよ」

「なるほど……道理で感じる霊力がいつもの感覚とは違うと思ったッス」


 柴は自分の掌を見つめ、ぐっぱとしながら力を確かめる様な仕草をした。


「因みに、最初に柴くんに頼まれて渡した五円玉は本当にコピーだったのよ。私が柴くんの担当死神だと知ったどこかの誰かさんが本物を渡してくれた後にこっそりすり替えておいたのよね」


 カトレアがそんな恐ろしい発言をし、すり替えてなかったら破壊しても意味がなかったかもしれないわね。とさらに爆弾発言を付け加えた。

 

 その発言に青ざめるネクラと動揺した柴を楽しそうに見つめた後、カトレアが続けて言った。


「って事で、はい。柴くん、コピーの方の五円玉。本物はなくなってしまったけど、これを形見の代りにしてもらえないかしら」


 カトレアが柴の掌に五円玉を乗せる。柴はそれを凝視していたが、やがてそれを大切そうに握り、胸に当てて想いを馳せる様に瞳を閉じていた。

 

「あれでこっくりさんは、本当に消滅したんですよね」


 柴の様子を見届けながら、ネクラが念のため確認すると死神があっさりと言う。


「うん。あの個体のこっくりさんは完全消滅したよ」

「あの個体って事はやっぱりこっくりさんと言う存在自体が消えたわけではないのですね」


 ネクラがしょんぼりとしていると、死神が仕方がない事だと言う様な声色で言った。


「人間たちが『こっくりさん』の儀式を行う限り、こっくりは必ず現世へと現界する。あんな事件に巻き込まれたくなければ人間たち自身が自重するしかない。でも、人間は愚かだからね。遊び感覚か、私利私欲の為か……きっとまた誰かが儀式を行うだろう」


 死神は腕組みをしながら、冷たい視線で明後日の方向を見ていた。今は霊体だが元人間であるネクラはその言葉を聞いていたたまれなくなってしまい、その身を小さくさせて謝罪の言葉を口にした。


「すみません……」

「いや、ネクラちゃんが謝る事じゃないから。人間たちが生きている限り僕ら死神とこっくりの戦いは続く!みたいな感じなだけだから、君だけが気にする様な事でもないよ」

「打ち切り漫画みたいな言い方しないで下さいよ……」


 謝罪の言葉を口にしたのに、冗談交じりで返されてしまいネクラは何とも言えない気持ちでツッコんだ。


「そんなことより、カトレア。君、全部わかっていて柴くんをこっくりさん案件への同行を許可したな」


 死神に睨まれ、それに伴いネクラたちにも視線を送られ、カトレアは居心地が悪そうに瞳を逸らす。


「それは俺も気になってたんス。さっきも俺がこっくりさんに復讐しようとしたのを知っていたって言ってたし……カトレアさんはどこまでわかっていたんスか」

 

 自分が担当している柴に確認する様に言われ、カトレアは視線を前へと戻して渋々と口を開いた。


「全てわかっていたわ。消滅覚悟であいつを倒すために今回の案件について来たがっていた事も全部」

「柴くんが消滅を覚悟している事まで知っていたのに、何故連れて行こうとしたんですか。一歩間違えていたら、柴くんはこっくりさんと戦って本当に消滅させられた可能性もあったのに」


 ネクラは強い口調でカトレアに言った。柴のこっくりさんへの復讐心と執着はとても強かった。普段は明るく時に冷静な判断ができる彼が、こっくりさんの簡単な挑発に乗ってしまうぐらいには心を乱していた。

 カトレアはそれをわかっていながら何故、同行を許可したのか。いや、それよりももっと疑問に思う事があった。


「柴くんは、死神補佐になってからお姉さんの死とこっくりさんに関りがあるとカトレアさんに教えてもらったとお聞きしました。何故、わざわざその事を柴くんに教える必要があったのですか」


 柴の担当死神であるカトレアは柴が抱えるトラウマを理解していたはずだ。こっくりさんの事を教えれば柴が暴走する可能性も考える事ができたにも係わらず、何故それを伝えたのか。


 あえて柴を危険な方向に導こうとしていたとしか思えないカトレアの行動にネクラはつい強めの口調で詰め寄ってしまう。

 しかし、カトレアが動じる事は一切なく、彼女は揺るぎない瞳と声でキッパリと言った。


「柴くんのためよ」 

「俺の為……?」


 眉を下げて不安げな瞳で柴はカトレアを見る。


「柴くんはね。亡くなった時は未練がなかったの。私の下へ来られている時点でそれは何よりの証拠よ。でも柴くんの場合はとても特殊だったわ」

「特殊……?」


 ネクラがどう言う意味なのかと首を傾げ、柴も思い当たる事がないのか眉をひそめ、虚無は無言で彼女を見つめ、死神は興味深そうに耳を傾けている。



「最初は面倒くさそうな事情だったし、教えれば復讐に走ると思って。こっくりとお姉さん因果関係を黙っていようと思っていたけど、柴くんは元々死神補佐として勉強熱心だったし、いつかは知る事になるだろうとは思ったわ」

「早く仕事を覚えたいって思ってただけなんスけどね」


 カトレアの言葉に柴は苦笑いをした。彼は死神補佐として純粋に悪霊や妖の事を学ぼうとしていたらしい。

 それが仇となり、こっくりさんに辿り着いたのであればそれはなんと皮肉な事だろうか。


「それで、こっくりとお姉さんの真相に辿り着いた柴くんは心の中で闇を作ってしまった。悪霊化するのには十分すぎるぐらいの闇がね」

「悪霊化!?」


 ネクラが驚きの声を上げ、柴も動揺する様に自身の体を確かめる様に見る。動揺している2人に代り虚無が質問をする。


「死神補佐や見習いになった後に悪霊化する事なんてあるのか」

「私の中では初めてのケースよ」


 そう言ってカトレアは死神の方を見る。死神はゆるゆると右手を振って言った。


「俺もそう言う事例は経験した事ないかな。でも補佐も見習いも元は人間の魂なわけだし、悪霊化の可能性はゼロではないね。そうなったら担当死神が責任を持って黄泉の国に送ればいいんじゃない」


 他人事の様に残酷な言葉を告げた死神をカトレアが睨む。ネクラもたまにある死神の冷酷な態度と言葉にぞくりとしながらも、カトレアに言った。


「それでも、カトレアさんは柴くんに真実を伝えて今回の動向も許可したんですね」

「ええ。知ってしまったのなら仕方がないし、変に隠して心の闇が強まって悪霊化に拍車をかけてもいけないしね。それならいっその事その願いを叶えてあげようと思ったわけ」


 カトレアの言葉に死神が納得した様に頷く。


「こっくりなんていつ出るかわからないもんな。出ても特級妖だから死神が相手にする事になるだろうし」

「ええ。そうなっては永遠に柴くんはこっくりに復讐どころか会える事すら叶わない。柴くんが補佐になって以降のこっくり案件は、ほぼあんたのところに行っていたみたいだしね。今回、私のとことに来てチャンスだって思ったの」


 カトレアが死神にそう答えた時、死神はこれだけは分からないと言った表情で言った。


「でも、俺を頼ったのはなんでだ。あの五円玉が本物だとわかっていたのなら、お前だって俺と同じ方法で柴くんを補助しながら倒せただろう」


 その問いにカトレアは不本意そうに答えた。


「こっくりの相手をした数が最多で、一番最近黄泉の国へと帰したのがあんただったから。今回のこっくりが別個体だと復讐の意味がないでしょう。だから確認したかったのと、後は柴くんが復讐に駆られて暴走した時に協力して欲しかったの」


 カトレアがふいっと顔を背けた時、死神は面白そうににやにやと笑って言った。


「つまり、ざっくり言うと君は俺を頼りたかったわけだ」

「なっ!」


 カトレアが整った顔立ちで瞳を見開き、大口を開けて死神を凝視する。そのまま何かを言いたげに口を金魚の如くパクパクと動かす。


「別に!保険よ。保険!こっくりは厄介な存在だから、精神的に追い詰められている柴くんがどんな行動を取るかわからないし、もしもの為の補助が必要だと思ったの」


 カトレアはバンっと机を叩いて立ち上がり、眉を吊り上げて死神を威嚇した。


「それは俺を頼りにしたって事だろ。やっぱ俺の方が優秀って事か」

「どうしてそうなるの!この間、私が手を貸してあげたでしょ」

「こっちの方が面倒な案件だし」


 矢継ぎ早に繰り出される言葉たちにネクラたちは話が脱線した事を悟った。柴が小声でネクラと虚無に言う。


「前にカトレアさん本人から聞いたんスけど、なんでもこの2人、現世で言う同期みたいな関係らしくて、もう何百年もどちらが優秀かで張り合ってるみたいなんスよ」

「ええ……。なにそれ」

「アホらし……。俺、自主トレして来る」


 柴の話を聞きいた虚無はギャイギャイと言い合いをする死神2人を見ながら呆れた様子で溜息をつき椅子から立ち上がる。


「え、2人の喧嘩、止めなくてもいいの?」

「少なくとも、俺には関係のない事だしな」


 ネクラがオロオロとして言うと虚無は素っ気なく言って本当に部屋から出て行ってしまった。

 どうするべきかとネクラが困っていると、柴がさっきまで虚無が座っていた場所、つまりはネクラの隣へと移動してきて腰を掛けながら言った。


「ネクラ先輩。また共闘する事があったらよろしくッス」


 柴が笑顔で両手を広げてネクラに抱き着こうとしたがネクラが彼の顔の前に右手を出してストップをかける。


「後輩ぶっても駄目だよ、柴くん。実は私より年上でしょ」


 柴の話を聞いた時からずっと引っかかっていた。彼は自分で享年が16と言っていた。そこから死神補佐の仕事をこなしながらも、こっくりさんと戦う力をつけるために訓練をしている事を考えると、そう考えてもネクラよりも先に命を落とし、それなりに経験を積んでいるのだ。


 虚無と全く同じパターンではないかと。年下キャラで親しみを持たせようとしているのではないかと疑問に思っていた。


「それは内緒ッス。それにここは時間と言う概念がない場所ッスよ。多少時間軸がおかしくても不思議ではないッス」


 柴はにっこりと笑って言った。完全にはぐらかされた。どうやら柴は後輩キャラをやめる気はない様だ。


「うん。もうなんでもいいや」


 満足げに笑って抱き着いて来る柴と未だに言い争いを続ける死神たちを見ながらネクラは何故、死後の世界はこんなにも癖が強めな存在が多いのかと思いながら、妙な疲労感を感じてそのまま脱力した。

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