第五章 第十二話 頼れる顔ぶれ
この度もお読み頂きありがとうございます。
12月ってまさに『師走』ですね……。仕事も家庭内も本当に忙しい(泣)
ですが、そんな中でも五章はなんとか書きあげる事が出来そうなので頑張ります。
本日もどうぞよろしくお願いいたします。
「やっと見つけたぞ」
虚無が無表情でネクラの前に降り立つ。ネクラの表情に安堵の色が浮かぶ。
「虚無くん……来てくれたんだね」
「俺だけじゃないぞ」
「えっ」
虚無が視線を上に向けたのでネクラがそれを辿ると、2つの黒い影が同時に降り立った。
「ふぅ。ギリギリセーフじゃない?カトレアのブローチのおかげだね」
「ええ。危ないところだったわ」
そう言って現れたのは死神とカトレアだった。何やら疲れた表情を浮かべて佇む3人をネクラは喜びを抱きつつも不思議そうに彼らを見つめる。
「皆さん、もしかしてお疲れですか……」
「いや、体力的には全然。ただ、こう……疲労感みたいなものが」
死神がうんざりとした表情で答えた。そしてこちらを恨めしそうに見つめるこっくりさんに向かって言った。
「久しぶりだね。懲りもせずにまた人間の魂を食べているのか」
「はぁ。誰かと思ったらお前か。またワタシの邪魔をするつもりね」
負傷している手の痛みに慣れて来たのかこっくりさんは腰に手を当てながら死神を睨むが、死神はその手を眺めながら意地悪く言った。
「あはは。何、その手。がっつきすぎてカトレアのブローチの加護の力にも気が付かなかったわけ?ダッサ」
「うるさいわねっ」
死神に馬鹿にされた事が癇に障ったこっくりさんは怒号と共に大きな尾を逆立ててて、黒いオーラの衝撃波を死神空間全体に飛ばす。
「あ、やばっ」
死神が小さく呟いて姿を消した方思うと、未だに地面に倒れ伏す柴のところまで瞬間移動し、柴を担いで戻ると同時に一瞬で透明な防御壁を張り、こっくりさんの衝撃波を防ぐ。
「バカ、挑発するにしても状況を考えなさいよ」
同じように防御壁を張りながらカトレアが死神に対して怒りの声で注意を飛ばす。それに対して死神はさすがに反省しているのか苦笑いで答えた。
「ごめんごめん。俺、相手を煽るのが癖だからさ」
「そんな迷惑な癖、今すぐに直しなさい」
この危機的状況でも軽快にやり取りをする2人を目の当たりにしたネクラの安心感が現実味を帯び、ネクラは鼻がツンとして泣きそうになったのを抑えて感謝の言葉を述べる。
「ありがとうどざいます。もうダメかと思いました」
「お礼なんて言いの。こっちが遅くなったのは事実だもの」
カトレアが頭を下げるネクラに向き直って眉を下げ、申し訳なさそうに言い、死神もやれやれと言った様子で言う。
「君たちの居場所は気配やカトレアのブローチの魔力反応で分かっていたんだけど、あいつが俺たちの連絡手段を断った後、空間を歪めていたみたいでさ。おかげで君たちのがいるところへ辿り着くのに苦労したよ」
「微量の魔力反応を探知しながら死神サンたちと協力して学校中の歪んだ空間を片っ端から通って来たんだ。いくら霊体が体力に限りがないとはいえ、さすがに骨が折れたな」
死神に続いて虚無が溜息をつきながら事情を話し、疲労感を感じていると言っていたのはそのせいかとネクラは納得した。
「それにしても、君は無茶しすぎ」
「うっ」
死神はどさりと半ば乱暴に柴を床に落として言う。柴は落とされた衝撃で呻き声をあげたが、ヨロヨロと起き上がった。
「すみません。感情的になっていたっていたって言う自覚はあるッス」
柴は心から反省している表情でそこにいる全員に向かって頭を下げた。彼の担当であるカトレアはそんな彼を黙って見た後に溜息をついて言った。
「言いたい事はたくさんあるけど、まずはあいつを何とかしないとね」
今は防御壁がある為こっくりの攻撃は当たっていないが、いつまでも守りの体制を続けるわけにはいかないと言う事ぐらいはネクラにだって理解できる。
「ネクラちゃん以外はそれなりに戦えるし、男児たちは結界の外だし、人質を取られる心配はないから楽勝でしょ」
死神がにこにことしながらそんな事を言い、ネクラがギクリとした。
今まで必死で守っていた男児たちは生者を除外する死神結界の中にはいないため、こっくりさんに人質として取られる事も、魂を食べられる事もない。死神たちも心置きなく戦える事だろう。
……自分さえこっくりさんに狙われなければ。
ネクラが自分が足手まといになるかもしれない可能性に不安を抱いていると、正面から肩にポンと手が置かれる。見上げるとそこには無表情の虚無が立っていた。
「今回の俺の役目はお前の護衛だ。だから、あまり気張るなよ」
「う、うん。ありがとう」
自分の身の安全が保障され、ほんの少しだけ安堵したネクラだったが、先頭に置いては自分はいつだって役立たずの非戦闘員である事を思い知らされ、ネクラは複雑な気持ちでぎこちなく頷いた。
「柴くんも、ネクラちゃんの護衛、よろしくね」
こっくりさんの攻撃を防御しながら、ネクラと虚無のやり取りを聞いていた死神が、笑顔で柴にお願いをする。
声をかけられた柴は死神の方を向くも、直ぐにこっくりさん視線を映し、何か迷う様な表情を見せ、返事をする事をためらっていた。
「まさか、その体であいつと戦うつもり?やめときなよ」
死神が鼻で笑いながら柴に言う。カトレアが死神の態度に一瞬だけ反応したが、特に文句を言うわけでもなく、死神と柴のやり取りをこっくりさんの動きを気にしながらも横目で見守っていた。
「今回の相手は知性がある妖だ。無暗に戦いを挑んでも勝てないよ。君があいつと因縁がある事は理解しているけど、感情をぶつけて戦える相手じゃない」
「……っ」
柴は死神の言葉に悔しそうに唇を噛んだ。そしてトドメとばかりに死神が言う。
「どうしてもあいつと戦いたいって言うなら止めないよ。君は消滅覚悟みたいだったし。でもね、自分のやりたい事ばかりを優先して足を引っ張るのはやめて。正直、こっくりを相手にしながら君に気を遣う余裕はないんだ。はっきり言って迷惑だよ」
その冷たい死神の言葉に、柴は拳を固く握りしめて数秒黙った後に声を震わせながら言った。
「わかったッス……。俺はネクラ先輩の護衛に徹します」
少し納得がいっていない雰囲気も感じたが、割と素直に頷いたたため、死神は満足そうに頷いた。
「よしよし。素直なのは良い事だね。あとからご褒美あげるね」
「ご褒美って、あんたまさか……」
カトレアが怪訝な顔で死神を見たその時、こっくりさんの怒号が響く。
「あああああああ!いつまでも防御ばっかりでしゃらくさい。そっちが来ないならこっちは最大出力で行くわよ」
こっくりさんがそう言うと同時に身に纏うオーラを強め、長い爪を振りまわしながらこちらへめがけて弾丸の様に追突して来た。
「皆、とりあえず散って。一か所にいると危ないし、お互いに邪魔」
死神が叫びながら振り向き、それと同時にそれぞれが散る。1人反応が遅れてしまったネクラだっが、虚無に俵担ぎをされた状態でその場から逃れる。
突然お腹を抑えられた状態での浮遊感に若干の吐き気を覚えながらも、ネクラたちは死神たちとは少し離れた場所に着地する。
ネクラが後ろを確認すると、先ほどまで自分たちが集まっていた場所には土煙が立ち込め、煙が晴れたと同時に見えた抉れた地面でその威力を知り、こっくりさんの妖としての強さに改めて恐怖を抱く。
「ありがとう。虚無くん」
「別に」
そっと地面に降ろしてくれた虚無にお礼を言いつつ、ネクラは視線を死神たちの方へと向ける。
ネクラは死神とカトレアの身を案じる様な視線を送っていたが、当の本人たちは危機感など微塵も感じていなかった。
「さて、お荷物もとりあえずは離れてくれた様だし、とっとと片付けますか」
「そうね。早急に終わらせましょう」
死神が大鎌を取り出し、それを肩に乗せて余裕の態度で言った。カトレアも大鎌を出しそれを杖の様にして佇んでいる。
「舐めてんじゃないわよっ」
こっくりさんが死神たちにめがけて黒い衝撃弾を素早く打ち出す。数十発は打ち出されたそれを死神とカトレアは素早く避ける。
流れ弾が数発こちらに飛んできたたが、虚無と柴が素早く防御壁を張り事なきを得る。虚無がめずらしく声を荒げる。
「死神サン、もっと考えて避けろ。流れ弾が危ない!」
「ごめーん。自分の身は自分で守って」
死神が遠くで両手を振りながらまったく反省の色がない謝罪の言葉を述べる。
第一撃を全て避けきられたこっくりは舌打ちをしながら、先ほどの倍はある数の第二撃を打ち出すが、2人の死神はものともせずにそれも動じる事なくかわしていく。
「わわわっ。またこっち来たっ」
ネクラが思わず頭を守る様に身を屈め、それに虚無と柴がまた防御壁で防ぐ。その防御壁が振動するほど威力つが強く、先ほどよりも多い数の衝撃弾が流れて来たため、今度は柴が叫ぶ。
「危ない!さすがに危ないっすよ!」
「ご、ごめんなさい。そこまで飛ぶとは思っていなくて、ちょっと。被害は最小限よ」
カトレアが未だに降り注ぐ衝撃弾をかわしながら謝罪の言葉を述べた後、死神を睨んで言うと死神も攻撃をかわしながら口を尖らせて面倒くさそうに言った。
「えー。いいじゃん。あれぐらいの攻撃の防御はできるでしょ」
「いいからっ」
カトレアに念を押され、死神は深く溜息をついてから仕方ないと言う表情を浮かべて言った。
「あー、はいはい。これで良いんでしょ」
死神は手に持つ大鎌を横に振り、迫り来る衝撃弾をはじき返した。それは見事こっくりさんの方へと威力を増して返され、命中した。
「ぎゃああああっ」
「やったー!ホームランっ」
自分の攻撃を自分で受けたこっくりさんの断末魔を聞いて死神が手を上げて子供の様に喜んだ。それにカトレアが乗っかる形で答える。
「ストライクの方がしっくりこない?」
「バットで振り抜いたから野球だよ」
「バットじゃなくて大鎌ね」
呆れながらカトレアがツッコみ、死神がしれっとそれを受け流す様子からは余裕が溢れている。
対するこっくりからは攻撃を打ち返された挙句、自分の攻撃がかすりもしない事もあってか、余裕の表情は消え失せてなんとも悔しそうな表情をしていた。
「さすがに死神が2人は流石に分が悪いわね」
そしてちらりとネクラたちの方を見た後、死神とカトレアを見て大きな溜息をついた。
「はぁー。せっかくおいしい魂が食べられると思ったのに。ここまでかしら」
「あら、えらくすんなり引き下がるのね」
カトレアがこっくりさんを冷静な眼差しで見つめて言うと、こっくりさんはクスリと笑う。
「ここでアナタたちに黄泉の国へと強制送還されても、またどこかの誰かがワタシを呼ぶもの。またその時にたくさん人間の魂を食べる事ができるわけだし。どうって事ないわ」
「反省の色が見えないねぇ。君はここで消滅させちゃおうかな」
悪びれないこっくりさんに向かって死神が笑顔で言った。こっくりさんが死神の方を見る。
「あら、よく見たらアナタ何度かワタシと会ってる死神じゃない。ろくにワタシと戦わず、黄泉の国へと押し返す事ばかり考えていたアナタがワタシを消滅ねぇ……。やってみなさいよ」
こっくりは死神の鎌に殺傷能力がない事を知っているのか、死神とカトレアの大鎌を眺めて挑発する様に笑った。
「よし。その挑発、乗った。カトレア、あの子からアレ貰って来て」
「え、あいつを倒すの?あれだけ面倒くさがっていたのに」
カトレアが瞳を見開くと死神は素っ気なく言った。
「気が変わったの。足止めしとくから。ほら、早く!」
「はいはい」
死神がひらひらと手を払いカトレアを急かし、彼女は一瞬でネクラたちの下へと移動する。
死神たちが何をしようとしているかわからないネクラたちはカトレアを不思議そうに眺めていると、カトレアが柴に向かって左手を差し出て行った。
「柴くん、あなたが形見にしてた五円玉を渡しなさい」
以外な言葉に柴の瞳が大きく見開かれた。