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死神補佐になりました : 来世のための少女の奮闘記  作者: 水無月 都
少女は特級の妖こっくりさんと対峙する
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第五章 第十一話 絶対絶命……⁉

この度もお読み頂いてありがとうございます。

宣言した通り、五章はまだまだ続きますので、恐れ入りますがお付き合い頂けますと幸いです。

本日もどうぞよろしくお願いいたします。

「カトレアさんから?」


 カトレア本人がわざわざただの死神補佐である柴にそんな話をするだろうか。違和感を持ったネクラは疑問符を浮かべる。


「はい。俺、死神補佐としての仕事を効率よく行えるように、悪霊の事とかよくカトレアさんに聞いていたんですけど、そこでこっくりさんの存在を知ったんス。事例を聞いてみたら、姉ちゃんの事と一致してる事が多くて、気になってカトレアさんに確認したんス。そしたら、よくわかったわねって言われて確信に変わりました。」


 柴が言うには死神補佐として真面目に努めようとしていた際に、たまたまこっくりさんの話をカトレアから耳にして、姉の死の真実に辿り着いたと言う。


 しかし、カトレアが『よくわかったわね』と言う発言にネクラは引っかかりを覚えた。死神は自身の下に訪れる魂の全ての情報を有していると以前に言っていた。と言う事は、

カトレアは柴にとって『こっくりさん』と『姉』と言う存在がタブーである事ぐらい理解していたはずだ。

 

 下手をしたらこっくりさんに復讐すると言いかねない。実際、真実を知った柴は補佐の身でありながら見習いと同じ訓練を始めた。カトレアもその提案を受け入れて実戦ができるまでに柴を育て上げている。


 柴の事を思うなら、柴の心と精神を守るなら、普通であれば黙っているものではないのか。死神の思考と言うものはよくわからないが、ネクラの心にカトレアはわざと柴にこっくりさんと柴の姉の事を教えたのではないかと言う疑惑が生まれる。


 不穏な事を思っているネクラの傍で柴は切なげに微笑んで言った。



「生前は幽霊や妖怪の存在は半信半疑でしたし、姉の性格の変わり様は異常だとは思っていましたが、本当にこっくりさんが憑りついていたなんて夢にも思わなかったッス」


 その表情を見たネクラは不安げな表情で聞く。


「死神補佐の立場で死神見習いの訓練を受けているのは、こっくりさんと戦うため?」

「はいッス。俺、元々霊感が少しだけあったみたいで。視える能力じゃなくて祓える能力みたいなんスけど」

「そうなの。すごい……私と全然違う」


 柴が持つ真実に驚きつつも、霊感も鋭い観察眼も持たない無能な自分を思わず自己嫌悪する。

 表情からネクラの感情を読み取ったのか、柴が否定の言葉を口にする。


「全然すごくないッス。霊が視えていたわけではなかったので、霊感があった事をカトレアさんに知らされた時は自分でも驚いたッスよ。祓う力があるって自覚があれば、姉ちゃんを助けられたかもしれません」


 柴は悔しさを宿した瞳を潤ませ、自らの右掌を見ながらそれを握りしめる。そしてその悔しい思いを吐き出す様に言った。


「だから、修行を頑張ったんス。死神補佐を続けてこっくりさんに会った時、倒すまでは行かなくても、一矢報いるぐらいはできる様に」

「それが、あの黒い稲妻の力なんだね」


 ネクラはこっくりさんに見つかりにくくなる様にと教室の扉に施された、扉に鎖の様に絡みつく黒い稲妻を見る。


「そうッス。カトレアさんからご指導頂いた、自分の霊力を稲妻に変える力で元々の除霊の力も編に込まれている特性の稲妻ッス。悪霊に対しては十分な攻撃になるッスよ」


 柴は自慢げに笑いながら、右掌をネクラに見せながら小さな稲妻をバチバチと出して見せる。


「この力で、あいつに傷の1つでもつける事ができれば……。俺がこの力を手に入れるために頑張った事が報われるかもしれないッスから」

「柴くん……」


 なんと声をかければいいのか、ネクラがそう思いながら彼の肩に触れようとした時、寒気がし、空気が重くなるのを感じた。

 そして続いて聞こえて来たのは楽しそうな笑い声とゾワッとするほど妖艶な声色だった。


「殊勝な事ね。涙が出ちゃうわ」


 その言葉と同時に扉にまとわりついていた稲妻が弾け飛び、扉も吹き飛ばされた場所から結崎の姿をしたこっくりさんが現れた。

 黒いオーラと黒い狐の尾をゆらゆらと揺らしながら、2人の姿を視界に入れたこっくりさんは、三日月の様に口角を上げ、細かく並ぶ小さな牙を覗かせながらこっくりさんはにやりと笑い言った。


「みぃつけた」


「くっ、もう見つかったッスか」


 柴が立ち上がり、ネクラと2人の男児を守る様に立ちふさがる。 

 ネクラも膝をついた状態で男児たちを隠す様に庇う。


「上手く気配を消していたのね。探すのに苦労したわ。アナタ、中々やるわね」


 こっくちさんが笑みを浮かべて柴を称えるが、柴はこっくりさんを睨みつけ、湧き出る憎しみを抑えながら静かな声で言った。


「あんたに褒められてもうれしくねぇッスよ」


 その素っ気ない反応にこっくりさんがつまらなさそうに腕を組みながら不満そうに頬を膨らませながら言った。


「つれないわね。アナタにとって、憎い相手が目の前にいるのに。もっと激高するとかしないの?」

「まさか、さっきの柴くんの話、聞いていたの!?」


 こっくりさんの言葉にネクラが反応すると、こっくりさんはネクラの方に視線を映し、けろりとして言った。


「聞いてた、じゃなくて聞こえたの。そこの坊やのお姉さんがどうで、ワタシに一矢報いたいとか、途中からだからよくわからなかったけど、要はワタシが憎いって話でしょ」


 平然としているこっくりさんに柴が唐突に言った。


「お前、魂は半分しか食わないらしいッスね」

「そうね。色んな魂をいっぱい食べたいし」


 カトレアの言う様に、こっくりさんは人間の魂をつまみ食い感覚で食べ続けているのだ。そんな事を平然と言ってのけるこっくりさんをネクラが睨む。


「そ、そんな。あなたに魂を半分でも食べられた人は今も放心状態なんだよ。一生そのままなんだから」

 

 既に魂を食べられしまい、放心状態になってしまっている方の男児を見つめながら、ネクラはこっくりさんを責める。

 しかし、その怒りもこっくりさん取ってはどこ吹く風で、冷めた表情でネクラたちを見ながら、ひどく面倒くさそうに他人事の様に言った。


「そんなの、知らないわ。大体、ワタシは呼び出されなければ現世には来られないわけだし。人間の自業自得でしょ」

「そんなっ……」

「……」


 ネクラは絶句し、柴は無言でこっくりさんを見つめている。痛いところを突かれ、反論ができない2人を面白いと思ったのか、こっくりさんは楽しそうに話を続ける。


「私的には結果オーライだけどね。現世に出られた上で、体も手に入って魂もいっぱい食べられる。最高だわ」


 異様な雰囲気を醸し出しながらクスクスと笑うこっくりさんに恐怖を覚えながらもネクラは必死でこの場からの脱出方法を考えていた。


 良い方法が見つからず、どうするべきかと前に佇む柴の方を見つめると、彼がゆっくりと口を開いた。


「なら、どうして俺の姉ちゃんの魂は全部食い尽くした」

「柴くん……?」


 柴が小さな声を震わせながらそう呟いたため、ネクラは柴に呼びかける。しかし、柴はネクラの声には反応せず、険しい表情でこっくりさんに言った。


「体を好き勝手利用した挙句、廊下に捨てるなんて許せないッス。放心状態でもいい……生きて、傍にいて欲しかったのにっ」


 柴が拳を握り、唇を噛む。その様子から彼の悲しみや悔しさが感じられ、ネクラの胸も苦しくなる。

 こっくりさんが憑りついていたと言えど、奇行の末、世間に狂った人間だと言うレッテルを張られたまま無残な亡くなり方をしてしまった柴の姉の事を思うと、柴が悲しい想いを抱えてしまうのも当然だとネクラは思った。


 そんな悲痛な想いを訴える柴に対し、こっくりさんは面倒くさそうに言った。


「アナタが誰の事でワタシに文句を言っているか見当がつかないわ。ワタシを呼び出した人間も、ワタシが憑りついた人間も数えきれないほどいるから、いちいち覚えていなの」

「な、んだとっ」


 こっくりさんの言葉に柴の顔が怒りに染まる。拳が握られ、黒い稲妻が集まり始めるが、こっくりさんは涼しい顔で続けた。


「でも、1つだけ答えられる事があるとするなら……アナタの姉が亡くなったのはワタシが体から出て行ったからでしょうね」

「それは、どう言う事ッスか」


 柴は拳に集めた稲妻を威嚇する様にバチバチと鳴らす。この状況は良くない。そう思ったネクラが柴をなだめ様とした時、こっくりさんがまた挑発する様な言葉を柴に向けた。


「死神がワタシを黄泉の国に帰す時は、生身である人間体は持って行けないの。ワタシの魂だけが黄泉の国に行くのよ。だから憑りつかれた人間の体だけ現世に残るの。しかも、憑りついた時点で魂は浸食されているから、ワタシがいなくなれば抜け殻も同然よね」


 こっくりさんが楽しそうに高笑いをした時、柴の拳に集まる稲妻の輝きが強さを増し、同時に柴が怒声を上げる。


「てめぇ!ふざけんじゃねぇぞ!!」


 姉の死を乱雑に扱われた事に怒りを覚えた柴の殺気が強まった事を感じ、ネクラは柴に呼びかける。


「ダメ!カトレアさんにもこっくりさんを見つけてもその場から離れる様に言われらでしょう!?下手に戦って、柴くんの魂が奪われちゃうかもしれない。戦うよりここから離れる事を考えないと」

「俺は、魂を食われようと消滅しようと構わないんッスよ!!」


 ネクラが必死に叫びに対し、柴も怒りを吐き出す様にして叫び返してきたため、ネクラの体がビクリとする。

 そんなネクラの反応を見ても、怒りで興奮状態の柴が首を縦に振る事はなかった。それどころか強い口調でネクラに言う。


「言ったッスよね!俺はこいつに一矢報いるために補佐の立場で死神見習いと同じ修行に耐えて来たんス。でも、こっくりさんは現世に現れる度に他の死神が黄泉の国へと帰してしまうから、手が出せなかった……だから、目の前にいる今がチャンスなんスよっ」


 自分を止めようとするネクラを柴がうざったそうに睨みつけた後、こっくりさんに向かって拳に黒い稲妻を乗せて殴りにかかろうとしたのでネクラは叫ぶ。


「待って!今のこっくりさんの体は結崎先生の体なんだよ。攻撃したら、結崎先生の体が危ないよっ」

「……ッ!」


 ネクラに言われて初めて気が付いたのか、柴の殺気が緩み、拳に纏った稲妻も消える。それを見たこっくりが平然と言う。


「別にどうでもいいじゃない。こんな体。もうこの人間の魂と体はワタシと同化しているんだから。結崎洋子はもう死んでいるの。ワタシが出て行けばこの体はその坊やのお姉さんとやらと末路は同じよ。迷う必要はないでしょう」


 だからかかってこいと言わんばかりにこっくりは結崎の体で両手を広げる。明らかな挑発だったが、根が優しい柴はそれに乗る事が出来ずに口惜し気に唇を噛んでいた。

 こっくりさんがどんなに憎くとも、生身の人間の体を相手に攻撃をするのには抵抗が生まれるらしい。


 柴が憎しみの闇に飲まれきっていない事にネクラ安心していると、こっくりさんが顔を歪め、大きく息を吐いた。


「はぁぁぁぁぁ。うざったい。生意気でおもしろそうだと思ったけど、その程度の覚悟でワタシを倒そうなんて虫唾が走るわ」


 こっくりさんが右手を上げると、柴の体が妖力によって宙に浮き、そしてそのまま柴の体は床に叩きつけられる。


「ぐうっ」

「柴くん!!」


 見えない力で上から抑えつけられているのか、柴は苦しそうに呻き声を上げてもがくだけでしかし、何度名前を呼ぼうとも、柴が起き上がる気配はない。


 助け起こしたいと思うが、こっくりさんを目の前に男児を2人から離れるわけにもいかず、苦しむ柴の様子を何もできずに見る事しかできない。


「人間の子供みたいな未熟で無垢な魂もおいしいけど、憎しみや絶望、恐怖に支配された魂はもっとおいしいし、ワタシみたいな妖の力になるの。だから、ある程度感情を高ぶらせてからアナタたちの魂を頂こうとおもっていたのに……つまらないわ」


 こっくりさんが床にひれ伏した柴を無視してコツコツと靴音を鳴らしながらネクラに近づく。


「や、やめろ。その子たちに近寄るな」


 柴が苦しそうにこっくりさんを威嚇するも、こっくりさんはしれっとして言った。


「この子が坊やの怒りのストッパーでしょ。だったら、この子を先に食べた方が後々都合が良さそうじゃない。この子を食べて、坊やの怒りも倍増~!なんてね」

「やめろっ!!」


 不穏な事を鼻歌交じりに言いながらネクラと男児に迫るのを見た柴は何とか起き上がろうと試みるも、見えない力が解かれる事はなく、叫ぶ事しかできなかった。


 ネクラもこのままでは危険だと思いながらも、1日1回のキーホルダーはもう使ってしまった。自分ではどうする事も出来ないと焦っていた。

 無駄な行動とわかっていてもネクラは男児たちをこっくりさんから守ろうと強く抱きしめ、せめてもの抵抗でこっくりさんを睨む。


「ふふ、怖い怖い。なぁに?あなた、全然霊力がないじゃない。さっきワタシの術から抜け出したのはまぐれかしら」


 こっくりさんが不気味に笑いながら、なんとか震えを抑えて睨むネクラに手を伸ばす。


「まずはあなたの魂から頂くわ。ついでにその子も」


 ネクラと丸眼鏡の男子を交互に見ながらこっくりさんが言う。迫り来る手にネクラが恐怖に負けて瞳を閉じた時、バチッと音がしてこっくりさんが呻き声を上げてふらつきながら後退する。


「何、あんたまだ力を隠していたの!?」


 こっくりさんがネクラを睨む。抑える右手の甲は真っ赤になっており、そこからは湯気の様なものも立ち上っていた。

 ネクラは腕から熱が伝わるのを感じた。ふと熱を感じる場所へと視線を向けると、先ほど男児たちにつけたカトレアから貰ったブローチがその胸で紫の光を淡く放っていた。


「カトレアさんのお守り……」


 束の間危機から解放されたネクラが呆けていると、今度は鋭い声が聞こえたと同時に辺りが真っ白な空間に包まれる。

 ネクラが必死で守っていた男児たちの姿は消えていた。生者を除外するこの空間、これは『死神結界』だ。


「何してるんだ。この馬鹿」

「虚無くんっ」


 目の前に現れた頼もしい相棒にネクラは喜びの声を上げた。

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