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死神補佐になりました : 来世のための少女の奮闘記  作者: 水無月 都
少女は特級の妖こっくりさんと対峙する
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第五章 第八話 こっくりさん、その正体を現す

本日もお読み頂き、誠にありがとうございます。

宣言します。10話に収まりません(土下座)

15話以内には何とか収めるつもりですので少し長いかもしれませんがお付き合いください。

本日もどうぞよろしくお願いいたします。

 忽然と消えた結崎、不自然なまでに深い闇に包まれた部屋、そして突如重苦しくなった空気に思考が追い付かないネクラとは対照的に柴がとても冷静だった。

 それどころかこの事態を予測していたとも取れる態度で辺りを警戒し始める。


「柴くん、どういう事。結崎先生はどこに行ったの」


 まさか、こっくりさんの餌食に。と最悪の事態を想像して震えるネクラに柴が冷静に言う。


「結崎先生の事はひとまず置いておきましょう。まずはここに入ってしまったかもしれない生徒2人を探すッス」

「え、でも」

「いいから。行くッスよ。俺から離れないで」


 強引にネクラの言葉をねじ伏せた後、柴はネクラの手を握って自らが先頭になり歩き出す。

 ネクラは突然の行動に驚いた後、事態を把握して体が熱くなったが。柴が真剣な雰囲気を纏っていたため何も言えなかった。

 

 手を繋がれた事で余計な緊張が加わったネクラは柴に手を引かれるまま黙って彼に身を任せた。繋いだ手から熱と緊張が伝わりませんようにと願いながら、闇の中ネクラは柴の後ろを歩き続ける。



 前後左右に注意しながら、しばらくの間ネクラと柴は男児2人を探し歩き回った。そしてある事に気付き、ネクラは柴の腕に縋りつく。


「柴くん、ここってこんなに広かったっけ」


 辺りが闇に包まれ、空気が変わって以降どんなに先に進もうと何にもぶつからないのだ。閉架書庫と言うからには本棚があってもおかしくないはずだが見当たらないし、手を伸ばしても壁の存在さえ感じされない。


 この奇妙な状況にネクラは不安に襲われ、異性に手を繋がれただけで緊張していたはずが不安と恐怖から自ら体を柴にくっつけていた。


「確かに、広すぎるッスよね。こっくりさんが創った異空間におびき出されたみたいッス」


 柴がさらりとそんなの事を言い、ネクラは目を見開いて柴を見る。暗闇の中、傍で歩く柴の顔だけはしっかりと確認できた。

 彼は焦る様子も不安な様子も見せず、険しい表情を浮かべていた。最初はこの状況を警戒しているのかと思っていたが、よく様子を窺えば憎しみや怒りと言った感情の方がしっくりくる気がして、ネクラは柴にも若干の畏怖の念を抱いた。


「さっきの男の子たちもこの異空間にいるのかな」


 柴に対して芽生えた恐怖の感情を押し殺す様にネクラは彼に問いかけた。


「ここはこっくりさんの領域ッスからね。もしもあの2人がターゲットになっているとしたら多分、同じ場所にいるはずッス」


 柴がそうい言った時、前方から子供の泣き声が響く。


「うわあああん。ケンちゃん、ケンちゃん」


 その悲壮な鳴き声を聞き届けたネクラと柴はその方向へと向かって駆け出した。その間も手はしっかりとに握られたままだった。


 辿り着いた闇の先では丸眼鏡の男児が膝をついて涙と鼻水で顔をぐしゃぐしゃにしながら顔を真っ赤にして大泣きしていた。

 丸眼鏡の男児の前にはヤンチャそうな男児が仰向けに倒れており、傍にはキャラクターものの消しゴムが転がっていた。


「なにがあったの!?」


 ここで初めてネクラと柴の手が離れる。ネクラは丸眼鏡の男子に駆け寄り、膝をついて事態を確認しようとする。

 しかし、丸眼鏡の男児はパニック状態に陥っているのか『ケンちゃん』と連呼するばかりで話が聞ける状況ではなかった。


 ネクラがケンちゃんと呼ばれた倒れ伏す男児に目をやると、ヤンチャな印象はすっかり消え失せ、瞳孔を開いて固まり放心状態になっていた。

 柴がその傍に片膝をつき、脈拍や呼吸を確認する素振りを見せる。


「脈も息もある。うん、この子は生きてはいるみたいッスね」

「生きてはいるって……まさか、こっくりさんに!?」


 状況から推測してネクラが言うと柴はゆっくりと首を縦に振る。そして泣きじゃくる丸眼鏡の男児の方に手を置き、正面から言った。


「君、泣いてちゃわからないッスよ。何があったかちゃんと説明するッス」


 少し強めの口調で言われ、丸眼鏡の男児が体をビクリと体を震わせたが、同時に泣き止み、真っ赤な顔でネクラと柴を見た。


「ひっぐっ……肝試ししてたら、まわりが真っ暗になって……ケンちゃんが、急に倒れたの。うううっ」


 そこまで言うと丸眼鏡の男児はまた泣き出した。さっぱり状況が掴めない説明だったが、小学校低学年ぐらいの子供にこの状況で落ち着けと言う方が間違っているかと思い、それでもなんとか落ち着かせようとネクラが泣きじゃくる男児に声をかけ様としたとの時、柴がネクラと男児の背後に向かって低い声で言った。


「何するつもりッスか。結崎先生」

「結崎先生?」


 ネクラが振り向くとそこには先ほど姿が消えたはずの結崎が立っていた。柴の言葉に一瞬だけ動揺を見せたが、すぐに笑顔で言った。


「よかった。やっと見つけたわ。はぐれたみたいだから心配していたのよ」

「先生っ」


 丸眼鏡の男児が涙をピタリと止め、安堵の表情を見せて結崎に駆け寄ろうとするのを柴が肩を掴んで止めた。

 そのままその男児をネクラに預け、その子の手を絶対離すなと言いながら自分は倒れている男児を横抱きで抱え上げた。


「柴くん?」


 丸眼鏡の男児の手を握りつつ、ネクラが柴を見つめると彼は唐突に言った。


「全力で走るッス」


 そう言って結崎に背を向けて走り出した。ネクラもつられて走り出す。丸眼鏡の男児も驚きながらもネクラに手を引かれるまま抵抗する事なく走り出した。

 前を行く柴の足は驚くほど速く、鈍足な自分ではついて行けないと思った時、ぐんと腕が引っ張られる。

 自分の手元に視線をやると、柴が片手で男児を抱き上げながら自分の手を引っ張っていた。


「柴くん、急にどうしたの。結崎先生置いてけぼりだよ」

「いいんスよ。それよりここから出る事だけを考えましょう」

「で、でも真っ暗でどこが出口かなんてわからないし」


 走りながらネクラと柴は早口にそんな事を言い合う。霊体だからか、歯市営流れでも息切れする事もなく会話ができている様だ。

 

「これを辿れば出口に辿り着けるッスよ」


 柴が男児を抱き上げている方の小指を見せる。そこには黒い糸が巻かれていた。真っ黒な闇の中でもしっかりと存在感を放つそれは闇のずっと先へと続いていた。


「俺の霊力で作った糸ッス。ここに入る前に入口に括り付けておいたんスよ」

「あの時ごそごそとしていたのはこれの仕掛けていたからなんだね」


 ネクラはここへ入る前、背を向け何かごそごそとしていた彼の姿を思い出す。彼は笑顔で頷いた。


「そうッス。役に立てそうで何よりッス。それより、追いつかれない様に頑張って走って下さい」


 その言葉を最後に、ネクラたちは無言で果てしない闇の中を黒い糸を辿って全力で走る。


「うう、もう走れない」


 暫く走り続けた時、ネクラが手を繋いでいる丸眼鏡の男児からそんな言葉が漏れる。ネクラたちは霊体であるため長時間は知っても息が切れる事も体力が失われる事もないが、生身のである男児には体力に限りがある。


 ついに男児の足は止まり、その場に座り込んでしまった。男児を置いていくわけにもいかず、ネクラと柴の足も止まる。


「急がないとヤバいッスよ」

「じゃあ、私がこの子を抱き上げるよ」


 柴が後方を警戒しながら言うのでネクラが男児を抱き上げようとした瞬間、間近で淡々とした女性の声がした。


「置いていくなんてひどいじゃない。先生悲しいわ」


 ネクラたちの目の前には道を塞ぐようにして結崎が立っていた。確かに置いて来たはずの結崎がいつの間にか目の前に現れ、ネクラは驚きを隠せないでいた。

 体をゆらゆらと揺らす彼女からはとんでもない不気味さを感じ、ネクラは男児を繋ぐ手を強めた。男児も同じく結崎に恐怖を感じたのかネクラの手を強く握り返す。


「うわ、やっぱり子連れじゃ逃げ切れねぇッスか」


 柴が悔しそうに顔を歪める、そして自分が抱えていた放心状態の男児をネクラに預け、彼女たちを守る様に前に立つ。


「柴くん、どういう事なの。結崎先生、どうしちゃったの」


 様子のおかしい結崎を見つめながらネクラが柴に問いかけると柴が言った。


「あの人がこっくりさんッスよ。正しくはこっくりさんを呼び出した人だと思うッスけど」

「こっくりさん!?」


 予想していなかった回答にネクラが思わず叫ぶように声を驚くと結崎は口角を三日月の様に吊り上げてにたりと笑った。


「そうよ。坊や、おバカな見た目で中々鋭いじゃない」


 改めて結崎の顔を見ると彼女の瞳は金色に輝き、黒目は暗闇の猫の瞳の如く細く真っすぐになっていた。


「人を見た目で判断しちゃダメッスよ」


 柴は笑顔でそう口にしたが、もう半歩前に出てネクラたちの前に立つ。物の怪と化した結崎の表情を見た男児は恐怖と緊張、そして疲労が限界を迎えたのか、カクンと意識を失った。


「あら、魂を食べる前に気絶しちゃったわね」


 結崎がつまらなさそうに恐ろしい事を口にしたため、ネクラは気絶した男児を抱える様に庇う。


「あっちの放心状態の子は、あんたがやったんッスね」


 ネクラがもう片方の手で支えている男児を見ながら柴が聞くと、結崎は口元を抑えながら舌なめずりをし、ふふっと笑った後言った。


「そう。おいしかったわ。やっぱり若い子の魂は最高ね」


 こっくりさんを呼び出したのは結崎と言う事はカトレアが言っていた憑りつかれた人間と言うのも彼女に間違いないだろう。


「どうして、結崎先生に憑りついたの」


 ネクラの質問にこっくりさんは結崎の姿で答えた。


「この人間がそう望んだからよ。この結崎とか言う人間は先輩に色んな雑務や責任を押し付けられる毎日だったみたいね。それにストレスが溜まって、たまたまネットでワタシに呪いの力もあるって知ったみたい。で、軽い気持ちで呼び出して現在に至るってところかしら」


 平然と語るこっくりさんにネクラはさらに質問を重ねる。


「あなたは結崎先生に化けているんじゃなくて、結崎先生の体を使っているって事?」

「そうよ。だって、そう言う契約だもの。ワタシが憑りつく事ができるのはワタシを呼んだ者だけ。呼び出した人間の望みを叶える代償として体を貰うの。それは本人から了承は得ているわ」


 あっさりと肯定の言葉を返され、ネクラは動揺した。

 つまりは結崎の体で男児の魂を食べたと言う事だ。それは完全に彼女の体を乗っ取ったと言う事を意味している様に思えた。

 ネクラは体を強張らせながら柴に言った。


「柴くん、どうしよう……この子たちだけでも外に出せないかな」

「それは、厳しいッスね。糸も切られちゃったみたいだし、戦うしかないッスかね。でも、その子たちを守りながらどこまでやれるか」


 柴が小指を見せながら言った。小指に繋がれていた黒い糸はぷっつりと切れていた。

 柴はネクラの手に繋がれた男児と彼女が抱えている男児を交互に見ながら困った様に笑っていた。

 その表情をネクラにも焦りが生まれる。ネクラには戦闘能力がない為、柴と共闘する事はできない。


 できる事と言えば逃げる事だが、柴が入口に仕掛けた帰るための糸も断たれてしまった今、こっくりさんが創り上げたこの空間で無暗に子供を抱えて逃げ回っても、こっくりさんと戦うのと同じぐらい危険なだけである。実質、柴はネクラを含めて3人を守りながら戦う必要があるのだ。


 また自分は他人に頼ってばかりでなく足を引っ張ってしまうのか。そう思った時、ポッケットのキーホルダーの存在を思い出す。

 今が使い時ではないか。とりあえずこの異空間から逃れる事ができれば突破口が見つかるかもしれない。


 まずはこっくりさんが支配するこの空間から出る事こそが重要なのだから。ネクラはそう思い、皆とここから出るのだと強く願いながら腹の底から声を出した。


「私たちをここから出して」


 ネクラが叫ぶとキーホルダーが黒い光を放ち、辺りを包み込む。


「えっ」

「なに、この力……」


 柴は驚いた表情でネクラの方を振り向き、こっくりさんからも余裕の笑みが消え、信じられないと言った表情で、黒い光に瞳を眩ませながらもネクラを見ていた。



 刹那、体が浮く様な感覚に囚われて、気が付くと図書室の外にいた。ネクラが慌てて周りを確認すると、目の前には未だに瞳を丸くする柴と、自分の両脇には気を失っている男児たちがおり、ネクラはホッと胸を撫で下ろした。


「すごいッスね。先輩、どうやったんスか」


 柴が瞳を輝かせてネクラに迫るも、ネクラの心から焦りは消えない。


「そ、その話は後で。早く逃げないと」

「あっ、そうッスね。あいつが来る前にこの子たちを安全な場所に……」


 ネクラが両脇に抱えている男児の1人を預かろうと手を伸ばした瞬間、あの冷たく重苦しい空気が廊下に漂い、ネクラはギクリとする。

 恐る恐る視線を前にやると、どす黒いオーラをと黒い狐の尾を纏った結崎がそこにいた。


「あの空間から脱出するなんて中々やるじゃない。でも、逃がさないわ。こんなに霊感が強い子たちは久々よ。是非とも頂きたいわ」


 結崎は妖艶な笑みを浮かべて舌なめずりをした。

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