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死神補佐になりました : 来世のための少女の奮闘記  作者: 水無月 都
少女は特級の妖こっくりさんと対峙する
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第五章 第五話 呪われた学校

「ん、君たちは……」


 椅子には細身で白髪交じりのグレーの髪をきっりと整えた上品な雰囲気の初老の男性が腰かけていた。この人物が校長かとネクラは思った。

校長が小学校にいるはずのない年齢の学生2人を目の当たりにし、眉間に皺を寄せる。


「今日から職場体験でお邪魔させて頂いております。根倉です。ご挨拶に参りました」

「同じく、柴咲ッス」


 話しかけさえすれば認識してもらえるとはわかっていてもネクラの体に緊張が走る。対して柴は笑みを崩さず平然と佇んでいた。


「職場体験……ああそんな話もあった気がするな。最近忙しくてね、忘れていた。すまないね」


 死神の力のおかげで『認識』が働き、申し訳なさそうな顔で校長は立ち上がり、ネクラと柴の前に立ちにこやかに挨拶をした。


「私は吉田と言う。今回の職場体験が君たちにとって良い学びとなれるように協力するよ。さすがに私が全ての面倒を見る事はできないが何かあれば、学年主任の西村先生に相談しなさい。ああ、西村先生は紹介したかな?」


 校長は歓迎の言葉を述べたのち、確認の言葉をネクラたちに向けるがもちろん西村と言う教員を紹介された事実などないので、2人そろって素直に首を振る。

そうか、悪いね、と謝りながら校長は自分の席に戻り机に備え付けの電話でどこかへ連絡を始めた。


 全ての動作が上品且つ丁寧で、とても紳士的な校長もいるのだなだとネクラは感じた。

 ややあって校長が電話を切り、ネクラたちに向き直り言った。


「もうすぐ授業の時間だから、それが終わるまで待ってもらう事になるよ。いいかな」

「はい。お忙しい中、申し訳ございません」


 ネクラは校長に頭を下げた。校長は優しく微笑んだ後、眉を下げて困り顔で言った。


「しかし、待ってもらうと言っても、どうしようかね。ここにいてもらうわけにもいかないし、本来なら空き教室を用意するべきなんだが、用意ができていないようだな」


 空き教室が用意できなかったのは恐らくネクラたちが文字通り『突然現れた職場体験の学生』だからだろう。


「せっかく来てくれたのに面倒ばかりですまないね。ここ最近、トラブルが多くて準備を怠っていたのかもしれん」


 校長は突然暗い顔で溜息をついた。愛嬌が良いのであまり気にならなかったが、よく見れば校長の顔はとてもやつれていて、クマもできており疲労感が窺える。

 そして2人は思った。トラブル、と言うのはこっくりさんに関わる事かもしれないと。


「あの。お疲れの様子ですが、何かあったんですか」


 何か情報が聞き出せるかもしれないと、ネクラが校長に質問を投げかかる。それを聞いた校長はネクラたちを凝視した後、とても渋い顔をしてからボソリと言った。


「君たちは、知らないのかね。この学校で最近頻繁に起こっている怪奇事件の事を」

「変な事件が起こっているとは聞いた事はあるッスけど、詳しい事はよくわからないまま、ここに来たんスよね」


 柴が校長に言うと、校長は話をするべきか葛藤しながら口をもごもごと動かし、険しい表情のまま黙り込んでいた。


 それもそうだろう。自分の学校が抱える問題を職業体験で来ただけの学生に校長がホイホイと話せるわけがない。


 自分たちの存在を認識させたうえでこっくりさんに関する話が聞ければ一石二鳥だとは思ったが、やはりそう上手くは行かないか。ネクラが諦めかけた時、校長が意を決したかのように深く息を吐いた。


「少し待ちたまえ」


 そう言って校長はまた、どこかへ連絡をした。時折、聞こえて来た会話から予定を開けてもらう旨を伝えていると推測できた。その間、ネクラと柴は大人しく立っていた。

 そうこうしている間に校長が電話を切り言った。


「なんとか予定を開けてもらったよ。ほんの1時間程度だがね。そこへ座りなさい」


 校長が2人を来客用のソファーに座る様に促す。ネクラたちはそれに従い、隣同士で腰かけ、校長がファイルを片手に2人の目の前に座る。


「せっかく職業体験の場として我が校を選んでくれたんだ。隠し事は良くない。校長として……いや、教育者として生徒の疑問に答えるのが務めであり義務だ。話すよ」


 そう言いながらファイルを開き、とあるページを2人に見せる。それはこの学校の生徒や教員が連続して突如放心状態となり、病院で入院していると言う内容の新聞記事だった。

 カトレアが言っていたこっくりさんが関わっている事件だと確信し、ネクラと柴が顔を見合わせて頷く。


「君たちは呪いと言うものを信じるかい?」


 校長は至って真剣な表情でそんな事を聞いて来た。霊体であり、死神補佐として様々な恨みや呪いと遭遇して来た2人はそれぞれ答える。


「そう言うものも、あるかもしれないとは思います」

「俺はそう言うの信じる派ッス」


 肯定の返答を受け、校長は口を開いた。


「世間では呪いと呼ばれるこの怪奇現象が起きたのはつい1ヶ月ほど前なんだけどね。最初は教員ばかりが原因不明の体調不良を起こして入院。全員が放心状態のまま回復せず、今も退院の目処が立たない状態が続いている」


 校長が重い口調で事件の詳細を淡々と語って行く。ネクラと柴も聞き漏らすまいと真剣にその話に耳を傾ける。


「臨時の教員を雇ったり、体調が良好な教員に兼任をしてもらったりしながらなんとかやり過ごしたが、謎の病に見舞われる教員が減ったと思った直後に今度は生徒が同じく放心状態で運び込まれてしまってね。ここまでの被害人数は教員と生徒を合わせると15人だ」

「原因不明の放心状態だから、呪いだと」


 ネクラが遠慮がちに聞くと校長は苦い顔で言った。


「そうだよ。私もそうとしか言いようがない。正直、どうにもできない状況になってしまった」


 校長は溜息をつきながら頭を抱えた。ネクラはその様子をとても気の毒に思ったが、こっくりさんに関する情報を聞き出すためと、自分に言い聞かせ質問をした。


「同じ症状で入院している人たちに共通点はありますか」


 何故、ただの学生が何故そんな事を聞くのか。校長は一瞬だけ不思議そうにネクラを見たが、質問には素直に答えくれた。


「生徒は学年も性別もバラバラで目立った共通点はないと思う。だだ……教員の方にはあるかもしれない」


 自らの口元に添えられた校長の指にわずかに力が入り、表情も一層険しくなる。空気が緊張し、ネクラはその重さに耐えながらも言う。


「教員の方の共通点と言うのを、お伺いしても?」


 校長は瞳を閉じて、何度か深呼吸をした後、情けなさと申し訳なさが混じった表情と口調で言った。


「被害者である方にこう言ってはいけないのだろうが、入院中の教員たちは教育者として、恥ずべき者だったと私は思うよ」

「と、言いますと」


 ネクラがその言葉の真意を知ろうと校長の話に深く踏み入る。柴も真剣な表情で頷きながら校長を見据える。

 真剣でそれでいて追及するような2つの視線を受け、校長は仕方がないなと呟きながら言葉を続けた。


「報告は受けていたんだよ。教員の中に必要以上に生徒を叱責したり、他の教員に厳しい態度を取る者が複数人いるとね」

「その人たちが現在入院中の教員の方々なんですね」

「ああ。そうだよ」


 ネクラの確認の言葉に校長は静かな声で同意した。教育者として恥ずべき者と言う言葉を聞いたネクラの脳裏にかつての担任である杉本の姿が過る。


 いじめられていたネクラの相談に耳を傾ける事もなく、平然と教員としての仕事を続け。若くて明るく、多くの生徒の人望があると言うだけで周りからも信頼されていた。


 しかし、相談しているにも係わらずネクラの言葉を無視しながらも毎日の様に笑顔で教壇に立ち続ける杉本の姿を見る度に、心が重く、悲しくなった事を今でも覚えている。

 

 その杉本も悪霊の手によって命を奪われてしまったのだが、教員と言うものは生徒を守る立派な存在だと思っていたが、この校長を聞いて改めてどこの学校も教員の実態は同じなのかと、内心で落胆した。


「この学校の校長として、教員の悪行は何とかしたかったが、注意して治るものではないし、教員を簡単に辞職させたり、異動させる事は私1人の意向はできないのだよ。私の耳に届く前に情報を隠蔽する者もいるようだし、それに気付く事ができないのは自分でも情けないと思っている」


 校長が悔しそうに唇を噛む姿を目の当たりにし、教員の中には生徒と向き合おうとしてくれる者もいるのだと思い直し、教員への暗いモヤモヤとした感情を振り払い校長へと向き直った。


「校長先生、可能であれば一番最近の被害者を教えてもらえませんか」

「なんだい、さっきから。まさか、探偵ごっこかな」


 校長が可笑しそうに笑うと、柴は真面目な表情から突然明るい雰囲気に変わり、元気よく頷いた。


「そうッス。職業体験に来て、俺たち、オカルト研究会なんスけど、たまたま事件の事を聞いたら気になって、探ってみようって話になったんスよ」

「ふむ。こう言う話に面白おかしく首を突っ込むのは感心しないな」


 柴の言葉に校長の表情が渋いものに変わる。しかし、柴も笑顔のまま引き下がる事はなかった。


「遊びじゃないッス。俺、とある町の高校で似たような症状になった生徒の事件があった事を知ってて、もしかして関連性があるかもって思ったんスよ。女子生徒が1人亡くなっているんス。もちろん、事件は未解決。俺、怪奇現象でも何でも良いからその女の子のために何か真相を掴みたいってずっと思ってたんス」

 

 柴はネクラがまったく知らない事を言い始めた。また彼のこの場をしのぐための狂言かと思ったが、その口調にどこか現実的で真剣なものを感じた。

 校長にもその真剣さが伝わったのか、仕方がないと言った様子で机に広げたファイルを捲りとあるページを開く。そこにはやはり新聞記事が丁寧に収められていた。


「これが一番最近にあった怪奇現象だよ」


 ネクラと柴はその記事を読む。事件が起きたのは今から3日前、2年生のとある少女が階段の踊り場で倒れているのを発見されたと言う内容だった。


 今まで起きた事件と同様に目立った外傷はなく、息もあり、体温もある。ただ魂を抜かれた様に力ない様子だったと書いてあった。


 次のページには週刊誌とネットニュースの記事が張りつけられており、そこには事件の概要と大きな見出しで『戦慄!呪われた小学校!!』と記されていた。


「呪われた学校、そう呼ばれてマスコミや野次馬が毎日の様に学校に来る日々だよ」


 自分が務める小学校に不名誉な称号を付けられてしまい、校長は複雑な表情をしていた。


「そうですか。それは……校長先生もお疲れでしょうね」

「はは。子供が大人に気を遣うものではないよ。学校で起きた事の後始末は私の役目だ。疲れたと言うだけで私が休む理由にはならないからね」


 そう言いながら校長は苦笑いをした。やはり、この校長は立派な人だ。その分気負う事も多そうだが、この人がこっくりさんの被害に遭わなくて良かったとネクラは思った。


 話が一段落した時、校長室の電話が鳴る。校長がそれを取り、そして何やら話した後電話を切った。


「学年主任の西村さん、授業が終わったらしいよ」


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