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死神補佐になりました : 来世のための少女の奮闘記  作者: 水無月 都
少女は特級の妖こっくりさんと対峙する
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第五章 第三話 年下の視線は眩しいものですね

お読みいただいてありがとうございます。

今回、こっくりさんに関するあれやそれが出できますが、私の知識の範囲内で書いております(一応調べましたが)

こっくりさんで遊ぶのダメ、ゼッタイ。

本日もどうぞよろしくお願いいたします。

 ネクラたちはワープし、件の小学校前に集っていた。

 丁度登校時間なのか、ランドセルを背負った生徒たちが楽しそうに声を上げながら門を通って行く。


「にぎやかですね。さすが小学校……」


 朝からフルパワーな子供が多いこの状況にネクラは圧倒された。もちろん大人しい子もいるが声を出して跳ね回る子がとても目立つ。

 ここがこっくりさんによって支配されているとは思えないほど平和な光景に満ちていた。


「子供って元気ッスよね。パワー貰える気がして俺は好きッス」


 子供たちを眺めながら柴が嬉しそうに言った。そんな時、ネクラたちの前を通り過ぎた低学年と思われるヤンチャそうな男児が、隣を歩く丸眼鏡の男児に小声で話しかける。


「なー。お前、知ってるか。今度は4組の奴が病院に運ばれたんだって」

「うん。知ってるよ。しばらく入院なんでしょ」


 その言葉を聞いたネクラたちが全員反応を示す。こっくりさんが起こした事件はやはり学校では話題になっている様だ。そこにいる皆が目で合図し、頷き合った。


「よし、ここからは死神補佐と見習いの仕事だ。いいかい。君たちの仕事はこっくりの事件に関する情報収集と、こっくりが誰に憑りついているかを突き止める事。それ以上の事はしないでね。危ないから」


 死神がそれぞれを見ながら指示を出す。その顔にはいつもの胡散臭い笑顔はなく、とても真剣で心から注意を促すものの様に見えた。


「そうね。こっくりを見つけても接触はしないで。見習いの君もそうよ。見つけたらその場から速やかに離れて私たちに報告。わかったわね」


 カトレアも真剣な表情で言い、そしてネクラの胸に手を当てたかと思うと、胸に花の形をしたブローチを出現させた。続いて虚無と柴の胸にも同じブローチが現れる。

 青紫色の花びらが6つに分かれたラッパ型の花を放射状にたくさん咲かせた美しいブローチだった。


「綺麗ですね。ブローチですか」


 ネクラがブローチの美しさに見惚れているとカトレアは自慢げに、そして美しく微笑んだ。


「綺麗でしょう。ブローディアの花よ。トリテレイアとも言うのだけど。花言葉は守護。今回は危険度が伴うから、この仕事が終わるまでのお守りよ。通信機能もついているから、何かあったら必ずそれで連絡しなさい」

「は、はい。ありがとうございます」


 まるで自分の子供を見る様な優しい眼差しに母性を感じ、ネクラは照れからむず痒くなり、顔を赤らめながら礼を述べた。


「なんだ。俺の部下も守ってくれるんじゃん。やっさしー」


 死神がふざけた口調でカトレアをいじる。カトレアは一瞬だけ死神に殺意が籠った眼差しを向けたが、自らを落ち着けるために深呼吸をしたと死神に言った。


「せっかく一緒に仕事をするのならこれぐらいは当然でしょう。あんたはあんたで自分の部下を守る役割を果たしなさい」

「はいはい。わかってるよ」


 死神はカトレアの言葉を適当に流して、ネクラ・虚無・柴のそれぞれに告げる。


「カトレアのお守りも行き渡ったところだし、調査開始だよ。力を分散させるために虚無くんは1人で、ネクラちゃんちと柴くんはチームで行動してね」

「死神補佐2人を組ませるなんて大丈夫なのか」


 これまで黙っていた虚無が死神に意見を出す。実はネクラも同じことを思っていた。相手は死神でさえ用心している相手である。

 死神見習いとして優秀と謳われる虚無であれば危機的状況に陥ろうともなんとかなるかもしれないが、ネクラと柴は補佐である。何かあった時対処のしようがないのではないかと言う不安がある。


「今は門の外だから大丈夫だけど、一歩でも学校に踏み入れればこっくりの領域。小学校にないはずの魂が固まって動くと相手に俺たちの存在を悟られそうだし、なるべくばらけた方が良いんだよ。ネクラちゃんも柴くんも霊力は弱いし、俺たちや虚無くんと離れた方があいつには気付かれづらいと思うんだよ」


 死神が丁寧に説明し、カトレアもそれに賛同の意を示す。


「そうね。それは私も賛成。あいつも死神が来るって予想はしているだろうし。死神を始末しようとしてくるはず。各々の気配を分散させてなるべく気を逸らした方が良いわ。その方が戦闘能力の低い補佐2人は狙われにくいとは思う」


 つまりは力の弱い者同士で固まっていた方がこっくりさんには見つかりにくく、安全と言う事だろうか、死神2人の意見が一致しているのだからそれが最善とわかっていても不安になる。

 そんなネクラの様子に気が付いたカトレアが微笑んで言う。


「平気よ。ネクラちゃん。柴くんは補佐だけど、本人の希望で死神見習いと同じ戦闘訓練を受けているから」

「えっ、そうなんですか」


 ネクラが目を丸くして柴を見ると柴が自信ありげな表情で胸を張りながらネクラに向かって微笑んだ。


「はいッス。いざと言う時は任せてくださいッス」

「うん。ありがとう、柴くん」


 ネクラが柴の笑顔につられて微笑むと彼はますます愛嬌のある笑みを浮かべた。

 話が一段落し、いよいよ小学校に突入かと思った時、死神が思いついた様に声を上げる。


「あ、そうだ。カトレアからも臨時の贈り物があったわけだし、補佐2人に俺からも援助をあげる。虚無くんは見習いって事で我慢してね」

「別に死神サンの援助はいらない」


 虚無から素っ気ない返事を受けながら、死神はにっこり笑って指をパチンと鳴らす。するとネクラと柴の体が一瞬だけ光ったが、その後は特に変化は見られず、ネクラと柴がお互いの顔を見合わせていると死神が言った。


「職業体験で来た学生だと思われる認識される術をかけたよ。情報収集をするんだもん。その方がやりやすいでしょう」

「えらくピンポイントな認識ですね」


 ネクラが素直な疑問を口にすると死神は意地悪な口ぶりでネクラを見る。


「あれえ。ネクラちゃんは小学生に見える認識の方が良かったの?俺としては別にいいけど、君に小学生のフリなんてできるわけ」

「しょ、小学生のフリ、は正直厳しいかもしれません」


 ネクラは死神から瞳を逸らし、ゴニョゴニョと答えた。死神はそうだろうと言わんばかりに笑顔になる。


「だよね。演技力がないネクラちゃんの挙動不審をどうすれば抑えられるかって考えた俺的配慮、わかってくれた」


 言葉と笑顔に圧を感じたネクラは無言で勢いよく首を縦に振る。確かに、小学生よりは職業体験の生徒の方が成りすましやすい。


「因みに性能としては前にネクラちゃんにかけたのと同じ。『話しかければ姿が見えて認識される』だからね」

「はい」


 ネクラは頷いた。忘れもしない初仕事の際もネクラは同じ様な力を与えられた。さも在籍している学生のフリをして、生徒に話しかけて悪霊の情報を集めたのは記憶に新しい。

 しかも話しかけなければ誰にも認識されないため、隠密の様な行動もとれると言う優れものだ。


「前にネクラちゃんに施したやつは、同類に見つかるリスクはあったけど、今回はカトレアのお守り付きだからね。気配遮断が2倍だよ。こっくりだって君たちを認識できないさ」


 意気揚々と語る死神をカトレアが厳しいし視線を送りながら追及する。


「あんた。私の魔力いじったわね」

「応用したといってくれよ。これで補佐の安全はほぼ完璧に確保したんだからさ」


 カトレアは納得のいっていない様子だったが、これ以上怒りを向けても疲れるだけだけだと思ったのか死神から目線を逸らした。


「それじゃ、ネクラちゃんと柴くん、虚無くん、俺たち死神の順番で時間を空けて入ろうか。俺たち死神も一応調査はするし、離れていても学内にはいるから安心してね」

「はい。わかりました」

「了解ッス」


 死神の言葉にネクラが緊張しながら、柴が元気よく、虚無が無言で頷いた。

「じゃ、まずは俺たちからッスね。行ってきます」

「い、行ってきます」


 柴が皆に手を振りながら元気よく歩みを進めて校門をくぐる。ネクラも柴に続き、ふと背後を見ると校門の向こう側で死神たちが補佐である2人を見守る様にこちらを見つめて佇んでいた。


 未知の力をもつ妖がいる場所で、頼りになる死神たちと本当に離れる事になり不安が込み上げてきたが、それを振り払う様に前を向くと、柴が立ち止まっていた。

 死神たちに気を取られていたネクラは柴の背中にぶつかってしまい、謝罪をする。


「うぶっ、ご、ごめん。ぶつかっちゃった。急に立ち止まってどうしたの……柴くん?」


 ネクラの声は柴には届いていない様だった。視線を追うとそれは校舎に向けられており、彼は小さな声で呟いていた。


「ここが、こっくりさんがいる学校」


 柴のからは人懐っこい笑みが消え、幼い印象を受ける顔には似合わない険しい表情をしていた。

 瞳は虚ろで学校を睨み何かを敵視している様だった。声色も先ほどまでとは比べ物にならないほどに低く、恐怖を抱くほどに冷たさを感じた。

 あまりに変貌した柴の雰囲気に心配と不安を覚えたネクラが彼をのぞき込みながら声をかける。


「柴くん、どうしたの。ぼーっとして」

 

 今度はネクラの声が届いたのか、柴は弾かれた様にハッとした後、先ほどの険しい表情は嘘の様に消え失せ、向けられた笑顔に人懐っこさが戻る。


「なんでもないッス。緊張してただけッスよ。改めて、よろしくッス。ネクラ先輩」

「せ、先輩!?」


 呼ばれ慣れないその言葉にネクラは過剰に反応する。驚きと、戸惑いと気恥ずかしさがネクラの中に渦巻く。


「なんで先輩なの。柴くんは私より後に死神補佐になったとか?」


 戸惑いながら柴に問うと、彼はキョトンとして言う。


「それはわかんねえッスけど、俺よりも年上だから先輩ッスよね」

「年上って、1つ違いでしょ」

「でも、先輩は先輩ッス」


 キラキラとした澄んだ瞳で言われ、ネクラがぐうっと呻き、瞳を逸らしながら後退る。ネクラは柴が放つ訴求力に押されつつあった。彼に言われるとなぜか否定をする事が申し訳なくなってしまう。


 逸らした瞳をもう一度柴に戻すと彼はまだ瞳を輝かせてネクラを見ていた。犬の耳と尻尾の幻覚も見えて来たネクラは仕方なく言った。


「わ、わかったわ。もう先輩でいいから、だからキラキラした瞳を向けないで。眩しいから」

「はーい!ネクラ先輩」

「だから、サンシャインスマイルやめてっ」


 ネクラは一心に向けられる太陽の様な眩しい笑顔から逃れる様に腕で己の顔をガードしながら叫んだ。

 周りには小学生はもちろん、教員もいたがもしも今、姿が見えていたなら不審者確定だとネクラは深いため息をついた。

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