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死神補佐になりました : 来世のための少女の奮闘記  作者: 水無月 都
少女は現れた陰陽師の力を知る
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第四章 第九話 いざ、逢沢神社へ

「別に、お前に気を遣ったわけじゃない。今もあの娘に呪いがかかっている事は間違いないが、悪霊の気配が全くないと言うのも気になるなんだ」

「え、単純に悪霊の仕業とかじゃないの」


 祓った霊が那美に恨みを持つ可能性はあると死神が言っていた。彼女に呪いがかかっていても不思議な事ではない。

 ネクラが小首を傾げると、虚無は言った。


「だったらあの悪霊の気配があるはずだろう」


 虚無によると彼女からは呪いの気配はしても悪霊の気配はしないとの事だった。


「他の死神が既に悪霊を黄泉送りにしたとか」


 現世に無念を抱える霊は多いと聞くし、死神も死神補佐も多く存在すると聞く。自分たち以外にも別件でこの町で仕事をしている死神たちがいるかもしれない。

 そう思ってネクラが言うと虚無は難しい顔をした。


「可能性はあるが、同じ町の同じ仕事範囲で死神同士が鉢合わせないと言うのも変な話じゃないか」

「え、そうなの?」


 ネクラ今まで『死神空間』にいる時はもちろん、仕事中ですら他の死神にも補佐にも会った事がないため、特に違和感は覚えなかったが虚無は違ったようだ。


「ああ。姿や死神がいた痕跡ぐらいは確認できるはずだが」

「じゃ、入れ違いとか」

「ああ、そうかもしれないが……霊が祓われて呪いだけが残る何て事はありえるのか?」


 ネクラの言葉に虚無はまだ納得がいっていない渋い顔をしながら独り言を呟いた。

 しかし、すぐに気持ちを切り替えて言った。


「まあ、いい。それもあの娘に会えば解決するかもしれないしな。犯人探しが遅れるかもしれないから、死神さんに連絡する」


 そう言って虚無は端末を取り出し、手早くタップした。

 犯人探しが遅れるのは臨弥に申し訳ないと思いつつも、ネクラは大人しく連絡が終わるのを待つ事にした。


 暫くして、連絡を終えた虚無がネクラに言った。


「死神サン、凪元臨弥を連れてこっちに来るって」

「えええ!なんでっ」


 ネクラは意味が分からず叫ぶ。死神の元に臨弥を預けたのは、彼を成仏させようとする那美から遠ざけるためだ。

 その彼女の実家に行くと言うのに臨弥を連れて来るなど、意味が分からなかった。


「死神さん、何を考えてるんだろう。凪元さんを預けた意味わかってるのかな」

「あ、それなんだけど、彼がどうしてもその神社に行きたいっていうから、その意見を尊重したの」

「うわぁぁぁ!?」


 突然耳元で死神の声がしてネクラは前のめりに転倒する。虚無が受け止めてくれていなければ泥だらけの雑木林の地面に顔面からスライディングをするところだった。

 ネクラは虚無の胸にしがみつきながら怒りと驚きで震えながら言った。


「このパターンやめませんか!?はっ!今ですね、今、私で遊んでますね」

「あはは。ネクラちゃんおもしろーい。そんな事より、神社とやらに行くんでしょ」


 死神の言葉にネクラは抱いた疑問を思い出し、虚無に礼を述べて離れた後、死神の隣で大人しく佇む臨弥を見た。彼は先ほどまでのやり取りを愛想笑いで見守っていた。


「凪元さん、どうして那美さんの神社に行きたいと思うのですか」

「うん、ちょっと彼女に会いたくて。それにさっき死神さんと一緒に君たちが僕の家族と話しているのを見ていて、那美さんにお世話になったみたいだからお礼も言いたいんです」


 臨弥が危機感を感じない様子で笑って言った。那美と会えばその場で祓われてしまう可能性があると言うのにお礼が言いたいとは何と悠長な事か。


「でも、凪元さんが那美さんに会えば、犯人を見つける前に成仏させられる可能性もあります。死神さん、どうして同行する事を許可したんですか」


 ネクラが死神に呼びかけると死神はしれっとして言った。


「俺は魂の意見はなるべく尊重するタイプの死神だからね。変に申し出を却下して余計な未練が残っても困るし」

「うう、そう言うものなんですか?」


 未練が残ると言われてしまうとネクラは反論できなくなってしまう。

 自分の存続を悩んでくれているネクラに臨弥が優しく言った。


「大丈夫ですよ。彼女はこの町一番の陰陽師です。僕を襲う様な事はしませんよ。事情を話せば犯人探しを協力してくれるかもしれません。事件を解決する場合、人数は多い方が良いのではないですか」

「あ、そうか。そうですよね」


 虚無と死神が那美を要注意人物だと言うからすっかり警戒していたが、話し合いをすれば分かってもらえるかもしれない。

 元々向こうも協力しようと言っていたし、拒否はしないだろう。犯人とその真意がわかるまで、臨弥を祓うのを待ってもらえばいいのだ。


「解決後に魂の取り合いになったりしてね」


 せっかくいい感じに話がまとまりかけていたのに死神がその空気をぶち破る言葉を放つ。

 ネクラがムッとして振り返ると死神はにこりと笑った。


「仮にその那美とか言う陰陽師がこの子を祓ったとしても、君たち2人にポイントが入らないだけで、輪廻転生は正しく行われるはずだから、俺としてはどうでもいいけど」


 相変わらずの憎まれ口にネクラはつい死神を睨んでしまう。

 しかし当の死神はそんな視線など意に介さず言った。


「じゃ、目的地に行こうか。俺とこの子は一応、陰陽師の子に協力を了承してもらえるまで気配を消しておくから」

「那美さん、かなり霊感があるんですよね。バレませんか」


 那美はしっかりと霊の姿が見える様だし、臨弥の気配を消そうともバレれてしまうのではないかと心配になったネクラだったが、死神は胸を張って自慢げに言った。


「当たり前でしょ、俺の力が陰陽師の小娘になんて見破れるはずないじゃない」

「わっ」


 ほら、と死神は自分の黒いマントを臨弥に被せた。突然上から乱雑が降って来た臨弥が声を出してよろける。


「えっ、臨弥さんの姿が消えた!?」


 ネクラは瞳を瞬かせる。先ほどまで死神の傍に立っていた臨弥の姿が一瞬で消えてしまったのだ。


「死神のマントは結構便利なんだよ。次元空間に繋がってるから物の出し入れもできるし、こうして完全に気配を消す力もある。このマントから出なければ例え霊感がある者にだって気配を悟られる事はない。俺は自前の力で気配を遮断できるから、問題ないよね」


 死神が笑顔で親指を立ててウィンクをする。

 毎度明るみになる死神のチート能力にネクラは驚きを通り越して引いた。虚無はさすがにそれを知っていたらしく、無反応だった。


「はい。問題も解決したし、今度こそ行くよ」

「は、はいっ」


 ネクラが返事をして、虚無とマントから顔を出した臨弥も頷いた。



 数分後、ネクラたちは朱色の鳥居の前で緊張感に包まれながら立っていた。


「あら、チビちゃんとクロちゃんどうしたの」


 逢沢神社と刻まれた石の看板を通り過ぎ、同じく石の長い階段を上った先に赤い袴姿の那美が箒を片手に立っていた。

 虚無が即席で考えた偽名で2人を笑顔で出迎える。

 

ネクラも虚無も霊体のまま那美に接触したが、やはり彼女には2人が見えてる。しかし、彼女たちの背後に立つ死神と臨弥の存在は気付いていない様子だった。

 と言ってもネクラと虚無にも死神たちの姿は認識できていないのだが。


「那美さんの学校、今日テスト期間だって聞いたのでご実家にいると思いまして」


 先ほど臨弥の従妹である輝曰くテスト期間中で帰宅が早くなったと言っていた。学年は違えど同じ学校の那美もそうではないかと思ったのだ。


「そうなの。君たちと別れた後学校に行って、テスト期間中で授業が半日だった事に気付いて、とんぼ返りになっちゃったわ」


 那美は照れくさそうに、はにかみながら頭を掻く。そして自分を警戒していたネクラたちがわざわざ出向いて来た事に疑問を持ったのか、真剣な面持ちで続けた。


「今日は午後からは陰陽師の仕事もないし、家の手伝いをしているのよ。で、私になにか御用かしら」

「あのですね。那美さんにお話ししたい事が」

「話……?」


 ネクラが遠慮がちに言うと那美は小首を傾げたのち、微笑んだ。


「いいわよ。入って、ほら。クロくんも」

「ありがとうございます」


 那美に促され、ネクラと虚無、そして気配を遮断し霊感がある那美からは完全に見えなくなっている死神と臨弥は彼女の後に続いた。

 

 那美は入り組んだ構造の神社の中を止まることなくすんずんと進んでいく。そして電灯で照らされていた廊下が途切れる。しかし道はまだ続いており、人ひとりが通れるぐらいの狭い廊下のその先は暗闇に包まれる。


「あ、あの。どこへ行くんですか」


 何故か不安に襲われたネクラが言うと、那美は棚にかけられていた蝋燭を手に取り、それに火を灯す。

 那美が躊躇なく歩き出した為、ネクラと虚無も続く。狭く暗い廊下を一列になって進む。自分たちの影がゆらゆらと壁に映し出され、ネクラはその不気味な空気に体が震えた。


(死神さんと凪元さん、ちゃんとついて来てるかな)


 ネクラが姿の見えない2人を気にかけたけたその時だった。


「今は両親がいるから、奥の部屋を使うわね。両親に2人の姿を見られても色々面倒くさいし」

 

 那美は背を向けて言ったため、ネクラは自分の感情を悟られたのかと思い、気まずそうに頷く。

 虚無はあまり那美に近づくなとネクラを守る様に腕を引っ張った。


「は、はい。ご面倒をおかけします……」

「ふふ。いいのよ。奥の部屋は滅多に人が来ないし、誰にも邪魔されないわ。私の修行部屋みたいなものだから」


 那美は笑顔だったが、ネクラは居心地の悪さを感じた、同時に自分の後ろを歩く虚無の警戒心が高くなっていくのも分かった。

 そして、障子を開けて通された和室は蝋燭以外の明かりがない真っ暗な部屋だった。ネクラは闇の中で目を凝らし、そして息を飲んだ。


 辺り一面が夥しい量のお札で埋め尽くされているのだ。畳にも、障子にも、壁にも天井にもびっしりと。そして、それと同じ量の臨弥の写真がお札と共に張られている。

 

 中央の神棚には赤黒くなった血の付いたナイフが祭られる様に置かれていた。

 ネクラの全身が一瞬で冷たくなり、目の前に立つ那美の背に目線を向けた時、彼女が口を開いた。


「ねぇ、チビちゃんから臨弥くんの気配がするわ。どうして」

「えっ」


 那美が背をこちらに向けたまま2人を見る事はなく、唐突に静かな声で言った。明らかに様子がおかしい。ネクラがそう思った時、虚無が腕を強く引っ張った。


「おい、出るぞ」

「え、まっ」


 待って、そう言おうとしたネクラは驚愕した。冷たくなっていた体がさらに冷たさを増し、脳が痺れそうな感覚に陥る。


「体が、動かない」

「く、遅かったか」


 虚無が悔しそうに舌打ちをする。彼もネクラの腕をつかんだまま動けなくなっていた。

 ネクラはこの感覚に覚えがあった。那美と出会った時と同じだ。

 彼女の緊縛術を今、自分たちはかけられている。ネクラはそう自覚した。


 ネクラが戸惑いと驚きの視線を那美と虚無の交互に送る。

 那美はゆっくりと振り向き、そして寒気がするほど薄くにやりと笑った。


「言ったでしょう。私は陰陽師、霊の気配が分かるのよ。チビちゃんからは凪元くん……いいえ、臨弥くんの気配がプンプンするわ。私の愛しい愛しい臨弥くんの霊気」

「ひっ」

 

 那美は凪元と言う苗字ではなく臨弥と下の名前で彼を呼ぶ。

 那美が貼り付いた笑顔を浮かべながら動けないネクラの頬を撫でる。そしてネクラの顔に自分の顔を寄せ、真顔で言った。


「あなた、臨弥くんに接触したわね。この手で、彼に触ったでしょう」

「痛っ」


 那美は虚無が掴んでいない方のネクラの手を爪を立てながら握る。

 確かに、ネクラは臨弥の手を握って彼を励ました。まさかその時に霊気が手に移ったとでも言うのか。そして、那美にはそれが分かるのか。ネクラは焦った。

 

「そいつに触るな、この性悪女」


 虚無が那美の術を解こうと、もがきながら彼女を睨みつける。


「な、なに、何が起こっているの……那美さん?」


 ネクラが手の痛みと混乱で涙目になりながら那美を見ると彼女はクスクスと笑うだけだった。

 そんな那美に代り、虚無が吐き捨てる様に言う。


「逢沢那美、こいつが凪元臨弥を手にかけ、そしてその後彼に関わる人間に仇なした黒幕だ」

「え、那美さんが!?」


 ネクラが驚愕すると那美はネクラの手を放し、自らの口元に指を添わせ、薄い唇をにぃっと上げて不気味に、そして妖艶に言った。


「うふふ。だぁい正解」

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