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死神補佐になりました : 来世のための少女の奮闘記  作者: 水無月 都
少女は現れた陰陽師の力を知る
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第四章 第七話 手がかりを探して

「じゃ、俺は死神サンにこいつの事預かってもらえるか確認する。と言うか、絶対に首を縦に振らせてやる」


 虚無は珍しくムキになりながら端末を操作し、死神に連絡を取る。

 ムキになるのも仕方がない。臨弥の身の安全を確保するには死神の存在が不可欠なのだから。


 虚無が連絡を取っている間、ネクラは他に犯人に関する情報を得る事ができるかもしれない思い臨弥に話を聞いていた。


 臨弥はやはり、命を奪われるほどの恨みを買っていた覚えはないし、自信は襲われた時の事はあまり覚えていないと述べたが、思いついた様に言った。


「そう言えば、僕が襲われた後に多発している事件の被害者のほとんどが僕の周りにいる人たちだった気がします」


 それは新たに出た発言だった。重要な手がかりかもしれないと思いネクラは臨弥に聞く。


「被害に遭った方たちの事を具体的に教えて頂けませんか」

「僕が町を彷徨っていた時に聞いて感じた事なので、ただの推測かもしれませんが」


 臨弥はそう前置きをして自分が町で見た事、聞いた事、そして感じた事を語り出した。


「僕の次に被害に遭ったのはクラスメイトの天羽輝(あまはてる)天羽輝(あまはてる)という女子生徒で、サッカー部のマネージャーを務めていました。一応、僕の従妹なんですよ。聞くところによると、下校途中に歩道橋の階段から転がり落ちたらしくて」


 臨弥はその時の状況を想像してか、輝と呼んだその女子生徒を心配する様な表情を見せた。


「その女子生徒はどうなったんですか」

「幸い命に別状はなく。でも全身打撲で入院。僕は霊体のまま心配で様子を見に行ったんです。包帯は痛々しかったけど、思ったより元気そうでした」


 臨弥が亡くなった後の最初の被害者は女子生徒。しかも臨弥の従妹で彼が所属するサッカー部のマネージャーと臨弥と縁が深い。

 臨弥を襲った犯人とその一連の事件を紐づけるとするならば、やはり彼自身に何か思う事がある人物なのか。

 ネクラが思案している間にも臨弥の話は続く。


 従妹の次は臨弥の担任で進路相談をしていた女性教員が、夜道に何者かに襲われるも、騒ぎを聞きつけた住民に助けられたと言う。ただ襲われて逃げた拍子に転んだ際の捻挫をしてしまったらしい。


 臨弥の父親が通勤途中に自らが運転する車で不自然な事故を起こした事。この不自然とは、前日に車検を済ませていたにも係わらずブレーキが利かなかったらしい。しかしこの時も父親はガードレールにぶつかった際にむち打ちをした程度で、幸いにして他に被害者もいなかったとの事だ。


 それらの話を聞き、やはり被害者は全て臨弥に深く関わった人物だと確信した時、次に出た臨弥の言葉にその可能性を打ち消された。


「一番最近では、俺が生きていた頃にサッカーの練習試合をした学校の男子生徒が被害に遭ったようです。赤信号なのに横断歩道の真ん中で立ち往生してトラックに轢かれかけたと町中のニュースで見ました。怪我はなかったようですが」

「え、練習試合の相手がですか」


 てっきり臨弥に縁深い人物が襲われ続けるものとばかり思っていたネクラは拍子抜けした。しかし、まだ可能性はあると思い臨弥に確認をする。


「その学校とは毎回練習試合をしていたとか、その男子生徒とお友達とか」

「いや、年に数回程度で、毎回と言うほどじゃないです。男子生徒とは試合以外で面識はないですね」


 つまりはその男子高校生との関わり合いは薄いと言う事か。自分の考えは間違っていたのか。

 しかし、彼に関わった人間が必ず被害に遭っていると言う点は間違いない気がする。悩みすぎたネクラは臨弥の目の前でムムムと声を出して唸っていた。


「この町ではそう言った事件は少ないですし、連続して事件が起こっている事から、人為的なものと言うよりかは、何かの呪いだと言う見方が濃厚な様です。まさに逢沢さんが忙しくなりそうな案件ですね」


 僕が言えるのはこれぐらいです。と最後に臨弥は申し訳なさそうに笑った。

臨弥を襲った人物とその後起こった事件に関連性はあるのか、それともないのか。考えがまとまらないネクラは頭を抱える事しかできなかった。


「なーに悩んでんの、ネクラちゃん」

「どうぁああ!?」


 突然背後からこの場にいるはずのない死神の声がして、驚いたネクラは滑稽な声を上げ、体をひねりながら振り向く。


「ししししし、死神さん」

「やほー」


 ネクラが震えながらその名を呼ぶと彼はヒラヒラと両手を振って見せた。

 臨弥も突然現れた黒マントの長身の男とネクラの声に驚いて肩を震わせたが、死神と目が合い、反射的な行動なのか会釈をした。


「話がついた。そいつをしばらく預かってくれるらしい」


 虚無が死神の背後から顔を出す。死神もヘラヘラとして言う。


「そうだよ。かわいい部下のお願いを聞いてあげるためにここに来たのに」

「そ、それはありがたいんですが、ここ、結界の中ですよね。干渉されないのではなかったんですか」

「なんだそんな事。優秀な死神の俺が、ただの見習いが作った結界に入れないわけないでしょ。連絡を受けてワープして来たに決まってるじゃん」


 その言葉を聞いた虚無が不満げに眉を寄せ、死神を睨んだ後にソッポを向く。『ただの見習い』と表現され彼は完全に拗ねていた。


「じゃ、凪元臨弥くん。俺と一緒に来てもらうよ。ネクラちゃんたちが真相を突き止めるまでもっと強力な結界の中で完全に気配を消してもらうから」


 死神が臨弥を手招きし、彼もキョトンとしながらそれに従う。

 臨弥が自分の近くに来た事を確認して死神はかわいい部下2人に言った。


「って事で、暫くこの子を預かってあげる。君たちはこの子のために犯人探し、頑張ってね。それと、犯人を見つけ次第連絡する事」

「はい。必ず見つけます」


 ネクラが勢いよく頷いて、虚無も小さく頷いた。死神が2人を見て笑顔で頷き小さく手を振り、臨弥が会釈した後、死神は臨弥と共に結界内から姿を消した。


 2人の気配が結界内から消えた後、ネクラは虚無を見て言った。


「これからどうしよう。やっぱり聞き込みしかないかな」

「そうだな。お前、さっきあいつに話を聞いていただろう。何かわかったか」


 虚無の言葉にネクラは残念そうに首を横に振る。


「ううん。被害に遭った人たちの名前ぐらいしか収穫はなかったかな。最初は凪元さんに関係している人が狙われていると思ったんだけど、同一犯なのかは確信が持てなかった」

「そうか。なら、その被害者を中心に話を聞きに行くぞ」

「うん」


 ネクラが頷くと虚無は指を鳴らし、結界を解く。白い世界が溶け行き、商店街へと姿を変える。

 そしてすぐさま虚無が被害者の名前を聞いて来たため、ネクラは臨弥から教えたもらった全ての名を口にした。


「まずは凪元臨弥の父親の話を聞きに行くか」

「え、でも凪元さんが通っていた学校に行った方が色々な話が聞けるんじゃないの」


 人が多い方が情報は集まりやすい。学内で被害者が2人も出ているわけであるから、まとめて話が聞ける。それに臨弥本人の事も何かわかるかもしれないと言うのに。

 ネクラが小首を傾げて疑問を口にすると、虚無は呆れた目線と口調で言った。


「学校に行けば逢沢那美に遭遇する可能はあるだろ。それは避けたい」

「あ、そっか。同じ学校って言ってたもんね」


 那美と臨弥は同じ学校の生徒。確かに、情報収集をしている最中に遭遇しては色々と面倒な事になりそうだ。また死神について聞かせてくれと迫られたり、緊縛術をかけられてはたまらない。ネクラは納得した。


「納得したなら行くぞ」

「う、うん。待ってよ、虚無くん」


 素っ気なくネクラに声をかけてから虚無は歩みを進める。

 ネクラも彼から遅れてはならないと慌ただしく虚無の後を追いかけた。



 何もわからないまま虚無についていく事、数十分。目の前には頑丈で立派な煉瓦の塀に囲まれた、白壁で黒い屋根の一軒家があった。

 黒い格子状の門には『凪元』と言う表札がかかっている。


「死神サンによると、ここが凪元臨弥の家らしい」

「なんでそこで死神さん?」


 ネクラが聞くと虚無はぶっきらぼうに端末画面をネクラに見せる。そこにはメッセージでやり取りした痕跡があり、そして地図が添付されて丁度、今自分たちが立っている位置に赤丸がしてあり『ここだよ』の文字が記されていた。


「凪元臨弥の家を探すにあたって本人に聞いてもらった」

「うわ、便利」

「そんな事より、ここの家族に話を聞くぞ」


 感心しながらネクラが端末をのぞき込み、次に虚無を見た時、彼は目の前のインターホンを押していた。


「え、虚無くん?」


 状況について行けないネクラが戸惑っていると、玄関の扉が開かれて綺麗な黒髪をシニヨンでまとめた40代ぐらいの細身で上品な雰囲気のご婦人が出て来た。


「あら、どちらさま?」


 突然の訪問者に驚く女性の目線は虚無の方しか向いていない。どうやら彼はいつの間にか自分の姿を人間に認識される様にしていたらしい。

 補佐であるネクラとは違い、死神見習いである虚無だからこそできる技である。


「俺はとある探偵事務所で助手をしておりまして。あなたの息子さんについて調査をしております」


 虚無は淡々と、しかし丁寧にそう述べて頭を下げた。『息子』と言う言葉を聞いた母親の顔色が変わる。

 

「……。本当に探偵事務所の方ですか。見たところお若そうに見えますが」


 女性が疑わしげに虚無の全身を見つめる。虚無は人間に姿を認識させる事ができるが、変幻自在の死神と違い、外見は操作できない。

 真っ黒な髪に真っ黒なコートとショートブーツに陶器の様に真っ白い肌、そして外見は17歳の少年なのだ。怪しまれるのも無理はない。


「ええ。よく言われます。名刺はこちらに」

「え、名刺?」


 ネクラは虚無がどこからか取り出し、そして平然と差し出した白い紙を二度見する。そこにはシンプルな黒い文字で『篠上探偵事務所・助手/黒崎』と書かれていた。

 そこには偽名の他、ご丁寧に本当にあるかどうかわからない住所と繋がるのかわからない電話番号が記されている。

 篠上と言う言葉を目にしたネクラの脳裏にひらめくものがあった。


「虚無くん、これまさか……」

「ああ、さっきメッセージでやり取りした時にワープで送って来た。困ったら使えだとさ」


 小声で返された虚無の言葉にやっぱりか、とネクラは思う。

 こんな胡散臭いものを用意するのはあの死神しかいない。と言うかあの人この状況をどこかで観察しているなとネクラは確信した。

 女性はまだ疑わしく受け取った名刺を眺めていたが、顔をしかめたまま門を開けた。


「黒崎さんね。どうぞ、入ってください。息子の命を奪った犯人を見つける糸口になるのであれば、もう何にだって頼るわ」


 半ば自棄になりながら女性は虚無を家の中へと迎え入れた。

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