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死神補佐になりました : 来世のための少女の奮闘記  作者: 水無月 都
少女は現れた陰陽師の力を知る
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第四章 第六話 犯人は顔見知り

「学校の生徒!?」


 ネクラが声を上げて驚く。

 臨弥を手にかけたのは彼と同い年の人物だと言うのか。ネクラは戸惑いが隠せなかった。


「確信が持てた、と言う事はお知り合いだったとか」


 ネクラが気を悪くしない様にと思い、おずおずと聞くと臨弥はそれを否定する。


「いや。知り合いと言うか……顔見知りだとは思うんです。残念ながら性別は分かりませんでした。フード越しから見えた顔が学内で見た事がある顔立ちの様な気がして」


 臨弥はとても曖昧に話す。だが、先ほどの様に嘘をついているのではなく、本当に心当たりがないと言う様にネクラと虚無は感じた。

 そして、結局犯人の顔をはっきりと見ていない事も明確になった。


「なるほど、同じ学校の顔見知りの可能性があるから『犯人が知りたい』ではなく『何故命を奪われたのか知りたい』と言う思いが先行したんですね」


 ネクラは顎に手を当ててふむふむと頷いた。虚無も納得したのか追及をする事はなかった。

 臨弥は嘘をつく形になってしまい申し訳ございませんと頭を下げた後、俯き加減で言った。


「先ほど僕が商店街の路地付近にいたのも、その人物が学生の皮を被った通り魔が、ああ言う路地でまた犯行に及ぶのではないかと思ったんです」

「え、通り魔?どうして通り魔だと思うんですか」


 ネクラは素直な疑問を投げかけた。臨弥に話を聞く前はネクラも通り魔の線が濃厚かと思っていたが、臨弥本人にはストーカーや誰かに妬みを買っていると言う自覚がある。

 そんな背景があるのにも係わらず、何故通り魔の仕業だと断定できるのか。

 しかし、その疑問に臨弥はあっさりと答える。


「僕も最初は僕を快く思わない人間の仕業かと思ったんですけど、僕が死んだ後も人が襲われる事件が多発しているみたいで……だから無差別な通り魔の仕業かと思ったんです」

「多発!?そんなに頻繁に事件が起こっているんですか」


 ネクラが聞くと、臨弥はゆっくりと首を縦に振る。


「死んだ後、犯人に理由が聞きたいと思った僕は、顔や背格好を見ればひらめくかもしれないと考えて、記憶を頼りに犯人の姿に近い人がいないか、あちこち彷徨っていたんですが……ビルに映るニュースや町の人たちの話では、僕の事件を皮切りに不可解な事件が続出していると聞きました」

「凪元さんの事件の後に?」


 ネクラも虚無もそこに引っ掛かりを覚えた。しかし、犯人を断定できる様な情報ではないため、2人は臨弥の話に耳を傾ける。


「はい。世間では通り魔説や幽霊の仕業説など色々な説がある様です」

「幽霊の仕業って、町の方はそんな非現実な事をすんなり受け入れているんですか」


 霊体である自分が言うのもおかしな事だとは思うが、霊的なもの心から信じる人間の方が少ないのではないか。ネクラはそう思った。


「この町は古くから神社を信仰してきましたからね。霊的なものを受け入れやすいんですよ。ああでも、命を奪われたのは僕だけみたいで……他の被害者の方は軽い怪我とか、ひどくても入院で済んでいるみたいですので、僕の運が悪かっただけかもしれませんね」


 臨弥が自嘲する様に笑う。ネクラはそんな彼の手を取り、必死で励ました。


「自分の意志とは関係なく亡くなってしまったのに自分を責めるのは良くないです。凪元さんを襲った犯人は必ず私たちが見つけます。頑張って未練を断ち切りましょう」

「ネクラさん……」


 臨弥が驚いた表情でネクラを見つめる。

 ネクラはずっと思っていた。臨弥は自ら命を絶っていないのだ。悪霊化さえしなければ彼は転生ができる。

 何もわからないまま命を奪われた魂が悪霊化して黄泉の国へと送られるなんて理不尽すぎる。

 かつて救えなかった幼い魂、似鳥光の事が頭を過り、ネクラは握る手に力を込める。


「難しいお願いかもしれませんが、どうか犯人に強い恨みだけは持たないで下さい。自分の闇に負けないで」


 潤み瞳で見つめられ、臨弥の動きが止まる。

 ネクラが必死に自分を見つめるので、臨弥は気持ちが沈みかけていた自分が馬鹿馬鹿しくなったのか、彼女に笑いかけた。


「うん。ありがとう、君は優しいんですね。でも心配しないで、本当に犯人の事は恨んでなんてないですから」


 その言葉を聞いたネクラは安心と同時に疑問を持った。訳も分からず殺されて、まったく恨みを持たない事などあるのだろうか。

 自分から犯人を恨むなと言っておきながらこういう事を言うのはどうかと思ったが、それがどうしても気になってそれを臨弥にぶつける。


「あの、気になっていたんですが凪元さんは何故、犯人が憎くないんですか」

「憎いと言うよりかは『どうして』と言う思いが強くて……。まだ殺された実感がわかないだけかもしれないです」


 弱々しく首を横に振られ、ネクラはそう言うものなのだろうかと思った。しかし、実感がわかないだけなのであれば、まだ悪霊化の可能性はある。

 犯人と接触する事になった際は臨弥の精神状態には十分に注意しようと。臨弥の手を握るネクラの手に更に力が籠る。


「あの、ネクラさん……。そろそろ手を放してください」

「え、あわわわ。すみません」

 

 困り顔で臨弥に言われ、ネクラは自分が異性の手を握り続けると言うとんでもない行動をしている事に気が付き、臨弥から飛び退く様に手を放す。


「お前は何をしているんだ」

「うぎゃっ。痛いよ、虚無くん」


 飛び退いた先で虚無に中指で脳天をノックされる様に小突かれ、ネクラは涙目で虚無を見る。


「状況は把握できた。第一目標は達成だ」

「うん。あとは、これからどうするか決めないとね」


 虚無の言葉にネクラは頷き、目の前の臨弥を見つめる。突然自分を見つめて来る2人の視線が耐えられなかったのか、彼はぎこちなく微笑んだ。


「おい。お前は自ら犯人を見つけ出したいと思うか」


 虚無が臨弥に聞くと、彼は少し迷う素振りを見せてから眉を下げて言った。


「できればそうしたいですが、正直少し怖いって気持ちはあります」


 困った表情を自分たちに向ける臨弥を無言で見つめた後、虚無は簡単に告げた。


「そうか。ならお前はもう犯人探しをするな」

「え、でもそれじゃあ……」


 臨弥の未練が断ち切れない。ネクラがそう続けようとした時、虚無は続けざまに言う。


「俺たちが犯人を見つける。お前はその犯人に理由を聞くだけでいい」

「一緒に探すのはだめなの?」


 ネクラが不思議そうに聞き、臨弥も同じことを思ったのかコクコクと首を縦に振る。

 虚無はネクラの方を向見て、浅く溜息をついて呆れた口調で言った。


「今回、俺たちは大きな問題を抱えてしまっているだろう」

「大きな問題……あ」


 ネクラは少し考えて、そして思い当たる事が1つあった。高校生陰陽師の逢沢那美の存在である。


「そう。もしもこいつと一緒にいるところをあの娘に見つかるのは面倒だ。向こうにとってはまさに一石二鳥の光景だろうしな」

「うう、そうですよね。未練を断ち切る前に那美さんに凪原さんを祓われてしまう可能性もあります」


 現状、臨弥の場合は未練に対して負の感情が見られないため、無理やり祓われても悪霊化したり、那美を恨んだりする様には見えないため、彼女に祓われてしまえばそのまま輪廻転生してしまう可能性がある。


 自分の命を奪った犯人対面させるよりは、そちらの方が良いかもしれないと一瞬だけ考えたが、やはり臨弥が待つ未練の真相を解明してから輪廻転生へと導いてあげたい。ネクラはそう思っていた。


「那美さん?」


 2人の会話を聞いていた臨弥が那美の名前に反応し、眉間に皺を寄せる。

 そう言えば彼女は臨弥のクラスメイトだと言っていた。


「高校生陰陽氏の逢沢那美さんです。凪元さんのクラスメイトですよね」


 何気なく聞くと臨弥はネクラの言葉が聞こえていなかったのか、難しい表情をしながら黙って何かを考え込んでいた。

 その様子を不思議に思ったネクラがもう一度声をかける。


「凪元さん、どうかされましたか」

「あ、いえ。なんでもないです。逢沢那美さんですよね。知ってます」


 臨弥はしかめていた顔を笑顔に戻してネクラに向き直った。

 そして、自信がない様子で言う。


「逢沢さんの事は知っていますが、名前だけです。同じクラスですが、本人とは特別仲が良かったわけではありません。彼女、陰陽師の仕事が忙しいとかであまり学校にはいませんでしたし」

「那美さんが町一番の陰陽師と言うのは本当だったんですね」


 ネクラが那美の実力に改めて関心すると、臨弥もそれに同意した。


「そうですね。逢沢さんのおかげで怪奇現象から解放されたと言う方は多いです。町内一有名な女子高生ですよ。いつも率先して動いて、頑張り屋なんだと思います」


 臨弥は那美を頑張り屋と称した。確かに、顔見知り程度のクラスメイトを成仏させたいと願い、臨也の魂を探している那美は頑張り屋で優しい人物なのかもしれない。

 多少強引なところがあるし、自分たちにとっては多少脅威ではあるがとネクラ心の中でげんなりとしながら付け加えた。


「でも、那美さん対策で私たちだけで犯人探しをするとして、その間凪元さんはどうするの。別行動も危険だと思うよ」


 ネクラは率直な意見を述べた。那美は臨弥を探しているのだから、別行動をしていても見つかる可能性は十分にある。那美を警戒するのであれば、寧ろ彼を1人にしない方が良いのではないかとさえ思う。

 そんなネクラの気持ちを汲み取ったのか、虚無は冷静に言葉を返す。


「それは俺も理解している。だから、こいつの面倒は死神サンに見てもらう」

「死神さんに?どうしてですか」


 臨弥を見やりながらそう言った虚無に、意図が分からないネクラは疑問の言葉を投げかける。


「俺たちの最優先事項である『未練を断ち切る事』があの娘に潰されない様にするには安全な場所にいてもらう必要があるからな。こいつには俺たちが犯人を見つけるまで死神さんの傍で大人しくしてもらおうと思う」


 虚無がキッパリと言い切り、ネクラは納得をした。確かに、あの死神の傍なら安全な気がする。

 那美の力量はまだ未知数だが、犯人探しの間だけ結界を張ってもらってその中に臨弥を匿うなど、考えれば方法はいくらでもあるのだ。

 ただ、問題が1つある気がしてネクラは不安げに虚無に聞く。


「死神さん、オッケーしてくれますかね」

「面倒くさがるけどするだろ。仕事のためなら」


 虚無があっさりと答えたので、まあ。そうかもしれないな。とネクラは自らを納得させた。

 そして、自分の理解が及ばない話だと判断したのか黙って2人の話を聞いていた臨弥にネクラが簡潔に説明とお願いをする。


「諸事情により、あなたを1人にする事も共に行動する事もできません。私たちに犯人探しを任せてもらい、その間は安全な場所に居てもらう事になりますがよろしいですか」


 ネクラの言葉を聞き、一拍置いた後に臨弥は微笑んで言った。


「わかりました。犯人探しは君たちにお任せします。事情はよく分かりませんが、事がスムーズに運ぶのであれば、こちらとしてもありがたいので」


 快い了承の言葉を受け、ネクラが笑顔になる。そしてその勢いで興奮気味に言った。


「ありがとうございます。凪元さん!必ず犯人を見つけて、あなたを襲った理由をつき止ます」

「あはは。お願いします」


 ネクラの笑顔につられて臨弥も笑顔で頭を下げた。

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