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死神補佐になりました : 来世のための少女の奮闘記  作者: 水無月 都
少女は現れた陰陽師の力を知る
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第四章 第二話 高校生陰陽師、現る

「今回の魂は誰かに命を奪われたって事ですか」

「その通り。部活帰りに襲われたみたいだね」


 ネクラが目を丸くしていると死神はマントから端末を取り出し、それを親指で操作する。


「今回、俺たちが探す魂はこの子、凪元臨弥(なぎもといざや)。君たちと同じく享年17歳」


 差し出された端末には、紺のブレザーを着た、黒髪の大人しそうな男子高校生が写っていた。

 目鼻立ちが整っており、写真からでも優しそうな雰囲気から、ネクラはこの人はモテるだろうなと直感した。


「死因は鋭利な刃物で心臓を一突き。それが原因で彼は即死。殺された理由もわからないままね。だからその理由を求めて町中を彷徨っているみたい」

「それで行動範囲が広いんですね。それは、通り魔の犯行なのですか」


 通常、ただの学生が普通に生活を送る中で命を狙われるほど憎まれるとは考えにくい。そう思ったネクラは被害者の知り合いの犯行ではなく、無差別な犯行ではないかと考えた。


 しかしどちらにせよ、人を1人殺めると言う、恐ろしい犯行に恐怖を覚えながらネクラが聞くと死神は肩をすくめて言う。


「現世ではそう報道されているね。夜も遅かった事から目撃者もいなかったとされている。証拠もなく、未だ犯人も捕まっていない」

「今回は警察みたいな仕事内容ですね」

「見方によってはそうなるね。でも生者である警察とは違って俺たちは被害者に話が聞けるわけだし、その辺は有利かな」


 死神が冗談っぽく言うと黙って話を聞いていた虚無が呆れた口調で言う。


「その学生は自分を殺めた人物を見たのか。もし、顔を見てなかったらそいつの『何故、自分が殺されたかを知りたい』の真相に辿り着くには骨が折れると思うぞ」

「それは本人に聞くしかないねぇ。確かにそれによって難易度は変わるかも」


 呑気に笑う死神にネクラと虚無はいつもの如く何とも言えない脱力感に見舞われる。


「とりあえず、今回の俺たちの目的は自分が命を奪われた理由を求めて彷徨っている魂を見つける事。そしてこの子を手にかけた相手を探し出してその理由を確かめる事。この2つだよ」


 死神は脱力する2人を気にする様子を一切見せず、指で数字を表しながら涼しい顔でそう述べた。

 ネクラと虚無はその死神の言葉に首を縦に振って了解した。


「それじゃ、行こう。今回は目的地が同じだから俺の力でワープするからね」

「はい」


 ネクラは返事をし、虚無は無言で頷いた。




 そして、死神のワープの力で現世へとやって来た。ネクラが辺りを見回すとそこはどこかの公園だった。

 小さな子供たちが家族と遊具で遊んでいる様子が見えた。中央に立つ時計は朝の10時を示していた。


 その平和な風景の中に佇む黒ずくめの男性2人と女子高生1人と言うのは即通報されそうな絵面だとネクラは苦笑いした。

 生者に自分たちの姿が見えなくて本当によかったと思っていた。


 そんなのどかな公園の隅で3人は再度、仕事内容の確認をする。

 

「まず、今から俺たちがすべき事は彷徨う魂を見つける事。いいね」

「はい」

「ああ」


 ネクラと虚無、それぞれが頷く。2人の返事を聞き死神も笑顔を返して言う。


「じゃ、チーム分けね。俺1人と虚無くん・ネクラちゃんチーム。もしターゲットと接触したらお互いの端末に連絡ね。そのまま犯人の捜索もしてもいいけど、慎重にね。犯人を見つけて動機を知った時、場合によってはターゲットが悪霊化する可能性もあるんだから」

「戦闘になる可能性があるとはそう言う意味でしたか」


 ネクラは納得した。訳も分からず命を奪われただけでも恨めしい事だろうに、もし理不尽な動機だった場合、怒りや恨みにその魂は支配され兼ねない。


 むしろ理由を知るためと言えターゲットと犯人を会わせてしまってもいいのか。

 考慮すべき事が多そうだが、無意味な悪霊化だけは回避したい。ネクラはそう思った。


「それじゃ、検討を祈ってるよ。お互い頑張ろうねー」


 死神はそれだけ言うとヒラヒラと手を振りながらあっさり背を向けて2人から離れてしまった。

 大きな体をゆらゆらと揺らしながら歩く死神の背を見送りながらネクラはボソリと呟く。


「死神さんって掴みどころがないなぁ」

「仕事についての大体の情報はあの人の端末に入ってきているからな。余裕なんだろう」


 そう言えばそうだったとネクラは思った。仕事の対象となる魂の情報は全て死神が持つ端末に送られると最初に聞かされた。

 確か何に執着し、悪霊であれば誰を恨んでいて、誰がターゲットになるのかもわかると言っていた気がする。 

 と言う事は、死神は今回の件も大方全てわかっているのではないか。知った上でネクラたちにそれを教えるつもりがないだけでは。


「死神さん、まさか私たちに彷徨っている魂を見つけさせるつもり満々じゃ……」

「そうだろうな」

 

 死神の背中を疑わし気に見ながら言うネクラに、虚無は特に感情を乱す事なく短く同意した。


「虚無くんの端末にはそう情報は入らないの?」


 ネクラが虚無の腰ベルトについている端末を指さしながら聞くと虚無は小さく首を横に振る。


「俺は死神見習いだからな。これには上司にあたる死神サンからの情報が送られてくるだけだ。だから、あの人が意図的に情報を操作している事もあるだろう。あと、通話とメッセージのやり取りは普通にできる」

「死神さんがそう言う意地悪みたいな事するのは私たちのポイントのためなのかな」


 ネクラは輪廻転生をするための『輪廻ポイント』虚無は一人前の死神になるために『死神ポイント』を死神から仕事をこなしながらそれぞれ貯める必要がある。


 死神曰く、本人たちの苦労が多いほどポイントは貯まりやすいとの事で、ネクラと虚無はよく自発的な行動を促されるのだ。


「ああ。彷徨う魂を探しているかも怪しいな」

「デスヨネー」


 ネクラは棒読みで相槌を打った。虚無も半ば諦めた態度だった。


「とりあえず、じっとしてるのは良くないよね。死神さんの事は一旦忘れて、私たちも魂探しに行こう」

「ああ」


 2人が気を取り直して歩き出そうとした瞬間、背後から女性の声がした。


「BANG!!捕まえた」

「えっ」

「ん?」


 突然の事にネクラと虚無が振り向くとそこには、艶やかな紫の腰までにロングヘアと緑のチェック柄のスカートを風になびかせた、細身で活発な印象のネクラと同い年ぐらいの、どこか見覚えのあるブレザー姿の少女が自信に満ち溢れた笑みを浮かべながら立っていた。

 手を銃の形にして、打ち終わった後のつもりなのかそれを頬の横に構えている。


 あまりに不信な行動にネクラと虚無は状況が飲み込めずに彼女を凝視する。それに驚くべき事にこの少女は間違いなくネクラたちに視線を向けている。


「あ、え、体が、動かない……」


 意識が少女に集中していたネクラだったが、自分の体に起こった変化に気が付く。どう頑張っても、頭の先から指一本まで全く動かす事ができないのだ。

 

 まるで何かに全身を固く束縛されたような感覚だった。足元も地面に接着されている様な感覚に陥り、微動だにできない。

 ふと隣を見れば表情は変わらないものの、虚無の体も固まっていた。ただ、ネクラよりかは自由が利くのか、指先や首を小刻みに動かしながら、なんとか逃れようとしている。


「ふっふっふー。無駄無駄。この私の緊縛術から逃れる事ができる霊なんていないんだから」


 焦る2人を見ながら、少女は構えていた手を下ろし、余裕の笑みで言った。

 やはり、この少女は自分たちが視えている。そう確信したネクラは虚無に小声で話しかける。


「き、虚無くんっ。あの子、悪霊とかそう言う類なのかな。明らかに私たちを認識しているし、この変な感覚もあの子の仕業だよね」

「いや、あの少女からは悪霊の気配は感じない。精気を見る限り、あの娘は生者で間違いはないだろう。霊感と霊力もそこそこある様だがな」


 必死のネクラに虚無が冷静な分析で返す。その分析にネクラの焦りが加速する。


「ええっ!じゃ、なんで私たちにこんな事を……そもそも、この力なんなの」

「それは、本人に聞くしかないな……。おい、そこの女」


 虚無は唯一動く口と鋭い眼光で彼女を見据えながら問い詰める。

 その言葉を受けた少女は、長い紫の髪を左手でかき上げながら自信満々に言った。


「私は逢沢那美(あいざわなみ)。この町一番の高校生陰陽師よ」

「陰陽師!?」


 ネクラが驚きの声を上げると少女、逢沢那美はさらに胸を張る。


「そう、祓った霊は星の数。ご町内平和は私が守る!って事で、あなた達も祓っちゃうわ」


 勢いよく2人に指を差しかと思うと那美はどこからかお札らしきものを取り出し、それを構える。


「な、なんかよくわからないけど、あのお札を受けた場合、私たちどうなるのかな。って言うか、祓うって何!?祓われたらどうなるの!?」

「知らん。あとちょっと黙れ」


 青ざめてパニックを起こしているネクラにそう告げた後、虚無は瞳を閉じて集中し始めた。

 時間にして数秒。そして那美が構えたお札を2人に向かって投げつける寸前、虚無の目がカッと開かれる。


「解けた!!」


 虚無がそう呟いたのと那美が札を投げたのがほぼ同時の出来事だった。虚無はお札が自分たちに届く前に素早く鎌を出し、それを真っ二つに裂く。

 そしてその勢いのまま跳躍し、那美の背後を取り彼女の首に鎌を近づけた。


「勝負あったな」


 虚無は冷たい眼差しとドスの効いた声で那美にそう告げる。

さすがの那美も余裕の表情が消え失せ、両手を挙げて降参意思を表す。 

 それと同時にネクラの体も自由になり、緊張と緊縛から解放されたネクラはその場にへたり込む。


「ええー。なんでぇっ」


 両手を挙げながらも、那美は納得がいかないと言う表情で、不満を漏らしていた。

 死神の鎌は生者を傷づける事はできないため、実際に那美に被害が及ぶ事はないが、恐らくそれを知らない彼女にとっては十分な脅しになるだろう。

 ネクラは安堵の溜息をつく。


「確かに、俺たちは生者ではない。だがお前に危害を加えるつもりはない。もちろん、現世にもな」

「この世のものでない存在の言葉なんて信用できない……って言いたいところだけど、この鎌、まさか死神ってヤツ?」


 首に当てられた鎌を見ながら那美は冷静な口調で言った。

「ああ」


 虚無は余計な事は言わない方が良いと判断したのか、自分たちの詳細は伝える事無く返答した。

 その答えを聞いた那美は首元に鎌があるにも係わらずパッと笑顔になって言った。


「すごい!!死神なんて初めて見たわ。ねぇ、話を聞かせてよ」


 その呆気らかんとした様子に拍子抜けしたネクラと虚無は、瞬きをしながらお互いの顔を見合わせた。

                                               

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