表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
死神補佐になりました : 来世のための少女の奮闘記  作者: 水無月 都
少女は現れた陰陽師の力を知る
42/155

第四章 第一話 再登場『カラスのキーホルダー』

第四章開幕です。もう文字数を気にしすぎるのはやめます……。

この章は戦闘シーンを入れたいと思っております。

よろしければお付き合いください。どうぞよろしくお願いいたします。

「そうですか。連さん、お元気で過ごされているんですね」


 探偵事務所風の部屋にある応接間で腰かけていたネクラはホッと胸を撫でおろしていた。

 それは先日の仕事で関わったトップアイドル蒼井美空こと美空碧の想い人、三条連のその後を死神から聞かされての反応だった。


 アイドルである美空碧は自分を芸能界に導いてくれた幼馴染兼マネージャーの三条連に恋をしていた。しかし、不慮の事故に遭いその想いを告げる事なく命を落とした。


 それが未練となり、現世に留まる事になった碧の魂をネクラは死神に力を貸してもらいながらその未練を断ち切った。


 碧は連に気持ちを伝える事ができ、連もそれに応えた。

 お互いを大切に想うばかりにすれ違ってしまっていたけれど、それが解けて新たな想いで結ばれた時、それはとても愛おしく美しいものとなった。


 ネクラは恋愛をしたいと思った事は一度もないし、興味もなかったが、あの2人の光景を見守った時、人を恋しく想い、そして愛する気持ちは素晴らしいものかもしれないと、恋愛に対する価値観や考えを改めた。


 そして、碧と別れた後の連の様子がどうしても気になり、ネクラは彼が働く三条プロダクションで人間に化け、常時バイトをする死神にその後の事を聞いたのだ。

 死神は『終わった事は聞くなよ』と迷惑そうな表情をしたがきっちり話をしてくれた。


 ステージ上で碧と別れた日以降、気持ちを整理するためか、数日は有給を取っていたらしいが、休み明けは一切の悲しみも動揺も見せずに通常以上に仕事をこなしていたらしい。

 双子の妹である切香も碧の事があって以降、時折陰りを見せていたはずの彼の変貌に驚いていたらしい。


「三条切香に『連になにか吹き込んだ?』って凄まれちゃった。知らないって言っておいたけど」


 死神はヘラヘラとして言った。

 そんな死神の話を聞きながら、ネクラは心配そうに言った。


「連さんがお元気なのは良いですが、無理をしていないでしょうか」


 気遣いの言葉を死神はあっさり否定する。


「んー。あれは無理していると言うよりかは、美空碧に恥じない様に精一杯自分にできる事をしてるだけじゃないかな」

「自分にできる精一杯の事、ですか……」


 連は碧のために精一杯仕事をして、一生懸命生き様と自分の気持ちと向き合い努力をしている。

 それなのに自分ときたら、生きる事をドロップアウトした挙句、死後こうして死神補佐になってもほぼ何もしていない。

 

 別に、最速で輪廻ポイントとやらを貯めたいわけではないが、情報収集や霊の話を聞く程度で仕事をしたと言えるのだろうか。


「はぁ……」


 ネクラがぼんやりとそんな事を思っていると自然と溜息が出た。

 そんな態度のネクラを死神がジトリと見ながら言った。


「ネクラちゃーん。またウジウジしてない?」

「はっ!し、してません」


 自分でもウジウジモードになっていた事を自覚していたネクラは死神にそれを指摘され、勢いよく首を左右に振って否定した。

 疑わしい視線をネクラに向けたまま、今度は死神がため息をつく。


「はぁー。もういいよ。君の性質にも慣れてきたから。そんな事よりも、はいこれ」

「わっ、なんですか」


 突然、死神が黒くて小さい何かをネクラに向かって放り投げ、それをネクラは驚きながらも反射的に受け止める。


「これは……死神さんに預けていたカラスのキーホルダー」


 ネクラの手に収まっていたのは、先だって彼女が『強くなりたい』と死神に申し出た際、霊感ゼロ、運動神経ゼロで戦闘で役に立つ素質がないと否定されて落ち込んだネクラを見兼ねた死神が、ネクラの前向きな姿勢を評価し、それを検討するといって彼女から預かったものだった。


「前向きに検討してあげるって言ったでしょ。これが俺から君に与えられる精一杯の力」


 死神は機嫌良く笑っているが、ネクラにはただのキーホルダーにしか見えない。それをツンツンと突いてみたり、チェーンの部分を持って軽く揺すってみたりもしてみたが、見た目も含めて特に変わったところはない。


「えっと、これを通してまた死神さんが助けて下さるんですか」


 以前、死神がこのキーホルダーの中に入って自分の動向を見守っていた事を思い出し、ネクラはそう質問した。

 すると死神はやれやれと首を横に振り、小馬鹿にする様な視線と口調で言った。


「ネクラちゃん、ホントに霊感ゼロなんだね」

「はい!?」


 相変わらずの死神の上から目線な態度に、ネクラが声を荒げる。

 しかし、死神が自分の意見を聞き入れてこのキーホルダーに何かをしたのも事実であるため、イラつきと感謝、両方の感情がネクラの中を渦巻いて最終的にはイラつきをぐっと呑み込み、死神の言葉を待った。


「そのカラスのキーホルダーにはね、死神の力を1日1回だけ使える様に俺の力が込められている」

「死神さんの力が?」


 ネクラがキーホルダーを見つめながら首を傾げると、死神はそれに応える様に話を続ける。


「そう。生命に係わる事以外なら、どんな力でも使えるよ」

「生命に係る事以外、と言うのはどう言う事ですか」



 ネクラが言うと死神は唐突に軽い口調から真面目な口調に変わる。


「寿命を延ばす、死の運命から誰かを助ける、誰かを蘇らせる。そう言った事には一切その力は使えないし、使おうとも思わないでね」

「は、はい……」


 死神の冷たく圧の圧声に思わずビクリと反応してしまう。

 ネクラが冷や汗をかいていると、冷たい雰囲気だった死神がいつもの胡散臭く、お調子者の雰囲気に戻って行った。


「ま、仮に君がそう言った事に力を使おうとしても発動しないから心配はないけど。それ以外なら威力も含めて万能な力が備わっているから。あと使った後は1回ごとに俺が力をチャージする必要があるから忘れないでね」


 戦闘の素質がないネクラに与えられたのは死神の強力な力が込められたキーホルダーだった。

 使えるのは1日1回、生命に係わる事には力は使えない、使った後はチャージが必要、なにやら制約は多いがこの力を使って一瞬でも仕事中に自分が役に立てれば十分だ。

 ネクラは素直に死神に感謝の気持ちを伝える。


「ありがとうございます」

「ホント、感謝して欲しいよ。特定の補佐に肩入れとか本来は良くないんだよ。せっかく力を貸し与えたんだから、使いどころを間違えないでね。上手く使いなよ」


 使いどころ、確かにそれは考えないとせっかくの宝の持ち腐れとも言える。

 では使いどころとは何なのか。絶対絶命のピンチの時か、それは自分が?死神が?虚無が?そもそも毎回使っていいものなのか。使う度に死神に力をチャージさせるのは彼にとっても手間になるのではないか。

 そんな考えがネクラの脳内をグルグルと回る。


「ネクラちゃん、力を渡したら渡したで考え込むのやめてくれない?」

「あっ、すみません。悪い癖で」

「ホントだよ。明るくなったと思ったら秒で暗くなるんだもん」

「うう、すみません~」


 死神の呆れた声によって意識を引き戻され、怒涛のマイナス思考指摘をネクラは謝る事しかできなかった。


「なに、死神サン。またネクラで遊んでるのか」


 ネクラが情けなさと申し訳なさで小さくなっていると突然、部屋の鉄製の扉が開かれ、気だるそうに虚無が姿を現した。


「失礼だな、遊んでないよ。今は」

「今は!?今はって事は遊んでる時もあると言う事ですか!?」


 ネクラが死神に詰め寄ると死神は口笛を吹きながら明後日の方向を見た。


「死神さーんっ!!」

「さて、用事も済んだ事だし、虚無君も都合良く来てくれたし、今回の仕事の説明をしようかな」


 死神はネクラを無視して話題を変えた。

ネクラは死神を睨もうと必死で彼の視線を追いかけるも身長差がありすぎるため、全てかわされてしまい、ネクラは悔しさで歯ぎしりをする。


「今回の仕事は虚無くんにも同行してもらうよ。というか二手に分かれて行動しよう」

「別行動をとると言う事ですか?」


 死神に威嚇をしても無駄だと諦め、ネクラはポケットにキーホルダーをしまって素直に今回の仕事内容について素直に耳を傾ける。


「うん。でもやる事は同じ。現世を彷徨う魂の捜索だよ。今回の魂は行動範囲が広いから二手に分かれた方が効率が良いと思ってね」

「それは、悪霊ですか?」


 ネクラが恐る恐る聞くと死神はそれを否定した。


「違うよ。今回のターゲットはとりあえず悪霊じゃない」


 それを聞き、先だって出会った碧と同様に現世に恨みではない何かしらの未練を持ってしまい、留まっている魂を探すと言う事だとネクラは理解した。


「では今回も悪霊と対峙する事はないと言う事ですね」


 ネクラが安心していると、死神は笑顔を作りつつも迷いながら言った。


「んー。場合によっては戦闘が発生するかもしれないから、覚悟だけはしておいてね」

「それは、光くんと同じで恨みを溜め込んでいて悪霊化する可能性があると言う事ですか」


 ネクラが暗い表情で聞き、それを聞いた虚無もわずかだか体がピクリと反応する。

 似鳥光。虐待されていたのにも係わらず、母親の笑顔を望む優しい魂は、母親をネット等で叩く人間を恨み悪霊化して虚無の手で黄泉の国に送られた。


 亡くなった魂に罪はとも、恨みによって魂が穢れてしまえば、元がどんなに素直な魂でも黄泉の国に閉じ込めなければならない。

 それは辛い事であるし、できればあまり同じ経験や思いはしたくない。


 その場の空気が重くなりかけた時、死神が両手を振って空気をかき混ぜる様な動きをする。


「はーい。暗い雰囲気を醸し出さない。最後まで俺の話を聞きなさい」

「う、すみません」

 

 この空気のきっかけを作ったのは君だからねと死神はネクラを睨み、彼女は謝罪の言葉を述べた後、自分の両手で自らの口を塞ぐ。


「まず、悪霊化する可能性についてはあるかもしれない。今回の魂が抱える事情はとても複雑だからね」

「複雑、と言いますと」


 ネクラが言うと死神は告げる。


「今回の魂の未練、それは『何故、自分が殺されたかを知りたい』だよ」

 

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ