【小噺】死神散歩 : エピローグ代りの死神のボヤキ
俺は死神。死神としての名前は特にないけど、人間界での仮の名前ならある。
篠上黒人。中々かっこいい名前でしょ。
長身で茶髪、キャラ設定は人間界で言う『チャラ男』にしてみた。
この名前は人間界で働くために考えたものなんだ。
モデルでスカウトされたけど、俺は一応死神だし、表舞台に出で多くの人間に認識されるのは良くないから裏方ならいいよって事で三条プロダクションでバイトをしてる。
人間界で遊ぶお金も欲しかったし。バイトぐらいが丁度いいんだよね。人間関係割と適当に流せるし。
ここでバイトして何年くらいになるのかな。もう忘れちゃった。
でも、芸能界って面白いよね。いい感情も悪い感情もたくさん溢れているし、個人によるけど仕事の浮き沈みも激しい。まるで人生そのものだ。
そんな中、俺がずっと面白いなって思っているのがあの子、えっと……なんだっけ。
そう、トップアイドルとか言われている蒼井美空だっけ。
本名の美空碧って方で呼ぶ人もいるから覚えにくいんだよね。
あの子すごいんだ。あの子の周りには死神の俺ですら吐き気がするほど、他人から向けられた妬みとか嫉みの感情が渦巻いている。
それを彼女は根性で無意識に毎回浄化しているのだ。特に霊感はない普通の人間がどうしてそんな事ができるのか興味はある。
可能があるとするならば負の感情に打ち勝ってまで叶えたい夢や応えたい想いが人一倍強いと言う事。
夢とか想いとか抽象的すぎるって俺も思うけど、でもそう言う力は負の感情よりもきれいで強いからあながち馬鹿にはできないんだよ。
でもね、彼女が気になるのはそれだけじゃないんだ。
あの子はもうすぐ事故に遭って命を失う。
俺は死神だから、人の死期がわかる。いつ、どこで、どうやって死ぬかも。だから、あの子の運命もずっと前から視えている。
残念、あの子の歌は割と好きだったのに。もう聞けなくなるのか。
ん?死期がわかっているならなんで助けないのか?
そんなの死神は生者に手を出してはいけないからに決まってるでしょ。決められた運命を変える事は誰にも許されない。
大体、死神が死期の近い人をなんで助ける必要があるの。可哀そうだけで命を救っていたらキリがないよ。
命を目の前に『可哀そう』だけでホイホイ運命なんて変えてられない。運命を変えられるのはその人生を生きる本人だけ。それも滅多に訪れない奇跡に近い事だけど。
そんな奇跡に俺たちみたいな存在が介入していいわけがない。
感情だけで死神の仕事をするな。
その辺は虚無くんにも口酸っぱく言っている。彼、元は人間だからそう言うのに流されやすいし。
ああ、ネクラちゃんもこうそう言うの苦手そうだよね。
もし、あのアイドルの子に未練があってそれを断ち切る仕事が俺のところに入ったら、同情しまくりでネクラちゃんのウジウジがMAXだろうな。
うわ、その空気を想像しただけでイラっとしちゃった。
だめだめ、あの子も最近頑張ろうとしてるんだし。
人間がそんな簡単に変われないなんて百も承知。
でも、変われないのとその努力をしないのは違う。
あの子は死神補佐の経験を重ねて少しずつ前向きになろうとしている。
だから、俺はイライラしたり、面倒くさいって思っても彼女を手助けする。ただそれだけ。
ああ、でもやっぱり未練系の仕事はネクラちゃんに与えたくないなぁ。特に恨みが絡んでいない純粋な感情のやつとか。
ネクラちゃんのウジウジにイライラしすぎて主に俺の精神衛生上良くないし。
どうかそんな仕事が俺に舞い込んできませんように……っ!