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死神補佐になりました : 来世のための少女の奮闘記  作者: 水無月 都
少女は来世を願って奮闘する
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第一話 死した後の始まり

物語を読もうと思ってくれた方、ありがとうございます。

誰に言われたわけでもないですが、不特定多数の方の目に触れると思うので一応、注意書きいたします。

私は宗教に関する思想等を批判や否定をしているわけではございません。物語上の表現として捉えて頂けると幸いです。

もし、私の物語でその関連で不快な気持ちにさせてしまう様であれば申し訳ございません。(11月13日追記)

「やぁ、人生お疲れ様。お目覚めかな」


 頭上に気配を感じ、少女はゆっくりと瞳を開いた。

 そこには、全身を黒いマントで覆い、フードで顔を隠した大柄で細身の人物が少女の頭の方から、顔を見下ろす様に覗き込んでおり、少女は驚いて飛び起きた。

 慌てて立ち上がり、見るからに不審者な黒マントと距離を取る。


「あ、あなたはどちら様でしょうか」


 少女が思った通りの事を口にすると、黒マントはフードを取り、まるで今からショーでも始めるマジシャンの様に、恭しく頭を垂れた。

 その拍子に肩まである銀の髪がさらりと揺れる。


「これは失礼。なにしろ君が一向に目を覚ます気配がなかったから、俺も難儀してたんだ」


 その口調から「お前がなかなか目を覚まさなかったのが悪い」とでも言いたげな雰囲気を感じ、少女は黒マントに対する警戒心を強めた。

 数秒間の丁寧な礼をした後、黒マントはゆっくりと頭をあげた。


「わ……」


 ここで初めて黒マントの顔を確認した少女から思わず感嘆の声が出る。

 そこにはまるで二次元のキャラクターの様な抜群に整った顔立ちの人物が立っていた。


 銀色の髪は光を受けていないにも関わらずキラキラと輝き、美しいだけでなく、目視でも髪質が良い事がわかるほどにサラサラとしている。


 少し中性的な顔立ちをしているが、声色で判断するに、おそらく男性である事が伺えた。


 身長は190と少しあるぐらいだろうか。

最初はその身長の圧に驚いたが、端正な顔立ちも手伝ってか、思わず見惚れてしまうほどにスタイルが良い。

まさにモデル体型と言う言葉を体現した様な外見だった。


 ヘラヘラとした口調に若干、胡散臭さを覚えたが、纏うオーラはこの世のではない不思議なものを感じた。


今はどの様な状況なのか、この男性は一体何者なのか。


色々な疑問や感情が少女の頭と心を駆け巡り、ただわけも分からず、ただ呆けていると、黒マントの男は言葉を続けた。


「俺は死神。今日から君の担当になったから。よろしく」

「はい?」


 あまりにも自然に紡がれた非現実的な言葉に、少女は思わず語調を強めて返答した。


「あら、自分の状況がわかってない系かな。この子」


 死神と名乗った男はそう言いながら面倒くさそうにマントから本を取り出すと、パラパラとぺージを送り、一つの項目を見つける。

少女はその光景を唖然として見つめるだけだった。


「ああ、君は飛び降りなんだね。頭を強く打ったから、記憶が混在しているのか」


 本を見て、死神は一人で納得して頷いた。

そしてパタンと本を閉じて、再びそれをマントの中に閉まった。



「飛び降り……っ」


『飛び降り』その言葉を聞いた瞬間、少女を強いめまいが襲う。

 それと同時に様々な光景が断片的にフラッシュバックする。

 

 旧校舎に佇み、地面を見つめる自分。足を前に踏み出した瞬間と、迫りくる地面。

 遠くから聞こえる喧噪、真っ赤に染まりゆく視界。そして、ゆっくりと途切れる意識。

そして少女は確信する。


「そう、私、死んだはず」


 少女が言葉を震えさせながら紡ぐ。

 そして、真っ白い何もないその場所を何度も見回し、不思議とこの状況が夢ではない事を悟る。

 それからこの状況をすんなり受け入れたのか、死神に向き直る。


「ここはその……俗にいう死後の世界と言うものですか」

 

 静かな声で少女は尋ねた。


 自分が死んだと自覚しても取り乱すことはなく、少女は極めて冷静だった。少女にとって自分が死んだ事実についてはどうでもよかったからだ。


 少女はそれを望んでいたのだから。

 いじめられて、どうしようもなく苦しくて、親にも教員にも失望し、絶望もした。

 親しい友人もいなかった彼女には未練などないのだ。


「そうだよ。ここは君たち人間が言う、死後の世界。もっと言うとここは現世うつしよ幽世かくりよとも違う、どこでもない空間だ。死神である俺が作り上げた君の魂を存在させるための空間と言ってもいい」


 現世は人が生きる場所、幽世は人ならざるものが存在する、俗に言う黄泉の国。少女はそう認識していた。


 しかし『どこでもない空間』と言うのは一体どう言う意味なのか。

自分が死んだと言うのであれば、 幽世とやらに行けるのではないのか。

死神の言葉に疑問を持った少女は、さらに尋ねた。


「あの、死んだらあの世に行くのではないのですか」

「あ、もしかして天国とか地獄とかの話してる?ナイナイそんな場所」


 死神が虫を掃う様に空中で手をヒラヒラとさせる。


「えっ、えっ?でも今ここは現世と幽世の間って言いましたよね」

「うん。幽世って言うか、黄泉の国は存在するし」


 矛盾しか感じ得ない死神の言葉に少女がパニックを起こしていると、彼は簡潔に説明した。

 人間たちが想像する死後の世界、いわば天国や地獄と言うものはないと。

 彼曰く『そう言ったものは人間が救われたいが為のものでそんな世界は存在しない』との事だった。


「人は死後、すぐに輪廻転生をするんだよ。生まれ変わるの。そして業によって来世が決まる」

「では、私も転生すると言う事ですか」


 少女がそう言うと死神は冷たい視線を少女に送る。


「それは、寿命を迎えた人がたどる道。君は違うでしょ」


 死神はすっぱりと告げた。

『君は違う』の意味を飲み込めない少女は、ひたすら困惑していた。

 その様子を見た死神がため息交じりで告げた。


「君は寿命を待たずして、自ら命を絶ったでしょ。現世の理を壊した者が、他の人と同じ様に輪廻転生できると思う?できるわけないじゃん」

「現世の理?」


少女が言うと、死神はまるで小バカにする様に少女を見つめながら言った。


「現世の理って言うのは、分かりやすく説明すると、人間には決められた寿命があるって事。で、君は決められた寿命があるのにも関わらず、それを待たずして、自ら命を絶った。ね、現世の理を壊してる」


 自分は現世の理を壊した。そう言われ、少女の心がザワつく。


「輪廻転生ができないって、どういう事ですか」


 少女の心に初めて動揺が生まれ、不安を隠せずに少女が問うと死神はやはり面倒くさそうに、そして簡潔に答えた。


「君には人間にも畜生にも生まれ変わる資格がないと言う事だね」

 

 いともあっさりと告げられた言葉に、少女は頭を強く殴られたような衝撃を受けた。

 吐き気がするほどにつらい現実を終わらせたくて命を絶ったと言うのに、来世に期待して覚悟を決めたと言うのに、資格がないとは一体どういう事なのか。


「どうして、私には資格がないのでしょうか」


 少女が聞くと死神は言った。


「死後の世界には決められたの寿命を待たずして亡くなった者に対しては、現世の理、つまりは神が与えた命を身勝手に扱ったとして輪廻転生、いわば生まれ変わりのサイクルから外れてしまうんだ」


「つまり私は、自分から命を絶ったから、生まれ変わる資格を失ったと言う事ですか」


「そう言う事。でもまぁ、俺からしたらわざわざ決められている寿命を待たずに死ぬなんて馬鹿げていると思うけど。資格を失って当然だよね」

 

 死神にが軽々しく言葉を紡ぎ、それを黙って聞き佇む少女の拳が自然と握りしめられる。


「ごめーん、気を悪くしたかな。でもさ、君だけじゃないよ。君と同じ境遇の人間は皆、同じだ。それが死後の世界の理。人間の世界で言うルールってやつ」


 死神は少女の感情などお構いなしに飄々と言った。

 死神の人を見下す様な態度に怒りを覚えたが、確かに死神が言う事にも一理あるかもしれないと思った。

自ら命を絶つような人物を、神様は助けてくれないのかもしれない。

 そんな絶望を通り越した諦めの感情が少女の中を駆け巡り、それはやがて涙へと変わる。


「そんな、私、楽になりたかっただけなのに、もしも、来世があればそこで、幸せにっ」


 幸せに、なりたかった。

 少女の瞳から大粒の涙が溢れ出す。それをこらえようとうつむくも、止まるはずもない。

 生きていても絶望、死んでも絶望。死神には馬鹿にされ、死してもなお自尊心を傷つけられる。

 では、自分はどうすれば良かったのか。

 少女の中で色々な感情が渦巻いた時、死神が言った。


「ああ、泣かないでよ、面倒くさい。大丈夫。チャンスはあるから」

「チャンス?」


 チャンス、その言葉に、少女が涙で濡れた顔を死神に向ける。


「君みたいに未練がない状態で割と悲惨な目にあって命を絶った者に対しては、救済措置みたいなのがあるんだ」

「救済措置ですか」


 少女が聞き返し、死神が頷く。


「上手くいけば君は生まれ変われる可能性がある。これで希望は見えたかな」

「その、それは一体どういうものなのですか」


 少女を言うと死神は言った。


「とても簡単な事だよ。君には死神補佐になってもらう」

「死神補佐?」

「そう、話聞いてみる?」


聞き慣れぬ言葉に 少女は一瞬だけ戸惑いを見せるも、少しでも希望があるのであればと、己の袖で涙を拭いて頷いた。


「はい。それで、死神補佐にはどうすればなれるのでしょうか」


少女は決意を込めた様に、力強く死神に問いかけた。






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