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死神補佐になりました : 来世のための少女の奮闘記  作者: 水無月 都
少女は偶像と出会い、その恋を見守る
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第三章 第一話 戦力になりたいと言う気持ちはおかしいでしょうか

「え。強くなりたい?」


 探偵事務所風の部屋にある、キャスター付きの黒革の椅子に腰を掛け、椅子の背もたれに体重を預けながら死神が言った。

 机を挟んだ目の前にはネクラが遠慮しがちに、しかし決意を固めた表情で立っていた。


「は、はい。死神さんや虚無くんみたいに、とまではいかくても自分の身は自分で守れるぐらいにはなりたいと思いまして……」

「へぇ」


 死神の反応が思ったよりも素っ気なかったためか、言葉にした後、やはりネクラはもじもじとしてそのまま黙り込んでしまう。


「強くなりたいって、なんで」

「ここ最近、いくつか死神のお仕事に関わって来ましたが、全然役に立たない足手まといだったので反省したと言いますか、自己嫌悪と言いますか……」


 光の一件以降、ネクラは息つく間もなく補佐として仕事に携わってきた。簡単なものから、身の危険を感じるものまで。

 そしてネクラは自身の死神補佐としての仕事を振り返り、そして思った。自分の仕事はほぼ情報集めが中心。いざ、悪霊を相手にする場面になると死神や虚無に庇われ、守られて自分はいつも安全な状況で何もしていなかったと。


彼女にとってそれがもどかしくてたまらなかった。戦えずとも何か役に立つ事がしたいと感じる様になった。


「足手まといで何が悪いかな。君は補佐だよ。虚無くんは見習いで、俺はプロの死神。現世で言うところの、俺ら2人は正社員。ネクラちゃんはアルバイトみたいなもんだよ。必要最低限の仕事は与えているし、君はそれをちゃんとこなしてくれればそれでいいの」


 最初にそう言ったでしょ。と死神はあきれた表情でネクラを見る。

 しかしネクラの想いは強かった。今までのネクラであれば死神の言葉を受けて引き下がっていたかもしれないが、彼女は食い下がる。


「それでも、死神候補は死神見習いの方みたいに何かの特訓は受けられないのかなって」


 その言葉を聞いてわざとらしいほど大きく溜息をついて言った。


「はぁー。受けられない事はないけど、ネクラちゃんはそう言うのに対して超絶センスと才能がないと思うんだよね」

「そう言うの、と申しますと?」


 何となく予想はついていたがネクラは死神をおずおずと見つめる。


「え、言ってもいいの?まずね、生前から運動神経がない。戦闘経験もなければ武道の心得もない、霊感もないし虚無くんみたいな特殊な能力もない」

「う、ううっ」


 死神の言葉が全て石の如く、ズシッズシッとネクラの体にのしかかる。

 ネクラはその言葉にの石に押しつぶされる錯覚に囚われてその場に倒れこんだ。

 だが死神の容赦のない追撃が彼女を襲う。


「それにネクラちゃんって基本は根暗で、ウジウジしてて弱虫で、根性とか多分ペラッペラでしょ。やるだけ無駄だと思うよ?」


 最後に疑問形で言葉を締めくくられて、あれだけ強い意志を持って死神に思いの丈を語ったネクラは、ものの見事に撃沈した。

 死神は椅子から立ち上がり、地面に心を滅多打ちにされて倒れ伏したネクラの前に屈みこんで言った。


「ネクラちゃんの長所は、後ろ向きで慌てたら面白いところだよ。だから元気だしな」

「フォローになってません……」

「情報収集も立派な仕事だし、輪廻ポイントも貯まるんだから、現状を変える必要はないと思うし」

「う、ううううううっ」


 ネクラは地面に顔を突っ伏しながら言葉を返した。


「死神サン。ちょっと言い過ぎ」

「虚無くんっ」


 虚無の声を認識したネクラが、ガバッッと顔を上げた。

 最近、虚無は頻繁にここへ訪れる。

 死神によるとあの真っ白な世界『死神空間』は無限に続いている空間で、ここへ来た魂は自由に使う事ができるらしい。


 死神補佐であるネクラは、最初に死神に与えられたこの空間(現・探偵事務所風の部屋)で死神の指示を待つと言う立場だが、死神や虚無の様な死神見習いはこの空間を自由に行き来し、好きに使用する事ができるのだ。


 特に虚無は決まった空間に留まる事はなく、常に仕事で飛び回っているか、それ以外の大半のトレーニングに費やしていたと聞く。

 しかし、彼は今日もここにいる。本人は仕事が終わったから寄っただけとの事だが、理由もなくわざわざここへ来る必要があるのだろうか。


 不思議に思いネクラは上体を起こし、目の前で屈んでいる死神の耳元で小声で言った。


「あの、虚無さんって最近よくここに来ますよね。何か理由があるのでしょうか」


 仕事のやり取りは死神同士が持つ端末で可能と聞いたし、虚無はこの死神が苦手らしく、仕事完了の報告すら端末を通じて報告していた。

 つまり、彼にはここに来る理由はないし、得な事もなにもないはずなのだ。

 その質問を受けて死神もネクラに耳打ちする。


「虚無くん、きっと小さい子供が好きだから、きっとネクラちゃんの事も構いたいんだよ」

「小さい子供!?私17歳ですよ。小さい子供じゃありません」


 死神の言葉を聞き、ネクラは思わず大声を上げてしまい、死神がうるさいと言いながら耳を抑えて彼女から離れる。


「いや、だってそれしか理由ないでしょ。どんくさい君の事が気になるんだよ。親心いや兄心?みたいなやつだね」


 死神はにこにことしながら虚無を見る。それとほぼ同時にネクラも彼を見る。


「私、小さい子供じゃないですよね。どんくさいなんて、思ってませんよね」


 ネクラは半ば懇願する様に聞いたが、虚無はしばらく無表情で無言のままネクラを見つめていたが、スッと視線を外した。

 その行動を見たネクラは確信する。彼は思っている。絶対自分の事を『どんくさい子供』と思っていると。


 基本は無口で無表情なくせにどうしてわかりやすい性格をしているんだ。そう思いながらネクラはがっくりとうな垂れた。


「でも、ネクラちゃんの気持ちが前向きなのはいい事。だから俺も前向きに検討して上げなくもない」

「え、本当ですか」


 ネクラがぎゅんっと音が付きそうな勢いで死神を見る。死神はお得意の胡散臭く微笑みで頷く。


「今すぐとはいかないけど、ネクラちゃんの想いに応えてあげられるかもなぁ」


 多分。と小さく聞こえたが、ネクラは十分嬉しかった。自分が情報収集以外で役に立てるの可能性があるのなら、どんな事でも挑戦したかった。


「いいのか。死神サン。そんな事言って」


 虚無が不服そうに言う。できもしない事を言ってネクラをぬか喜びさせるなと言う思いとあまり危険な事はさせるなと言う思いが込められた声色だった。


「いいの。ちょっと考える必要があるけど。だから、あの時のカラスのキーホルダー貸して」


 死神がネクラに向かって掌を差し出す。

 カラスのキーホルダー、それはネクラが初仕事の際に死神から貰ったものだ。

 あの時はネクラが悪霊の捜索中にずっとこの中に死神が潜んでいたが、ただのキーホルダーとなった今  でも、ネクラは気休めだがお守りとしてずっと持っていたのだ。


「これですか。何に使うんです?」


 ネクラはポケットに入っていたそれを取り出し、それを死神に渡す。


「ちょっとね。これがあればなんとかなるかなって思っただけ。ちょっと預かるよ」


 戸惑うネクラを他所に死神はキーホルダーをマントの中にしまう。

 そしてこんな事はどうでもいいと言うように、突如話を切り替える。


「そんな事より、ネクラちゃん。新しい仕事だよ」

「えっ、はっはいっ!」


 仕事、と言われてキーホルダーを気にしていたネクラは背筋を伸ばす。

 虚無も体を動かしたが、それを死神が制する。


「あ。虚無くんは別件があるからね。仕事内容は端末に送っておいたから。ネクラちゃんは俺とお仕事」

「はいっ」


 ネクラは元気よく答えたが、虚無は少しだけ不満の色を覗かせ、そして端末を確認した後、無言で扉を開いて消えて行った。

 それを面白そうに見送ってから死神が言った。


「俺たちも行こうか」

「はい。今回はどんなお仕事ですか」


 ネクラが聞くと死神は端末を取り出し、それをスイスイと操作する。


「今回は面白いとこに行けるかもよ」

「面白いところ……ってどこですか」


 ネクラが首を傾げると死神は彼女に向かってにっこりと笑い言った。


「俺の、現世でのバイト場所」

「えっ」


 ネクラは口をあんぐりと開けていた。

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