【小噺】死神散歩 : エピローグ代りの死神の思惑
俺は死神。特定の名前なんてない。
はぁー。やっぱり人間界はやっぱりいいねぇ。面白いものがたくさんある。
でも俺が今日ここに来たのはただ遊びに来たんじゃない。手土産を探しに来たのだ。
新しく俺の下へとやって来た魂、死神補佐のネクラちゃんを死神見習いである虚無くんに紹介したいんだけど、彼、自分は一人で活動できるし問題ない。そもそも興味がないって言うんだよね。
俺としては、才能ある虚無くんには立派な死神になって欲しいから、後輩指導的な力を養って欲しいわけ。
実際に死神になった時、自分の仕事と並行しながら、否が応でも自分の下へとやってきた魂の面倒を見なければならないし、今の内に誰かと行動を共にするっていう経験を必要最低限積んでもらわないと。
一応俺はあの子の上司で、戦い方も指導しているから師匠でもあるんだけど、全然敬ってくれないんだよね。別にいいけど。
でも、俺は彼を頷かせる奥の手を持っている。
死神は自分の下へ来た魂の全ての情報を知る事ができる。
生まれてから亡くなるまでどう過ごして来たか、いつどうやって、どんな理由で命を絶ったか。
あとは、生前の名前、生年月日に血液型、好きなものに嫌いもの……とにかく個人的な事全て。死神である俺には筒抜け。
そこで俺が考えた手は現世にも古来からある技『必殺・物で釣る』
え?全然必殺じゃないし、かっこわるいって?いいじゃん別に。
生前の虚無くんは無類の甘いもの好きでかわいいもの好き。つまりかわいくて甘いお菓子で彼を釣ればいいのだ。
俺たち死神も、死神補佐や見習いの立場の子たちも霊体だから食事をする必要がない。でも、食べる事ができないわけじゃない。
実際、人間界の食べ物を好んで食べる死神もいるぐらいだ。俺も、割かし好き。ジャンクフードって言うの?ポテトフライとか超好き。
元生者の子の立場からすると、生きるための行為から趣味のための行為に変わるだけ。
1回だけ虚無くんに現世で売ってる猫の形をしたケーキを買って帰ったら喜んでいたのを覚えてる。表情には出てなかったけど、拒否する素振りは微塵もなかったし。お礼も言ってくれたし。あの子も意外と素直だなぁって思った。
だから、今回は虚無くんの好きな甘いものとかわいいものを合体した『ぴよこケーキ』を買って虚無くんに贈呈しようと思う。
ひよこを『ぴよ』って表現するのかわいいよね。
色とりどりの丸いフォルムをした、つぶらな瞳で掌サイズのひよこが象られたケーキを奮発して5個セット。
ちょっと高くついたけど、デカい魚には食いついてもらわないと。
それに、今回虚無くんにお願いする仕事は彼にとって少し辛いものかもしれないし、そのお詫びも兼ねてるって事で。
お金?だから、バイトしてるんだって。その話はまたねって言ったでしょ。
ふう。人間から帰って来た。虚無くん、仕事終わってここに戻っている見たいだけど、どこにいるのかな。
もしかしてまた自主トレかな。真面目だねぇ、あの子も。
あ、噂をしたら見つけた。うわ、瞳が合っただけなのにすんごい嫌そうな顔した。
おーい。虚無くーん。お願いがあるんだよ。あとお土産もー!