第二章 第九話 距離を縮めるにはまずは口調から
お世話になっております。水無月です。あの、投稿してから気付いたのですが、どなたか★5の評価をしてくださっておられる……?(パニックで言葉遣いが変)うそ、うれしい……。
大変光栄です。この評価に恥じぬ様、もっと物語を楽しんで頂ける様に頑張ります。
ワープホールから抜け出た2人はまた白い空間を並んで歩いていた。
やはり2人の間には無言の時間が流れていたが、ネクラはどうもモヤモヤしており、ついに沈黙を破って先ほど疑問に思った事を聞いた。
「はい、あの。虚無さん」
「……なんだ」
「どうして、私から質問したとは言え過去を話してくれたんです?」
いくらネクラが質問したからとは言え、自分の能力の事のみならず過去まで語ってくれるとは思っていなかった。
虚無は基本は無口で聞いた事には答えてくれる程度だと思っていたため、そんなに詳細に自分のデリケートな話をしてくれるなど本当に信じられなかった。
何か理由があるのだろうか。それとも気まぐれなのだろうか。それがネクラは気になって仕方がなかった。
「俺は死神サンからお前の過去を聞いているからな。俺だけが個人情報を知るのは良くないと思ってな」
「そうなんですね……って、えっ。死神さん、私の過去を虚無さんに話したんですか」
「ああ」
虚無が頷く。
ネクラが詰め寄る。
「勝手に?私の許可なく?」
「ああ。『臨時とは言えバディの事は知っておかないとね』と言っていた」
「はあぁぁぁぁ」
その時の死神の姿がありありと想像でき、ネクラは歩みを止めることなく、頭を押さえて大きく溜息をついた。
私の過去を仕事仲間に共有する必要があるのであれば、それでいい。自分が死神補佐である以上、自ら命を絶った事は分かってしまうわけだし、この際過去が露呈してもいい。どうせ相手は全員死神だ。
だけど、せめて本人に確認して欲しい。と言うかしろよ。最初に個人情報がどうとか言ってなかったか。そんな事を思いながらネクラは頭を抱えながらげんなりとした。
隣で情緒が乱れまくっているネクラを見ても虚無はやはり無言だった。
そして、ネクラはしこたま悶絶した後、虚無をそっと見ながら遠慮しがちに呼びかけた。
「あの虚無さん」
「なんだ」
虚無はネクラの方を見ることなく答えた。
ネクラはその様子に言葉を引っ込めかけたが、その気持ちに負けまいと言葉を続ける。
「虚無さんは私と同い年なんですよね」
「……。ああ」
虚無は数秒間を開けて答えた。
「じっじゃあ、その、話す時に敬語じゃなくてもいいですか」
同い年とは言え、虚無はネクラにとっては先輩にあたる人物、本来ならばマナー違反で失礼な事かもしれない。
だが、今後もバディを組んで行動する事があるかもしれない。その可能性があるのであれば、もう少し虚無とバディとして距離を縮めたい、そう思ったのだ。
距離を縮めるためにどうすれば良いか友達がいた事がないネクラが必死で考えた結果、同い年である事を理由に敬語をなくそうと言う結論に至った。
虚無に提案してからのネクラの緊張は尋常ではなかった。動かない心臓がまた『感覚』で激しく動いている様な気がしてしかたがなかった。
緊張でブルブルと震えるネクラを見ながら、虚無はそっけなく返した。
「好きにしろ」
「え、ホントに!?ホントに良いんですかっ」
ネクラの顔が花が咲く様にパッと明るくなり、虚無がくどいと言いたげに眉間に皺を寄せる。
「ありがとうござ、じゃなくて。ありがとう虚無さん。あ、虚無くんのほうがいいかな」
「好きにしろ」
ネクラの独り言に近い問いかけに虚無は先ほどと同じ言葉で答えた。
白い空間を暫く歩き、突然ポツンと扉が現れた。鉄製の何の変哲もない扉だが、白い空間に扉だけ浮いているのはなんとも奇妙で違和感しかない光景である。
この扉がネクラの拠点であの探偵事務所風の部屋に繋がっているのだから驚きである。ネクラが扉を開ける死神が手を広げて2人を出迎えた。
「いやー。お帰り。二人ともお疲れ様」
死神は胡散臭さ全開の笑顔だった。そしてそれぞれを労う。
「虚無くんお疲れ様。初めて後輩と行動する経験はどうだったかな。良い勉強になったかな」
「別に」
虚無は死神に見下ろされそう言われたが、そっけなく答えた。死神はその様子を気にする様子もなく、今度はネクラに視線を向ける。
「ネクラちゃんもお疲れ様。頑張ったね。輪廻ポイントも貯まってるよ」
「いえ。私、今回は本当に何もしてないですし……」
ネクラは光の事を思い出し、しゅんとして俯いてしまう。
「そんな事ないよ。俺、ちゃんと見てたし」
「え、見てた?」
死神の言葉にネクラが顔を上げる。そこにはいつもの如く、にこにこと微笑む死神の姿があった。
「俺、一応君たちの上司だよ。張り付いて観察をしていたわけじゃないけど、自分の仕事をしながら君たちの事はちゃんと見てた。それにいざと言う時は助けないといけないし」
「それは、とてもありがたいです。でも最初に言ってくれればもう少し心強かったのに」
それはとても勝手で贅沢な発言かもしれないが、ネクラはそう言いながら死神に詰め寄った。
だが死神は笑みを浮かべたまま言う。
「君たちのポイントを貯めるためには君たちが自発的に行動しないと意味ないし、それにどんな仕事でも若い君たちなら乗り越えられるって信じてたよ。それがどんな仕事内容でもね」
死神はヘラヘラとしながらも最後に含みのある言い方をした気がして、ネクラは違和感を覚えた。
すると虚無がすかさず死神に言った。
「よく言うよ。死神サン。全部わかっててあの仕事俺にやらせただろ」
「えっ。えっ。全部わかってたって、どういう事?虚無くん」
ネクラが虚無と死神を交互に見ながら言うと虚無はため息を混じらせ、死神を半ば呆れた様子で軽く睨みながら言った。
「この人、俺が光にどう言う感情を持つかお見通しだったんだよ。悪霊化をした光にどう対処するか、感情に流されずちゃんと折檻できるかを確認したかったんじゃないか」
「そうなんですか。死神さん」
虚無の視線とネクラの視線を受けた死神は、動揺する事なくあっさりと白状した。
「別に、騙すつもりも虚無くんの心を弄ぶもりもなかったよ。ただ、今回みたいな子供が自ら命を絶ったり、悪霊化するケースは本当に稀だからね。子供対して思うところのある虚無くんには是非、一度今回仕事を経験してもらってどう行動するか見たかったと言う気持ちはあったよ。ネクラちゃんにも、こういう案件もあるよって知ってもらいたかった」
子供に対して思うところ、と言うのは恐らく虚無が実の弟に対して持つ愛情の事だろう。
ネクラがそう納得していると死神はさらに自分の思惑を白状する。
「今回のケースは稀だけど同じ様な案件はなくはない。悲しい子供の魂を目の前にした時、可哀そうだからできません。では困るし、死神を志す者の発言でもない。もし今回、虚無くんがそんな素振りを見せたら、見習いの資格を剥奪しようと思ってた」
死神が柔和な中に冷酷さが混じった声色で言ったため、ネクラは寒気を感じた。
時折見せるこの死神の冷酷さや厳しさにはいつも恐怖を覚えてしまう。
しかし、ネクラがそう思った次の瞬間、死神の声色はいつもの胡散臭く、のんびりとした口調に変わる。
「でも、今回の仕事を虚無くんは完遂した。これで君はまた真の死神に一歩近づいたと言う事になるね。おめでとう」
パチパチと死神はわざとらしく拍手をした。虚無はその発言が癇に障ったのかさらに死神を鋭く睨んだため、死神は苦笑いした。
「怖いなぁ。でも、一つだけ言っておくと、俺もあの子の悪霊化を望んでいたわけではないよ。確かに虚無くんに試練を与えるみたいな形になったけれど、できる事なら悪霊化は回避したかった。でもね、あの子の恨みは君たちと会った時点でもう限界だったんだよ。無自覚だったけどみたいだけど。だから、あの結果はなるべくしてなった」
死神が真面目な表情と声でそう言ったため、ネクラも虚無もそれ以上は何も言わず、鋭い視線を送る事もなかった。
「こういう経験を積んで、迷える魂に正しく、より良い導きをする事も俺ら死神の仕事。虚無くんも、もっと頑張って経験を積まないとね」
軽く笑う様に言った死神を虚無は無視して扉のある方へと向かう。
「あれ、虚無くんどこに行くの。まだ仕事入って来てないよ。ここにいればいいのに。寂しい真っ白な場所にいるよりかは気が紛れるんじゃないの」
漫画もあるよ。と微笑む死神を横目で見てからその傍を通り過ぎ、虚無は扉に手を掛け背を向けて言った。
「自主トレ、行ってくる。そっちの方が良い」
そしてバタンと音を立てながら扉を閉めた後、もう戻って来る気配はなかった。
死神はそんな様子を見送り、やれやれと肩をすくめる。
「虚無くんは本当に素っ気ないねぇ」
「虚無くんはきっと、心の底ではまだ光くんの事を引きずっているんですよ」
心配そうに虚無が出て行った扉を見つめていると、ネクラを横からのぞき込みながら死神が言った。
「さっきも一瞬気になったんだけど、ネクラちゃん、虚無くんに対してため口になった?」
「あ、はい。同い年みたいだし、距離を縮めるのにはまずは口調から改善した方が親しみやすくなるかなって。虚無も同意してくれましたし」
死神があまりにも不思議そうに見つめて来るのでネクラは戸惑う。
「ふーん」
そう言いながら死神はネクラをのぞき込むことをやめた。
その様子にネクラは疑問を持った。
「あの、なにかおかしいでしょうか」
ネクラが死神を見上げると死神はとんでもない発言をした。
「虚無くん、君と同い年じゃないよ?」
「え?」
その言葉を聞いたネクラは固まった。