第二章 第二話 バディ、それはコミュ障同士がなってはならないものなのである
私的には暗すぎる話はあまり好きではないので、コミカルとシリアスのメリハリをつけながら物語を書きたいと思っております。
こう、銀〇みたいな感じで……(ほど遠い事この上ない)
「バ、ババババババ、バディ!?」
バディそれは相棒。ボディそれは体。
ネクラは混乱していた。
唐突な死神の言葉にネクラが明らかに動揺し、壊れた機械の様にどもる。
そして虚無に何度目かのチラ見をしてから死神に必死の形相で言う。
「無理、無理です。死神さん。現世にはコミュ障と言う言葉が存在しているんです。ご存じですか!?」
「知ってるよ。コミュ障。コミュニケーション障害の略称でしょ。人と話したりするのが苦手な人。そうそう、丁度ネクラちゃんみたいなタイプの」
ケラケラと笑いながら言う死神にイラつきを覚えたネクラは、隣に座る死神のマントを掴んで揺らす。
そして、斜め向かいに座っている虚無に聞こえない程度の小声で怒りをぶつける。
「わかってるんじゃないですか。初対面とバディとか阿保ですか。バディって何かお分かりですか。相棒ですよ。あーいーぼーうー。信頼感、ダイジ!」
「そういうドラマ、現世にあったよね。チラッと見た事あるけど、面白いよね」
「話を逸らさないでください。もぉーっ」
必死の訴えをするネクラを死神は冗談でかわす。
そののらりくらりとした態度にネクラはじれったくなり、死神のマントから手を離し、そして頭を抱えた。
「いやいや。信頼感とか言うけどさ。あのドラマも性格の異なる2人がぶつかり合って徐々に絆を深めて行くじゃない。だから、ネクラちゃんも虚無君と少しずつ絆を深めて行けばいいんだよ」
「あれはドラマですぅ~」
死神の的外れなフォローにネクラは不満たっぷりの涙を流す。
悲しい事に、ネクラは俗に言う陰気なキャラクター略して陰キャだった。
生前から人と話すことが苦手で、会話に入る事もできないし、ましてや自分から話しかける事などは論外だった。
様々な場面でグループを組む時、中々自分から積極的に行動できず、いじめられていた時期を除いても常にあぶれてしまうタイプだった。
幾度となく聞いた言葉は『先生と一緒に組もうか』と『この子も入れてあげて』である。
そんな人間が会ったばかりの人物とバディなんて組むなんてとんでもない。相手に気を使いすぎて何も行動できなくなってしまう。
それにネクラが見るに虚無はかなりの無口だ。死神の様に失礼な態度ながらもグイグイくるタイプや、自分を引っ張っていく親分タイプの人とならまだ上手くやれそうな気がするが、残念なことに今回バディを組む予定の虚無は無口で感情が乏しい。表情を窺う事すらできない。
陰キャなネクラと無口な虚無その2人が同じ空間にいる時、辺りは静寂に包まれる未来しかなく、その地獄絵図にネクラは抱えた頭をより一層深く抱え込む。
「ネクラちゃん。なんかキャラ変わったね」
死神が真顔で言ったが、大きな悩みを抱えたネクラにはその声は届かなかった。
死神の言う通り、思い悩んで自ら命を絶ってここへ辿り着き、死神補佐の仕事を終えたネクラは、気持ちを抑え込んでウジウジとしてしまう性格から、自分の感情を表に出せる性格に変わりつつあった。
それは悪霊化をした一目優妃を目の当たりにし、自分の過去を振り返り、悩み、それを乗り越えたからなのか。
なににせよ、ウジウジされるよりは少しくらいうるさく不満をこぼす余裕がある方がこちらも気が楽だ。そう思った死神は自分の発言で百面相をするネクラを見て小さく微笑んだ。
「そんなに嫌かな」
「嫌、と言うより無理です」
眉を下げて不安そうに見るネクラを見て、死神は噴き出しそうになったが、なんとかそれを堪えて言った。
「そんな事言わないであげて。一応、虚無君の研修を兼ねているんだから」
「研修……?」
ネクラの動揺が少し治まる。
死神はネクラが落ち着いた事を確認して言った。
「そうそう。研修。虚無君、1人でお仕事はバッチリできるんだけど、誰かに指示を出すのは生前も死神見習いになった後も未経験らしいんだよね」
ね、虚無くん。と死神は呼びかけると虚無はようやく反応を示した。
「ああ」
やはり、彼は素っ気なかった。しかし、死神はその態度を気にする様子もなく続ける。
「いつか一人前の死神になった時、俺みたいに補佐や見習いの子の教育係にならないとダメなわけだし、その時のための大切な研修なんだ。だからネクラちゃん。協力してあげて」
死神にそう言われたが、ネクラもそう簡単に『はいそうですか』と頷く事はできない。
何しろ彼は挨拶と返事しかしていないため、為人がまったくもって見えてこない。
ただ、死神に対してタメ口を聞いているであろう事は先ほどの短い返事から予想できた。
「なにもこれからずっと虚無くんと組んでもらうとは言ってないよ。とりあえず、今からの仕事に同行してもらうだけでいいから。ネクラちゃん、死神補佐の仕事頑張るって言ってたじゃない。君の輪廻ポイントも貯まるんだよ。」
無理せずちょっとずつ虚無くんに慣れて行こう。
死神に諭され、ネクラはあまりわがままを言うのは良くない。
それに輪廻ポイントのためだ。ネクラはそう自分に言い聞かせ、意を決して頷いた。
「わかりました。わがまま言ってすみませんでした。私、虚無さんのお仕事に同行させて頂きます」
「よし。決まりだ。早速、行ってもらおう。虚無くん、準備はいいかな」
死神の言葉を受けて虚無は緩やかに立ち上がる。
「改めて、よろしくお願いしますね。虚無さん」
ネクラは勇気を出して虚無に声をかける。
「ああ」
この人は言葉と言う概念を理解しているのだろうか。少々無口過ぎるのではないか。
ネクラが悶々としていると、虚無は仕事に向かうために無言で歩きだした。
「ほら、ネクラちゃんも行かないと。置いていかれちゃうよ」
「え、あっ。きっ虚無さん。待ってください」
死神に声をかけられてネクラは自分が置いてけぼりにされているに気が付き、我に返って虚無を追いかけた。
「はーい。行ってらっしゃーい」
死神はそんな2人を笑顔で手を振り見送った。
死神に送り出されたあと、2人は真っ白な空間を並んで歩いていた。
ネクラは全く気が付いていなかったが、あの探偵事務所風の場所にはドアがあり、そこから出ると、この真っ白な空間が広がっていた。
ネクラはこの空間の光景に見覚えがあった。
「あの。この白い空間、私が最初にいた場所と似てるんですよね。虚無さんも最初はこの白い空間に来たんですか」
「ああ」
とりあえず適当に話題を振ってみたがやはり短い返答しかない。
あまりの塩対応にネクラはくじけそうになったが、こんな事でくじけてはいけないとさらに虚無に話しかける。
「模様替えとかにも対応しているみたいですし、不思議な場所だなって思って。この白い空間、何なんですかね。虚無さんご存知ですか」
「死神空間」
「えっ」
『ああ』以外の返答があったため、ネクラは勢いよく虚無を見る。
「……って死神サンが言ってた。亡くなった魂を留めるための空間」
「むううっ……」
虚無はそれだけ答え、また会話が途切れたしまったので、ネクラはがっくりと肩を落とした。
「き、虚無さん。お若そうですね。私同い年ぐらいに見えますが」
「享年17」
「あうっ」
『享年』と言う言葉を聞いて、ネクラの口から子犬の様な呻きが漏れる。
しまった。話題のチョイスを間違えた。失敗した。自分たちの様な事情を持つ人間にはデリケートすぎる話題だった。
これだから他人との会話に慣れていない陰キャはっ。とネクラは自分の頭を自分で小突いた。
「じ、じゃあ、やっぱり同い年ですね」
「ああ。今ならそうなるだろうな」
ネクラは取り繕うに言ったが、虚無は特に何も気にする様子もなく返答した。
やはり掴みどころのない人(厳密に言うと死神見習い)だなとネクラは感じていた。
だが、やはり同い年と言う事と、質問をすれば答えてくれると言う収穫はあった。
一歩前進。誰が何と言おうと一歩前進なのである。
と言うか何故、自分はこんなに必死になって話題作りをしているのだろう。慣れない事はするものではないな。とネクラが肩を落としていると、虚無が突然立ち止まり、そして言った。
「着いたぞ」
「ここは?」
どうやらここが目的地らしい。目の前には空間に裂け目が広がっており、その大きさは人が1人通れそうなほどだった。裂け目の先は紫色をしていてぐにゃぐにゃと空間がねじ曲がっており、それに不気味さを覚えたネクラは思わず後退する。
「これ、なんですか」
ネクラがビクビクしながら聞くと虚無は言った。
「ワープホールみたいなものだ。ここから目的地へ行く」
「ワープホール、これが?」
そう言われてネクラは改めてそのワープホールを見る。
やはり、不気味さしか感じない。目的地に行くと言う事はまさかここに入ると言う事か。そう勘付いたネクラの顔が青色に変わる。
「前はこんなの使いませんでしたよっ!?」
「それは死神サンと一緒だったからだろう。まだワープ能力を持たない見習いは皆これを使う」
「や、やっぱり、これに入るんですね」
「ああ」
ネクラが確認すると、虚無はまた短く答えた。
それを聞いたネクラが若干憂鬱になっていると、虚無がネクラに向かって手を差し伸べた。
「えっ。なんですか」
突然の虚無の行動に戸惑ったネクラは思わず彼の顔と手を交互に見つめる。
「手を繋ぐに決まってるだろ」
「はっ!?手を繋ぐ!?」
手を繋ぐ。そんな行為、幼稚園以来だ。ましてや異性と手を繋ぐなんて始めてだ。しかも初めて出会った人と手を繋ぐなど、ネクラにとってはハイレベルすぎだ。
先日、死神と抱き合った経験はあるが、あれは戦闘中の不可抗力だったので仕方がない。
だが今この瞬間、目の前に差し出されたこの手を握れと言うのはハードすぎる。
しかも初対面ではあまり気に留めなかったが、よく見たら地味にイケメンではないか。
そんな思いを巡らせながらネクラが立ちすくんでいると、いつまで経っても手を取ろうとしないネクラに痺れを切らしたのか、虚無の方から手を握られる。
「早くして。仕事に遅れる」
「あああああ、あの。べ、別に手をに繋ぐ必要はないのではっ」
突然手を握られ、プチパニックを起こしながらネクラが言うと虚無もそれに対してはっきり答える。
「だめだ。お前は、ただの死神補佐なんだから。手を繋がないと次元の波に流される」
「次元の波?」
虚無の真剣な声にネクラは冷静さを取り戻した。
「ワープホールは即座に色々な場所に行くことができる。それは時空間を曲げているからできる事。そのねじ曲がった時空間の圧に特別な耐性がないと、その波に流されて迷子になる。そうなったら、一生そこに閉じ込められる事になるぞ」
「そ、そうなんですね。すみません、私、勝手にテンパってしまって」
無口であるはずの虚無がこんなにも言葉を話すと言う事はとても重要な事なのだろう。ネクラはそう思い、勝手に慌てていた自分を恥じて謝った。
「別にいい。俺と手を繋いでいれば君が時空間の波に流される事はないから、安心していい」
虚無の言葉は抑揚がなく、淡々としていて表情もまったく変化がなかったが、雰囲気から恐らく自分を安心させてくれているのだと感じたネクラは微笑んだ。
最初はバディと言う言葉に惑わされた挙句、人付き合いが苦手な事からぶっきらぼうな態度の虚無に対しても、勝手に不安な気持ちを抱えてしまっていたけれど、彼は自分を一度も拒否する事はなく、質問をすればしっかり答えてくれる。
自分が思うほど虚無は気難しくはないのかもしれない。死神の言う通り、無理せずちょっとずつ虚無の事を知っていこう。
先だっての仕事で、人を見た目で判断してはいけないと思ったのにまたやってしまったと深く反省し、ネクラは素直な言葉を口にした。
「ありがとうございます。虚無さん」
ネクラは繋がれた手を強く握り返した。
「じゃあ、行くぞ」
「は、はい」
繋がれた手を強く引かれる。さすがにワープホールに入る瞬間はさすがに恐怖がぶり返して、ネクラは思わず瞳をつぶってしまう。
ワープホールに入った瞬間、強い風に体を引っ張られそうになった。それは長いレールを縦横無尽に猛スピードで走り回るジェットコースターの風圧に近かった。
これが時空間の圧。時の流れはこんなにも速く、次元を曲げるとこんなにも圧がかかるのか。ネクラは心の底から恐怖した。
しかし、ネクラがそっと瞳を開けると、それを物ともせず虚無はスイスイと涼しい顔で歩みを進める。そして2人の手はこの圧の中でも決して離れる事はなく、しっかりと繋がれたままだった。
その様子を見て、確かに虚無と手を繋いでいなければ吹き飛ばされていたのとネクラは思い、心の中で彼に感謝し、そして尊敬した。
しかし、それは時間にしてほんの一瞬の事だった。途端に周りの色がねじ曲がった紫色から眩い光に変わったかと思うと、次の瞬間あたりは高層マンションが立ち並ぶ住宅街へと姿を変えた。
「ほ、本当にワープした」
ネクラが辺りをキョロキョロと見渡すと、高層マンションの他に駐車場や公園、コンビニなどもあり、この辺りの住人であろう人々が車や自転車で忙しなく行き交っていた。
例によってネクラたちの姿は見えていない様だった。
それよりも驚いた事は今が昼間だと言う事。ネクラとしては初仕事を終えてから感覚的にはそんなに時間が経っていなかったと感じていたからだ。
「え、なんで昼間なんですかっ」
ネクラが思わず疑問を口にすると虚無が落ち着いた声で言う。
「俺たちがいるあの空間は時間の概念がないと死神サン教わらなかったか」
「教わりましたけど、私が仕事を終えたのは本当に、感覚的にはついさっきなんです」
そう言ってネクラは自分の行動を振り返る。
初仕事を終えた時は確かに夜だった。明確な時間は確認していないが、多分夜の9時は過ぎていたと思う、その後すぐに死神と共にあの空間に帰ってきて、一瞬で模様替えをして、漫画を5巻読み進めるぐらいの時間待たされて、虚無を紹介されて現在に至る。
百歩譲って日付が変わっていたとしても、次に訪れた時に昼間になっているなんと言う事があるのだろうか。
そんなことを思い、ネクラが頭を悩ませていると虚無が淡々とした物言いでその意識に割って入る。
「お前は最近まで生きていたんだから、あの空間に違和感を持って戸惑うのも仕方がない。それに現世の時間についてはワープホールで時空間を超えている影響も多少はあると思うから仕方のない事だ。慣れろ」
「う、はい。頑張ります」
『慣れろ』そう言われてしまうと、どうしようもない。なぜならば今後、死神補佐を続けて行く上ではそうするしかないのだから。
暫くは戸惑ってばかりだろうなと同時に、新人はつらいな。悲しい気持ちになりつつ、ネクラは気を取り直した。
「ここ、高級住宅街っぽいですよね。今回はここがお仕事先なんですか」
ネクラが虚無に尋ねると虚無は死神と同じ黒い端末を取り出し、それを確認していた。
「ああ。今、死神サンから仕事の詳細が送られて来た。確認するから、待て」
メールで仕事のやり取りをしていらっしゃる……まるでサラリーマンだな。ネクラはそう思いながら虚無の言葉を待つ。
「今回の仕事は少し厄介だな」
「厄介、と言うのは」
仕事を始める前からネガティブな言葉が飛び出た事にネクラは突如として不安になる。
眉を下げて自分を見つめるネクラを見つめ返して虚無が言う。
「今回の仕事は、自ら命を絶った上で悪霊になりかけの魂への対応だ」
「悪霊になりかけ?」
ネクラの疑問に虚無が淡々と説明をする。
「悪霊になりかけの魂は、基本的には悪霊と変わらず、現世に未練があり且つ誰かに恨みがある。だが、その恨みの力が弱い。人を恨み人間はいるが恨みを持つ事に戸惑いがある。そんな不安定な感情を持つ魂だ」
「相手を恨むかどうかを悩んでいるって事ですね」
ネクラが理解した事を簡潔に言うと虚無は頷いた。
「ああ」
「それで、その魂を探すことが私の仕事だと」
「ああ」
ネクラの確認に虚無は短く返答した。
「でも、前は学校で悪霊の行動範囲が限られていたから、探しやすかったですが、今回はこんなに広い住宅街にその魂がいるんですよね。ちょっと大変そうです……」
ネクラが露骨にしょんぼりとしていると、虚無が淡々と言う。
「前回と違って今回は俺も同行する。俺は見習いだからな。お前をサポートしながら自分の仕事もやるつもりだ。気に病む事はない」
「今回は私1人で行動しないと言う事ですか」
「そうなるな」
淡々とした肯定の言葉だったが、ネクラの心が急に軽くなる。
前回の様に1人で奔走しなくていいのだ。1人ではない、その事実があるだけで何と心強い事か。
あれほどバディを組む事をためらっていたくせに、いざ仕事をするとなった途端に1人は嫌だとは我ながら現金な奴だなとネクラは思った。
「それに今回の様な悪霊になりかけの魂の扱いが1番難しい。死神補佐になったばかりのお前では手に余るだろう」
「難しいとは具体的にどう言ったところがですか」
虚無は分かりやすく説明しようと考えているのか少し間を置いたのち答えた。
「悪霊になりかけの魂の恨みの感情はコップの中にギリギリに入っている水と同じだ」
「コップにギリギリの水……」
そう言われてネクラはその光景を想像し、今にも溢れそうであると言う事の比喩である事を理解した。
「あと少しでも恨む思いが強くなると悪霊化してしまう。逆に言えば今の状態で説得をすれば悪霊化はしない。俺たちが説得し、恨みを沈め、未練を断ち切る事が出来ればその魂は正しく導かれる。今回の魂は自ら命を絶っているから死神の下へ行く可能性がある」
つまりはこれ以上恨みが募りきる前に、その感情を沈める事ができれば悪霊が生まれる事はなく、それが最善の策であり、今回の仕事の最優先事項なのだとネクラは思った。
「その魂がどこの誰かと言うのは、もうわかっているんですか」
「ああ。近くにターゲットの霊体反応がある。行くぞ」
「はい」
ネクラが頷いた時、ガシャーンとけたたましい音が辺りに響き渡る。音がしたすぐ後にキラキラとした細かい何かがその場に降り注ぐ。
それは、ガラスの破片だった。
2人が立っているすぐ近くの高層マンションのガラスが割れたのだ。
音に反応し2人が見上げると、とあるマンションの10階あたりで続けて悲鳴が聞こえ、その騒動に気付いた辺りの人々が騒然とする。
「な、なんでしょうか」
ネクラが虚無を見ると彼は険しい顔をしていた。そしてそのままの表情でネクラを見て言った。
「急ぐぞ」
「は、はい」
その様子に一抹の不安を覚えつつ、ネクラはもの凄いスピードで走り出した虚無の後を追いかけた。