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死神補佐になりました : 来世のための少女の奮闘記  作者: 水無月 都
少女は相棒を得て小さな魂と向き合う
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第二章 第一話  同僚は死神『見習い』

第二章開幕です。

今回から新キャラが出ます。

どうぞお楽しみください。

「やぁ。お待たせ。ネクラちゃん。待たせてごめんね」


 ネクラが椅子に腰かけて本を読んでいると、背後から呑気な声がした。


「死神さん。どこに行ってたんですか」


 死神補佐の仕事を終え、ネクラはやはり真っ白い空間は殺風景で気が滅入りそうなため当初可能だと言われていた模様替えをして欲しい死神に申し出た。


 すると死神は二つ返事で了承し、どんなのがいいかと聞かれたが、ネクラには設計の知識もセンスもなかったため必死で考えていると見兼ねた死神が『お任せコースにする?』と聞いてきたためそれをお願いした。


 そしてその場でパチンと指を鳴らしたかと思うと、真っ白な場所からオフィスの応接間の様な場所に空間が書き換わったのだ。

本人曰く、『探偵事務所風』らしい。ネクラは探偵事務所に言った事がないのでよくわからなかったが、探偵が使うであろう木製の大きな机と黒い革製でキャスター付きの座り心地がよさそうな椅子。


 そしてそこから少し離れた位置にある場所が今、ネクラが腰をかけている応接間なのである。

 頑丈なガラス製の小さなテーブルとこの椅子も小ぶりではあるが黒革製が4つ並んでいる。

 そう言えばこう言う風な探偵事務所を漫画やアニメで見た様な気がするなとネクラは思った。

 部屋自由の壁が本棚になっており、まるで図書館の様にも思える。

 しかしその本棚には何故か全て漫画が敷き詰められていた。

 年代が古いものもあったが、ネクラの記憶に新しいものもあり、驚いた。

 一瞬、オタクである自分に気を遣って用意してくれたのかと思ったが、死神はヘラヘラとしながら


「最近、漫画にハマってるんだよね。人間ってホントこう言うの考えるの上手いよね」


 などと嬉々として言っていたので、一瞬でも感謝しそうになった自分をネクラは悔いた。

 この空間を探偵事務所風にしたのも今自分がハマっているジャンルだからとか。

 だが、好きに読んでもいいとの事だったのでお言葉に甘えて読ませてもらう事にした。

 この漫画たちをどこからどう買ったのかと言う疑問は残っていたが、ネクラは気にしない事にした。

 

 それから『模様替えついでに、君をを元のモサい姿に戻す事もできるけど、どうする』と意地悪く聞かれたので、今の小奇麗な姿を気に入っていたネクラはそれを丁重に断った。

 死神は自分のコーディネートを気に入った少女の様子が相当嬉しかったのか、満足そうに笑っていた。


 そして、模様替えをして暫くした後、ちょっと待ってねと姿を消してしまったのだ。

 1人残されたネクラは仕方なく漫画を読み進め、全10巻の漫画が5巻目に差し掛かった時、死神がけろりとして現れたのだ。


「ちょっとね。彼が帰って来たから、君に紹介しようと思って説得しに行ってたの。会う必要ないって意固地になってさ。やっと会う気になったみたい」

「彼……?」


 ネクラが首を傾げる。

 すると、大柄で長身の影に隠れていた影がゆっくりと現れる。


「どうも……」


 気だるげに、ぶっきらぼうの現れたのは、綺麗に整えられた真っ黒なショートヘアに真っ黒なコートとショートブーツを身に纏った全身真っ黒な少年がそこにいた。

 黒で埋め尽くされた全身に対して陶器の様に真っ白い肌をしており、ネクラは彼に対してミステリアスで綺麗な人だなと言う印象を持った。

 年の頃はネクラと同じくらいで身長も175cmぐらいかと推測でき、決して小柄ではないはずなのに、隣に立つ死神が大きすぎるため、小柄と錯覚してしまう。


「紹介するよ。ちらっと言った事あるかもだけど、俺が担当しているもう1人の子、虚無君です」

「よろしく」


 虚無君と呼ばれた少年が自分に向かって会釈をしたので、ネクラも慌てて漫画を置いて立ち上がり、それに倣う。


「こんにちは。こちらこそよそしくお願いします」


 頭を下げたネクラを虚無と呼ばれた少年は彼女を無言で見つめた後、興味がなさそうに視線をそらした。

あまりにも素っ気ないその態度に自分は何か失礼な態度を取っただろうかとネクラは不安に感じたと同時にふと思った。

 虚無って変な名前だな。

他人の名前にこう思うのは失礼なのかもしれないが、死神の下に来た魂は名前を剥奪されると言う言葉を思い出し、ネクラはまさかと思い言った。


「あの、まさかとは思いますけど、虚無さんのお名前を付けたのは、もしや……」


 恐る恐る確認する様に聞くと、死神は呆気らかんと答える。


「もちろん、俺だよ。虚無くんが名前を考えるの面倒くさいって言うから、俺が付けてあげたの。彼、ここに来た時からこんな無表情な上に何事にも無関心で無気力さ全開だったからさ。だから、虚無くん。ピッタリでしょ」

「死神さん、ネーミングセンスなさすぎですよ」

「ええー。的を得ていると思うけどなぁ」


 人を見たままで呼ぶのは名付けとは言わない。あだ名と言うのだ。ネクラはそう思った。


「虚無君、こちらはネクラちゃんだよ。君の後輩」

「死神さん、ネクラは私が名前を考え付くまでの仮のものなので、あまりその名前で呼ばないでらえますか」


 虚無に自分の事を紹介した死神にネクラが早口で抗議したが、彼はそれを無視して話を続ける。


「虚無君は君とは立場が少し違ってね。死神見習いとして俺の下で経験を積んでもらっているんだ」

「死神見習い?補佐とどう違うんですか」


 死神見習いと新しい単語が出て来たのでネクラが聞く。

 ああ、そこからか。と死神は言い、話が長くなりそうだからとネクラと虚無を応接間の椅子に座る様に促した。

 ネクラは戸惑う様に座り、虚無は何の反応を示す事なくただゆっくりとネクラの正面に腰かけた。

 そして最後に死神がネクラの右隣に腰を掛け、口を開いた。


「ここに来たきっかけは()()()()。意味、わかるね」

「はい」


 ネクラは頷く。つまりはこの虚無と言う少年も自ら命を絶ったと言う事だ。


「今の君の立場、死神補佐は生まれ変わるまでの輪廻ポイントを貯めてその魂が生まれ変わるまでのお付き合い。だから、与えられる仕事もごく簡単で単純だし、担当の死神が全力でサポートをする」

「はい」


 死神の説明に自分の役割を確認する様にネクラが頷く。


「対して、死神見習いは輪廻転生を望まない魂が、立派な死神になるために担当死神の下で修業を積む存在の事。死神ポイントを貯めてそれが満タンになったら、見事一人前の死神ってわけさ」


 死神ポイント、またポイントか。わかりやすく説明するためなのかもしれないがすごく気が抜けるなとネクラは思った。


「死神見習いの仕事は補佐とは違って超ハード。現世で言う研修生みたいなもので、実際の死神が扱う全ての仕事に携わってもらう。悪霊とも戦ってもらうよ。もちろん、一人前の担当死神がサポートするけど、仕事に加えて死神になるための訓練もしてもらう」

「訓練、死神になるのに訓練があるんですか」


 ネクラが聞くと死神は何を当たり前の事を言わせるのだと言った様子で目を見開いて言った。


「あたりまえじゃない。普通の人間は戦闘経験なんてないでしょう。戦うセンスもない見習いくんたちを、なんの支援もなしに危険な場所に放り込まないよ。まずは仕事場所で死神の戦い方を近くで見てもらった後、担当死神を相手に模擬戦。組手みたいな事をして、戦い方を学んでもらう。模擬戦は、ほぼ毎日行ってもらうよ」

「あわわ。なんか大変そうですね」

  

 補佐と見習で随分と扱いが違う。見習いは本当に本格的に死神の仕事に携わるのだ。

 もし、自分が同じ事をやれと言われても絶対にできない。

 自分死神見習いになった際の末路を想像してしまい、ネクラは震えた。

 

 そして死神は、最初の挨拶以降、一言も言葉を発する事なくただ無言を貫く虚無の肩をポンポンと叩きながら言った。


「で。この虚無くん、すごく優秀でさぁ。物分かりが良いって言うか、戦闘経験ないって言ってたのに、ちょっと戦い方教えただけで即戦力になったし、爆速で死神ポイント貯めて死神の鎌を持つ事まで許されたんだから。俺、何人かの死神見習いの教育係をして来たけど、虚無君見たいな子は初めてかも。鼻が高いよ」


 死神が良い子だね、と虚無の頭を撫でる。

 虚無は無表情でそれを受け入れ、そして髪がボサボサになった。

 この虚無と言う少年は厳しい訓練に耐えながらも、あの死神がここまで褒めるほどの実績があるのかと思いネクラは感心していた。

 そして、ネクラが虚無に尊敬の眼差しを向けていると、突然真面目なトーンで死神が言った。


「まあでも、虚無くんの場合は元々特殊能力があったし、素質はあったのかもね」


『特殊能力』死神がそう口にした時、今まで無言で何事にも無反応だった虚無の眉間と肩がピクリと動いた。

 ネクラはそれを見逃さなかったが、死神のウザすぎる態度が癇に障ったのだろうと思い特に気に留めなかった。


「でも、驚きました。元人間でも死神になれるものなんですね」

「え。なに、ネクラちゃんも見習いになりたいの?興味あるんなら教えてあげるよ」

 

 何気なくネクラが言うと死神は楽しそうにそう言いながらネクラに詰め寄った。


「なりたくは、ないですけど。興味はあります」


 ネクラがぎこちなく答えると死神は『冗談だよ』と笑った後、説明をする。


「まずは結論から。元人間でも死神になれる。と言うか見習いを希望した以上なるしかない」

「なるしかない?」


 それは一体どういう意味なのかネクラが問いかけるよりも前に、死神が語り出す。


「死神の下へ辿り着いた魂の多くは死神補佐の道を選ぶ。生まれ変わるためにその仕事を全うし、いつかは死神の下を離れる。正しい資格を得て現世に再び戻るんだ」

「はい」


 それは理解している。それが自分の今の立場なのだからと、ネクラは頷いた。


「でも、なかには輪廻転生を望まない魂もいる」


『輪廻転生を望まない魂』ネクラは先ほどもその言葉にも引っかかりを覚えていた。

 生まれ変わる事を望まない。そんな事があるのだろうか。


「あの、輪廻転生を望まないとはどう言う意味ですか」

 

 素直な疑問を投げかけると、死神はきっぱりと言う。


「そのままの意味。二度と現世に戻りたくないって思う魂もあるって事。これに関してはそれぞれの魂が抱える事情や価値観が大きく関わるから、ネクちゃんがそれを理解できないのなら、これを理解するのは一生無理」

「そ、そうですか。すみません。また話の腰を折ってしまったみたいで」


 一生無理と強い否定をされ、ネクラは苦笑いで言った。


「輪廻転生を望まない魂なんて極稀だけどね。現世にはどうしても戻りたくないと願う魂に与えられるのは2択。このまま死神見習いとして修業し、死神になるか。それとも黄泉の国へと行くか」

「黄泉の国って、悪霊を閉じ込めている場所では!?」


 ネクラの脳裏に先だって戦った一目優妃の姿が脳裏によぎる。

 あんな恐ろしい霊が跋扈する世界に送られるなど、とんでもない。


「そうだね。通常は悪霊たちが悪さができない様に閉じ込める場所だ。でも、俺たち死神としても生まれ変わりたくはないけど死神にもなりたくない。では困る。いつまでも魂を預かっておけないからね」

「なるほど。なるしかないとはそう言う意味ですか」

「そう言われた魂は当然、死神見習いになる事を選択する。でも残念なことに大概の魂は根性なしとか、素質がなさ過ぎて心がバッキバキになってその道を諦めるんだけどね」


 死神がせっかく面倒をみてあげたのにと言いながらやれやれと首を振る。


「え、諦めたらどうなるんですか。まさか、黄泉の国に!?」


 ネクラが頬に手を当てて青ざめていると死神が呆れた視線をと彼女に向けて言った。


「話は最後まで聞きなよ。死後の世界はそこまで無慈悲じゃない。見習いがダメなら補佐になる様に説得しておとなしく生まれ変わってもらってるよ」


 でも、その救済措置すら拒否する奴らは知らないけど。と腹黒い笑みを浮かべたので、ネクラは得も言われぬ恐怖を感じて頬を引きつらせた。


「では、死神の中には元人間の死神がいると言う事ですね」


 気を取り直してネクラはチラリと虚無の様子を窺いながら聞いた。

 彼はただ、2人の会話を黙って聞いていた。


「いるよ。本当に稀だけどね。そもそも見習いの修行に耐えられる魂の方が珍しいわけだし。でも、人間出身の死神の方が亡くなった魂の気持ちが分かりやすいんじゃないかな。人間の時の記憶はそのままなんだし。たまにウジウジしがちなネクラちゃんとは相性がいいかも。ねぇ、虚無君」

「別に」


 死神が笑顔で呼びかけるも彼は興味がないと言った様子で目を閉じ、短く答えただけだった。

 人間だった時の記憶を残したまま死神になって仕事をする。それは一体どう言う気持ちなのか。

 ネクラは再び虚無に視線を送ったが、彼がこちらを見る事はなかった。


「俺は純粋な死神だよ。だから優秀。悪霊折檻も教育係でもなんでもこなすよ」


 死神がにこにことしながら、もう十八番になりつつある自画自賛をしたが、ネクラはまたこれかとうざったそうに、虚無は我関せずと言った様子で黙っていた。

 そして、話が一区切りしたかと思った時、唐突に何か忘れている様なと言いだし、顎に手を当てながら、時折うんうんと考え込みながら眉間に皺をよせ、そしてついにひらめいたのか、死神が大きく声を上げた


「あーーーーーーっ。思い出した」

「うひぁっ」


 突然大きな声を出されたネクラの体が驚きでエビの様にビクッと震えた。


「そうだ、余計な話しをしてたら大事な事忘れるところだった。と言うかこれが本題だった」

「本題?」


 ネクラが動くはずのない心臓を『感覚』でドキドキさせながら聞くと死神はさらっと言った。


「今からの仕事、ネクラちゃんと虚無くんにバディを組んでもらいたくて」

「え」


 ネクラは勢いよく虚無を見た。彼は未だに瞳を閉じていた。多分、寝てはいない。

 そして今度は死神の方を勢いよく見て、にこにこと笑う様子を確認し、それが冗談ではないと悟り、今度はネクラが絶叫した。


「えーーーーーーーーーっ」


 それは死神が顔をしかめて耳を塞ぐほどに大音量だったが、虚無はやはり瞳を閉じたまま無反応だった。


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