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死神補佐になりました : 来世のための少女の奮闘記  作者: 水無月 都
第八章 少女は悩み、苦しみ、そして決断する
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第八話第 十四話 転生の扉の前で : 別れの言葉 死神の場合

この度もお読み頂きまして誠にありがとうございます。


明日、エピローグを投稿したいと思いますので、もう少しお付き合い頂ければ幸いです。


物語の始めと終わりって創り上げるのが難しいですね……。趣味とは言え才能が欲しいです。


本日もどうぞよろしくお願いいたします。

「よし、最後は俺だよ。ネクラちゃん」


 死神がいつもの様にニコニコしながらネクラの前に立った。

 ネクラは丁寧に頭を下げ、そして言った。


「あの。死神さん、この機会を頂いてありがとうございました」


「別にいいよ。こんな事で君が転生を決断できるなら。でも無意味な事するね。前にも言ったけど、ここでの経験も、皆の言葉もこの扉をくぐれば全て忘れるのに」


 死神は手をヒラヒラとさせながら気だるそうに言った。ネクラはそれに対してにこやかに笑って返した。


「少なくとも、()()()に取っては無意味じゃないです」

「ふぅん。あっそ。じゃあ、無駄じゃないなら俺からも何か言葉を送らせてもらおうかな」


 死神が姿勢を正し、改めてネクラに向き直る。

 急にしゃんとした態度をする死神にネクラの背筋も伸びる。


「って言ってもなぁ。大体の事は虚無くんたちが言っちゃったし、気の利いた言葉何て俺には無理だから何を話したものかねぇ」


 うーむ。と死神は考え込んで、そしてパッと表情を明るくして言った。


「思い出話でもする?」

「え、えらく唐突ですね」


 ネクラが戸惑いながら苦笑いで返すが、死神は構う事なく話を進める。


「最初に君が俺のところに来た時は正直戸惑ったなぁ。見るからに根暗ですぐウジウジしそうな子だなって思ったらホントにその通りだったし。正直ちょっとイラッとしちゃった。俺が一番苦手なタイプだったから」


 にこやかに苦情じみた事を言われ、尚且つそれはネクラ自信も自覚がある事だったため、それをこの状況で指摘され、しんみりとしていたはずの気持ちがすっかりと吹き飛んでしまったネクラは顔を引きつらせた。


「うう、それについては申し訳ないと思っていますが、それを今この状況でいいますか」

「言うよ。俺は正直だから。それにホントの事でしょ」

「っうぐぅ」


 真顔で、しかも食い気味で返されてネクラは一瞬返す言葉が見つからなかった。言い返す事ができずにブルブルと震えるネクラに追い打ちをかける様に死神は呆れ顔で続ける。


「まあ、補佐になる魂で明るい子や前向きな子なんてあんまりいないけどね。その中でもネクラちゃんは群を抜いて根暗だったよ。今まで俺が教育した中で1番って言っても過言じゃないかも」


 呆れた様子だった死神はなにが面白いのか、最後にはケラケラと笑って言ったので、さすがにネクラもカチンと来た。


何故、最後の最後でこんなにバカにされなければならないのか。それがどうしても納得できず、段々と腹が立って来たネクラは、眉をキッと吊り上げ頬を膨らませながら反論した。


「そ、それなら私も正直に言わせてもらいますが、死神さんは出会った時からデリカシーがなくてド直球であえて空気を読まないところに振り回されて、すごくしんどかったです」


 頑張って悪口で返してみたが、どうも子供じみた言い方と内容になってしまい、ネクラ自分自身の行動が恥ずかしくなってきた。


 勢いよく捲し立てて置きながら急に静かになったネクラをみて死神は笑う。


「あははは。ネクラちゃんも言うねぇ。それぐらいの威勢の良さを転生先でも発揮してもらいたいなぁ」


 ネクラの言葉に気を悪くした様子もなく、ケラケラと笑う死神を不思議に思ったネクラは恐る恐る聞く。

 

「お、怒らないんですか」

「え、自分で言っておきながら自分で反省してるわけ?」


 オドオドとするネクラに死神は驚いて聞き、それにネクラが頷けば死神はムッとした表情で腕組みをした。


「失礼だなぁ。別にあんな事言われたぐらいで怒らないよ。それにネクラちゃんからの抗議なんて小鳥のささやきと同じだよ」

「こ、小鳥のささやき……」


 つまりは気にならない。痛くもかゆくもないと言う事か。精一杯の反論を小鳥のささやきと同列に置かれ、ネクラは少しだけショックを受けた。


「どちらかって言うとあの程度で怒る器だと思われていた方が腹立たしいよ」

「ぴやっ」


 にこっとした笑顔の奥に何か圧を感じ、ネクラは変な悲鳴を上げてしまった。死神の地雷が何なのかがさっぱりわからない。


 ぷるぷるとネクラは震えていると死神がふぅと息を吐いて言った。


「ま、余興はこれぐらいにして……」

「今までのは余興だったんですね」


 てっきり本題だと思っていたネクラはまた自分は死神に遊ばれていたんだなと察し、唐突に疲労感を覚えた。


 心労モード全開なネクラに対し、死神は腕組みをやめて『ん、んんっ』と喉を鳴らした後、今までの様に間が抜けたヘラヘラじた口調ではなく、真面目な表情と声で言った。


「君は後ろ向きながらも今日この瞬間まで進んできた。誰かも言ったけど、君は頑張れば前に進める子だ」

「死神さん……」


 先ほどまでとは全く異なる、真剣な眼差しを送られ、ネクラは胸の奥に切なさとむず痒さが入り混じった奇妙な感情を覚える。


「ま、生きて頑張ればなんとかなるなんて、そんなの大概の人間がそうなんだけどね。ただ、人間には『心』があるから状況によっては頑張れなくなっちゃうんだろうけど」


 死神は肩をすくめて言った。自分の方をチラリと見たので、おそらく自分の事を含めて言っているのだろうと察したネクラは気まずそうにその身を小さくした。


「そう、ですね。心が弱い人間は他人の感情と自分の感情に押しつぶされてしまうのかもしれません」


 自分の過去を振り返り、しゅんとしてしまうネクラに死神はけろっとして言った。


「別にそれが悪いって言っているわけじゃないよ。頑張れなくなるまで追いこむ環境も悪いわけだし。ネクラちゃんは頑張れる子なんだから、次は君の頑張りが実る様な環境に恵まれるといいねって言う話」

「えっ」


 滅多にない死神からの励ましの言葉にネクラは驚き、瞳を見開いて死神を見上げる。死神は口元を緩ませ、柔らかく笑った。


「何、その反応。俺だって部下に励ましの言葉ぐらい言えるよ。俺は自分の気持ちに正直なだけ。常に嫌味を言っている訳じゃないんだよ」


 今までだってそうだったでしょう。と死神に言われ思い返してみれば、確かに死神は良くも悪くも本当の事をはっきり口にしているだけで、ネクラを貶めようとした事は一度もない。


 何か申し出をすれば頭から否定するのではなく、きっちりと取り合ってくれるし。可能な範囲でネクラ望みに応えてくれていた。


 正直すぎて嫌味なところが目立つが、面倒見は良かったのかもしれない。


「そうですね。そうでした」


 ネクラが今までの事を噛みしめて笑えば死神は『そうだよ』と笑顔で返した。そしてまたしっかりとネクラを見据えて言う。


「君は転生先でも悩み苦しみ、後悔をする事もあるだろう。でも、酷な事を言うけどそれも人生なんだ。だから、何とか生きなさい」

「はい」


 もう命を粗末にするなと言わんばかりの言葉にネクラも今度はしっかりと生き抜きこうと決意し、しっかりと頷いた。


「こんな事を言っても、君は全て忘れてしまうから意味がないかもしれないけど、君が言う様に、()()()の力になれるなら、こう言おう」


 死神が一呼吸置き、ネクラに緊張が走る。


「どうか、良い人生を。ネクラちゃん」


 死神からの以外な言葉にネクラの胸がギュッと締め付けられる。鼻の奥がツンとし、泣きそうになってしまう。が視線を死神の後ろへ向ければ、こちらを見つめる柴、カトレア、鐵、そして虚無の姿が見えた。


「せんぱーい!俺との約束、忘れないでくださいね!」

「これからが始まりよ。今は自分を信じて進みなさい」

「さようなら。ネクラさん。君の来世での幸せを心から祈るよ」

「じゃあな。お前と出会えてよかったよ」


半泣きの柴、慈愛に満ちた笑みのカトレア、穏やかな表情の鐵、そしていつもは無表情ながら今に限ってはネクラを見守る様な暖かい笑みを浮かべる虚無。


それぞれが各々の想いを抱えながら最後の言葉を送り、手を振っていた。


 その光景を見たネクラの体が痺れ、視界が歪む。震える唇を噛んで、言葉を紡げない代わりに力いっぱい手を振り返す。


そして、死神が優しい声で言った。


「さ、もう行きな。これ以上こんな事を続けて一番つらくなるのは君だろ。決意が揺るがない内に早く」

「……はい」


 死神に言われ、ネクラはゆっくりと頷いたが、死神の言う通り既に決意は揺らぎ始めていた。


 しかし、せっかくここまで頑張ってきたのだし、皆にも送り出してもらえる様にしてもらったのだ。ここで止まる訳には行かない。


 ネクラは不安と迷いを首を勢いよく左右に振って払いのけ、パンッと自分の頬を叩いて気合いを入れる。


 そして転生の扉に向かおうとして、ふと何かを思い出し、動きを止めた。


「あ、そうだコレ」


 ネクラはポケットに手を突っ込んであるものを握りしめ、それを死神に差し出した。死神は首を傾げながらもそれを受け取る。ころんと死神の手の中に転がったのはカラスのキーホルダーだった。


 それは戦う力を持たないネクラが補佐の仕事で少しでも死神たちの役に立ちたいと申し出た際に死神から与えられたもの。


 死神の力が込められており、1日1回だけ死神と同等の力が使えると言う限定条件の下、ネクラが随分と助けられたものだ。


 きっちりと使いこなせたかはわからないが、これがあったからこそ助かった場面は数えきれないほどある。

 死神に与えられたこのキーホルダーは補佐として活動してきたネクラに取っては思い出深く、感謝しても仕切れないものだった。


 手の中のキーホルダーを見た死神の瞳が見開かれ、ネクラは切なげにはにかむ。


「お返しします。私にはもう必要のないものですから」

「うん。そうだね」


 死神は素っ気ない言葉で返しながらもキーホルダーをぎゅっと握りしめて改めてネクラ微笑みかける。ネクラはぺこりと頭を下げて今度こそ死神たちに背を向け、転生の扉に向き直る。


ふっと浅く息を吐いて、ネクラは扉を開けた。真っ白い光が視界を塞ぎ、瞳が眩んで思わず後退しそうになったが、何とか踏ん張って足を前に進める。


 背後で見守る死神たちはもうネクラに声をかける事はなかったが、皆の視線はしっかりと感じていた。


 ネクラは振り返りそうになったが、その衝動をぐっと抑えた。振り返れば決心が揺らぎそうだからだ。


 もっと皆の姿を瞳に焼き付けて置けばよかったかな。そんな寂しい思いを抱えながらも、ネクラは頬に伝う涙を拭う事なく、扉の奥へ進み、そして光の中へ姿を消した。


 ネクラの姿が見えなくなり、扉はひとりでにパタンと閉まり、もう開く事はなかった。


「君に、明るい未来と幸福が訪れます様に」


 死神はキーホルダーを握りしめて小さくそう呟いた。


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