第二章 プロローグ とある小さな魂の悲しみ
また聞こえる、お母さんが泣いている。
また聞こえる、お母さんが怒っている。
また、お母さんが僕を叩く。
何度も、何度も泣き叫びながら、怒りをぶつける様に僕を強く叩き続ける。
痛い、痛い、痛い。
苦しい、苦しい、苦しい。
叩かれるのは痛いし、苦しい。
でも、お母さんが僕を見て泣いて、苦しんでいる姿を見るのはもっと苦しい。
僕がいなくなれば、お母さんは笑ってくれるかな。
僕がいなくなれば、お母さんは幸せになれるのかな。
今、お母さんはいない。男の人のところに行っている。
僕は頑張ってベランダの鍵を開ける。
おもちゃ箱を持ってきた。これで登れるかな。あの手すりに届けばなんとかなるかな。
僕はおもちゃ箱をひっくり返してそれにのぼる。
やった、手が手すりに届いた。
手すりを使い、なんとかよじ登り、下を見る地面が見えて、人も車もいっぱい通っていた。
人も車も、遠くから見ると小さいんだなぁ。もっと、見たいなぁ。
僕はそのまま、体を地面に向かって傾ける。
下にいる人が、僕を見ている。慌てている人もいる。
みんな、お母さんを責めないであげて。
そう思いながら、僕は体を手すりの向こうに傾けた。
風が、とっても気持ち良かった。