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死神補佐になりました : 来世のための少女の奮闘記  作者: 水無月 都
第八章 少女は悩み、苦しみ、そして決断する
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第八章 第十話 固めた決意、決めた覚悟

この度もお読み頂きまして誠にありがとうございます。


活動報告にも記載したのですが、このお話のデータが全て吹っ飛びまして、昨日から必死に記憶を辿って書き直しました。

ショックが大きすぎて立ち直るのに時間を要しました。なんでこう言うと聞き限ってコピーをおこたったんでしょうか。いつもしてるのに(血涙)


爆速で書き直したの話がおおざっぱになっていたらすみません……。また修正するかもしれません。


その代わり、昨日は新作を(苦し紛れに)投稿しました。よろしければ合わせてお楽しみいただけますと幸いです。暫くは同時連載を頑張りたいと思います。


本日もどうそよろしくお願いいたします。


 ネクラはオドオドとする事をやめ、今までで一番強い光をその瞳に宿してその決意を口にした。


 その態度に死神は興味深そうに笑みを浮かべてネクラの言葉を待っていた。


「私、転生します」


 はっきりと紡がれたその言葉に死神は笑みを崩さず、それでいてその感情が読み取れない表情で問いかける。


「へぇ。突然決断するなんてどう言う心境の変化なのかな」

「よく考えてみたら、私の道はそれしかないと思って」


 強がるように弱々しく微笑むネクラを見た死神からスッと笑みが消え、無表情に変わる。突如雰囲気が変わった死神にビクリとしながらもネクラは死神の様子を窺う。


「それは妥協って事でいいのかな」


 抑揚のない冷たい声で聞かれ、ネクラはひゅっと喉を鳴らしたが、唾を飲み込み冷や汗と少しの恐怖を全身に感じながらも答える。


「妥協と言う表現には少し語弊があります。きちんと考えた上で、私は転生を決断したんです……きれいさっぱり迷いがなくなったかと聞かれると、答えに困りますが」


 でも、とネクラは一呼吸置いてから続けた。


「きっかけはさっきのお父さんの言葉です」

「君の父親の言葉?」


 死神はきょとんとして首を傾げる。ネクラはこくりと頷いてその胸の内を語る。


「お母さんが私がいなくなった事に耐えられないって泣いた時、前を向くしかないっていってましたよね。あれが、すごく身に染みるなぁって思ったんです」

「ええっ!?そんなのわりと単純で当たり前の事でしょ。今更そんな事で決心がついたって事?ホントに?」


 死神が珍しく心底驚いた表情でネクラを見つめる。しかし、ネクラはとても穏やかな表情を浮かべて言った。


「はい。自分でも驚きです。こんな単純な心理にどうして辿り着けなかったのかなぁって」


 恥ずかしそうに頬を掻くネクラを見ながら死神は詰め寄った。


「いやいや、君、今までぜんっぜん前向きじゃなかったよね。何だったら数分前までもの凄く後ろ向きだったじゃん。気持ちどころか性格が変わりすぎだよ。ヤケクソになったとしか思えないんだけど」


 本当に驚いて疑問に思っているのか、死神は左手を自分の顔の前でブンブンと左右に振りながら早口でまくし立てる。


「や、ヤケクソじゃないです!確かにちょっとだけわだかまりはありますが、その言葉を聞いてちゃんと考えて決断しました」


 ネクラは胸のあたりで握りこぶしを作り死神に信じてもらおうと必死に思いを伝える。

 あまりにも必死な表情をしながら信じて欲しいと詰め寄って来るネクラを見て、さすがに疑う気持ちが和らいだのか死神はいつもの様に落ち着いた雰囲気に戻る。


「そう。ちゃんと考えたんだ。ならいいけど」


 素っ気なく言う死神にネクラは決断の理由をポツポツと語り出した。


「お父さんの私に決断させたのは言葉だけじゃないんですよ。カトレアさんの『悩む事は真剣に物事を考えている証拠』と言う言葉で悩む事は悪い事ではないって心が軽くなりました。私が極端に焦らなかったのはカトレアさんのおかげです」

「へぇ。あいつがそんな事を言ったんだ」


 死神はカトレアの言動が意外だったのか、瞳を大きく開いて言った。

 ネクラもそんな死神の反応に驚き、つい話を逸らしてしまう。


「そんなに意外ですか」

「うん。めっちゃ意外。あいつ、割と非常なところがあるからなぁ。死神としては当然だから、俺としては問題ないと思うけど。きっとネクラちゃんが素直で単純な子だから気に入ってたのかな。君って後向きでイライラするとこもあるけど、物分かりだけはいいし。あれだ。人の意見に流されるタイプ」


 独自の推理を披露する死神をジトリと見ながらネクラは少し不満げな反応をした。


「それ、褒めてます?貶してます?」


 絶対自分をバカにしている。そう確信してネクラは死神を睨んだが、死神はいつもの通り、笑顔全開で平然と本音を返した。


「え、両方かな」

「うわ、正直……」


 相変わらずの悪びれない死神の言葉と態度にネクラは怒りを通り越して引いた。

 もう少し詰め寄りたいと思ったが、これ以上話が逸れるのは良くないため、ネクラは不満を抱きつつも話を戻す。


「それと、柴くんの『原点に返って考える』って言うアドバイスもすごくためになりました」

「あー。あの子ね。チャラくて犬っぽいみための割にはしっかりとした考えを持ってるよね、彼」


 死神は感心する様に頷いていた。一方、ネクラは現世で小遣い稼ぎをする死神の姿『篠上黒人』の姿を思い浮かべながら思った。


 柴がチャラいならあなたも十分チャラ男ですよ、と。ただそれを口にしてものらりくらりな反応しか帰って来ないだろうし、また話が脱線しそうなので寸前まで出ていた言葉を引っ込めた。


「で、決断で来たって事はネクラちゃんは原点に返れたって事?」


 微笑みながらのんびりとした口調で聞いて来た死神にネクラは数秒考えた後にぎこちなく頷いた。



「そう、ですね。自分は何のために死神補佐になったのか。最初に死神さんと出会った時、転生の資格がないって言われた時にどうしてショックを受けたのかよく考えてみたんです」

「うん」


 歯切れが悪く、自信がなさそうに言葉を紡ぐネクラに死神は真剣な表情で相槌を打ち、続く言葉を待つ。


 ネクラはすっと息を吸い、それをゆっくり吐いた。


「やっぱり、私は人生をやり直したいって気持ちが強いんだなって思いました。きっと華さんと同じです。私は現世で人間として、幸せになりたいんです」


 今度こそ幸せになりたい、誰かに認められたい。その願いを胸に転生して行った華の姿が頭を過る。


 努力家な彼女は補佐となっても懸命に努力を重ね、天性の資格を掴み取った彼女の末路はとても悲しいものだった。


 彼女の末路を目の当たりにしたからこそ、ネクラは期待を抱いていた転生に恐怖を感じる様になってしまった。


 しかし、それでもやはり新しい人生を歩みたいと言う思いが根底にあると自覚した。今死神補佐は名前以外の生前記憶を全て有している。


 そのため、魂としては生前と変わらない存在なのだ。いつまでも過去の自分でいては活路は開けない。

過去の自分の魂に縋ったままではいつまで経っても『ネクラ』なのだ。


 補佐になって色々な経験を積んで、なんとなく自分に変化がある事は自覚しているがそれでも、その変化が死神になる事に繋がるものかと考えた時、それは違うと言う結論に至った。


「やり直したいって言う感情はやっぱり命を軽く見ていると思われるかもしれませんが」


 ネクラは後ろめたいのかモジモジとしながら言葉を濁す。


「うん。まあ……やり直しって表現してる時点で人生を軽視してるなぁとは思わなくはないけど」


 死神はネクラを気遣う事なくはっきりと厳しい言葉を突きつけ、それが刺さったネクラの心が曇る。だが、死神は言葉を続ける。


「そう言う考えもいいんじゃない。俺の価値観は死神としてのものだから、人間の君とは齟齬そごがあるのは仕方がない。それに、転生先で自分の望む人生を掴み取ればいいだけだからね。それが『やり直す』って事でしょ」


 ネクラの言葉を否定しながらも肯定すると言う奇妙な言葉を言って見せた死神を泣きそうになりながらネクラは見つめ返した。


「あ、でも何回でもリセットできるって考えは流石に気持ち悪いかも」

「だ、大丈夫です!さすがにそんな事は思ってません」


 目の前で本当に気持ちが悪そうに口元を押さえる死神の前でネクラは首と手を勢いよく左右に振って全力で否定した。


「そ、ならいいや」


 必死に全否定するネクラを見て死神はパッと笑顔になり、口元から手を離した。

 笑顔が戻った死神に安堵しながらネクラは話を続ける。


「それに、虚無くんの言葉にも安心できました」

「虚無くん、口下手なのに頑張ったんだねぇ」


 死神は感慨深そうに頷く。何を頑張ったのかはネクラには分からなかったが、虚無に相談し感じた事を死神に伝える。


「転生を選らべば見送る。死神になる事を選ぶなら先輩として助けてくれるって言ってもらえた時は嬉しかったな。どちらを選んでも独りじゃないって言われてるみたいで、安心できました」

「わぁ、虚無くんってばそんな事言ってたんだ。後で問い詰めてからかってやろう」


 死神は楽しそうに笑っていた。それを聞いたネクラは慌てて死神を止める。


「だ、ダメですよ。虚無くんは真剣に言ってくれたんです。からかうのは良くないですよ」

「えー。俺は面白いと思うけどな」


 死神は唇を尖らせたが、さすがにこれは譲れない。普段感情を出さない虚無が自分の思いを真面目に言葉にしてネクラに伝えてくれたのだ。どこをどう面白いと感じたのかはネクラにはわからなかったが、その気持ちをからかうのは不謹慎である。


 虚無に感謝しているネクラは珍しく厳しい口調で死神に念を押した。


「えー。じゃないです!虚無くんをからかうの禁止!わかしました?」

「はいはい。わかったよ。もう」


 つまらなさそうに了承した死神の真意を疑いつつ、ネクラは話を進めた。


「最後に話を聞いてくれた鐵さんの言葉も私の胸に刺さりました。転生への恐怖だけで死神になるのもいいかなと言う妥協に近い気持ちを抱いていた自分が恥ずかしいです」


 肩を落とて自分に情けなさを感じながら身を小さくするネクラに死神はうんうんと力強く頷いた。


「鐵は穏やかに見えて厳しい奴だからね。穏やか口調で正論をズバズバ言うんだもん。そりゃ堪えるよねぇ」


 ズバズバものを言うのは死神さんも同じではないですかとネクラは思ったが、面倒な事になりそうなので口に出さなかった。


「死神になると言う事は命を扱うと言う事。鐵さんの言葉は厳しかったけれど、すごく的を射ていました。鐵さんに自分の考えと精神の甘さを指摘されて、初めて死神になる事について真剣に考える様になりました」


 視線をそらし、切なげに言うネクラに死神は笑顔を向けて言った。


「じゃあ、皆との話し合いはネクラちゃんのためになったって事だね」


 ネクラはしっかりと頷き、そして頬を気まずそうに掻きながら言った。


「でも、一番の決め手は総体的に皆さんが私は死神に向いていないって評価だった事ですね。自分でも性格的にや価値観が死神になるには未熟で甘い部分が多いから、死神には向いてないかなって思ったんです」


 自分の心の内を全て語りネクラは満足した笑みを浮かべていた。それを見て死神も納得したのか大きく頷いていた。


「うんうん。そこまでしっかり考えて決めたのなら、俺も上司として胸を張って君を現世に送り出せるよ」

「はい。後ろ向きな私が、ちゃんと答えを導き出せたのはきっと死神さんのおかげですね」


 ネクラは自然と死神に笑いかけ、死神もとても誇らしげな笑みを浮かべる。


「でしょ。って言うか、十分すぎるぐらいお膳出てはしっかりしてあげたんだんだし、決断できない方が困るよ」


 相変わらず自分の行動を否定しない死神にネクラは苦笑いを浮かべながらも、心の中は感謝の気持ちでいっぱいだった。


 常に気だるげで、やる気は感じられないし、指導はスパルタ。苦労は多かったし、振り回されるし、時には死神の言葉に傷付けられたり、悩んだりする事もあったが、最終的には手を差し伸べ、助けてくれる。


 死神はそれを当たり前にやっているが、厳しさや優しさを適切な匙加減で他者に与えるのはとても困難な事だ。

 

 正しい事でも厳しすぎると相手に伝わらない。かと言って優しすぎても相手のためにならない場合もある。


 死神の場合は自分の思う様に行動しているだけだと思うが、それでもネクラがそんな性格や価値観を持つ死神に何度も助けられたのは事実だ。


 ネクラがそんな思いに浸っていると死神が短く告げた。


「じゃあ、行こうか」

「えっ」


 今度はネクラがきょとんとして死神を見る。呆けるネクラに死神はきゅっと眉間に皺を寄せて言った。


「転生を決めたんでしょ。今から連れて行ってあげるよ。転生の扉へ」


 それを聞き、覚悟を決めていたはずの心が揺らぐ。

 今のネクラの心の中は色々な思いが駆け巡っていた。未だに残る転生後の未来への恐怖、そして死神や  虚無、柴、カトレア、鐵。補佐になって出会い、これまで様々な面で自分を助けてくれた面々との別れを思うと、恐怖以上の躊躇いの感情が沸き上がる。


「ん、どうしたの。ネクラちゃん。決心したんでしょ」


 黙り込んだまま立ち尽くすネクラを死神が怪訝な表情で覗き込む。

 ネクラは心に溢れる思いと涙を飲み込んで、死神に申し出た。


「死神さん。私の最期のお願いを聞いてください」

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