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死神補佐になりました : 来世のための少女の奮闘記  作者: 水無月 都
第七章 少女は転生とは何かを考える
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第七章 第十九話 帝輝夜の前世とは

この度もお読み頂きまして誠にありがとうございます。

悪霊と対峙するシーンってもしかして久々かもしれません。やっぱり戦闘シーンって凄く難しですね……。

本日もどうぞよろしくお願いいたします。

「お前の知り合い?」


 ネクラの口から出た突然の言葉に虚無は眉をひそめる。そして俯いて震えるネクラの前に屈み、目線を合わせてゆっくりとした口調で確認をする。


「どう言う事だ。俺に話せ」


 虚無の気遣う様な口調にネクラは一瞬だけ泣きそうになるも、唇を結び生まれ出そうな嗚咽を堪えて言った。


「私ね、死神補佐になってからなんだけど、ちょっと怒りっぽくて、でも努力家で、幸せになる為に頑張っている人に会った事があるの」


 頭を過る記憶。初めて出会った時から鈍くさいと評価され、ギスギスしてしまい、ネクラも近づきがたいと思い、気分を害さない様にとついビクビクとしてしまった相手。


 その後、お互い理解し合う事によって出会った当初より歩み寄れたのは記憶に新しい。

 死神の計らいで転生の扉の前で、その姿を見送った。勝手ながら、転生後の幸せを願った人物。


「華さん……」


 ネクラは瞳を潤ませながら、遠くで呻き声を上げながら暴れる悪霊を見つめた。


「華……。ああ、お前が前に仕事で一緒になった元死神補佐の」

「うん……」


 ネクラはジワリと瞳に涙を浮かべて頷いた。

 虚無は以前、ネクラから華の話を聞いていたため、虚無は名前を聞いただけで閃いた様だった。そして横目で悪霊を見ながら、屈んだ状態でネクラの肩に触れる。


「何故、そう思った」

「死神さんから聞いた事があるの。転生すれば前世の記憶も、死神補佐としての記憶も消えるけど、魂の形や性質はそのままで転生するって」


 ネクラは涙目で虚無を見つめながら、自らが行きついた答えを話始める。虚無は悪霊を警戒しながらではあったが、真剣な表情でネクラの話を聞いていた。


「短気だけど、努力家で幸せを願うってところが、とても華さんと似ていると思うの。転生しても魂の性質が同じなら、華さんのそう言った性格は引き継いで転生していると思うし……」

「だが、そう言う性格の人間は少なからずいるだろう。あの悪霊がお前が出会った華と言う元死神補佐である確信はあるのか」


 確かに性質が似ていると言うだけであの悪霊を華と断定する事はできない。しかし、ネクラはどうしても不安や引っかかりを覚えてしまう。


「確信も、証拠もないよ。でもね、なんとなくなの。なんとなく、あの悪霊は……ううん。輝夜さんは華さんが転生した姿なんじゃないかって思うの」


 悲しそうにそれでいてはっきりとした口調で話すネクラを虚無が黙って見つめ、なんと声をかけるべきか悩んでいたその時、2人の背後で声がした。


「そうだよ。正解。気付かなかったら黙っていようと思ったけど、こう言う時だけ勘が鋭いね、ネクラちゃん」


 ここにいるはずのない人物の声に2人が驚いて振り返ると、そこには複雑な表情を浮かべ佇む死神の姿があった。


「死神、さん」

「あの悪霊はネクラちゃんが以前仕事で出会って行動を共にし、転生の資格を得た華と言う元死神補佐が転生した魂だ」


 ネクラは死神が現れた事、そして死神から告げられた真実に驚き、戸惑い、そして悲しみの表情を浮かべた。


「やっぱり。最初から何か知っていたんだな」


 虚無は立ち上がり、鋭い眼光を死神に向ける。それを受けた死神は両手を挙げて降参のポーズをとる。しかし、はにかみを浮かべている事から、悪びれてはいない。


「怖いなぁ。睨まないでよ、虚無くん。確かに、この事情は(点々)知ってはいたけど、最初からじゃないよ」

「最初からじゃない?」


 ネクラは不安に押しつぶされそうになりながらも死神の言葉を繰り返す。虚無からは未だに鋭い視線を受けていたが、死神は両手を下ろして笑顔で頷く。


「そう、俺から君たちにこの仕事を頼んだ時は、俺はこんな事情が隠れていたなんて知らなかったよ。それは信じてね」

「……はい」


 死神を責めたいわけではないネクラは死神の言葉を素直に信じる事にした。ネクラが死神を信用する意志を示した為か、虚無は死神を睨むのをやめ、眉間に皺を寄せたまま視線を逸らす。


「ああ、でも2回目に君たちと会った時は知ってたかな」


 2回目、とは学園内で会った時の事だろう。ネクラがその時の事を思い出すと、虚無が不機嫌な口調で先に口を開いた。


「突然現れて力を貸すなんて言うからおかしいと思ったんだ。死神サン、あの時は俺たちの様子を見に来たんだな」

「様子を見に?」


 虚無の言葉を受けて死神の方を見やれば死神は心情が読み取れない、張り付いた笑みを浮かべて言った。


「そうだよ。もしも今探している悪霊が華だって事に気が付いていたら、主にネクラちゃんの行動に支障がでるかなぁって思ってね。まあ、あの時は悪霊の真実に辿り着いてなかったみたいだったから、特に何も伝えなかったけど」

「では、死神さんは私のために様子を見に来て、私の為に華さんの事を黙っていたと言う事ですか」


 ネクラが聞けば死神は嬉しそうにうんうん、と首を縦に振る。


「そうだよ。俺ってば部下思いの上司だから」

「聞こえはいいが、用は仕事を滞りなく遂行するためだろ」


 虚無に厳しい顔と口調で言われた死神は笑った。


「うーん。そうとも言えるね。ネクラちゃんはちょっと物事を後向きに捕えすぎるところがあるから、悪霊と華の魂が同じって知ったら面倒くさい事になるなぁ、と思わなかった事もない」


 死神は回りくどい言い方をしたが、要はネクラのマイナス思考が原因で今回の仕事に影響を出したくなかったと言うのが死神の正直な気持ちらしい。

 それを知り、暗い表情になったネクラに死神はやれやれと溜息をついて続けた。


「あーあー。それだよ、それ。すぐ暗くなるでしょ。俺は正直な事を述べているだけだよ。ネクラちゃんが悪霊の事で悩めば、それはバディである虚無くんにも影響する。士気が下がっちゃうでしょ」

「うう……」


 士気が下がると言われてしまいネクラは申し訳なさそうに唸った。それは確かにそうだった。実際、悪霊を華と確信して以降、自らの心が沈んでいる事は自覚していたし、それが虚無にも伝わり、心配をかけてしまっている。


 本来の虚無なら、悪霊を一瞬で斬り捨てる事など容易いだろう。しかし、自分の不安な気持ちが虚無に伝わり、余計な心配をかけ、彼の戦いに支障をきたしていると言う自覚がネクラにはあった。


「俺は気にしていないし、士気を下げられたとは思っていない。だから、気に病むな」


 虚無は表情を動かさず、淡々と言ったがネクラを気遣っていると言う気持ちは伝わって来る。そんな彼の優しい心に、ネクラは少しだけ気持ちが軽くなった。


「うん。ありがとう、虚無くん。でも死神さんが言っている事も間違ってないと思うから。私が後ろ向きになったせいで虚無くんの足を引っ張っちゃってごめんね」


 ネクラは虚無にはにかみながら礼を述べ、そして頭を下げて謝罪した。虚無は何も言わずにネクラから視線を外した。


「それで、わざわざそれだけを言いに結界の中に入って来たのか」


 虚無が死神を睨みながら問いかけ、ネクラも頭を上げて死神を見る。2人の視線を受けて死神は言った。


「そんなわけないでしょ。こいつを連れて来たの」


 死神が親指で自分の背後を指し示す。ネクラと虚無が死神の後ろを覗き込むと、ゆらりと影が現れ、とある人物が姿を現した。それはネクラも見知った人物だった。


「鐵さん!?」


 ネクラは驚いて瞳を丸くする。死神の背後からゆっくりと現れたのは、死神補佐だったころの華を担当していたロマンスグレーな印象を持つ死神、鐵だった。

 彼はバツが悪そうな表情をしながら口を開く。


「すまないね。私はこやつに華の事情を伝えたのだよ」

「そうだよ。ネクラちゃんたちに仕事を渡した後に連絡を入れて来るんだもん。俺も驚いたよ。おかげで俺は部下たちからまた信用を失う羽目になりそうだよ」

「それについては謝罪しただろう」


 死神が肩をすくめて嫌味じみた文句を言い、鐵はここに来るまで何度も似たような事を言われたのか、鐵はいい加減にしてくれと言わんばかりに溜息をついた。


「……」


 親しげ(?)に会話を繰り広げている死神と鐵を虚無が怪訝な表情で鐵を見つめていた。険しい表情から鐵を警戒している様にも見える。

 その様子に気付いたネクラは虚無が鐵と初対面である事を察し、鐵を虚無に紹介する。


「虚無くん、この人は華さんの元担当死神さんだよ」

「ああ、なるほどな」


 ネクラの言葉を受け、虚無は警戒心を緩めて鐵に向き直る。鐵も虚無の心中に気が付いたのか、苦笑いを浮かべながら虚無に向かって手を差し出した。


「すまない、君とは初対面だったね。私は鐵と言う。よろしくね」

「……虚無だ。よろしく」


 虚無はぶっきらぼうながらに差し出された手を握り返した。虚無の名前を聞いた時、鐵は瞳を丸くして驚いた。


「君が虚無くんか。ウワサは兼ねがね。とても優秀な死神候補がいると聞いたが君がそうだったのか。会えてうれしいよ」

「……それはドーモ」


 虚無は短く返答し、浅く頭を下げた。カトレアも言っていたが、虚無は死神界隈では相当有名らしい。


 死神曰く、生者から死神になる者は純粋な死神と比較し力に限界があるそうだが、虚無はその限界値が高い。本人の根性の影響もあるそうだが、これだけ死神に近い素質を持つ生きる人は珍しいと言っていた。


(やっぱり虚無くんはすごいな)


 ネクラが改めて虚無のすごさを実感して握手をする2人をぼんやりと見つめていたその時、結界内に何度目かの悪霊咆哮が響き、地面が揺れる。そこにいる4人が悪霊の方を見れば、先ほどまで停滞していたはずだった悪霊が暴れ始めたのだ。


 体から黒いレーザービームを乱射し、体から触手を生やしてそれを鞭の様に振りまわしたりと、とにかく何かを破壊しようと暴走を始める。

 幸いネクラたちは悪霊とは離れた位置にいるため、今のところは攻撃が当たる事はない。と言うより、理性がなくなり暴走するだけの悪霊の攻撃対象になっていないのだ。しかし、それもあくまで今のところの話である。


「ゆっくり自己紹介なんてしてる暇はないよ。あの悪霊はひどく不安定な状態だ。早く楽にしてあげなよ。お前はそのために来たんだろ」


 死神が悪霊の動きに注意しながら鐵に言う。鐵は切なそうに瞳を細め、そしてしっかりと頷いた。


「ああ」


 何も知らされていないネクラと虚無がその会話を不思議そうに聞いていると、鐵がネクラに向き直って言った。


「ネクラさん、申し訳ないがあの悪霊の折檻は私に任せてくれないか」



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