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死神補佐になりました : 来世のための少女の奮闘記  作者: 水無月 都
第七章 少女は転生とは何かを考える
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第七章 第十八話 悪霊への違和感

この度もお読み頂きまして誠にありがとうございます。

なんとか、なんとか七章の終わりが見えて参りました……。上手くまとめられるといいなぁ。と思います。頑張るぞー。

本日もどうぞよろしくお願いいたします。

 虚無の厳しい言葉によって突きつけられた現実に朔夜は唇を噛みしめる。

 目の前にいるのは妹の輝夜であるが、もう輝夜ではない。その事実が覚悟を決めたはずの朔夜を苦しめる。


 ネクラが切なそうに俯く朔夜に声をかけようとしたその時だった。


「大友、どうしたんだ」


 部屋の外で扉を叩き、大友に呼びかける声がした。騒ぎを聞きつけて人が集まって来たのだ。それもそうだろう、これだけ部屋がボロボロになるまで輝夜に暴れられれば、下の階の住人は愚か同じ階の生徒が様子を見に来てもおかしくはない。


 普通の人間にはネクラや虚無、そして恐らく悪霊の姿は見えないはずなので、不法侵入の疑いをかけられる事はないが、何も知らない部屋に入り悪霊狙われ様ものなら被害が拡大してしまう。


 外の騒がしさから察するに数十人ほどがこの部屋の様子を見に来ている。流石の虚無もそんな大人数は守り切れない。それに地面との衝突は避けられたと言えど、下で横たわったままの大友美幸も気になる。


「虚無くん、どうすればっ」


 キーホルダーの力を使ってしまったネクラには虚無を補助できる様な手段は残されていない。

 人は騒ぐ声を聞いて興奮したのか輝夜だったモノ、悪霊はグルグルッと呻き声を上げながらその場で蠢く。

 今にも扉を突き破って外にいる人間に襲い掛かりそうな悪霊に焦りを覚えるネクラとは対照的に虚無は至って冷静な態度だった。


 何故、この状況で落ち着けるのか。ネクラは不思議そうに虚無を見つめる。そんな視線を受けながら、虚無は瞳を閉じそしてゆっくりと開いて朔夜を見据えて言った。


「おい。お前との約束はもう果たした。それでいいな」

「……。え?」


 朔夜は呆けた表情で虚無を見て、ネクラも突然の虚無の発言に疑問を抱いたが、黙って彼の言葉を待つ。


「お前とかわした約束は妹のところまで連れていく事、そして妹に会わせる事。俺たちはその約束を守った。そうだな」


 確認する様に、強い口調で虚無は言った。朔夜は何を言われているか少し理解していなかった様だが、やがてぎこちなく頷いた。


「う、うん。そうだね。君たちは僕をここまで連れて来てくれて、妹に会わせてくれた」

「そうか。なら、()()()()()


 虚無は淡々と頷いて、1人で話を完結させた。その言葉の意味が解らず、ネクラと朔夜は戸惑いを覚える。


「虚無くん、もういいって言うのは……」


 ネクラが尋ねると虚無はこちらの出方を窺っている悪霊の動きに警戒しながら言った。


「あの悪霊と決着をつけるため結界を張る」


 死神の結界は現世と空間を断絶する。そのため部屋はこれ以上荒らされる事はないし、生者はそこから除外されるため朔夜を始めとする人間たちの安全も確保できる。


 悪霊と戦うためには1番効率的で安全な選択だ。しかし、朔夜との約束の中に『妹の最後を見届けたい』と言うものもあった。結界の中で悪霊を折檻すれば悪霊はそのまま消滅する。


 結界が溶けた時、輝夜の姿はもうどこにもないのだ。それは約束に反するかもしれない。恐らくそう思ったから虚無は朔夜に『もういいな』と確認したのだろう。


 ネクラは虚無の言葉を理解したが、事情を知らない朔夜は虚無の言葉の意味を汲み取れず、困惑している。


「……。死神の結界は現世を守ります。朔夜さんの安全も、部屋の外に集まっている皆さんの安全も確保されます」


 必要以上に語らない虚無の代りにネクラはゆっくりとそして誠実さを持って説明をする。朔夜は戸惑いながらも頷き、ネクラの言葉に耳を傾ける。


「結界の中で悪霊と戦う事になりますが、死神の結界に生者が入る事はできません……。つまり、最初に約束した『帝さんが輝夜さんの最期を見届ける』と言う事は叶わなくなってしまう。それでもいいか、と確認しているのだと思います」


 ネクラの説明でようやく虚無の言葉の意味を理解したのか、朔夜は虚無の方を見る。虚無は頷き、切ない表情で下を向いて考え込む。


 ネクラたちからすれば朔夜には理解を示してもらうしかない。結界を張らなければ周辺に危険が及んでしまう事は確実なのだから。

 虚無は厳しい表情で虚無の返答を待っている。恐らく、朔夜が反論しようとも結界は張るつもりだろうが、朔夜の返答を待つつもりではある様だ。


「ヴァぁあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ」


 ついに悪霊が咆哮を上げて体から太い触手を生やして部屋中を暴れまわる。壁や床が抉れ、部屋も揺れる。


 扉の外に集まっていた人間たちもその凄まじい音にざわつき始め、先生を呼べ、守衛を呼べと騒ぎ始め、扉を突き破ろうと言い出す声も聞こえた。


 騒ぎが大きくなり過ぎた。もうすぐ人が集まって来る。ネクラは焦り、虚無と朔夜の交互を見る。

 虚無も外の騒ぎでもう朔夜の返答を待てないと判断し、結界を張る体制を取る。


「もう限界だ。悪いがお前の意志は無視させてもらう」


 最後の確認か、虚無は厳しい口調で朔夜に呼びかけた。朔夜は迷う様に視線を落としたが、直ぐに顔上げ決意を込めた表情で言った。


「輝夜の事、よろしく頼むよ」


「……。ああ任された」


 ようやく返された言葉に虚無はしっかりと頷いた。そして虚無はすぐさま指を鳴らし、周りの景色が溶け行き結界が張られる。

 朔夜はその様子を黙って見届けていた。現世と空間が断絶される直線、ネクラは朔夜と瞳が合う。ネクラは朔夜の心情を思い複雑な思いを抱いていたが、それを一瞬で察したのか、朔夜は緩やかに笑ってそして言った。


 空間が断絶されている最中のため声は拾えなかったが、ネクラはなんとか口の動きを読み取った。


『心配しないで。僕は大丈夫』


 その朔夜の姿を最後に、完全に結界が張られ世界は真っ白に包まれた。



 現世と世界が断絶され、死神結界と呼ばれる白い空間の中には虚無とネクラ、そして悪霊だけが存在していた。


「もっと早めに結界を張りたかったんだが、あの錯乱状態の人間を現世に放置したまま結界を張る訳にはいかないからな。そっちが何とかなってよかったと思っている」

「そう言う事だったんだね」


 あの人間とは大友美幸の事だろう。美幸は悪霊を目の前にし、命の危険を感じて錯乱状態に陥っていた。ベランダから身を乗り出すなど、危険な行動に及んでいたため何をするかわからなかった。


 もっと早い段階で結界を張る事もできたのだろうが、錯乱状態の美幸の身の安全を事前に確保しておきたかったと言う考えもあったのだろう。


 現世と結界内で時間の流れは異なるが、結界を解いた後に何か不具合があってはいけないと言う虚無の判断だったのだ。ネクラはそう納得した。


「あ、あああ。どうして、ドウシて、私は、ワタシハこんなにも、努力をしたノニ」


 輝夜だった悪霊は突然苦しそうに嘆き出し、その場で体をくねらせる。赤い瞳から流れる赤い線が涙の様に流れ出ている。まさか、悪霊は泣いているのか。そう感じたネクラはその姿を凝視した。


 虚無も悪霊の様子をおかしいと思ったのか、怪訝な表情を浮かべて悪霊の様子を窺う。

 悪霊は攻撃を仕掛けてくる事もなく、ただもがく様に嘆き続ける。


「せっかく、どりょくヲして、結果をダシテ、認めてもらえたのニ、ドウシテ。わタしハ、幸せニなレないノ」

「……え」


 ネクラはその言葉に違和感を覚えた。いや、ネクラは悪霊となった輝夜と出会った時からずっと1つの違和感を持っていた。その1つ1つがネクラの中でフラッシュバックをする。


『もういいわ。元々あなたに何て興味がないし』


 輝夜の問いかけに動揺して答えられず、口ごもってしまった際に苛立ち、呆れて大きく溜息をついて吐き捨てる様に言った時の姿。


 そして、両親の都合で裕福だった帝家から外れ、一般の地位になるも、そこから努力して帝の姓を名乗る事を許され、この学園に通う資格を得る事ができるほどの努力家である事。


 何より、幸せを手に入れるために猛進するその姿にネクラは覚えがあった。

 ネクラは1つの可能性が頭に過り、動かない心臓が脈打つような感覚に囚われ体も冷たく、痺れて来た気がする。緊張感と悪い予感がネクラを襲う。


「ま、さか……」


 突然固まってしまったネクラを不信に思ったのか、虚無が悪霊の方を見たままネクラに声を鋭い口調で呼びかける。


「おい、どうした。ボーッとするな。来るぞ」

「えっ」


 ネクラが顔をあげると体をくねらせていただけの悪霊が突然激しく痙攣し始め、狂った叫びを上げる。


「あああああああぁ!みんな、ムカツク!わタしノ幸せヲ邪魔するなァァァァァァ」

「きゃっ」


 悪霊の絶叫と同時に体から無数の黒いレーザービームの様な光りが放たれる。それは悪霊が体を揺らす度に不規則に飛び交い、ネクラと虚無を襲う。


 不規則に繰り出される攻撃を避けきれず、ネクラは思わず身を屈めた。虚無は悪霊の攻撃をかわし時に大鎌で弾きながらネクラを庇い、そのまま俵抱きで持ち上げてその場から飛び退き、悪霊と距離を取る。


 なるべく悪霊と離れたところに着地し、虚無は抱えていたネクラを下す。悪霊の方を見て、こちらへ向かってくる様子がない事を確認してから虚無は顔を真っ青にして放心状態になっているネクラを覗き込みながら言った。


「おい。何を呆けているんだ……顔色が悪いぞ。体調でも悪いのか」


 最初は怒った口ぶりの虚無だったが、顔色の悪いネクラを見てすぐさま心配そうに彼女を気遣う。


 ネクラは青い顔をしながらゆっくりと虚無を見つめて声を震えさせて言った。


「虚無くん、あの悪霊、私の知り合いなのかもしれない」



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