第七章 第十四話 次なる悪霊のターゲット
この度もお読み頂きありがとうございます。
せっかく買ったゲームができない悲しみ。もう仕事の休み時間にやってやろうかな。
あと、今回も話が進んでないかも?いや、多少は進んでおります!もうすぐ話が動くはずなので!
本日もどうそよろしくお願いいたします。
「最近怪我をした生徒の名前。それは高校部2年、大友美幸。ここ最近、と言いうか今日見かけたんだよ。怪我をした彼を」
虚無の『怪我や事故に巻き込まれそうになった人間はいないのか』と言う問いかけに、朔夜が記憶を辿り答えた。
美幸、と言う柔らかい名前の響きに女子生徒だと思い込みそうになったが、朔夜が『彼』と表現した事から、男子生徒だと判断できた。
「今日見かけたって……保健室に行かれていた時ですか」
虚無はネクラたちと出会う前は保健室に行っていたと言っていた。見かけたと言うならその時しかない。
「そうだよ。ねぇ、僕がなんで体調不良でもないのに保健室に行ったかわかる?」
「えっ!?」
突然の問いかけにネクラはビクッと肩を震わせ戸惑い、困惑しながらそれに答えようとしたが、何も思いつかなかった。
「えっと……すみません。何も思いつきません」
ネクラは正直な言葉を述べ、朔夜は答えを出せずにしおしおとする彼女を見て面白そうに微笑んで言った。
「ごめんごめん。そんな事、本人以外にわかる訳ないよね。君、質問すると真剣に考えるし、わからなかったら露骨に落ち込むし、面白いから」
面白いと言われてしまった。ネクラは小さくショックを受ける。死神補佐と言う立場になり、それなりに色々な存在と出会ってきたが、死神も、柴も、カトレアも、そして恐らく虚無も同じ様なからかい方をする時がある。皆、自分の事を『面白い』と思っている様な気がしてならない。自分はからかわれやすいところがあるのだろうか。ネクラは本気で悩んだ。
「面白がらないでください。それで、どうして保健室に行ったんですか」
ネクラはむくれながら朔夜に聞き、露骨に不機嫌になった子供の様なむくれを顔を見た朔夜はまた小さく噴き出し、目じりの涙を拭いながら言った。
「あはは。気を悪くさせてごめんね。僕が保健室に行っていた理由はね。僕なりに輝夜を探したかったからなんだ」
「妹さんを、探す?」
朔夜の言葉にネクラはむくれるのをやめ、不思議そうに彼を見つめる。
「僕は君たちに会う前から、この学園で起こる事故や事件は輝夜の仕業なんじゃないかって思っていたんだ。だって、その日記に名前を書かれている生徒ばかりが被害に遭っているからね。僕は元々視える人間だからそう思う事に抵抗はなかった。でも、霊となった輝夜の姿は一度も見た事がなかったんだ。だから、望み半分で霊の事をもっと知ろうと思って色々と調べてたんだよ」
ネクラが持つ輝夜の日記を見ながら朔夜は言った。そんな朔夜の言葉にネクラはひらめくものがあった。
「あ、さっき霊に関して調べてみる機会があったと言うのはまさか」
名前には意味があり、力ある物に簡単に渡したり、知られたりしてはいけないと言う事を朔夜は知っていた。その理由がここで明らかとなった。
「そう。輝夜絡みで手当たりしだいに色々と調べていたんだよ」
「なるほど、だから……」
オカルトに興味がなかった人間が、それに縋りたくなるほど必死になっていた。朔夜がどれだけ妹である輝夜を思っているかが伝わる。
「必死になって調べていたけど、君たちに会うまで一連の騒ぎを輝夜が起こしているなんて確信していなかったよ。正直、事件に関わっているなんて僕の思い過ごしであって欲しいとさえ思った。だから、始めて君たちの姿を視た時は驚いたし、話を聞いた時はもっと驚いたよ」
朔夜は苦笑いを浮かべる。朔夜が複雑に思うのも無理はない。例え悪霊であっても第三者に危害を加え、中には亡くなった者もいるのだから。
どんな理由があろうとも、被害に遭った人間がどんな人間でも、身内が罪を犯すのは決していい気分ではないだろう。
それを察したネクラは相槌すら打つことができずに下を向いてしまう。虚無も無言で朔夜の話を聞いていた。
また話が途切れそうになった事に気が付いた朔夜は笑顔で取り繕い、無理やり話を戻す。
「……っと、話が逸れちゃったね。僕が保健室に行ったのは妹を探すため、妹の手がかりを掴むため、と言った方が正しいのかもしれないね」
「手がかり?」
ネクラが首を傾げると、朔夜は自分の行動の理由を端的に説明をした。
「輝夜の日記に書かれた人物を1人1人見張るよりも、怪我をした人物をマークした方が早いんじゃないかと思って、体調不良のフリをして保健室、と言うか医療棟に入り浸っていたんだ」
「……何か収穫はあったのか」
虚無が淡々とした口調で聞くと朔夜は残念そうに首を振る。
「輝夜に繋がる情報はなにも。不可解な事故や現象に巻き込まれて怪我をした人物は何人も見たけど、僕は『視えるだけ』であって普通の人間だからね。助けてあげる事はできなかったし、そもそも輝夜を貶めた相手を助けていいものかって、正直葛藤もしたよ」
朔夜は悔しそうに膝に置いた自分の拳を握りしめる。妹が罪を重ねるのは望まないが、その大切な妹を死に追いやった者に手を差し伸べたくはないと言う朔夜のわずかな震えから、葛藤が伝わって来る。
「それで、今日出会ったのが大友美幸さんと言う男子生徒なんですね。帝さんとは学年が違いますが、お顔はご存じだったんですね」
葛藤に振るえる朔夜を気遣いつつ、ネクラはゆっくりとした口調で確認をする。それに対して朔夜は頷く。
「僕、記憶力には自信があるんだ。高等部生徒会長として、生徒の顔と名前、それに学年ぐらいは全て頭に入れてある。あれは間違いなく、大友くんだった」
朔夜はしっかりとした眼光で断言した。その瞳から本当に記憶力には自信があると言う事が分かる。
それにしても、この学園は超が付くほどのマンモス学校。ネクラは正式な在学生の数は知らないが、寮の大きさや校舎の規模から推測するに高等部の生徒だけでも数百人を超えていそうだが、それを頭の中に入れているとはすごい。
潜入のため、編入生だと誤魔化したネクラたちにも惑わされないはずだ。思わず感心しているネクラの腕を虚無が肘で小突く。
それに反応して虚無を見ると彼は無表情のまま冷静に言った。
「一応、その日記を開けて確認しておけ」
「あ、うん。そうだね」
ネクラは輝夜のもう一度日記をめくり、大友美幸と言う名前を探す。パラパラとぺージをめくった先に、その名前はあった。
殴り書きで『大友美幸』と書かれ、その下には彼への恨みつらみが書き連ねられていた・
『大友美幸。私にしつこく交際を申し込んできた奴。クラスでは明るくて、イケメンで、大企業の跡取り候補。すごく人気者だけど、それは大友美幸自身ではなく『家柄』を見ての評価と人気である事に気が付いていない。それなのに自分は必要とされていると勘違いをしている可哀そうな人間』
ネクラはその辛辣な内容に驚いた。輝夜本人と会った事はないため、性格は良く知らないが、朔夜が見せてくれた写真の表情を見る限りでは明るい性格だと言う印象を受けたし、朔夜もそうだと言っていた。
この様に他人を悪く書く様な人物には見えなかったが、日々の仕打ちに相当心が疲弊していたのか、文章からも文字からも強い苛立ちが伝わって来る。
『私はハッキリと交際を断った。思わせぶりな態度が一番良くないと思い、何度も何度もあなたに興味はないと言った。たまに宝石をプレゼントだと持って来たりする。ご機嫌取りをしている見え見えだ』
『何度目かの告白を受け、いつもの通り断った時、ついに彼は怒り出した。俺をバカにしていると騒ぎだした。最近、ただでさえ、女子の陰湿な絡みがウザいと言うのにまた敵を作ってしまった。案の上、大友美幸は次の日から嫌がらせを仕掛けて来た』
『私は男に媚びた事はないし、二股もかけてない。朔夜兄さんと歩いているところを写真に撮られてそれをクラス中に拡散された。兄だと言っても信用してもらえない。話すら聞こうともしない。あろう事か生徒会長である兄さんを庶民好きの変わり者と馬鹿にした。許せない、許せない。私だけでなく兄さんまで悪く言うなんて。大友美幸、罰当たり!お前なんていなくなればいいんだ』
怒りの文章は続いていたが、ネクラは耐えきれなくなって日記を閉じた。その様子を見た朔夜は日記の内容を知っているためか複雑な表情を浮かべる。
ひどく気が沈んでしまったが、ネクラは気を取り直して話を戻す。
「保健室で見たと言う大友さんの怪我の具合はどの様な状態だったんですか」
「片腕に強い打撲といったところかな。腕が青く腫れてた。顔にも少し痣ができてたかな」
「どうしてそうなったかはわかりますか」
ネクラが重ねて聞くと、朔夜はゆるゆると首を横に振った。
「彼の事は情報でしか知らないから、こちらから踏み込む事は出来ないから。ただ、保健の先生と話していたのを聞く限りでは、彼、ヨット部なんだけど、部活中にヨットから落下して前から前進して来た別のヨットに当たった、と言っていた気がする」
朔夜の証言を聞き、ネクラはゾッとした。もしもヨットから落ちたのが悪霊の仕業で命を狙われていたとしたら、良く痣ですんだものである。一歩間違えれば前進して来たヨットに潰されてぺちゃんこではないか。
「悪霊がその大友と言う人間に怪我を負わせただけで満足したかどうかはわからないが、
とりあえずそいつの様子を見に行くか」
ある程度話は聞けたと判断したのか、虚無が立ちあがって行った。ここで話を続けるよりは行動を起こした方が早いと判断したのだろう。
「うん」
ネクラも日記を置いて立ち上がり、朔夜も腰を上げる。
「約束だし、もちろん僕も連れて行ってくれるよね」
少しだけ圧のある笑顔を向けて来る朔夜にネクラは若干顔を引きつらせながら答えた。
「も、もちろんですよ。一緒に行きましょう」