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死神補佐になりました : 来世のための少女の奮闘記  作者: 水無月 都
第七章 少女は転生とは何かを考える
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第七章 第十三話 帝輝夜の日記帳

この度もお読み頂きまして誠にありがとうございます。

七章はどれぐらいの話数になるんでしょうか。書いている私にもわかりません。

一応、調節はしておりますがまた長くなりそうですね……。

本日もどうぞよろしくお願いいたします。

 朔夜がネクラたちに見せた輝夜が遺した日記。それはまさしく悪霊を探し出すための重要な手がかりとなるだろう。

 ようやく見えた道筋に、ネクラの体と声に力が籠る。日記を眺めながら、慎重に朔夜に願い出る。


「朔夜さん。大変失礼な事とは思いますが、その日記の中を見せて頂けませんか」


 この日記は言わば遺留品。朔夜が大切に想う家族のものだ。事情を聞く限り、内容は家族にとっては良いものではないのかもしれないが、それでも残された家族にとってはきっと大切なものだ。


 それを見ず知らずの他人に、ましてや得体のしれない死神に見せて欲しいなどと言われて気を悪くしないだろうか。


 だが、悪霊となってしまった輝夜がこれ以上罪を重ねないためには、早期発見が重要となる。つまり、輝夜の気持ちを知ると言う事はとても重要な事なのだ。


 明るい人物だったからこそ、もう楽にしてあげたい。憎しみから解放されて欲しい。そう思ったネクラは誠心誠意頭を下げた。


「構わないよ。そのつもりで君たちにこの存在を教えたんだから」

「本当ですか!ありがとうございます」


 快い返事にネクラは明るい表情で感謝の言葉を口にする。すると、朔夜は真剣な面持ちで食い気味に、やや強い口調で言った。


「そのかわり、条件があるけど」

「条件?」

「……」


 予想外の言葉にネクラの眉が下がり、不安げな表情に変わる。無言で話を聞いていた虚無も眉間に皺を寄せて反応を見せていた。

 そんな2人の反応にはお構いなしに朔夜は毅然として条件を突きつけた。


「君たちの悪霊退治の仕事とやらに俺も同行させてほしい」

「えっ」

「……はぁ」


 朔夜の言葉にネクラは瞳を見開いて驚き、虚無はやっぱりそう来たかと浅く溜息をついて頭を抱えていた。


 ネクラは何を言われたか一瞬理解ができなかったが、暫くして思考が動き出し状況を理解する。


「えええええ!?同行って、そんなの危ないですよ。相手は悪霊です」


 とんでもなく危険な申し出を真剣な表情で申し出た朔夜にネクラは驚きながらもその行動の危険性を伝える。


 以前、死神から悪霊は基本的には自分が憎い相手や復讐したい相手に危害を加えると聞いたが、徐々に恨みや怒りの感情に魂が完全に侵食されて次第に手あたり次第暴れまわるとも言っていた気がする。


 悪霊の中には命を奪った相手の魂を取り込み力をつけ、より強力な個体になる魂もある。朔夜の話や、虚無の見解を聞き限り、輝夜は間違いなくそれだ。


『今』の輝夜に生前の理性や記憶が残っている可能性は低いだろうし、朔夜は知らないがこの中で戦力になりうるのは虚無ただ1人。それを考えれば朔夜を同行させる事はとてもリスクが高いのだ。


「この世ならざる者が関わっているんだ。危ないのはわかっているよ」


 危険性を伝えても、朔夜の意志は変わらず、むしろわかっていると言い張って意見を取り下げようとはしなかった。


 そんな朔夜を鋭い眼光で見つめ、虚無が強く圧をかけながら言った。


「言っておくが、お前の妹は既に悪霊となった。……こう言う表現が良くないと言う事は俺も理解しているが、ただの『化け物』となった妹と再会するんだぞ。それに、俺たちは死神は悪霊にどんな過去があろうとも、容赦なく斬り捨てる。お前に悪霊となり果てた妹の最期を見届ける覚悟はあるのか」


 ネクラは心配そうな表情を浮かべ朔夜を見る。虚無の言葉は厳しいが真実だ。悪霊となってしまった魂はもう二度と転生しない。


 魂と言うものは『素質』やその者の『在り方』をそのままに転生して行くらしい。優しい人間は転生しても優しい性質を持ち、後ろ向きな人間は転生しても後ろ向きだ。その時々の人生で努力をすればマイナスな性質はプラスの性質に変われるし、その逆もしかりと死神は言っていた。


 言い方は転生とは『魂の使いまわし』なのである。そのため、魂が一度穢れてしまうと、もう人には戻れない。悪霊としての在り方が魂と融合してしまい、人としての素質を失ってしまうからである。


 つまり、一度悪霊となった魂はもうずっと『悪霊』として存在するしかないのである。未来永劫『人』として過ごす事は出来ないし現世とも一切の縁が断ち切られる。


 死神は悪霊に堕ちた魂を大鎌で斬り捨てその魂と現世の縁を断ち切る。そして二度と現世へ来る事ができない様に黄泉の国へと閉じ込めるのだ。それが死神の一番重要でメインとも言える仕事『悪霊折檻』だ。


 ネクラは何度も悪霊が折檻をされるところを目の当たりにしたが、その光景何度見ても凄まじい。折檻される魂に性別も年齢も関係はない。例えどんな悲しい事情があっても死神の鎌によって折檻され、悪霊は皆、泣き叫びや断末魔を上げて消えて行く。


『魂が救われた』とは到底思えないその光景を朔夜は悪霊となった輝夜の実の兄として見届ける事ができるのだろうか。


「覚悟はある。それに、俺は妹の苦しみに気付いてやる事もできなければ不安を解消してやる事も出来なかった。だから俺は君たちについて行きたい。妹の、輝夜の最期をこの目でも届けたいんだ」


 朔夜はきっぱりと言ってのけたが、やはり危険性を考えると、覚悟があると言うだけで同行を許可していいかは決めかねる。


 ネクラと虚無が返事ができず困り果て、朔夜がじっと返答を待つまで、ネクラは色々な不安に苛まれる。悪霊の末路を朔夜に伝えるべきか迷いすら生まれる。どうすればわからなくなり、ネクラは助けを求め虚無の方を見る。虚無は無表情だったが、顎に手を当て考え込んでいる。


 しかし、朔夜が持って来た輝夜の日記は悪霊を探すための重要な手がかりになりうる。闇雲に広い学園内を歩き回るよりは、日記には目を通しておきたい。

 だが、それを見せてもらえる条件は朔夜を自分たちに同行させる事。判断が難しい状況に時間だけが過ぎて行く。


「……わかった。同行を許可する」


 緊張感で包まれた音のない空間で最初に口を開いたのは虚無だった。仕方がない。そう言った思いが声色から感じ取れる。


 悪霊の手がかりを掴むためには条件を飲むしかないとは言え、本当に朔夜の同行を許していいのか、そんな思いで不安げにネクラは虚無を見つめる。

 そんな視線を受けた虚無はネクラを見て黙って頷いた。


「本当に僕を連れて行ってくれるんだね。取り下げはなしだよ」


 朔夜が固い表情のままそう告げると、虚無はキッパリと言い切った。


「ああ。俺の言葉に二言はない。そのかわり、勝手な行動はとるな。いつ、いかなる時も俺の指示に従え。いいな」

「もちろん。君たちの仕事の邪魔はしない。それは約束するよ」


 強気の口調で朔夜が返答し、ピリッとした空気が流れ、ネクラは思わず生唾を飲み込んだ。


「よし、じゃあ交渉成立だ。はい、約束の日記。読んでもらって構わないよ」


 お互いが条件を飲んだところで、朔夜は改めて日記をネクラたちに差し出した。ネクラがふと虚無を見やれば取れと言う意味か、顎で指図したのでネクラが日記を受け取る。


「ありがとうございます。それでは、恐れながら中身を拝見します」


 ネクラは日記に向かって手を合わせ、ここにいない輝夜にも心の中で日記を見ると言う無礼を謝り、そしてページを開いた。


 日記の内容は最初の方はいたって普通の内容だった。朔夜とのお茶会が楽しかった事や限定のケーキが買えた喜び、そして弓弦葉学園に一般枠で合格できた時の喜びが女子高校生らしい丸みを帯びた可愛らしい文字で綴られていた。


 しかし、内容は学園に入学し、暫くしてから一変した。クラスに馴染めない、話しかけても答えてもらえない、物がなくなる、机がなくなる、ノートが切り裂かれる。そう言った事がつらつらと書かれ、日記と言うよりはいじめの報告書の様になっていった。可愛らしい丸文字もいつの間にか殴り書きに変わり、乱雑で不満や怒りを感じる。


 そして次第に自分をいじめた人間の名前を連ねて書き、1人1人に対して恨みの言葉を書き記す内容になっていった。

 書かれていた名前は先ほど朔夜がタブレットで見せてくれた記事に乗っていた事件の被害者と一致しており、一連の事件は間違いなく輝夜が起こしているのものだと確定した。


 日記に書かれた名前は後6人。少なくともあと6人の生徒に被害が及ぶ事が分かった。その事にネクラはとてつもない焦りを覚える。


「この6人の内の誰かに悪霊が憑いている可能性があると言う事だよね。一体誰に憑いているんだろう」


 日記を読んだことにより、ターゲットは絞り込めたが、悪霊の標的になりうる人物がこんなにも多いとは思わなった。

 寮から離れた悪霊は今現在、誰に憑いているのか。結局のところ肝心な事は分からずじまいである。


 隣でネクラに肩を寄せる形で覗き込みながら日記の内容を確認している虚無も小さく唸って考えている。そして朔夜に問いかけた。


「お前、生徒会長なんだろう。ここ最近、怪我や事故に巻き込まれそうになった人間がいると言う報告はないのか」

「えっと、ちょっと待って。思い出すよ」


 その問いに朔夜は唇に人差し指を当て、真剣な面持ちで思案する。暫頭の中の記憶を辿り様に瞑想し、数分後ゆっくり瞳を開けた。


「いた。しかも輝夜の日記に名前を書かれていた生徒だ」


 あまりにも早く辿り着いた糸口に、日記を持つネクラの手に力が籠る。緊張感を押さえながら、ネクラは言った。


「その生徒の名前を教えて頂けますか」


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