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死神補佐になりました : 来世のための少女の奮闘記  作者: 水無月 都
第七章 少女は転生とは何かを考える
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第七章 第十話 男子寮への招待

この度もお読み頂きまして誠にありがとうございます。

寒い日が続きますね。仕事でも小説を書いている時でもタイピングする手元が狂いそうになります。十分に気を付けないとですね。

本日もどうぞよろしくお願いいたします。

 虚無は朔夜へ淡々と話を始める。本来ならこの様な話は『死神結界』の中でするべきなのだが、あの結界の中に生者は入る事ができない。

 そのため、虚無はなるべく小声でそして全てを正直にではなく、なるべく伝えても問題『朔夜にも関りがある範囲』で詳細に話した。


 自分たちが何者なのか、何故ここに来て、学園で起こった事件の事を調べているのかなど、朔夜は黙ってそれでいて興味深く聞いていた。

 ある程度の事を話し終えた時、朔夜が満足そうに頷いた。


「なるほどねぇ。死神の仕事でここに来たんだ。それも悪霊を探しに」


 実際は「見習い」と「補佐」なのだが、それは言わなくてもいい事だと判断したのか虚無はそれを省いた。もちろん、2人の上司にあたる死神の事も一切話してはいない。


 そして朔夜は感心した様子でネクラと虚無を交互に見る。


「君たちまだ僕と年齢が変わらなさそうなのに、すごいね。そこは尊敬するよ」

「い、いえ。虚無くんはともかく私は誰かに助けてもらわなければ何もできない事だらけなので……」


 自分はそれほど危険な仕事はしていない。簡単な仕事ですら死神や虚無が助けてくれるからこそ能力も実力もない自分でも補佐として務まっているのだ。そう思っているネクラは恐れ多い朔夜の言葉に首を振った。


「そう?実際に今まで死神として仕事をこなして来たんでしょ。だったら自信持ってもいいんじゃない。変な謙遜したり卑屈になったりするなんて変な子だね」


 朔夜は本心からそう思っている様で自分を過小評価するネクラを褒めながらも少しだけ小馬鹿にした。

 自分で自分を否定し、他人が自分を肯定してくれた事に気恥ずかしさを覚えたネクラは話を逸らす。


「そんな事より、帝さんってオカルトにお詳しいんですね。さっきの名前を知られたらどうのって話も普通に生活していて得る知識ではないですよね」


 すると比較的穏やかだった朔夜の表情が一瞬だけ曇りそして寂しげにポツリと言った。


「ああ、それね。僕が視える人間だったからって言うのもあったけど、ちょっと霊に関して調べる機会があったんだよ」


 朔夜の表情は始めて廊下で彼を見かけた時の儚げな雰囲気と一致した。やはり、あの時の態度は演じている訳ではなかったとネクラは確信した。


「霊に関して調べる機会があったと言うのはどういう事ですか」


 ネクラは重ねて質問をする。朔夜は視線を逸らし、少しだけ言い淀んだ後に微笑みを浮かべて言った。


「それに関しては後で言うよ。多分、君たちが欲しい情報と関りがありそうだから」

「えっ」


 ネクラと虚無は顔を見合わせる。いくら元から視える体質であるとは言え、自分たちが死神だと言う事を明かしても動揺1つ見せなかった朔夜を妙だとは思っていたが、もしかすると今回の仕事に関して重要な何かを知っているのかもしれない。


 ならば、また悪霊が行動を起こす前に早急に話が聞きたい。そう思ったネクラは話を切り出す。


「では、そのお話は後でお伺いする事にして……、先にこの学園でどんな事件が起きて、どれほどの被害者がいるかを教えて下さい」

「そうだなぁ。何から話せばいものか……。君たちはこの学園で起きた事についてどれぐらい把握しているの。さっき話してくれた事で全部?」


 朔夜はネクラの問いに答える前に質問を返す。先ほど、ここへ来た目的は先ほど虚無が全て話した。

 この学園で17歳にして自ら命を絶った学生が悪霊化している事。その悪霊が既に何人かの命を奪っている事、今現在も誰かに憑りついており、害を及ぼす可能性があると言う事。ここに関わる事で自分たちが把握している事はとにかく全て話した。


「はい。さっき虚無くんが話してくれた事は全て把握していますが、詳細までは調べ切れていません。なので、詳しく教えて頂きたくて」


 ネクラは遠慮がちな態度をとりつつもしっかりと答える。


「そう、じゃあ君たちが知る情報と重なるところもあるかもしれないけど、最初から順を追って説明するよ。ああ、それだと長くなりそうだな……ちょっと待って」


 朔夜はズボンのポケットから携帯を取り出すと手早くボタンを押し、どこかへ電話をかけ始めた。


「ああ、先生ですか。帝です。やはり本日は体調が優れないので1日授業を休みたいのですが……ええ、大丈夫です。寮でゆっくりしています。ご迷惑をおかけして申し訳ございません」


 始終丁寧な言葉づかいで話した後、朔夜は携帯の電源を切る。そして黙って待っていたネクラたちに笑顔で振り返りピースサインを送る。


「よし。学年主任に許可が取れたよ。これで僕は今日の学校はお休み。心置きなく君たちと話ができるわけだ」


 彼はドヤ顔で言ったが、内容が気になったネクラが心配そうに声をかける。


「あの。やはり体調が優れないのですか。それなら、無理しなくても……」


 ネクラは朔夜が朝の授業に出ていなかったのは体調不良で保健室にいたと言っていた事を思い出し、気になったのだ。


 しかし、朔夜はキョトンとし、そして自分が言った事を思い出したのかすぐさまネクラが心配している理由を理解した。


「大丈夫だよ。保健室に行っていたのは本当だけど、体調不良ってのは嘘だから。僕は元気。さっき先生に連絡した内容も嘘だから気にしないで」

「……は?」


 悪びれる事なく告げられた言葉にネクラは呆気に取られ、虚無は呆れた様な溜息をつく。2人が若干引いているのを感じ取った朔夜だったが、平然として、むしろ自慢げに続けた。


「僕は成績優秀、品行方正な生徒だからね。確たる証拠がなくたって普段の信頼だけで十分嘘が成り立つんだよ」


 なるほど、朔夜は常に猫を被って生きていると言う事か。しかし、普段の信頼をこういう風に利用いや、悪用するのはいかがなものかとネクラは思ったが、普段の行動に問題がなければそれもいいのか……?と無理やり納得した。


「そんな事より、寮の僕の部屋に行こう。僕は1人部屋だし、ゆっくり話ができるよ。もちろん、誰にも聞かれない。善は急げだよ、ついて来て」


 朔夜はそう言って足早に歩き始めた。ネクラと虚無も少しだけ警戒心を残したままその後に続いた。


 男子寮は女子寮と同じく20階建てで、この男子寮もネクラたちが見て来た女子寮も聞けばこれはほんの一部らしい。確かに、全寮制なのだから、色々な施設を含めて20階では足りない気がしないでもない。


 そして女子寮の窓から見た時よりも男子寮は離れた位置にあった。それこそ学内バスを利用しなければ行き来できないほどに。

 朔夜曰く、これは男女同士の不必要な接触を防ぐためらしい。男女交際が禁止されているわけではないが、閉鎖された空間で間違いを起こされたくはないと言う学校側の意志だ。


 互いの寮に行き来する時は学校からの許可証と寮に入る際に守衛に許可証を見せ、学生手帳を預けなければならないと言う徹底ぶりだった。外部から寮に人を入れる際も同様に手続きする必要があるらしい。規則を破ったものは即退学となってしまうそうだ。


「君は女の子だけど、ここの生徒じゃないし、霊体だし。無許可で大丈夫だよね」


 朔夜はそう言ってネクラに笑いかけた。ネクラはどう返答していいかわからずただ苦笑いを返した。虚無は興味がなさそうに黙って歩を進めていた。


 朔夜の部屋は20階、つまり最上階に位置していた。その階にはたくさんの扉が並んでいた下の階と比べると10部屋ぐらいしかなく、不思議に思いながらネクラがキョロキョロしていると、朔夜がさらりと解説を入れて来る。


「最上階は生徒会専用なんだよ。会議室とかもある」

「そ、そうなんですね」


 一番奥の扉でリーダーに生徒手帳をかざしながら言う朔夜にネクラは引きつった表情で相槌を打った。もはや戸惑いと驚きで相槌がただの作業になりつつあった。

 

「はい、ここが僕の部屋。ちょっと着替えて来るよ。適当に座ってもらっていから。あ、ベッドに座るのはやめてね。皺になるから」


 部屋に着くなり朔夜はテキパキと指示を出した。そして自分の部屋らしき場所へと消えて行く。


「はわわ。ここ、本当に学生の部屋なの。ちょっと広すぎるよ」


 ネクラは部屋を見渡しながら激しく動揺する。朔夜の部屋は2LDKで学生が1人暮らしをするには十分すぎる広さだった。

 学生寮と言うものを見た事がないネクラだったが、ワンルームもしくは広くても1LDKではないのか。


 妙にそわそわしながらネクラは『適当に座ってもいい』と言う指示通りリビングのソファーに腰かける。1人部屋のはずが何故か4人掛けのソファーで座り心地は抜群だった。


 虚無も1人分開けてネクラの隣に静かに座る。中々落ち着かないネクラは、失礼な事おわかっていながらも、ずっと小さく体を立てに揺らしてソファーのクッション性を味わっていた。


「おまたせ。ついでに紅茶も入れてきたけど、君たちは飲めるのかな」


 暫くして、白い長そでのニットセーターにカーキー色のスラックス姿の朔夜がティーポットが乗ったお盆を片手に現れた。


「の、飲めますけど、お気遣いなく……」

「そ、よかった。気遣いとかじゃないよ。僕が飲みたいだけだから。話も長くなるし、付き合って」


 朔夜はネクラたちの対面にある1人掛けのソファーにゆっくりと座り、テキパキとお茶の準備を整える。


 3つのティーカップが湯気を立てながらテーブルに並び、かわいい花の形をしたクッキーも添えられた。

 朔夜は紅茶を一口すすり、ふうと一息ついてから口を開いた。


「それじゃ、始めようか。全てはこの学校の高等部2年の女子生徒が亡くなった事から始まったんだ」

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