第七章 第八話 スケールが大きすぎる学園案内
この度もお読み頂きまて誠にありがとうございます。
うう、なんども言いますが1話ごとのタイトルが難しいですね。センスかつあまりネタバレがない様なものって私には考えつきません(泣)
本日もどうぞよろしくお願いいたします。
今なんと、生徒の情報は生徒会長である朔夜が管理している?
なんだそれ。生徒が生徒の管理をするなんて聞いた事がない。霊体であるネクラと虚無に施されている術は『話しかけた相手に存在を認識させる』させるだけだ。認識された後は2人が『存在している気になる』だけのため、2人の存在を証明する資料等は当然の事ながら存在しない。と言うかあるはずがない。
朔夜の浮かべる笑みが段々と腹黒く見えてきたネクラは自分たちの事を調べられ、存在自体がない事に気付かれてはヤバいと内心で嘆いていた。
動揺を見せまいとしながらも震えるネクラだったが、虚無は毅然とした態度を崩さなかった。
「それは犯罪だろう。必要な時以外に他人の個人情報を見ようとするんじゃない。訴えるぞ」
「やだなぁ、冗談だよ。それにいくら生徒会長が管理しているからって個人情報はおいそれと見られないし、見るつもりもないから。だから訴えないで貰えると嬉しいな」
機嫌が悪い虚無をにこにこと受け流すその姿が死神と重なるものがあり、本心が見えづらく、捉えどころのない朔夜にネクラは警戒心を持った。
「あ、そうだ。話だ。君たち、僕に聞きたい事があったんだよね。何?」
自ら逸らした話を自ら戻して朔夜は楽しそうにネクラと虚無を交互に見る。ネクラも何故自分が朔夜に声をかけたのかを思い出し、気を取り直して悪霊探しと言う本来の目的を達成すべく質問を投げかけた。
「えっと、私たち編入生で学園内の事をあまりわかってなくて……できれば学内の事とか色々教えてもらえると嬉しいなって」
いきなり悪霊の事を聞くのは色々と怪しまれると思い、まずは無難な質問を選んだ。実際、学園内の事を把握しておきたかったし、この丁度良いと思ったのだ。
「ああ、そんな事か。それなら学園を案内してあげるよ」
「え!いいんですか。ありがとうございます」
朔夜の申し出にネクラはパッと表情を明るくして礼を述べ、勢いよく頭を下げる。
「いいよ。困っている生徒を助けるのも生徒会長としての務めだからね」
ネクラはこれで1つ問題が解消されると安堵したのち、ふと窓の外に見える時計を見る。時刻は10時半ぐらいを指していた。そこで、ネクラの中に疑問が生まれる。
「帝さん、今は授業時間ではないのですか」
色々な事に惑わされすぎてここが学び舎であると言う事をすっかり忘れていたネクラだったが、唐突にそれを思い出す。
平日の午前中、そしてここは学校。この時間であれば通常生徒は授業を受けているはずだ。休み時間の可能性もあるが、教室も見当たらないこの建物で朔夜はなにをしていたのだろうと疑問を持ち、ネクラは素直にそれを聞いた。
朔夜は少し視線を泳がせ、誤魔化す様に言った。
「あー。朝から気分がすぐれなくて。保健室で休ませてもらっていたんだよ」
「え、そんな状態で案内をして頂いても大丈夫なんですか」
ネクラは朔夜を心から気遣って確認するも、彼は両掌を見せてそれをヒラヒラ振りながら笑って言った。
「平気平気。随分よくなったから。ほら、今から案内してあげるよ。ついて来て」
朔夜にっこりと笑い、ネクラたちに背を向けてゆっくりと歩き出した。ネクラと虚無もその後に続き歩き出す。
「ここの棟はね、通称救護棟。色んな医療機関が集まった場所だよ」
「色んな、医療機関?」
とんでもない単語にネクラが戸惑いを見せていると朔夜はふふっと笑った。
「珍しいよね。多分この学園ならではだと思うよ。全て学校が運営している機関なんだ。この学園の卒業生も務めていたりするよ。多分、ある程度の医療機関は全部入ってると思うな。あ、予約を取れば外部からの受診もOKなんだよ」
「さっき保健室がどうのっておっしゃってましたよね」
色々と思考が追い付かず、混乱するネクラに朔夜はその都度答える。
「うん、ここ保健室としての機能は一般的な学校にあるものと同じだと思うよ。軽い怪我や体調不良なら大体は保健室を利用する」
「そ、そうなんですね。でも、1階は廊下だけなんですね」
「そうだね。医療機関は2階から。端まで歩いてもらうと仮眠室とか守衛室とかあるよ。でもエレベーターとかもあるし、不便をしている人は少ないんじゃないかな」
階段を上りながら朔夜が医療棟を案内して行く。建物内を隅々まで歩き回って目にしたのは内科、外科、歯医者、眼科、整骨院など、おおよそ普通の学校にはない医療機関が入っていた。
お金持ちの学校はこんなにスケールが大きいのか。そしてこれだけ医療機関が揃っているのであれば保健室の存在意義などないに等しいのではネクラが震えた。隣で歩く虚無は目立った反応こそなかったが、何度か眉が動いていたため多分現状に引いていると思われる。
クールな虚無ですら引かせてしまう弓弦葉学園恐るべし。ネクラは朔夜による棟内説明を聞きながらそう思った。
一通り医療棟を見て回り、朔夜は現在地から順に各棟を案内して回った。朔夜のナビゲートは効率的かつ分かりやすく、広い学園の事がすぐさま把握できた。
しかし、食堂棟や部活棟など、普通の学校ではあまり見かけなければ聞き覚えもない建物を目の当たりにして校内の事は把握できても理解はできなかった。
「ふう、これで一通り見て回ったかな。ここは高等部の敷地だからね。初等部・中等部・大学部は指定のバスで移動しないと行けないから今はやめておくよ」
「こ、こんなに広いのにまだ敷地があるんですか」
事前に虚無から集客数約50000人ほどのドームが10個分と聞いていたが正直言われた時は想像がついていなかった。
『とにかく広い』と言う事は何となく分かっていたが学園内をバスで移動しなければならないとは信じられない。
霊体であるため肉体的な疲れは感じないが戸惑いと困惑でネクラは精神的に疲労困憊だった。そんなネクラを見て朔夜はくすりと笑う。
「そりゃあ広いよ。1日では回れないぐらいにね。でも、各学部に同じ様な施設が入っているし、不自由はしないと思うよ」
「各学部に同じ様な施設!?」
学園に入り何度目かの驚きを露わにするネクラ。そんなネクラを見て朔夜は面白そうにクスクスと笑う。
「黒崎さんは本当に反応が面白いね。この学園、まだ驚くところはいっぱいあるんだけど、全部紹介したくなっちゃうよ」
「いえ、勘弁して下さい……」
朔夜による若干意地悪な申し出をネクラは丁重に断った。
「でも、どうかな。学園の基本的な施設は分かってもらえたかな。学園の案内図はここの生徒なら学園専用アプリのマイページから確認できるから参考にしてみて」
「あ、はい。それはもちろん。案内をして頂いてありがとうございました」
微笑みを浮かべ尋ねる朔夜にネクラは頭を下げた。隣に立つ虚無は無反応だった。
「それじゃ、僕の役目は終わりだね。また困った事があったら言って。僕が力になれる事なら手助けするから」
そう言って朔夜がこの場を切り上げ様としたため、ネクラは肝心な事を聞けていないと慌てて引き留める。
「ま、待ってください。あのっ!この学園で色々と事件が起きたって聞いたんですけど、それについて何かご存じだったら聞かせて頂けませんか」
朔夜を引き留めたいがため、少し早口になってしまったが、彼が少しだけ瞳を見開き動きが止まる。ただし、引き留められたと言うよりはネクラの言葉に動揺を示したと言う方が表現としては正しいのかもしれない。
数秒だけ朔夜は固まり、そして口をきゅっと堅く結んだ後、緩やかに口角を上げて彼お得意の柔和な笑みを作る。
「……確かに、この学園は最近不穏な事件が続いているけど、何故君たちが知りたがるのかな」
「えっと、それは……」
朔夜は笑みを浮かべていたが身に纏うオーラから圧を感じた。笑っている様で笑っていない。寧ろ怒っていると言う事が彼の笑みからヒシヒシと伝わって来る。
そのオーラに気圧され、ネクラは言い淀んでしまう。言葉に詰まり、オドオドとするネクラに変わり虚無が口を開く。
「これからこの学園に通うんだ。少しでも不安要素は払拭したいと思うのは当然だろう」
ネクラとは違い、朔夜のオーラに気圧されるどころか動揺1つ見せず虚無は朔夜をまっすぐ見据える。
それでも朔夜の怒っている様なオーラは消える事はなかったが、決して視線を逸らそうとしない虚無に朔夜の方が折れた。
「……。わかったよ。僕にわかる範囲で答えてあげる。と言うか、君たちは元々事件を調べるつもりで来たんでしょ」
「えっ」
朔夜の口から出た予想外の言葉にネクラは声を上げたが虚無は至って冷静な態度だった。そして短い呟きを吐く。
「……やはりな」
「なぁんだ。気が付いてたんだ」
1人納得をする虚無に朔夜はつまらなさそうに言った。2人の間にあるギスギスとした空気が重くなった気がした。
「や、やはりって。え、どう言う事」
状況が飲み込めないネクラは戸惑いながら虚無と朔夜を交互に見る。そんなネクラを自分の後ろにぐいっと押しやり虚無は朔夜を一層強く睨みつけた。
自分を守る様な大勢を取った虚無を不思議そうに見上げながら、ネクラは微笑みが消えた朔夜の姿を見つめる。
ネクラの緊張感が高まり、動くはずのない心臓がドクドクと速く脈打つ感覚に囚われる。
重く緊張感のある見つめ合いが続き、虚無が言った。
「こいつは、最初から俺たちの事が視えていたんだ」