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死神補佐になりました : 来世のための少女の奮闘記  作者: 水無月 都
第七章 少女は転生とは何かを考える
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第七章 第七話 学園内での出会い

この度もお読み頂きまして誠にありがとうございます。

おかしいですねー。この時期は仕事はそんなに忙しくないはずなんですけど……。山を片付けたら次の山何て聞いてない(泣)

しんどくて小説進まない!新作がかけない(大号泣)

ですが、この物語はしっかり進めますのでお付き合いの程どうぞよろしくお願いします。

「死神さん、何か用事でもあったのかな」


 突然現れた死神はネクラに術を施した後、あっさりとその場から離れて言った。本当に手助けをしにきただけの様だったが、それは死神にしてはあまりに珍しい行動だったため、ネクラはずっと違和感を抱いたままだった。


「さあな。あの人が考える事はよくわからん」

「どうせなら、もう少し悪霊に関するヒントとかくれたらよかったのにな」


 ネクラがむくれていると、虚無が呆れた口調で言った。


「珍しく初期段階で手助けをしてもらえたんだ。あまり贅沢は言うな。それに、今は仕事に集中しろ。どうしても気になる事や不満があるなら後から死神サンに直接言え」

「うん。そうだね、今は悪霊の事に集中するよ」


 今は何をすべきかを考え直したネクラは死神への違和感に蓋をする事にした。



 校舎の中に入り、長い廊下を2人並んで歩き続ける事数十分。一向に教室らしい場所が見えて来ない事に気が付いた。

 全身が映し出されるほど大きなガラス窓が並ぶ長い廊下を延々と歩いているのだ。


「教室どころか部屋らしいものも見当たらないよ。何、この棟は廊下だけの建物なの」


 果てしなく続くガラス張りの長い廊下にうんざりとしながらネクラは呟いた。霊体のため、体に疲労感はないが視覚的疲労感がすごかった。

 なにせここまでの時間、廊下を歩いている以外なにもできていない。適当な部屋を見つける事は愚か、誰ともすれ違わないと言う地獄を味わっていた。


「1階は意外とシンプルな造りなのかもしれないな。上の階へ行って調べるか」


 虚無がうんざりとするネクラを他所に冷静に言った。

 この建物は窓の数からして恐らく10階建てだ。確かに1階がシンプルなだけで上へと移動すれば教室か何かがあるかもしれない。

 諦めるのも疲れるのもまだ早い。ネクラが頷いてそれに同意した時、虚無の歩みが止まる。それに伴い、ネクラも足を止めて虚無を見る。


「どうしたの、虚無君……あっ」


 虚無の視線の先を追うとそこには白い学ランを着た男子生徒が大きなガラス窓から外を見ていた。


 色々と調べて確認済みだが、白い学ランはこの学校の制服である。そのため、視線の先にいるあの学生は間違いなくここの生徒と言う確信が持てた。

因みにもう1つは黒いワンピース風の制服で、どちらも男女兼用らしい。珍しい校風だとネクラは思った。


 白い学ランの男子生徒はクリーム色のストレートな髪に白い素肌、スラリとした手足とモデルを思わせる容姿をしていた。

 瞳は切れ長でまつ毛が長い。中性的ではあるが、まるで漫画やゲームに出て来るキャラクターを思わせる端正な顔立ちだ。


 しかし、切れ長の瞳を伏せながら窓の外を見る姿には愁いを感じ、どこか儚げな雰囲気を持っていた。身に纏うオーラも薄い気がして、話しかければ幻となって消えてしまうのではないかと思うほどに弱々しい存在だと言う印象を受けた。


 ネクラと虚無は瞳で合図を送り合い頷き、自分たちの姿を認識させるべく男子生徒に近づいて声をかける。


「すまない、ちょっといいか」

「お話を聞かせてください」

「あ……はい。なんでしょうか」


 男子生徒は窓の外を見つめる事をやめ、ネクラと虚無の方に視線を移す。そして認識によってここの生徒に見えているとは言え、男子生徒からすれば見知らぬ2人に声をかけられたせいか、瞳を瞬かせながらネクラと虚無を交互に見る。


「あ、あの。私たち今日この学校に編入して来たんです。だから、わからない事が多くて……。よかったら色々と教えていただきたいと思いまして」


 不思議そうに自分たちを見つめる男子生徒にネクラは適当な理由をつけて話を切り出そうとした。しかし、ネクラの言葉を聞いた男子生徒の瞳がますます見開かれる。


「編入生?すごいね。この学園に編入できるなんて、君たちは余程のお金持ちの家庭か、何かの能力があるのかな」


 男子生徒は微笑みながらそう言った。どうやらこの学園で編入生と言うのは珍しいケースらしい。男子生徒はまじまじとネクラたちを見つめた。

 

「え、ええっと」

「……」

 

 突然の質問にネクラは瞳を泳がせ、虚無は無表情で黙り込んだ。

 理由付けに失敗したかもしれない。ネクラがそう後悔した時にはもう遅く、質問したいのはこちらの方だと言うのに男子生徒は興味深そうにネクラたちプライベートな部分に踏み込んで来る。


「君たちは親しげに見えるし……。見たところ兄妹かな?兄妹で編入試験と検査に合格するなんて、やっぱりすごいよ」

「うう、ええっと」


 先ほどの儚い雰囲気が嘘の様に男子生徒はやや強引なまでにネクラたちに詰め寄り、キラキラとした視線を向ける。

 ネクラが返答と対応に困っていると、虚無がネクラの前に一歩踏み出し、男子生徒を遮る形で口を開いた。


「ああ。まあな。俺たちは兄妹で編入してきた」

「えっ」


 さらりと大嘘を言ってのけた虚無にネクラは声を上げてしまう。しかし、瞬時に彼が睨んできたため慌てて口を押え、首を傾げる男子生徒に笑顔を向けながら誤魔化す。


「話を合わせろ」


 虚無はネクラに背中を向けながら小声でそう言った。

 確かに、ここでは『編入生』と言う存在は珍しい様だし、この学園で虚無と行動を共にする時は兄妹で編入と言う事にしておいた方が色々と辻褄が合いそうだ。


 ネクラは男子生徒にわからないように虚無に向かって頷いた。


「やっぱりそうなんだね。あまり似てないと思ったけど、ならんで歩く姿がとても仲が良さそうだったから」


 男子生徒は納得したらしく、柔和に微笑んだ。その優しい雰囲気にネクラも思わず安心感を覚えたが、虚無はピクリと眉を動かしてまた無言になった。心なしか男子生徒を鋭い目で見据えている様な気がする。

 

 ネクラがそんな虚無の様子を妙に思っていると、男子生徒も虚無の視線に気が付いたのかハッとして言った。


「ごめん。自己紹介がまだだったね。僕はこの学園の高等部3年、帝朔夜(みかどさくや)。一応、高等部の生徒会長だよ。よろしくね」


 丁寧な人だなぁとネクラは思いつつ、即座に重要な事に気が付く。相手が名乗ったと言う事は、こちらも名乗る義務があると言う事だ。


 しかし、毎度の事ながらネクラたちは名前を持ち合わせていない。死神からもらった仮の名前は正直名乗りにくいし、兄妹ならまず苗字を合わせなければ。


 余計な考えがネクラの頭でグルグルと渦巻いて何も思い浮かばなくなってしまう。早く、早く名乗らなければ。半ばパニックになりながらそう思った時、虚無が口を開く。


「黒崎。俺たちは黒崎と言う。俺は高等部3年。妹は高等部2年だ」

「黒崎……何くんと何さんかな」


 虚無は自身が現世で仕事をする際にたまに使う苗字だけを名乗った。学年も恐らく兄妹設定のため、あえて学年を1年ずらしたものと思われる。


しかし、苗字しか言われていない朔夜は当然の事ながら下の名前は何なのかと首を傾げた。

名前も教えて欲しい、そんな事を思っているであろう朔夜に虚無は素っ気なく、寧ろ突き放す様に言った。


「個人情報をわざわさ晒す訳がないだろう。俺たちはお前と交流を深めたいわけではない。話を聞きたいだけだ。名乗るのは苗字だけで十分だろう」

「つれないなぁ、じゃあ君たちの事は黒崎くんと黒崎さんで呼び分ける事にするよ」


 普通を人なら気を悪くするであろうその言葉を朔夜は苦笑いで受け流した。あまりにも厳しい態度の虚無にネクラは申し訳なくなりおずおずと謝罪する。


「す、すみません。きょむ……じゃない。お、お兄ちゃん、いつもこんな感じなんです。気を悪くしないで頂けると幸いです」


 体を小さくしながらモゴモゴとするネクラに朔夜は優しく微笑んだ。


「大丈夫。僕は何も気にしていないから。それよりも君たちも高等部だったんだね。まあ、見た目でそうかなぁとは思ったけど。だったら名前ぐらい、いつでも知れるからいいよ」


 朔夜は笑顔でそう言い切った。『いつでも知れる』その言葉に何故か嫌な予感がしたネクラの胸がドキリと音を立て、冷や汗が出る。


「あ、あの。いつでも知れると言うのは」


 嫌な予感はネクラを徐々に支配して行き、脳を伝い全身が痺れるほど緊張していた。


「うん。この学園は規模が大きくて学生の人数も多いから、在学する生徒の管理は各学年の生徒会長がする事になっているんだ。だから、僕は高等部の生徒の情報であればいつでも管理する事ができるんだよ」


 その言葉を聞いた瞬間、ネクラは背筋が凍ると共に思わずふらつきを覚えた。

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