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死神補佐になりました : 来世のための少女の奮闘記  作者: 水無月 都
第七章 少女は転生とは何かを考える
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第七章 第六話 悪霊の行方

この度もお読み頂きまして誠にありがとうございます。

七章の結末は考えているのですが、そこまで辿り着くまでの文章にまとまりがない(泣)

何とか結末までもっていけるように頑張ります。

本日もどうそよろしくお願いいたします。

「掃除道具入れで、亡くなった」


 そのあまりにひどい言葉にネクラは口元を押さえて震えた。こんなに狭い場所で、何を思ってそんな結末を選んでしまったのか。


「……。あくまで俺の推測だ。だが、お前の前で余計な事を言ったかもしれんな。すまなかった」

 

動揺するネクラに気が付いた虚無が気遣う様に言った。その言葉を受けたネクラは動揺と震えをなんとか抑え込んで無理やり微笑んだ。


「ううん、私は平気。死神補佐だもん。こう言う事にもしっかり向き合わないと」


 虚無は気丈に振る舞うネクラに何か言いたげな表情を見せたが、かける言葉に悩んだ後、口を堅く結び黙り込んだ。


「でも、どうしてどの場所も悪霊の気配が薄いのかな」


 気まずい空気を早くなくそうとネクラは話を続けた。虚無も余計な気を遣うのは良くないと判断したのか、平常を保ちその問いに答える。


「……一か所に留まっていると思っていたが違うのかもしれないな」

「違うってどういう事?」

「獲物を求めて寮内を徘徊しているのかもしれないな」

「獲物……」


 虚無の口からさらりと出た『獲物』と言う言葉をネクラは繰り返す。また不安感を醸し出したネクラを気にしながらも虚無は自分の考えをしっかりと伝える。

 

「悪霊はこの寮でいじめを受けていた。何人かは既に手にかけられてしまった様だが、まだ恨んでいる奴らがいるのか、それとも悪霊化が進んで暴走が始まっているのか……」

「で、でも寮の中を徘徊しているなら、さっき私たちと鉢合わせしているはずだよ。私たちが悪霊と会わなかったって事は徘徊している可能性は低いんじゃないかな」


 個人の部屋こそ入らなかったものの屋上を覗いて全ての階を見回ったはずだ。悪霊が獲物を求めて徘徊しているとして、気配を読み取る事に長けている虚無の探知をかいくぐるのは並みの悪霊では困難だと思うし、状況から考えて悪霊と鉢合わせるどころか姿を捕える事が出来なかったと言うのはおかしい。


 虚無もそこが引っかかっている様でネクラの言葉を受け、考えを巡らせているのかまた黙り込んでしまった。そんな彼を見たネクラも必死に考えて思いついた事を口にする。


「実は唯一見回らなかった屋上にいたとか、もう既に獲物を見つけて憑りついているからこの寮にはいないとかかな」

「ああ。俺もそう思う。可能性が高いのは後者だな。獲物に憑りついて命を奪おうとしているのかもしれない」

「も、もしそうだとしたらまた犠牲者が出るって事だよね。大変!早く悪霊を見つけないと」


 事態を悪く見たネクラが顔を青くして右往左往する。そんな彼女とは対照的に虚無は落ち着いた口調で言った。


「急ぐべき事かもしれないが、無暗に焦るものじゃない。冷静に行動を考えるんだ」

「う……そっ、そうだよね。焦るのはよくないよね」


 冷静な虚無の態度に多少は落ち着きを取り戻した様子のネクラだったが、まだそわそわとした雰囲気は残っている。

 

 急いで誤った行動を取ればそれこそ大惨事。現状を把握して最善の方法を考えた方が良いのはネクラにだってわかる。だが、誰かに悪霊の魔の手が迫っているかもしれないと言うのも事実。それを思うとネクラの心はどうしてもざわついてしまう。


 落ち着くべきだが急がなければならない。この矛盾した状況にネクラは落ちついたり、焦ったりを繰り返している。


「しかし、この寮に悪霊がいないとしたら俺たちがここにいる意味はあまりないな。校舎の方へ向かってみるか」


 虚無が冷静に提案し、ネクラは彼の方を見てざわつく心を抑え込んで頷いた。

 


 校舎は寮ら1時間ほど歩いた同じ敷地内に建っていた。校舎までの道のりは舗装されており、道端には木や季節の花が植えられ、庭園の中を歩いている様だった。

 その道を抜けた先に建つ校舎は学生寮と比べ物にならないほど大きくて立派な建物だった。


 真っ白い壁は清潔感に溢れ、外からでも確認できる大きな窓は生徒や教員が行き交う様子を鮮明に映し出し、綺麗に磨き上げられている事が分かる。


 校舎は何棟もあり、視界の先まで白い建物が連なっている。校舎の真ん中は庭園風の長い通路で道がいくつか別れており、庭園を中心に各棟に移動できる様な造りだった。


 ふと上を見上げると校舎から校舎へと渡り廊下も繋がっているらしく、広く大きな学園で効率よく行動できる工夫が施されていた。


「あわわ。寮もすごかったけど、本校舎はもっとすごいね。建物が何棟あるんだろう」


 改めて弓弦葉学園の金持ちっぷりを目の当たりにしたネクラは金持ちの圧に気圧されてプルプルと震えていた。

 しかし虚無は動揺1つ見せる事なく、庭園風の通路を躊躇なく突き進む。


「き、虚無くん待って!」


 置いて行かれまいとネクラは慌てて虚無の後を追いかけた。小走りで虚無の隣に追い付いたネクラは言った。


「当たり前だけど、寮より校舎の方が広いね。どうやって悪霊を探せばいいかな」


 キョロキョロと辺りを観察しているネクラに虚無は淡々と答える。


「確かに、広い分骨は折れそうだが、人が多いと言う点では寮よりも情報収集がしやすいと言う利点がある。ここ最近は連続して事件が起きている様だし、人が集まる場所に行けば何か話が聞けるかもしれない」

「そうだね。それでもピンポイントで悪霊関連の話をしている人に辿り着くのは大変そうだけど……。せめて前みたいに私の姿を生きている人に認識させる事ができればなぁ」


 待つよりもこちらから行動をした方が効率的に決まっている。話を盗み聞くより生徒を呼び止めて直接話を聞いた方が確実に情報を手に入れられる。


 しかし、霊体であるネクラと虚無は基本的には生者には認識されない。虚無は見習いであるため力が制限されており、自身の姿の具現化はできてもネクラの姿を具現化できる力は今のところ持ち合わせていない。


 今まで仕事で人間に認識される必要がある際は死神の力で生者にネクラの姿が視える様にしてもらえていたが、残念ながら死神はこの場にいない。


 かと言ってここまで何もしていないにも係わらず、虚無だけに情報収集を任せるのは気が引けるし、自分も力になりたい。

 カラスのキーホルダーの存在が頭を過ったが、今が使い時かと言われると違う気がする。


「それぐらいなら手助けしてあげるよ」


 どうしたものかとネクラが唸っていると、聞き覚えがある声がしたと同時に不意に影が差した。何事かと視線を上に向けたネクラの瞳が見開かれる。


「し、死神さん!?」


 ネクラは視界に映ったその人物の名前を口にする。虚無も死神が現れた事は予想外だったようで、彼も瞳を見開いて死神を眺めていた。

 2人からの驚きの視線を受けながら、死神は意気揚々と喋りだす。


「いやぁ、かわいい部下が困っている様だったからつい出て来ちゃった。どう、びっくりしてもらえた?」


 にこにことしながら自分を見つめ返して来る死神に戸惑いを覚えつつもネクラは疑問をぶつける。


「び、びっくりはしましたけど、こう言うタイミングで死神さんが出て来るのは珍しいなって思って」

「ああ。そうだな。いつもは頼まない限りは手助けはしないスタイルだしな」


 死神は基本、ネクラたちに重度の危機が訪れない限り手助けはしない。どうしても力を貸して欲しい場合は自分たちから連絡する必要があるのだ。

 経験上、それを十分に理解している2人は特に危険がないこの状況で死神が『困っているから』と言う理由だけで自ら姿を現した事に違和感を覚えた。


「ええ。2人ともひどいなぁ。俺だった部下を可愛いって思う気持ちはあるんだよ。それに実際、困ってるんでしょ。助けてあげるって言ってるんだから、素直に俺の厚意を受け取りなよ」


 死神はわざとらしくショックを受ける素振りを見せながら言った。まだ違和感は拭えないが、死神は気まぐれなところがあるため、今回も気まぐれで手助けをする気になったんだろうと思う事でネクラも虚無も納得をした。


「では、死神さん。私の姿を以前みたいに人に認識してもらえる様にして下さい」


 ネクラは頭を下げ、改めて死神にお願いをする。死神は満足気な笑みを浮かべて言った。


「おっけー。任せて」


 死神がネクラの顔の辺りに己の掌を数秒翳す。一瞬だけ黒い光りがチカリと瞬き、死神は腕を下す。


「これで本腰を入れて潜入捜査ができます。ありがとうございます」

「いいよ。そんな御礼を言われる事なんてしてないし」


 深々と頭を下げるネクラに死神はヒラヒラと手を振りながら何て事はないと笑う。そしてネクラにいつもの様に注意事項を確認する。


「いい?今君に施したのはいつもと同じ『声をかけたら認識される』仕様だからね。設定はこの学園の編入生って事にしておくよ。今まで通りそれを上手く利用して行動してね。虚無くんも同じ仕様の術を自分に施してもらっていいかな。1人は常に視えていて、1人は条件付きでないと視えないなんてやりにくいでしょ」


 死神はネクラに話しながらも虚無にも提案をした。虚無はその提案に静か素っ気なく答えた。


「ああ。わかっている」

「そっか。ならいいよ」


 不愛想な虚無の態度を気に留める事もなく、死神は笑顔で頷いた。そして2人の背中をバンッと叩く。


「うぐっ!?」

「っ……!?」


 割と強めの衝撃が背中に走り、ネクラの口から低い悲鳴が漏れる。虚無はなんとか声を押さえた様だったが、それなりの衝撃はあったらしく、若干よろけていた。

 いきなり何事かと恨めしそうに2人が振り向くと、そこには満面の笑顔で親指を立てる死神の姿があった。


「さあ!これで準備万端だよ。気を付けていってらっしゃい」


 そのおかしなテンションの死神を目の当たりにし、ネクラと虚無は顔を見合わせて首を傾げた。

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