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死神補佐になりました : 来世のための少女の奮闘記  作者: 水無月 都
第七章 少女は転生とは何かを考える
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第七章 第四話 寮内探索開始

この度もお読み頂きまして誠にありがとうございます。

どうしてでしょうか。あまり話が進んでいない気が……。でも、どれも必要な文章なのですよ(多分)。なんとか話を進めつつ、七章を書き上げて行きたいです。

本日もどうぞよろしくお願いいたします。




 ネクラと虚無は弓弦葉学園内にある女子慮に当てもなく並んで歩いていた。入口の壁に表示されていた案内図を把握し、エントランスをスタートとし、下から上へと見回る事にした。


 全部で20階と言う高層マンションに匹敵するこの学生寮は、エントランスの上、つまりは2階からが学生のエリアとなっている。


 なお、エントランスは休憩所以外は守衛の簡易宿泊施設となっている様だった。きちんとした部屋と専用のシャワールームもあると言う好待遇だった。


 そこを通り過ぎ、階段を上がって2階は小さめの図書室があり、これは学生寮用の図書室らしく、本館は別にあると新入生用の掲示板に書いてあった。


 その隣には同じく小さめのカフェがあり、学生寮ではなく駅ナカではないかと錯覚してしまう。


「ここ、本当に学生寮なの……なんでこんなにキラキラしてるの」


スケールが大きすぎるその場所でネクラは未だに戸惑いを隠せず、自分では場違いなその場所でその身を震えさせながら歩いていた。


虚無はその隣で特に反応も動揺も示すことなく平然と歩みを進める。その様子をみたネクラは自分ばかり動揺していてはいけないと思い直し、雑念を払うべくブンブンと頭を振った後、気持ちを新たに虚無に確認をする。


「悪霊はこの寮に憑りついてるんだよね、何か手掛かりがあると思ったけど、今のところ何も気になるところはないね」

「ああ。寮の中でも特定の場所に留まっているのか、気配がうっすらとしか感じ取れない。この階にはいないのかもしれないな」

「気配……そっか、虚無くんには悪霊の気配がわかるんだったよね」


 悪霊の気配が分かる。それは虚無が死神見習いである故であるが、彼が生前にそれなりの霊感があったからとも言えた。


霊が視えると言う力を持っていた彼は死後、死神にスカウトされて死神見習いとなった。本来、現世出身の死神は『元人間』であるが故に純粋な死神に比べて能力が落ちる。しかし、虚無は違った。


その影響で元々の霊力に磨きがかかり戦闘はもちろん悪霊探知能力も一級品、今では数多の死神たちの間で話題になっている死神界のホープ。


そう言った面では虚無も『特別』なのかもしれない。虚無は見習いになった際に誰かに疎まれたりした経験はあるのだろうか。


また仕事とは関係のない余計な考えが過り、ネクラは無意識に虚無に視線を送っていた。虚無はそれに気が付いていたが、特に咎める様子もなく、黙って歩みを進めていた。


一応、図書室とカフェを見て回ったが、収穫はなかった。


 次に辿り着いたのは3階。ここから学生が住むエリアとなる。同じ色、同じ形をしたオートロック式の扉が壁に沿ってずらりと並んでいた。

 扉は茶色でその傍にはインターホンも備え付けられている。内部のセキュリティも万全のようだ。


「うーん。ここからは学生さんたちの部屋しかないみたいですね」


 エントランスの案内図で確認したところ3階から上は全て住居エリア。

しかし、部屋の数が多く1部屋ずつ調べるのは効率的ではないと言う事、そして日中の授業で学生がいない時にいくら霊体と言えど無断で女性の部屋に侵入するのは良くないと言う判断から、今の段階では個人の部屋に入る事はやめようと言う話になった。


「今行ける場所は屋上ぐらいしかないね」


 各階にある案内図を見ながらネクラが残念そうに確認する。屋上は洗濯物を干せる場所らしい。だだ、案内図の下には説明書きがあり、屋上を利用する場合は守衛に申し出る様にと注意書きがあった。


「屋上に行くのに守衛さんに言う必要があるんだ。どうしてだろうね」


 文字を目で追いながらネクラが疑問を口にすると、虚無が無表情のまま冷静に推測する。


「いつでも誰でも屋上に人が入る事ができる、と言う状況は学校側がリスクを伴うからな。守衛を通す事によってある程度誰が利用したか監視と把握したいんだろう」

「リスク?」

「……お前なら、わかるんじゃないのか」


 ピンと来ていないネクラに虚無は少し遠慮をした口調で言った。

 お前ならわかる。その言葉をじっくりと自分の中で巡らせ、そしてネクラは答えに行きついた。


「そっか……。屋上は危険があるものね」


 ネクラは危険と表現したが、自らの死因を思い出す。自ら危険な行為を行った過去がフラッシュバックする。


 特に学校は授業や部活があり、人の動きが読みやすい。人がいない時間を狙うのはたやすい事なのだ。ネクラもそうたため、虚無が言う通り理解ができる。


 過去の行いを指摘された気分になり、少しだけ気持ちが沈んでしまったネクラに虚無がバツが悪そうに謝罪する。


「……。悪い、そんな顔をさせるために言ったんじゃないんだ」

「あ、ううん。気にしないで、虚無くんは間違った事言ってないもの」


 ネクラは虚無に罪悪感を持たせまいと、懸命に笑顔を作った。虚無は切なそうに眉間に皺を寄せ、そしてネクラの気持ちを汲み取ってか何事もなかった様に、それでいてネクラを気遣う様に言った。


「まあ、理由はそれだけじゃないだろうがな。そう言う事に関係なく、単純に危ないからと言うだけなのかもしれない」

「うん、確かに。二次元の世界だとフツーにお弁当食べたり、サボりの人が集う場所って感じだけど、実際は危ない場所だよね。風とか強い日は特に」

「……ああ。割と屋上弁当に憧れる輩が多いみたいで自由に屋上に入る事ができないと知ってショックを受ける奴も多いみたいだな」


 珍しく話題に乗って来た虚無に少し驚いたネクラだったがそれが何故だか嬉しくなり、ネクラはにこにこと笑いながら楽しそうに答えた。


「だよね!私もちょっとがっかりした人間だよ」

「……そうか」


 虚無が短く答え、ネクラはハッとする。少し調子に乗って喋りすぎたか。そう思って急に気恥ずかしくなり、話を戻す事にした。


「も、元々立ち入り禁止の場所じゃ調査してもあんまり意味がないかな」

「そうだな。悪霊になった魂が命を絶った場所であれば手がかりはあったかもしれないが」


 虚無が顎に手を当てて考える素振りを見せる。ネクラはキョトンとして聞いた。


「その場所は死神さんから聞いてないの?」

「ああ。聞いてないし、端末に送られて来た情報にも特に記載はないな。また死神サンのスパルタ指導の一環だろう。知っていても教えない、いつものパターンだ」

「ああ、なるほど」


 ネクラと虚無を担当する死神は自他共に認めるスパルタ指導をする。そのやり方とは主にどんなに手間がかかり、危険で困難な事でもギリギリまで自分の力で解決させると言うもの。


 もちろん本当に危ない時は助けてくれるが、基本的には与えられた仕事は最低限自分の頭で考え、体を動かさなければならない。こなす内容については個々が持つ能力の範囲内でかまわないとも言われた事がある。


 厳しい指導をする理由は自分の下へ来る魂が最速で転生させる、或いは立派な死神に育てるための手段らしい。


 ヘラヘラしているのにしっかりと魂の考えてくれているとも思うが、他の死神はそれほどスパルタではないらしく、マイペースで頑張りたい者とは相性が悪いだろうなと思った。

 逆に、早急に転生を望む場合は相性抜群だろうと感じる。


「華さん、転生先で楽しい人生を送れているのかな」


 早急に転生を望む。それを考えた時、最近であった死神補佐の華の姿が脳裏に過る。才能があったがそれ故に疎まれる事も多く、その実力が認められる事のないまま過労で倒れて命を失った華。


 ヒステリックなまでに早期の転生を望み、奔走し続け見事転生の資格を手に入れた彼女は今、望んだ未来を手に入れられたのだろうか。


 ネクラは彼女が転生する瞬間を見守ったが、その後の事まではわからない。時の流れに囚われない空間で過ごしているせいか、つい最近華を見送った気もするし、彼女と別れてから随分と年月が過ぎている様にも思える。


「……転生できるのが楽しみか」

「えっ」


 ぼんやりと華の事を考えていると不意に虚無がそんな事を言った。ネクラは自分が独り言を言った事に気が付き、反射的に口を塞ぎ虚無を見た。

 彼は何とも言えない、しいて言うならとても寂しそうな表情を浮かべネクラを見つめ、答えを待っていた。

 

 その顔を瞳に映した時、ネクラの胸に何故だか罪悪感の様なものが生まれ、喉がひんやりと冷たくなり、言葉を発する事が出来なくなってしまった。

 しかし、虚無は答えを待っている。こちらを見つめる事をやめないため、ネクラは生唾を飲み込み、なんとか言葉を紡ぐ。


「た、楽しみと言うか、努力が報われるって思ってる……かも」


 動揺と緊張でたどたどしくなってしまったネクラをじっと見つめ続け、そして虚無は視線を逸らした。


「そうか」


 特に言葉をかけるわけでもなく、虚無は簡単に相槌を打った。そこから何も話さなくなった彼を、今度はネクラがただ不思議そうに見つめてた。

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