第七章 第三話 潜入先はお金持ち学校
本日もお読み頂きまして誠にありがとうございます。
私、最近多忙すぎて活動報告を開ける習慣がなかったのですが、コメントを書いてくださった方がいらっしゃいました。とても光栄です。
随分前にコメントを頂いた様で、御礼が遅れまして大変申し訳ございません。もし、まだ私の作品を読んで下さっている場合は遅ればせながらコメント欄にてお返事させて頂きましたのでご確認いただければ幸いです。
コメント・評価、励みになります。
本日もどうぞよろしくお願いいたします。
とある学生寮の悪霊を見つけると言う仕事の詳細を聞き終えたネクラと虚無は、死神の指パッチンでワープし、悪霊が留まっていると言う学生寮の前へとやって来た。目の前にそびえ立つ建物は真新しい綺麗な建物で、学生寮と言うよりかは一般のマンションにも見えた。
寮は校舎の真後ろに位置しており、その校舎も大きくて立派な佇まいだった。もしかしたらここは裕福な家柄の生徒が通う学園なのかもしれない。
ただ、寮からは人の気配はない。辺りが明るい事から、現在は正午だと言う事が分かる。恐らく寮生たちは授業に出ているのだろう。
「学生さんは授業に出ているのかな」
「ああ。その可能性が高いな」
ネクラと虚無は辺りを見回しながら言った。何か手掛かりになる物はないかと思ったが、残念ながら外観だけでは何も感じ取る事はできなかった。
「じゃ、ネクラちゃん、虚無くん。行ってらっしゃい、頑張って。一応近くにはいるからね。虚無くんもいるし、大丈夫だとは思うけど、油断はしないでね」
「はい。行ってきます」
「……」
死神はにこりと笑って言った。ネクラはキリリッとしてそれに答え、虚無も小さく頷く。
ネクラは寮へと足を進める途中、一瞬だけ死神を振り返った。死神は笑顔でネクラたちに向かい手を振っていた。
「……頑張ろう」
この仕事を頑張ればまた転生に近づける。そう思いネクラは気合いを入れた。虚無はそんなネクラを横目で見ていた。
一方、かわいい部下2人が学生寮の中へと姿を消したのを見届け、死神は振っていた手を下す。
「さてと、ネクラちゃんはどこまで情報収集できるかな」
死神が楽しそうに学生寮を眺めていると彼が持つ端末が震え、着信を知らせる。
「ああ、鐵か。何、連絡してくるなんて何気に初じゃない?ん、仕事の話?……うん、その悪霊なら俺の担当だね……え?マジで。ネクラちゃんに任せちゃったけど。うん、うん。わかった。俺もなるべくフォローする」
呑気な声色で通話をしていたネクラだったが、途中から真面目な顔つきで頷き始める。そして会話が終わり、彼は通話を終了した。
そしてゆっくりと端末をしまい、大げさに肩を落として深い溜息をついた。
「はぁー。最悪じゃん。面倒くさい事になったなぁ」
死神が大きな問題と頭を抱えていた時、ネクラと虚無は学生寮の敷地内にいた。寮の入口には守衛室があり、学生証を入口の機械に翳さなければ入れない造りで、セキュリティは厳重だったが、霊体であるネクラたちには全て無意味で、いつも通り正面玄関から堂々とすり抜けて侵入した。
「それにしても大きい寮だね。この建物が校舎だって言われても信じちゃいそう。お金持ちの人が通う場所なのかな」
寮の入口を入った先は大きなエントランスだった。郵便物を受け取れる学生専用のポストや、大きな掲示板、数人で座れる休憩用の椅子などがあり、正面には2機のエレベーターがあり、そのすぐ傍には階段もある。
天井のシャンデリアはガラスのみの輝きでも十分なほどにキラキラと輝き、床も掃除が行き届いているのかピカピカだった。
見るからにお金をかけていそうな見た目に緊張してしまい、ビクビク、ドキドキしているネクラの問いかけに虚無は冷静に返した。
「少し待て。死神サンからこの学園についての詳細が送られて来た。確認する」
虚無が端末を取り出してそれを確認する。死神補佐であるネクラは連絡用の端末を持つ事は出来ないが、見習いである虚無は自分専用の端末を所持している。
そのためある程度必要な情報は死神から随時送られてくるし、通話も可能なので相談や報告もできるのだ。これらは端末を持たないネクラが単独で行動している時はできないものなので、こういう面では死神見習いである虚無と行動を共にするのは有難いとネクラは思う。
「ここは弓弦葉学園と言う。男女共学で全寮制らしいな。見ての通り、基本的には裕福な家庭の人間が通う場所みたいだな」
「基本的には?」
含みのある表現をした虚無にネクラが首を傾げると、虚無は端末を見ながら説明をした。
「入学できるのはそれなりに多額の入学金を払った生徒のみ。大企業の子供が多いらしい。だが、優秀な生徒の育成に力を入れていると言う事もあり、一般家庭でも何かの才能があったり、学力が優れている場合は特別に学園に関する全ての事において全面免除で入学ができるらしい」
「全面免除!?すごいね。奨学金とかじゃないんだ」
ネクラは瞳を瞬かせた。奨学金制度は聞いた事があるが全面免除とは珍しい。一体どういう仕組みと意図があるのか理解しがたい。
驚くネクラに虚無は端末を見ながら適当に返した。
「学園自体に余程の財産があるのか、それともそうまでして優秀な人材を輩出したいかのどちらかじゃないのか」
「そ、それにしてもちょっと太っ腹すぎないかな」
何か裏がありそうで怖い。そう思いながらもネクラの脳裏に過るものがあった。まさかとは思いながらもネクラはそれを虚無に確認する。
「ねえ、虚無くん。まさかとは思うけど、今回の悪霊って一般家庭の子だった?」
「ああ。端末の情報にもそう書いてある。よくわかったな」
虚無がネクラを見ながら彼女の考えを肯定し、考えが的中してしまったネクラがやっぱりかと思うと同時に胸が締め付けられた。
似た様な価値観や価値観、人種が集う場所で少しでも『特別』な存在がいれば、良くも悪くも注目されてしまう。
ましてや、自分よりも立場が下だと思っている人物が自分よりも「上」の存在だった場合、生まれる感情は恐らく嫉妬の感情。
自分よりも劣っていると思っていた人間が実は優れたいたと言う事実の悔しさ、恥ずかしさ。そして周りにいる皆が同じ感情を持っていた場合、それは同調し、生まれた黒い感情を惜しみなく『特別』にその感情をぶつけるだろう。
今回の悪霊化してしまった命が絶つきっかけとなったいじめの原因は恐らくそれだとネクラは確信した。
「因みにここは女子寮。悪霊の性別も女の可能性が高いな」
「……。学園でも寮でも心が休まるところがなかったなんて、つらかっただろうな」
虚無が詳細を話していたが、ネクラはぼんやりとしていたため、独り言をポツリと呟いた。
そんなネクラを虚無はチラリとみながら、その小さな呟きに短く答えた。
「そうだな」
虚無の声を聞いてネクラは我に返り、先ほどの態度を誤魔化す様に大きなガラス窓から外を見た。
「あ、あれかな。男子寮。でも、ちょっと遠いところにない?」
窓から見える先に今いる建物によく似た外観の建物があった。ただその大きさから察するに、女子寮とは少し距離がある様で歩いて行き来するのは1時間はかかりそうだと推測できる。
「ああ。そうだろうな。この学園の敷地面積は集客数が約50000人ほどのドームが10個分らしいからな」
「え、なにそれ、すごい」
恐らく虚無は単位で表すよりもわかりやすい表現を選んでくれた様だが、スケールが大きすぎてよくわからなかった。
「お金持ちって凄いんだね」
「そうだな」
訳が分からなくなっていたネクラは意味のない言葉で納得し、虚無はどうでもよさげに頷いた。
話が一区切りついたところで、虚無は端末をしまって今後の提案をネクラに持ちかける。
「まずは悪霊によってどんな被害が出ているかを調べたいところだが、午前中の寮には人はいない様だからな。ある程度寮内を見回ってから校舎の方へ行くか」
「そうだね。でも、何をどう調べればいいんだろう。勝手に個人の部屋に侵入するのは気が引けるし」
「……。それは男の俺としても同意だな」
ネクラはうむむ。と唸りながら頭を捻り、虚無も瞳を閉じて策を考え込んでいる。しかし、これと言った考えはお互いに思いつかず、同時に同じ事を口にした。
「「寮内を一周しながら今後の事を考えよう」」
まったく同じ発言をした事に互いに驚き、そしてネクラは瞳を丸くしてからへらりと笑い、虚無もわずかに微笑んだ。