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死神補佐になりました : 来世のための少女の奮闘記  作者: 水無月 都
少女は転生を強く願う新たな補佐と出会う
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第六章 第十二話 生霊の正体とは

いつもお読み頂いてありがとうございます。

最近、ストックがなくなり、即書いて即投稿の流れになってしまっております(泣)

普段は見直し、余計な文章は削る、表現の修正をできる限りするのですが、めっきりできなくなってしまい……。

ぐだぐだと申し訳ございまさんが、それなりに楽しんで頂けますと光栄です。

本日もどうぞよろしくお願いいたします。

「死神の鎌が、効かない!?」


 衝撃的で絶望的な言葉にネクラは瞳を見開いた。同時に胸の奥がスーッと冷たくなってゆくのを感じる。更に続く鐵の言葉でネクラの不安は加速する。


「しかも、向こうはこちらに攻撃できるわけだからね。私たちができる事と言えば防御ぐらいだろうね」


 頼り甲斐がある死神2人が肩を落としているのを見て、事態が深刻であると言う事を実感してしまったネクラは青ざめた。


「そ、そんな。じゃあ、どうすれば良いんですか」

「死神の鎌は生者は斬れないけれど、2つの魂の内1つは悪霊の魂なんでしょ。なら、そいつを斬れば解決するんじゃないの?」


 パニック寸前のネクラとは対照的に華が冷静に意見を述べるが、死神2人は渋い表情で首を横に振った。


「それは無理、と言うか無駄じゃないかな」

「はぁ!?どうしてよ」


 意見をあっさり無駄だと否定され、ムッとした表情を浮かべる華に対し、死神は息交じりに言う。


「そんな顔しないでよ。怖いから。生霊が主人格になってしまっている。この力もあいつが持つ感情も悪霊はなく生霊が持つもの。仮にあれと融合した悪霊だけを折檻できたとしても、俺たちに敵意を向けるあいつを倒せないんだから、現状は変わらないと思うよ」


 状況を説明した死神に華はそれがどうしたと言わんばかりに食いついた。


「どうしてあれと戦おうとするわけ?本来のターゲットである悪霊だけを折檻して、生霊はあの男のところへ戻しておけばいいじゃない。それで万事解決よ」


「でも。そんな事をしたら源さんがまた苦しむ事になってしまいます」


 とんでもない事を言い始めた華を止めようとネクラがそれを止めようとすると、華は眉を吊り上げ、キッとネクラを睨んだ。


「浮気した上に1人の人間を死に追いやる様なきっかけを作ってしまった人間に同情する余地はないわ。あなた、忘れたわけじゃないわよね。私は、早く仕事を終わらせたいの」


 先ほどまでは友好的だった華が突如として出会った時と同じ刺々しい感情を向けて来たので、その変貌ぶりにネクラの肩がビクリと震える。

 華への恐怖が蘇ると同時に、ネクラは彼女が異常なまでに早期の転生を望んでいた事を思い出す。


 今日、この仕事をこなせば華は転生の資格を得る事ができると言っていた気がする。こんなにも転生を急いでいる彼女は悪霊を捜索中冷静に行動していたのは焦ってヘマをしないためだったが、目的が達成されそうな今、彼女の中の焦りが加速したのだろう。


 だが、己の目的を達成するために信孝の人生を犠牲にしようとする発言にネクラは賛同ができなかった。


「うん。まあ、六条愛の魂を折檻する事が今回の俺たちの仕事なわけだし、別にそれでも構わないんだけど」

「でしょ」

「死神さん!?」


 死神の発言に華が上機嫌で返し、対して華の非道とも言える意見を受け入れるつもりなのかとネクラが声を荒げるも続く言葉で2人の感情が静まる。


「でも残念ながら2つの魂はほぼ完全に融合しちゃってるみたいだから、悪霊だけを斬るってのは無理だね。だからこのまま放置しちゃうと、仕事は未達成で君たちの輪廻ポイントが減っちゃうよ。それでもいいの」

「……っ。なら、早く他の方法を考えましよう」


 自分の考えは通らないと悟った華は悔しそうに唇を噛み、苛立たしげにしながらも気持ちを切り替えた。


「で、でも、こちらの攻撃は相手には通らないのでは太刀打ちできないのでは」


 苛立ちで落ち着かない華の様子を窺いながら、1番不安に思っている事をネクラが死神に伝えると、死神はそれをそれほど問題視していない様で笑顔を崩す事なく返した。


「大丈夫だよ。生霊を倒せる方法が1つだけある」


 死神はホワイトボードにペンを走らせる。そこには『生霊』『信孝』『本体』『依り代』と4つの言葉が並べられた。


「生霊は本体がある。つまり本体の気持ち次第で力が強まったり、存在自体が消えてしまう場合もあるんだよ。でも、あの生霊はどういうわけか意志と知恵を得て、自分は消えないための策を考えた。それが自分を信孝の元へ繋ぎ留めるための依り代だよ」


「依り代が繋ぎ留めいる、と言う事は」


 ネクラが何かを閃いた様に呟く。死神がペンのフタを閉め、そのペンで掌をリズムよく叩く。


「そう。そして俺たちが生霊を倒すためのただ1つの手段。それは依り代の破壊だ」

「その依り代とは一体なんなのでしょうか」


 眉に皺を寄せて考えるネクラに死神はヒントを出すかの様にゆっくりと言葉を紡いでゆく。

 

「依り代はなんでもいいわけじゃない。自分に深い(ゆかり)があるものでなければ存在を繋ぎ留めるまでの強固な依り代にはならない」


 死神はペンの動きを止め、そのままそれでネクラを指しながら言った。


「あの生霊は自分と縁がある大切な何かを依り代にしているはず。心当たりはないかな」


 死神に聞かれ、ネクラは考える。自分が今まで見てきたものを思い出し、そして思いつく。


「指輪です。あの霊は指輪から出てきました」

「そう言えばそうだったわね。給湯室での女性社員たちの話によれば、彼が以前つけていた結婚指輪とはデザインが異なっている見たいだけど。それとあの霊と何か関わり合いがあるのかしら」


 ネクラと華が指輪の話題を出すと、死神はふむふむと頷き、良い事を思いついたと言わんばかりに聞いて来る。


「ねぇ。その指輪、君たちは見たの?どんなデザインだったか覚えていたら教えて」


 死神があまりにも前のめりに問いかけて来たため、ネクラと華は戸惑い顔と見合わせながらもその特徴を述べる。

 指輪の特徴については先ほど倉庫で信孝が取り出していた際に確認していたし、指輪もシンプルなものだったので伝える事は容易だった。


 死神は2人の言葉を聞きつつも両手をすり合わせる様にして頷き、突然『よぅし!』と満足げに言った後、両手を離す。


「あ、これ!この指輪です」

「これ、あの男が持っていたはずよね」


 死神の手に現れたのはネクラと華が目撃した指輪そのものだった。驚く2人を前に死神は胸を張って言う。


「ふふん。すごいでしょ。君たちの意見を参考に指輪のコピー的なものを作っちゃった。どう。こんな感じだった?」


 右手の人差し指と親指で指輪をつまむ様にして確認する死神にネクラと華は頷いた。

 死神はこの指輪をコピーと言っていたが、形も大きさも輝きも、信孝が持っていたものと寸分の狂いもなく、本物と言われても信じてしまいそうなぐらい精巧だった。


「でも、指輪のコピーなんてどうするんですか」


 破壊するべきは生霊が憑りついている指輪であり、コピーを作ったところで何の解決にもならないのではないか。ネクラがそう思い死神が持つコピーの指輪を眺めていると、死神がその指輪を高々と上げて叫んだ。


「おーい。君の大切な指輪、拾っちゃったけどいいのかなぁ」

「え!死神さん!?」

「ちょっと、何やってんの」


 死神は愛に向かって呼びかけたのだ。その声を聞いた愛の体がピクリと反応する。信孝の幻を見てうっとりとしていた表情から一変、突如真顔になったかと思うと、そのまま不気味なほどゆっくりとネクラたちの方を振り向いた。

 愛の関心が逸れた影響か、それと同時に裂け目に映る信孝の姿が描き消える。


 突然の死神の挑発とも取れる行動と言動にネクラと華が責める様に死神を見て叫ぶ。鐵はやれやれと頭を振った後にボソリと言った。


「はあ。防御壁の強度を強めておくか」


 こちらを振り向いた愛は死神の手に輝く指輪を見た瞬間、瞳孔を開いて牙を剥く。


「それはっ!私と信孝さんの思い出の指輪っ。返せ!返せ!かえせぇぇぇっ」


 愛は再びネクラたちの方へ襲い掛かって来た。うねる髪と鋭い爪が生えた手で防御壁を狂いながら何度も叩き、壁を壊そうと試みている。


 しかし、その目的は先ほどまでと違う様で、攻撃を仕掛けていると言うよりは指輪を取り返そうと必死になっている様に思える。


「鐵。お前、読心術が得意だろ。あいつの心を読め。できれば俺たちにも見える様に具現化させろ」

「まったく……お前は何でいつも上から目線なんだ」


 死神が上から目線で鐵に指示を出し、鐵は顔をしかめてぼやきながらも掌を愛に向かって掲げた。


 すると愛の背後の空間が歪み、映像が映し出される。最初はぼんやりとしていたが、映像は徐々に鮮明になって行き、信孝とその隣には小柄でくせ毛のミディアムヘアの髪が特徴的な女性がおり、幸せそうに笑い合っている姿が確認できた。睦まじげな雰囲気からデートの最中と推察できる。


「わ、なんですか、あれ」


 驚いたネクラが口を開けたまま空中を見上げていると、死神がドヤ顔で言った。


「これも死神の力の1つ、読心術。相手の深層心理を具現化できるんだよ。まあ、相手にそれなり理性が残っていればの話なんだけどね」

「なんでお前がえらそうなんだ」


 自分がやったわけでもない行いをさも己の手柄の様な態度の死神を鐵が睨むが、死神は飄々として言った。


「いいじゃん。こう言うのはお前の方が得意だろ。俺は霊力を操るのは得意じゃないし、適材適所だよ」

「……もう好きにしてくれ」


 悪びれない死神に鐵はあきらめたのか、頭を押さえながらうんざりとうな垂れた。


 一方、激しい攻撃を続けていた愛も自分の背後の映像の存在に気が付き、動きを止めて呆けた表情で映像に見入っていた。


「あ、あの指輪」


 ネクラが指で示した先には銀色に輝くシンプルな銀の指輪があった。死神が手に持つコピーと比較し、同じものである事を確信する。


 映像にはアクセサリーの店が並び、信孝と女性が銀の指輪を手に何やら楽しそうに話していた。残念ながら会話は聞こえてこなかったが、楽しい話をしていると言う事は映し出された男女の表情から読み取れる。


「あああっ。信孝さん、あの時、あの時約束してくれたのに……。指輪に誓って、一生私を大切にしてくれるって、言ったのにっ」


 同じく映像を眺めていた愛の情緒が乱れる。そして、その発言にネクラは違和感を持った。


「約束……?でも、あの映像に映っているのは」


 映し出された映像の女性は雰囲気や背格好から見るに、どう見ても愛と同一人物とは思えない。恐らくあの女性こそ生霊の本体なのだろうが、映像の情報だけではネクラには見当もつかない。


 隣に立つ華も映像から生霊の正体を導き出そうとしている様子だったが、答えには辿り着いていない。


 考え悩むネクラのモヤモヤを払ったのは死神の呑気な声だった。


「うん。これでわかったよ。六条愛の魂を飲み込みんだ生霊の正体」

「えっ、ほっ、本当ですか」


 あまりの突然のひらめきにネクラが驚くと死神は『うん』と満面の笑みで頷く。鐵に視線を移してみれば彼も答えに辿り着いた様で、小さく頷いていた。


「誰なんです、生霊の正体」


 ネクラが息を飲んで死神に緊張気味に問いかけ、華も真剣な視線を送る。


「悪霊を飲み込み、今もなお源信孝に執着する生霊の正体、それは……」


 死神はそこまで言い。スッと息を吸う。その場に緊張が走り、死神はズバリ言った。


「源信孝の実の妻だね」


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