絶対神様、公爵令嬢に転生する!?
暇つぶしにどうぞ……
絶対シン様、公爵令嬢に転生する!?
《プロローグ》
私は絶対神……
名前はまだない……
この世がある前から存在し、現在の人々が宇宙と呼ぶ空間がゆらぎから誕生する瞬間も見てきた。
物質と反物質がエネルギーから誕生し、対消滅を経てエネルギーに返る瞬間はえも知れない美しさがありそれはそれで美しかったが、空間のゆらぎから起こる対消滅のバランス崩壊により、反物質が現宇宙から切り離され、そこから急速に拡張した宇宙の進化もまた見応えがあった。
しかし、今私の関心をひいてやまないのは物質世界が織りなす偶然の絶景ではない。
いや、その存在も偶然の産物ではあるのだが……
とある恒星系の第3惑星に、ほんの偶然から誕生した生命体……
その1つである『人』という種は実に興味深かった。
自我を持ち、思考し、集団を作り対立する。
絶対神たる私をしても次に何をするのか分からない。
ときには理不尽に、ときには合理的に、彼らは考え、動き、事象を起こす。
弱き存在たる彼らではあるが、絶えず進化していたかとおもえば衰退する。興亡を繰り返す。
見ていて飽きない存在……
それが人……
いつしか私は、唯一絶対である己自身にはない彼らの生活に見せられていた。
そしてその閃きは唐突に訪れた。
それほど惹かれるなら体験すればよい。
そう、ほんのひとときの戯れに、人に転生してみるのがよい。面白そうだ。
思い立ったが吉日とばかり、私は自身を今にも消えそうな母体の中の生命体へと送り込んだ。
《シンディー・ラ・ゴディアス》
「シンディー、貴様との婚約を破棄する」
第一王子のドラン・ミ・アークヒルズ様が私に向かって叫んでいる。
ここは多くの貴族が通う王立魔術学園のレセプションホール。
卒業記念パーティーの行われているまっただ中で、ドラン様が乱心している。
私はシンディー・ラ・ゴディアス。
公爵家の次女にして将来の王妃となるべく、第一王子たるドラン様の婚約者を仰せつかっていた。つい先ほどまでは……
しかし、たった今、婚約者たるドラン様から婚約破棄を申し渡された。
「どうした、シンディー。
黙り込んでしまって、何か言うことはないのか!」
ドラン様が叫んでいるが、今私はそれどころではない。
婚約破棄を申し渡された瞬間、記憶が蘇ったのだ……
そう、私こそが絶対神の転生体……
流産目前だった胎児に宿り、人としての生を楽しむために下界した超越者なのだ。
そう思い出した瞬間、現状を含めすべてを理解した。
ドラン第一王子の腕にすがりついてか弱い乙女を演出しているモーラ嬢……
聖女として平民の身で王立学園に入学し、高い魔力とかわいらしい見た目で多くの殿方を魅了し、ついには次期国王に一番近いとされるドラン第一王子をも籠絡した。
彼女は嘘を本当のように話し、私に濡れ衣を着せ、王太子の婚約破棄宣言へとつなげさせた張本人だ。
二人の後ろには、彼女の取り巻きと化した王子の側近候補たちが居並ぶ。
「ええい、いつまで黙り込むつもりだ、シンディー。
おまえの悪行は余すところなく把握している。
せめてつまみ出される前にモーラへ謝れ!」
激高する第一王子に対して半ばあきれながら視線を向ける。
何をしでかすか分からない「人」ではあるが、これはその中でも非常識な部類であろう。
絶対神としての記憶を思い出す前なら、あまりの事態に傷ついていたかも知れないが、今となっては非常に冷静にことの成り行きを楽しむ余裕すらある。
「ドラン殿下、私には謝らなければならないような心当たりはございません」
「な!
やっと口を開いたかと思えば、しらばっくれるのか!
貴様がモーラに行った嫌がらせの数々!
いや、犯罪と言ってもいい案件が山ほどあるではないか」
「嫌がらせに、犯罪ですか?」
「そうだ、靴を隠したりドレスにワインをかけたり、あまつさえ一昨日は階段から突き落としたというではないか」
「全く記憶にございませんが?
誰がそのようなことを殿下に吹き込んだのですか?」
「被害者たるモーラに決まっているではないか。
まだ、しらばっくれるのか?」
「モーラ様の証言以外にはありませんの?
いささか証拠としては弱いようですが……
それに、一昨日階段から落ちたにしては元気そうですが……」
「ひどい、シンディー様。
私が嘘を言っているというのですか」
私の指摘に対してモーラ嬢がつぶらな瞳に涙をたたえて、かわいそうな自分を周囲にアピールする。
「みろ、このモーラの様子を!
これを見れば貴様の罪は明らかだ」
「「「そうだ、そうだ!!」」」
激高する第一王子と、取り巻きたち……
これはどうしたものでしょう……
《結末》
「そうですか。どうあっても私に謝れと……」
「当然だ!」
これはもう、どうしようもない……、将にお馬鹿…… こいつらにつける薬はない状態である。
「しかし、私もやっていない罪で謝るのは釈然としません。
モーラ様、あなたが落とされた階段とはどのような階段ですか?」
「まだ、しらを切るのか!
特別教室棟の30段にも及ぶ直階段の最上段から突き落とされたとモーラはいっているぞ」
モーラ嬢に代わって第一王子が答える。
「それにしてはかすり傷一つ無いように見受けられますが……
それに間違いありませんか、モーラ嬢?」
私が改めて訪ねると、第一王子にすがりつきながら頷いている。
「そうですか、ではそのようにいたしましょう」
「なに、どういう意味だ」
私はそう言うと、王子の言葉を無視して過去に介入した。
一昨日、特別教室棟の直階段の最上段にモーラ嬢がさしかかったとき、30段にも及ぶ階段を一気に落ちてもらう。
もちろん、一昨日の私が突き落としたわけではない。現在の私が絶対神の力を使って過去のモーラ嬢を空中に投げ出したのだ。
そしてその結果を現在のモーラ嬢に反映させる。
瞬間、王子にすがりついていたモーラ嬢の首はあらぬ方向に曲がり、手足は関節の可動範囲を超えているばかりでなく、皮膚を骨が突き破り、肌の色は青白くなり、まさに死後2日目という様相を呈した。
もちろん、うんともすんともいわない状態だ。完全に生命活動を停止している。
「まあ、30段分も落ちれば当然の結果ですわよね、モーラ嬢、すいませんでした。
ごめんなさいね」
わたしは素直に謝った。
「なっ、これはどういうことだ。
モーラ!しっかりしろ!」
王子が叫びながら揺さぶるが、死体は返事をしない。
「シンディー、これも貴様のせいか!」
王子の叫びに、私は真実を告げる。
「はい、モーラ様がおっしゃるとおり、一昨日、30段の階段から落ちていただきました。
これはその結果ですね」
「馬鹿な……
さっきまで元気だったではないか……」
呆然とする王子ご一行。
「なんと言うことだ。
私はモーラさえいればよかったのに、こんな……」
「私も……」「私も……」
王子とその取り巻きたちは呆然と呟く。
「あら、そうでしたの。では、そのようにいたしましょう」
私はそう言うと事象に介入し、王子とそのご一行を現宇宙から派生した何もない空間へとモーラ嬢ごと転移させる。
もちろん、こちらの事象で彼らが存在した痕跡ごと別事象へと移す。
結果、第一王子、その取り巻き、モーラ嬢の存在はこの次元からなくなる。
私たちの騒動にフリーズしていた人々は、何事もなかったように卒業パーティーを楽しみはじめる。
一方、王子たちご一行は、何もない空間で死にかけていた。
それはそうだ。
モーラ以外何もいらないのだから、そこには大地はもちろん、水も、空気も、光すらない。
真空の宇宙よりも何もないのだ。
『死にたくない』
声にならない声がかつて第一王子だった存在から漏れる。
誰にも届かないはずだったその声は、絶対神たる私には届いてしまった。
「そうですわね……
人は何もないところでは生きられない。
仕方ありません、これはサービスです」
私はそう言うと、王子たちを移動させた空間に、現在のこの星をまねた大地と光と動植物とを作り出す。
「た、助かったのか……
そうだ、モーラ、しっかりしろ!死ぬな」
助かった瞬間、ドラン旧第一王子はモーラの死体にすがりつく。
「モーラ、頼む。返事をしてくれ!
動いてくれ。
俺と誓った真実の愛をこんな形で失わせないでくれ!」
旧王子とその取り巻きはモーラの死体を囲み嘆き悲しむ。
「はあ、それではもう一つサービスです。
これ以上はありませんよ」
そう言うと私はモーラの死体を蘇らせた。
ただし、ゾンビとして……
「ウガァ」突然言葉にならない声を発して動き出すモーラの死体……
旧王子ご一行は一瞬固まったのち、悲鳴を上げて逃げ出した。
「うわーーー」
「たすけてくれーーー」
「ゾ、ゾンビだー」
「ウガガァァ」
旧王子たちは蘇ったモーラ嬢と楽しく鬼ごっこをはじめた。
「はぁ、これでよかったのかしら。
本当に難しいわね、人間って……
でも、そこが面白いのかしら」
とりあえずの憂いが亡くなった私は、次にどんなことが起こるのか、これからの人生に思いを寄せる。
目下の問題は、婚約者たるドラン殿下の存在がなくなった私は、単なる行き遅れ令嬢になりかけていることぐらいだろうか。
「これで王妃になることも、ドラン殿下の相手もすることもなくなったのよね……
それはそれでよかったのかしら……」
私はパーティーから帰る馬車の中で星空を眺めながら、明日から何をしようか考えるのだった。
注:絶対神様に性別はありません。転生先がたまたま女性だっただけです。
なんか、最初思ったのと違う作品になってしまった……
最強で無双する予定が……
というわけで、安井の作品としては初の、ホラー分野での投稿となりました。
楽しんでいただければ幸いです。




