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魔法少女、出逢う


魔法少女、出逢う


 着せ替えドールとなり、無事恥ずか死にむけて多くの方からの生暖かい目線をくらい、安らかな眠りにつきそうになったその時である。壁が唐突に吹き飛び、破片が周囲を襲う。散弾のように飛び散った破片を避けると、二人の表情は真剣なものへと変わっていた。おや? 様子がおかしいな? 私はというとぼうっとそこにいるだけである。あぁそうか、私もう魔法少女モードでしたわ。破片にブチ当たってもびくともしないのはそういうことで、だからといって避けなかったわけではないが、何発かは受けていた。その上で呆けていたのだ。


「なにぼーっとしてんのよ!」

「く、やるしかありませんわね」


 そこにいた一般人の方々が悲鳴を上げて逃げる中、二人は雄々しくもその壁に穴を開けた正体を睨んだ。こんなことをしてくるやつは、この街ではあいつしかいまい。

 砂煙からゆらりと正体を表したのは、頭がトカゲで体は熊のような獰猛さを持つ二足歩行の化物、ミラーであった。

 ミラーは咆哮をあげ、私達を威嚇する。それに呼応するように、二人はどちらも変身キーワードを声高らかに叫んだのだった。


「マジカル☆チェーーーーンジ!」

「私に力をあたえて! マジカルチェンジ!」

「え」


 マジカルチェンジ流行ってんの? しかし、変身についてのキーワードは最初に自由に決められるものだ。つまり、彼女は同じセリフをキーワードにしたということである。なぁんとなく、関係性がわかるような気がしつつも、それどころではない現状に目を向けた。


「はぁ!」

「てぁ!」


 お互いの攻撃をカバーし合うような息の合った連携攻撃に、思わず息を呑む。おいおい、仲良しじゃん。何だったの先程までの啀み合いは。私恥ずかし損じゃん。なんなん?

 魔法の矢が敵の行く先を限定し、魔法のビームが敵に致命傷を与えようとする。そしてそのビームは矢がどのようにして敵を追い詰めるかを分かっているかのように放たれており、ミラーはそれをガードして受けるしかない。

 摩耶さんに攻撃が来るなら逆に囮として瞬時に切り替えて摩耶さんは動き、百合子さんは的確にビームを放つ。そして百合子さんに攻撃が来るなら、摩耶さんが矢の雨を降らして百合子さんを逃し、百合子さんがビームによるけん制をする。完璧だった。これは私の出る幕はないな。


「ふ、なかなかやるじゃん」

「あなたこそ。昔のまんま、強いですわ」

「あんたも成長してるわね。じゃあ、とっとと片付けましょ」


 肩を並べてお互いを讃えあう。表情は揃って勇ましく、このまま怪物を倒せそうであった。

 ミラーもミラーで、区切りよく雄叫びを上げると、こちらへと突撃を敢行する。なんというか、ほとほと単調な野郎たちだな。

 それに対して二人はニッと笑うと、それを迎え撃つように魔法を展開した。


「マジカル☆アローーーー!」

「マジカル☆ブレス!」


 二人の弾幕は面としてミラーに直撃し、爆発四散した。跡形もなく消し去るという言葉を、現実で目にするのは初めてかもしれない。

 だが、奴はどうやらもう一つとっておきがあったようで。


「くるみゃ! ミキ!」

「なんとぉ!?」


 もう一体が現れたのだ。そう、やつも連携というのをしていたのか、もう一体は弱いであろう私のもとへと突っ込んできたのだ。良くもまぁ無い頭で、本能しかない中で考えたものだ。褒めてやろう。

 などという余裕はなく、迎撃を考えなければならない。摩耶さんと百合子さんはやられた!とでも言いたげな表情でこちらを見て、攻撃に転じようとしているが、遅い。また、直線上に私がいるため、迂闊に攻撃ができないでいた。


「ぐげげげげげ!!」

「こ、こなくそぉ!」


 占めたと言わんばかりに攻撃をかます。あ、ちくしょう。痛そうだなぁおい。勘弁願いたいので、私も拳で迎撃する。クロスカウンターになろうと、こいつに居られるともう一発がありそうで嫌だ。

 私の突き出した拳は、確実にミラーの鋭い爪に当たった。そして、当たった瞬間、ミラーの腕は弾けとんだ。そう、文字通りはじけとんだ。


「へ?」


 勢いの止まらないミラーは、何が起こったのかわからないまま、私の拳を受ける。上半身まで弾け飛びそのまま灰となって消え、下半身だけが取り残された。それもまた、ゆっくりではあるが灰となって消えてゆく。

 私? いや、私もわけわからん。分からんがゆえに、私は殴りかかったポーズのまま唖然としていた。だってさ、ただのパンチである。それがまさかこれほどの威力を持ち、敵より攻撃を受けるどころか相打ちにすらさせず、ただ撃滅した。したのだ。


「はぁ……?」


 いやまぁそんな声も出ちゃうでしょ。訳が全くわかってない私は、つい間の抜けた声を出してしまった。遅れて、二人もこちらへと近寄ってくる。


「大丈夫?」

「えぇ、まぁ、なんとか」

「とりあえず、お疲れ様です」


 歯切れの悪い返事しかできないが、なんというか、理由としては手応えがあんまり感じられなかったためなのだ。本当にもうどうにでもなぁれと拳を突き出したに過ぎず、むしろどうしてこうなったと思わざるを得ない。

 すると、百合子さんが何かに気づいたようにハッとすると、訝しげな表情を浮かべた。


「……どうして、変身していないあなたがミラーを倒せるのですか?」


 おぉっと、これはピンチでは?

 散々きせかえ人形にはされたとはいえ、肌の触れ合うスキンシップは多かったわけで。少しうへへと嬉しがってたりしたわけで。とても興奮したわけで。

 まぁ悪いのは完全に二人なのだが。

 しかし、そういえば中身は男と説明をしていない私のことを、百合子さんは女だと思っている。これはピーンチ。振り返ることができず、ただ倒れ伏してるミラーを眺める私。どう説明しよう? どうなっちゃう? 逮捕? 逮捕ですか? 社会的な死ですか? この世そのものが処刑台ですか?


「こいつはもう変身してるわよ?」


 おぉぉぉおおぉぉお!?

 まって!? 摩耶さん!? 心の準備がまだなんですけど!?

 不思議そうな表情で摩耶さんがそう言うと、何だか得意気に話し始めた。表情から察するに、さては知らないな? と気づいたようである。

 そして、百合子さんは知らずにいろんなスキンシップをしたわけで。百合子さんは摩耶さんにとっては困らせたい?敵として認識しているわけで。


「こいつ、変身すると可愛い女の子になる男よ」

「ちょっと!?」

「……え?」


 ど直球に真実を告げた。分かりました。ええ分かりましたとも。お巡りさんよ、覚悟はできました。せめて、男に戻ってから逮捕の方お願いします。

 などと、私はもはや逃れられない豚箱Endに心の中で涙を流し、表情は覚悟の塊のように硬直させた。でも私何も悪くなくない?

 しかし、その覚悟をよそに、百合子さんは徐々に頬を紅潮させ、私を男として行った自身の行動を想像している。あ、なんか嫌な予感。


「おとこ……さわ、さわわわ……!」

「ぷふー! 好き勝手触ってたのは男の人だったのよ? あんたも中々大胆というか、エロい子なのねぇ?」

「あの。その笑い方流行ってんですか?」


 摩耶さんはここぞとばかりに攻めてゆく。しかしその表情は見覚えがあるなぁ。自身のカバンを一つ睨んで、私はそう突っ込んだ。

 そして、その言葉攻めに耐えきれなかったのか、妄想がオーバーヒートしたのか、頭からまとまった湯気を放出し、ふらりと倒れかかった。私はそれを肩を抱くようにして支える。柔らかく、しかし細い体だ。


「はうぅ……」

「だ、大丈夫ですか……!?」

「ふふ、良い気味だわ。さてと、それじゃあ百合子を運ぶわよ」

「へ?」


 なんというか、摩耶さんはあれほど喧嘩する癖に仲が良すぎなのでは?と疑問に思ってしまう。現に今も百合子さんを私の手から引き取って、おんぶしたのだ。変な声も出てしまうもんだ。


「そこまでだ。お嬢様をお返し願おう」


 しかしそこで、まるでアニメの小悪党みたいな、はたまたヤクザもののような台詞を吐く、黒いスーツ姿のグラサンをかけた男が現れた。

 私は怖いのだが、男の子として二人の前にたち、警戒をする。怖いけど。

 すると、摩耶さんはふっと微笑んで肩の力を抜いた。


「あら、お久しぶりですね。報酬をいただくにはちょっと早いんじゃないの?」

「ふふ、そうだね。今回はバイト代じゃなくて、その子に用があって来たのさ」


 どうやら、知り合いのようだった。報酬ということは、彼は政府高官とか、魔法少女の秘密組織とやらの人間なのだろうか。


「え、私ですか?」


 まって、私に用があるのか? 冷や汗が出てくる。まって、さっきの覚悟が必要になる場面ですか? お嬢様といちゃついた落とし前払わされるやつですか? 指なくなっちゃったまま東京湾に沈ですか?

 すると、彼はグラサンを外してフッと微笑んだ。ぉぉ。イケメンだ。短い髪の金髪に流し目ではあるがはっきりとした目元は、モデルさんとかでもやってけそうだ。言えよ。何人の女の子そのフェイスで落としてきた。


「そうだよぉ。まさか男の子がこんな可愛い子に変身するとは思わなかったよねぇ。探すのに苦労したよ」


 でしょうね。

 なんだか申し訳ないのである。

 まさか私自身もこうなるとは思ってもみなかった。


「で、誰なのでしょうか?」


 改まって、私は彼に質問する。この中で彼のことを知らないのは私だけである。彼はおっと、と1つ言うと咳払いをし、改めて私の方に振り返った。姿勢を正しく、礼儀を持って―――


「あは、言い忘れてたね。私は連と言う。国際魔法少女機構の日本支部職員さ」


 ―――そう言って、私にドヤ顔を見せてきたのであった。

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