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魔法少女、研修する

魔法少女遊撃隊4


魔法少女、研修する



 騒然となる商店街には化物がいた。建物を破壊し、あたりを蹴散らし、2、3件は全損している形であった。なんとも恐ろしいな。


「ギェアアアアアアアアア!」

「でたわね! モリー!」

「任せるでち!」


 しかし、たじろぐ私を置いて彼女は果敢にも立ち向かった。おいおい、男のくせに情けないな私。でも考えても見て? 普通あんな災害に突っ込みたくはないじゃない? 命は一つなんだよぉ。


「マジカル☆チェーーンジ!」

「は?」


 おいおいおい、なんですかその掛け声。その掛け声の直後、彼女は夥しい光の渦に包まれ、その光が四方に散らばるように弾けると、ピンク色を基調としたフリフリのドレスを身にまとった美少女が現れた。めっちゃかわいい。私の中のオタクがサイリウムを持って、応援上映会気分で現れた。まてまて、落ち着け。一旦帰ってろ私。


「好き勝手にはさせないわよ! マジカル☆アロー!」

「魔法のステッキ!?」


 キラリと、おもちゃ屋さんで女児向けに売られてそうなステッキが現れる。しかし、おもちゃのそれとは材質も存在感も違い、その先端から淡いピンクの光の粒子が尾を引いてミラーへと突貫していった。まさに矢であり、本物の魔法のステッキである。

 ミラーはそれを飛んで回避するも、何発か着弾を許し、叫び声を上げた。


「ギェアアアアアアアアア」

「く、浅いわね……てあんた何やってんのよ! 変身しなさいよ!」

「え???」


 あ、そうか。私も魔法少女でした。ついつい今の攻撃に見惚れてしまい忘れていたが、私も今は戦える身である。

 すると、カバンからマーチが飛び出した。


「やっとでられたみゃ! さ、早く変身するのみゃ、ミキ!」

「えっと、変身ってどうするんです?」

「僕の手を取って、変身キーワードを叫ぶのみゃ!」

「変身キーワード???」


 おい、初めて聞きましたが? 私は何を変身キーワードにしたんだ? いやなんでもいいのか?


「早くしなさいよ!」

「わ、分かりました。マジカル☆チェンジ!」


 暫くして、何も起こることはなかった。ん? 変身キーワードはこれではなかったのか? 今とても恥ずかしい形となっている私は、摩耶さんにも、あのミラーにさえ呆れられた雰囲気を感じてしまった。なるほど、私はここで恥ずか死するのか。


「何やってんのよっ!!」

「もういっそ殺してください……」

「みゃあ! ちがうみゃ! ちがうみゃ! ……よ、燃えろみゃ!」

「何を燃やしちゃったの私!?」


 なんでそんな微妙な変身キーワードになってるの? というか、何でも良いのか? あと、何を燃やした! 何よ燃えたのか!

 しかしミラーは待ってはくれない。ある意味不完全燃焼な思いをぐっとこらえて、私はひとつだけ質問をした。


「最初の方は、何でもいいのですか!?」

「なんでもいいみゃ! 何かを燃やす変身キーワードを! はやくみゃ!」

「きゃあっ!」


 そう背後で聞いて、適当にそこら辺のものを探す。何でもいい、名詞を戦闘に付ければいいのだ。しかしそこで、ミラーが摩耶さんの攻撃を攻撃することで回避し、その勢いのまま近くにいた子どもたちへと急速接近していた。このままでは子供たちが危ない……!

 私は考えるより先に足が出て、同時に声高らかにそれを叫んだ。目の前に落ちていた、キスマーク入りのキャバクラのマッチを!


「マッチよ、燃えろおおおおお!!!」

「しょぼいみゃ……」


 しかたないでしょ!! あったんだもん!! すると、その声に呼応してか、地面が揺れた。光は私に収束し、凄まじい光量と轟音とともに私は一筋の流れ星となっていた。一瞬で駆け、俊足のうちに敵を眼前に捉えた。

 体が熱い。

 体全体が急速に成長するような、急速に縮こまるような伸びるような、そんな違和感が熱とともに身体をかけめぐってゆく。

 血流は止まることを知らずに足早に駆け、ドクンドクンと心臓の音が波打つたびに体に波紋を作っていくようだった。

 そして、髪が首筋辺りまで伸びると、一部が長く長く伸び、項あたりで束ねるとワンポイントリボンを作った。

 今度は白を基調とした赤と黒の折混じったドレスが、私の体にピッタリと合わさる。背中は空いており、どこか肌寒さを感じるものだが薔薇のような装飾品がついており、きらびやかなドレスとなっていた。頭にも綺麗な一輪の花の髪飾りがある。しかし、驚くべきところはこれらが案外、とても動きやすい格好であるということであった。


 この間わずか数ミリ秒(推定?)

 私のお着替えシーンは誰得なのかわからないままにそこで終わった。私は、髪は焔のように朱く、きりっと目尻の高い目、凛とした雰囲気を持った超絶美人お姉さんとなっていた。おかえり、双山。グッバイ、息子。どことなく目尻から血が流れたのは言うまでもない。


「せーのっ!」


 そして、その一言と同時に私のパンチをお見舞いしてやろうかとタイミングを合わせて、こっちに向かうミラーの胸に穴を穿つ。どこぞの少年漫画の敵の様な穴が、胸に空いたミラーはその勢いを止めた。ハートキャッチ(物理)という言葉がどこかであったが、まさか私がそれをするとは思わなかった。


「うええばっちぃ!」


 手に残る生物の感触にビビる私は、突き刺さった腕を引き抜いて、手にしていたミラーの肉片を思いっきり地面へと叩きつけた。傍から見たら猟奇的とも言える恰好なのだが、どうやらその肉片は闇となって蒸発し、私も返り血を浴びることなく美貌を保っていた。まぁ行動が美貌に伴わないのは目を瞑っていただこう。


「さてと。お前、子供に手を上げるのはいかがなものかと思いますが」

「グゥゥウ……ギェアアアアアアアアア!」


 唸りつつ後ずさると、先程の攻撃の主が私だと認識したミラーが攻撃を仕掛けてきた。おっと、やる気だな? 至って単調な前面突撃であるが、その爪は私を捉えている。あたったらちょっと痛そう。まぁ見た目からしてちょっとどころではないのだが。

 しかしそんな悠長に感想を述べる時間はない。私は地面を蹴り、勢い良くその場から離脱することでその鉤爪攻撃を避けた。その爪はアスファルトを切り裂き、いくつかが盛り上がった。


「うぉっと、回避するのは難しいですね……なら!」


 ならばと私は回避した先の家の壁に足をつき、両足で勢い良く蹴りだす。所謂しゃがんだ状態からジャンプするように壁を蹴ったのだから、私は豪速球となってミラーへと突っ込む。蹴った家屋はおそらく吹き飛んだことだろう。轟音があとから聞こえたのだから間違いはない。本当にごめんなさい。許して。


「これで、しまいじゃあ!!」

「グギャアアアアアアア!!」


 全力で殴りつける。昨晩は気持ち悪くて手を避けた結果、顔面で討ち取ることとなったが、今回は違う。ただただまっすぐグーパンチ。速さを乗っけた私は、さながら1つのロケットのように鋭く速い爆発をお届けしていた。

 触れた瞬間、全てが弾けて消える感覚が伝わり、スピードを殺してスタイリッシュに敵を見やる、残心を忘れずに行う私。だが、どうやらミラーを倒したようで、既に半身と化していたミラーはゆっくりと灰となって舞い散っていったのだった。南無三。

 すると、空中浮遊をしていた摩耶さんがふわりと優雅に地に足をつけて私の前に立つ。あ、そう言えば魔法少女姿は初めてですよね。


「あ、あなた……」

「あ、どうも。弁明しますと、こうなるのです、私は」


 あの時、私が女装して戦うとか考えてた摩耶さんに対して、私は誤解を解くよう今の姿格好で説明をした。だが、表情が見えない。も、もしかして、養豚場の豚のように見ていますか? もしそんな目で見られた日には、私がミラーみたいに灰となって散りゆくことになっちゃう。

 でもまぁ、それはそれで毎度のことである。私のオタクは気持ち悪いと言われ慣れているので、致命傷で済むのだ。だから、どう来ようと何も怖くはない。死すら甘んじて受け入れよう。


「めっっっっっっちゃかわいい!!」


 前言撤回。めっっっっっっちゃ怖い。凄い勢いで近づいてきて抱きしめられた。抱きしめられたときのこの柔らかな感触、これはまさに女子高生同士またはカップルの特権である。だがしかし、私は彼氏でもなければ女友達というわけでもない。確かに感じる仄かな温かさと柔らかい感触は所謂三途の川の六文銭に近い。このあとのしっぺ返しがめっっっっっっちゃ怖いんですけど!!!

 しかし、焦ったり動揺したりと忙しい私をよそに、彼女は離れるも目を輝かせて興奮気味にこう言った。


「このプロポーションにこんな可愛くて美人系の子があいつなんて嘘でしょ!? もー! 買い物に行きましょう!? 色んな服とか、色々着せたいコスプレもあるわ!」


 怖い怖い怖い。女性にこういう方面で恐怖を覚えることになるとは思わなかった。人差し指で胸元を突かれ、電信柱を背後にして追い詰められる私。ひぇっ、助けてっ。


「でも、もう遅い時間ですよ……?」

「そうね。もう夕方だし後片付けもしなきゃだし……あ、手伝ってよね。それでやり方を覚えてね!」


 私の一言により摩耶さんは身を引いたが、後片付けを行うらしい。彼女はステッキを回して天に掲げると、呟くように呪文を唱えた。これを私も復唱することで覚えようということだ。


「全てのものの、傷を癒せ。ノヴァ・ステラ・キュア」

「全てのものの、傷を癒せ? ノヴァ・ステラ・キュア?」


 癒やしの新星? 意味がわからないが、これが新しい呪文なのだろう。彼女のステッキから淡いピンクの塊が波打ち、波状に放出されていく。すると、粉のような光が舞い散り、破壊されたはずの家々がもとに戻り始めていた。私の場合は、この手に赤色の光が集まり、同様に波状に放出されていく。そのため、私はかのワニムのように拳を天に掲げて修繕を行っていた。何とも男らしい女の子なのだろうか。

 少しの間そうやると、あたりは完全に修復され、人々の傷も治っていた。しかし、少しの間とはいえ腕を上げ続けるのと、体から何かが抜けていく感覚からか疲れが出てくる。


「これでお終いか……疲れましたね」

「うん! これなら問題はなさそうね。新人研修はこれで終わりよ」

「えぇ、一回で終わりですか」

「何回もする??」

「アッ、目が怖ッ、いや、いいです。覚えましたので」

「残念だわ。ま、とりあえず一通りの流れは教えたし、あとは実戦で鍛えるしかないわ」

「そうですね……頑張ります」


 とりあえず、これで私は晴れて魔法少女としての一歩を踏み出せるということになった。

 倒れていた人たちも目を覚ますと、何事もなかったかのように日常へと戻っていたのだった。魔法はあのノヴァ・ステラ・キュアでだいたいなんとかなるのだろう。便利なものだ。


「じゃ、じゃあそういうわけだから、明日はジェヌコでみまわりよ! これ私のケー番ね! じゃ!」

「え? あ、はい。え?」


 そう言って、摩耶さんは走って行った。あなたは何でいつも私の予定を聞かないのか。バイトは入ってはいないが、何か用事があったらどうするつもりだったのだろう。はぁ、とため息をついた。

 こうして、明日は着せ替え人形となることが確定してしまった私。明日はどうなってしまうのか。

誤字脱字ご感想などいただけると幸いです。


中々に難しいですね……

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