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第一話 必然の邂逅

新作投降しました。是非読んで頂ければ嬉しいです。損はさせません。

 オレは空から落ちていた。


 決して、スカイダイビングをしているわけではないし、ましてや高層ビルの屋上から人生のゴールへと飛び込んでいるわけでもない。


 ただ単純に、上空一万メートルから航空機と一緒に自由落下している、それだけだ。


 このまま落ちれば、下が海であろうと、陸であろうと、誰一人助からないことは明白である。


 だから……いや、やはりというべきか、オレの周りは阿鼻叫喚の地獄絵図だ。乗客から上がる悲鳴が、狭い旅客機に充満している。正直、耳栓が欲しいくらいだ。


 オレは両手を耳に当て、視線だけを周囲に這わせる。神に祈るもの、男女で抱き合う者、自己暗示のようにぶつぶつと何かを呟くものもいた。まあ、唐突に人生最後の日が来れば、こうなるのが普通なのだろう。


 隣に座る少女の方を向く。窓から覗く陽光で黄金に輝く髪は、肩口で綺麗に切りそろえられ、蒼玉のような美しい瞳は、真っ直ぐに手元の本を捉えている。さらに、白いブラウスと黒のスカートがシックな雰囲気を醸し出し、その可憐さをより演出している。


 彼女を見て、美人と思わない人がいるだろうか。少なくとも、オレはいないと思う。それくらい、目の保養にはなる美しさだ。


「何か御用?」


 落ち着いた声音が鼓膜に響く。まるで、ここが喫茶店であるかのように、錯覚する声音の平坦さだ。この余裕……流石と言わざるを得えないな。


「いや、用というわけではない。ただ、よくこんな状況で読書なんかできるなって感心してたんだ」


「そう。でも、どうってことないでしょ」


 少女は、本のページをめくる。


「いやいや、大したことあるだろ。墜落している飛行機で平然と読書できる人間なんて、世界広しといえど君くらいかもしれない」


 また少女は、ぱらりとページをめくる。


「そんなものかしら。まあ、私のように落ちないと分かっている人もそう多くはないかもしれないわね」


 オレは彼女の発言に、怪訝の顔をして見せる。まるで、意味が分かっていないとアピールするように。


「何を言っているんだ? 今もこの飛行機は地面に向けて真っ逆さまに落ちていると思うが……」


 少女は手元の本を読み終えたのか、ぱたんとそれを閉じ、顔を上げる。吸い込まれるような引力を持つ青い瞳が、こちらを真っ直ぐに見つめてくる。……少し緊張してきたな。


「惚けなくていいわ。最初から分かってるから」


 彼女の髪が重力を無視するように、ふわりと浮かぶ。その見た目は、先ほどと変わらないが、莫大なエネルギーというものを肌に感じていた。話には聞いていたがこれほどとは……。


 彼女が何かした瞬間、航空機の揺れが段々と収まっていく。座席に縫い付けられるような衝撃は消え、安全に飛行していた状態に戻っていく。窓の外の様子を見ると明白だった。先ほどまで落ちていた鉄の塊は、再び羽を取り戻したことがよく分かる。


 突然の出来事に騒いでいた乗客たちも、困惑気味だ。すると、タイミングよく機内アナウンスが流れる。


「突然のトラブルで混乱を招いてしまい、申し訳ございませんでした。当機の機能は回復致しましたので、予定通りの航路を運航します。今のところ、時間の遅れもございません。残りわずかですが、空の旅をご堪能下さい」


 アナウンスは一度だけでなく、繰り返し流されている。最初は混乱していた乗客たちも、助かったことがわかると、口々に喜びの声を漏らし始める。……まあ結局、機内は五月蠅いんだけどな。


「もういいのかしら?」


 やはり、彼女はこちらの意図を察している。オレも役目は果たしたし、もういいだろう。


「ああ、もう大丈夫だ」


 すると、少女から発せられていた不思議な圧力は消え失せる。


「まずは何か言うことがあるんじゃないかしら? 墜落事故の犯人さん」


 可憐な少女は輝くような美しい笑みを浮かべ、そう言った。

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