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6話 笑顔とは本来攻撃的な物であり獣が牙を剥くという行為が原点である



「殿下、リリス・トリスタンス様がいらっしゃいました」


「入れ」


 夕食の終えた後、入浴。メイドさんも俺が人払いしてくれてるのを喜んでる節があるので(デブーダ嫌われすぎワロス)誰も文句を言わずにいるから自室で優雅に魔法を色々試していると、ノック音で現実に引き戻された。


 朝にメイドに伝言を頼んだがちゃんと来たようだ。


 手に持ってた鉱石類を分解して霧散させたタイミング(地味にサラッとやったがこれ凄い強力な魔法だったりする)で、扉からスルッと人が入ってくる。


「お呼びしていただき大変光栄です。リリス、只今参りました」


 一昨日のクレアラは性欲を最大限煽るようなアイスブルーの際どいベビードールだったが、今入ってきた女性はもう少し清楚でロングの黒いワンピースを着ている。


 リリス・トリスタンス。

 ペンドラゴン帝国に存在する四大公爵家の家のNo.3トリスタンス家の長女だ。

 年は同い年の17。生まれた時期がすこーしズレたばかりに産まれた時からローランの婚約者の枠を得られずデブーダの婚約者になったという超絶気の毒な人物だ。


 クレアラはショートの銀髪にアイスブルーの瞳という容姿で澄まし顔と実にクールで有能そうだった。

 対してリリスはロングの黒髪黒目とファンタジーな世界では珍しいデザイン。どう見ても和風美人枠でジャンルを違えば間違いなくメインヒロイン級なのだが、デブーダの嫁とは不憫すぎる。


 LDOでも憐れみの声は多く、リリスは常時目のハイライトはオフで表情も無表情。噂ではとある人物があらゆる手を尽くしてリリスの無表情以外の顔を見ようと頑張り、無理だったのでLDO自体をいろいろ解析してみたらモーションも少なく表情も無表情一個しかないという不憫すぎるキャラクターだったとか。


 デブーダの婚約者とかそりゃ表情筋も死ぬよね。

 第3皇太子の婚約者なんて本来周りもちやほやするのに、他の公爵令嬢などからは影で嗤われ、他の令嬢も気の毒そうにみるか憐れむか、あるいは上位者の不幸を悦ぶか。


 お先真っ暗でよく自殺しないもんだと思うが、この人が自決しないようにリリスの父や第2皇后が監視してるときたからいよいよ持って憐れだ。


 昨日のクレアラの絶望フェイスもなかなかだが、DHA豊富アイ第2弾のリリスはもう“無”である。悲しいとか嫌悪とかそういったものを超過してロボットのように口だけが動いている。


 このデブ、メタボな癖に下の欲求は人一倍強くほぼ毎日のようにリリスを呼びつけて嗜虐的にハッスルしてる……そんな記憶がある。

 人を叩いて楽しいかねえ?デブーダもたいそう歪んでらっしゃる。


 だが、とあるサブストーリーでとんでも事実が発覚するんだよね。



 俺はクレアラの時にも使った魔道具をオンに。ま、やってる時に覗かれてるかもと思うと気分が悪い故の措置だ。それを見届けると、無表情な割には手慣れた様子でベッドの上に乗って、リリスは俺に迫ってくる。

 心なしか頬に赤みがさしているように見える。本当は虐められて喜んでる?………………そんなわきゃねえよな。



「リリス、お前の水魔法と幻影魔法はよくできてるな」


 俺がそう言い放つと、まるで激しく動揺するかのようにリリスの姿がブレてガラスのようにヒビが入ると水蒸気とともに霧散した。


 俺が手を払うと残滓は消えて、その奥でソファーに座るリリスの姿を見つける。

 その目に浮かぶのは焦りではない。微かな困惑と……諦観だ。


リリス・トリスタンス。

 この人物はサブストーリーでクレアラと並び味方になった時に難易度をグッと下げる重要NPCだった。最初は敵か味方かわからない言動だが、本当は心の奥底でデブーダを憎悪しており、クーデターをデブーダが起こしても巻き込まれてはかなわぬと我関せず。ベストルートではリリス自身がクーデター鎮圧に加勢する。


 この娘、なかなか狡猾な人物で、表向きは水属性の魔法を使うが超希少な幻影属性魔法も使える。これはトリスタンス公爵家が隠匿しているために世間では全く知られていないが、この幻影魔法は兎に角強力なのだ。主人公も習得できない部類の魔法だし。そしてリリスはこの魔法を何に使っているか…………ま、さっきので大方御察しだろうが、デブーダがほぼ毎日夜に呼びつけて打擲し元気に腰を振ってたのはリリスが水魔法で作り出したスライム状の物質に幻影魔法を被せたものである。


 哀れデブーダ…………君が女体と思っていたものは、うん、幻だ。

 リリスは一度としてデブーダに身体を許していない。


 これをサブストーリーで知った時は思わず笑ってしまった。デブーダが唯一カワイソスと言われるポイントなんだよね、これ。


 この事実を炭鉱送りが決定した時に縋ってきたデブーダに暴露するリリスのムービーたるや。リリスの背面からのムービーなので表情はわからないが、デブーダが絶望に堕ち切った表情でそのバックにいる人たちまで恐怖に歪んだ表情になっているので、リリスのその表情はよほど恐ろしい表情だったのだろう。


「リリス」


「はい」


 凄えよこの子、普通に返事した。それも機械かよってレベルの平坦な声だったぞ。


 これ冷静すぎてクレアラ以上にあっさり自決しそうだな……って、させねえよ。


「【アレストチェイン】」


 俺の手の平から生み出された鎖が瞬時にリリスを縛り付け、舌を噛めないように口まで拘束する。その時リリスが少し揺れて床にナイフが落ちた。


 部屋入ってきた時からあらかじめ発動させていた鉱物探知がリリスからガンガン反応してたから防げたが、止めなかったら躊躇いもなく死のうとしてたぞ。


 おまけにナイフから異物の反応もある……毒だな、これ。用意周到な事で。


 リリスが来る前から何パターンか考えておき、魔法で作ったマンキンに口の拘束までできるように練習しておいて良かった。


「…………潔ぎ良いな。身動ぎ一つせんとは」


 鎖にいきなり拘束されたら誰だってもがきそうだが、ピクリとも動きゃしねえ。コイツ完全に壊れてるな。


 さて、これをどうするか、LDOではデブーダへの恨み辛みを焚き付けると仲間になるが、俺自身が今はデブーダだ。


 俺はベッドから降りると、リリスの対面のソファーに座った。


「このような状態でお前と話すのは些か不本意だが、自決されては叶わんのでな。まず言っておくが、我はお前を殺す気は無い。そう身構えるな」


 …………反応が無いな。目はあっているが無反応だ。ま、殺されなくても、むしろ殺されない方が苦痛なのか。だがそれもいつまで続くか…………まずはジャブだ。


「リリス・トリスタンス。我が婚約者よ。今まで其方は我の婚約者として憐れまれ蔑まれ嘲笑され並ならぬ苦痛を受け、人生を狂わされただろう。故にこの場を持って謝罪させてくれ、誠に申し訳なかった」


 俺は腹が突っかからないように脚を頑張って広げ、頭を深々と下げる。

 そのせいで顔は見えないが、リリスに繋がった鎖が微かに揺れた。反応アリみたいだな。

 だが顔をあげても表情も何も変わってない。つまりはまだまだ足りないのだ。


「今其方の心に渦巻くのは、疑念か困惑か、絶望か……諦観か?ま、今は些か心乱れているだろうが、我の真意を其方に伝えたく思ってな。このような場を設けた。お前も知っているように、我は横暴で自分勝手、まるで豚のように意地汚く欲求の塊のようなプライドと家柄だけが高いだけのクズでど畜生だと名高い天性の屑だ。だがそう振る舞っているのも“理由”あってのことなのだ」


 目に相変わらず光はないが、リリスの瞳が微かに揺れて鎖も少し揺れる。これも反応アリ、だな。


「その理由は2つある。1つは帝位から退き僻地なりなんなりに引っ込む為。もう1つは第2皇后を引きずり下ろしこの国からその周囲のゴミ屑ごと放逐するためだ」


 俺が強い口調で言い切ると、そこで初めて大きく動揺したようにリリスの体が震えほんの一瞬だけ瞳に光が浮かんだ。


 掴みはオッケーだ。


 そして俺はローランに語ったプランをリリスにも声高々に語ってやった。


「――――――リリス、これで我の真意を知っただろう。だが問いたいこともあるはずだ。よって自決しないというなら頷いてくれ。質問できるように拘束を解こう」


 俺がそう言うと、リリスはコクリと頷いた。


 何考えてるかわからんが、ここは信じるしかない。俺がパチンと指を鳴らすと鎖は霧散した。


「すまんな、痛くはなかったか?」


「大丈夫です」


「そうか」


 一応何が起きてもいいようにいくつかの魔法を待機状態にしておくが、リリスは特に不審な動きはない。


「リリス、何か問うてみよ。出来うる限り答えよう」


「…………では、お聞かせ下さい。何故、今になり私に御教えになったのですか?幻影魔法にかかっていると知りながら、何故わざわざ演技といえ無様な真似を?」


「そうだな、お前としてはそう言うことならもっと早く教えてくれれば、と思うだろう。だが、敵を騙すにはまず味方から、と言う言葉を知っているか?我はお前が幻影魔法の使い手と知っているが故に、打擲などまでおこない性欲魔人のクソ豚として振る舞った。お前の表情を見れば誰だってそれがありありと伝わるだろう。お前の嫌悪と絶望が何より私を貶めるのに重要だったのだ。これで婚約者には甘いみたいな捉え方をされるわけにはいかなかった。だが不快には変わりなかっただろう。申し訳なかった」


さて、リリスはどう反応する?


「それが……その姿が、本当のデブーダ様なのですか?」


「そうだ。我は兄上と争いたくのうし、神輿にされるつもりもない。籠の鳥の帝位の何が良きことか。帝位などいくらでもくれてやる。我が目的のためならば、母だろうが利用する。それが本当のデブーダ・ペンドラゴンだ」


「全てを信じろとおっしゃるのですか」


それはごもっとも。さあ赫赫たる言いくるめ(98)、今こそその力を見せろ!


「そうだ。我は最後にクーデターを失敗させ、責任をとり僻地に飛ばしてもらう。ローラン第2皇太子にも既に話は通してある。案ずるな、お前はクーデターの前に密かに離縁しておく。巻き込む気は毛頭ないわ。だが、それでお前の苦しみが癒える訳もなかろう。何か望みはあるか?償いに足るかはわからぬ。偽善だと罵っても構わない。それでも、一生をかけてでも償わせてくれまいか?」


「デブーダ様が、償いを?…………ならば、ここで私を殺してくださいますか?」


おっと、話が面倒な方向にスライドしたぞ。


「………………今、か?」


「もういいのです。デブーダ様が私にお気遣い頂こうと、もう私は女として終わっているのです。離縁されたとしても、デブーダ様の真の姿を知らぬ周りの者達から見れば、私の扱いは変わりませぬ。…………いえ、ここまでくればもう変わりはないでしょうね」


「全てが終われば自決でもする気か?」


俺がリリスを刺激しないように静かに問いかけると、死んだ目のままリリスは力無く微かに嗤った。いや、昨日せいかもしれないが、確かにリリスは自嘲しているのだろう。


「御見通しですか。……ええ、全てが終われば自決します。未練も何もないのですから」


 考えうる限り最悪に近い状態だな。

 17歳のする表情じゃないぞ、これ。まるで擦り切れで今にも千々になりそうなボロ雑巾だ。抵抗する気も立ち上がる気もとっくに失った目つきだ。


「そうか…………もう、望むものは死、のみか」


「ええ、他に望みなどありません」


 せ、切なすぎる。俺のメンタルを滅多刺しにしてくるぞこの子。タイプな顔立ちだけに一層ダメージがでかい。何が欲しいと聞かれ“死“を望むなんて…………LDOの彼女は、その後については語られていない。だが、幸せな生涯をそのあと送ったのだろうか?クーデターの主犯格の正妻が無関係で通じるわけがない。

 よしんばベストルートでも、彼女は幻影魔法を秘匿していたことが周囲に広まってしまう。そうなれば悪用されないように永遠に城に幽閉されるだろう。それほど精神に影響を及ぼす魔法というのは忌避され恐れられている。


 リリスは…………どう足掻こうと、自決する。そんな考えがふと浮かんでしまった。

 嗚呼、俺、心底デブーダが憎く感じた。今までは何処か第三者的でゲームの設定だし、という考えが何処かにあった。

 どこか理性的に俯瞰的に第三者的に上から見ていた俺がいた。だが、こんなふつふつ湧き上がると憤怒と憎しみは、こんなに制御できない感情が湧き上がるなんて思いもしなかった。

 別にリリスが好きだからとかそんな大層な理由じゃない。理屈抜きの、理屈がないからこそただ気に入ら無くて生理的に気に食わなくて感情に抑えが効かない。

 彼女が自決するのを知っていながら放置するのか?

 クーデターを起こした後は彼女が生きてようが生きていまいが確かに俺には関係ない。夢かもわからぬ不確かな世界の人物に心動かすのも馬鹿らしいと何処かで考えてる俺もいる。

 しかしだ、こんな胸糞悪いままそのあとの人生がエンジョイできるほど俺も図太くない、と俺は思う。案外寝たら忘れるかもしれないが。それでも、俺はLDOの1ファンとして、それは看過できないのだ。

さあ、さらなる言いくるめだ。98など甘え。ここはクリティカル一点狙いだ!


「そうか…………ではもう何も要らぬ、失う物もないというなら、クーデターまでの余興に……我と賭けをしないか、リリス?」


「賭け、で御座いますか?」


よしっ、話に乗ってきた!


「そうだ。死ぬことを止めはしない。だが、我は僻地に出向するまでに痩せようと思う。礼儀も身につけよう」


「痩せ……?」


困惑しているな。つまり感情は死に切っていない!俺にもやりようはあるということだ。


「そうだ。まともな貴族になってみせる。お前の隣に並び立っても見劣りしない男になるのだ。僻地なら他の貴族とあれこれ関わることもあるまい。もし其方が、クーデターまでに我を見直し隣に立たせても良いと思えば…………我に、ついてきてはくれまいか?今までの物を全て切り捨て、静かに穏やかに暮らしてはどうだ?なに、気に入らなければ目の前で自決してもらって構わない。それはその誓いの印だ」


 俺はリリスが持ち込んだナイフを手に取ると、魔法で変質化させて1つのブレスレットに変える。そしてそれをリリスの右腕にそっと嵌めた。


 その時初めて、リリスの目が見開き、ポカーンとしていた。驚愕している、ということがわかる表情を初めて見ることができた。なんだ、やっぱり可愛いじゃん。


「ま、こんなデブスにこんなことを言われても嬉しくもなかろうが」


「はい、嬉しくないです」


 おおう、コイツ失うもんが無いから凄い言いっぷりだな。こんなにきっぱり切り返すとは。


「…………今は、到底喜べません。ですが、一世一代のプロポーズを重ねた賭け、失う物もありませんし、乗るだけのりましょう。今度は体内にあらかじめ毒でも仕込んでおきますので。自決するのは止められないでしょうね」


 ふふふっと死んだ目で笑うリリス。だがそこには、今まであった諦観が、悲観が、絶望が多少薄らいでいるようだった。頑張った甲斐があったな。

 

 いや待て、今なんて言った?


「プロ……ポーズ……?」


「?……そうではないのですか?」


 ………………本当だ。勢いで喋ってたけどプロポーズみたいだな。言いくるめ(98)が変な風に炸裂していたらしい。


「うむ、別にそういう訳では無いのだぞ。正直に白状すれば自決されたら寝覚めが悪いと思ってな。他の貴族と関わらぬ場所まで来たら好きにするといい。別にその地にいた男と関係を持とうが子供を作ろうが咎めぬよ。表向きは我の子として扱うがな。女をすてたなど言うでない。其方は美しい。女としての喜びを全うして良いのだ。言うたであろう、一生かけて償うと。我は自由と生きるに困らぬ金さえあれば多くを望まぬ」


 元が庶民だしな。暇つぶしがてら魔法と錬金術に没頭して俺の謎を一生かけて解き明かしたいだけなのだ。子供自体は嫌いじゃないし、リリスとリリスの選んだ男の子供なら大層賢く強かで将来有望な子が生まれるだろう。親戚の子を面倒見るのと変わらんし、全然構わない。流石に取っ替え引っ替えで無秩序に子供を作られたら困るが、それも彼女の選択なら好きにすれば良い。


 あいにくゲームのキャラクターに想いを寄せる気になれない。

 俺はLDO自体が好きだ。勿論そこに登場するキャラクターも好きだ。だが、キャラクターはLDOのキャラクターとしての”好き“なんだ。綺麗、可愛いとは感じるが…………それは好意に直結しない。


 主人公×アリスのカップリングが1番好きだ、と言う感想に全てがこめられている。

 主人公に自己投影している形が好きなんじゃない。主人公×アリスのカップリングがベストなんだ。それこそ二次創作でそのカップリングを探しSSまで書くぐらいには…………。アリスというキャラクターは、主人公の隣に立って完成するキャラクターなんだ。


 リリスも、デブーダに人生狂わされたがこれから輝けないわけじゃないはずだ。LDOでは語られなかったキャラクターの行く先、LDOのヘビーなファンとして輝かせたいと思ってしまうのは変だろうか。

 身分もなにもかも捨てて庶民と結ばれて女の幸せを知るリリス…………無表情しかないリリスの色々な表情が見れそうと言うだけでLDOファンとして僥倖だ。


 そう、この世界はLDOファンにとってはある意味、フロム脳にとってはある意味最高の世界だ。デブーダにした奴は許せんがな。許せんがな!!!(大事なことなので二回言いました)


 第四皇太子ぐらいに転生したらローランに全面協力してデブーダと第2皇后を原作以上にギッタンギッタンに叩き潰してやれたのに、チッ、人生うまくいかん。

 そしてこれだけ憎くて最悪なのに不気味なまでに自決しようと言う気が起きない。これ絶対なんかが干渉してるよな。


 MU☆KA☆TU☆KU!!!!


 いったい誰だこんなふざけた真似したのは。

 なにが目的だ。意図がわからーーーーーーーーーん!


 悪役令嬢だと前世の記憶がどうとか言うけど、ゲームそっくりの世界があってたまるか!前世なわきゃねえわ!最後の記憶、脚がもつれて顔面からずっこけたんだけなんだぞ!あれで死んだとでも?そんなヤワじゃねえ!


 駄目だ。考えるだけでムカムカする。


 だいたい最初から無理ゲー臭い。


 ギャルゲーの悪役になるならまだしも、ぬわーんで魔王なんぞがいる世界なんだ!悪役令嬢転生みたく自己保身だけに走らせろよ!!自己保身だけに走ったら世界滅びちゃう可能性大とか、HU★ZA★KE★RO!!


 純粋に幸福を求めれば、人生自体詰む。

 妥協した幸せ、心労レベルの報われない気配りをして程々の人生。


Fuーーーーーーーーー◯k!!


 理不尽だ!やり直しを要求する!


 いやそれで奴隷スタートも困るけど、1番嫌いなキャラクターになるってもうね、悪意を感じる。


 ひっぱたくだけじゃ駄目だ。タイキックと千年ゴロシも追加だ。主犯は絶対暴く。俺は神だろうが恐れねえぞ!


 はぁ…………メンタルリセット終了。

 だってさっきから俯いて急にクスクス笑いだしたリリスが怖いんだよ。


「成る程、そう言うことですか。デブーダ様、私、長らく忘れていた感情を思い出しました。ええ、これは”憤怒“でしょう」


 そう言って顔をあげたリリスはゾッとするほど美しい笑みを浮かべていた。

 わかりやすく言えば、ホラー系統の笑顔だ。

 ふと思い出した言葉がある。

『笑うという行為は本来攻撃的なものであり獣が牙をむく行為が原点である』


 そうだ、この笑顔はまさしく威嚇だ。


「数多の遠回しな嘲笑も今や子守唄のように聴き慣れましたが、このような恥をかかされたのは初めて御座います。つまりは、デブーダ様は私の身など一切興味などないと言うことですか。フフフフフフ、淑女に対しその様な侮辱…………とうに捨てたと思った女としてのプライドが泥を塗られて目を覚ましました。そうですとも、デブーダ様がどの様なお声をかけて頂こうと、今の私にとっては貴方がこの世で何よりも憎いのです」

「ですので、私も女のプライドをベットしましょう。クーデターが終わるまでに、私はデブーダ様を籠絡致します。ええ、失う物も何もないのです。あらゆる手を用いてデブーダ様を私の虜に致します。その上で、少しでも気に入らなければ自決します。貴方の顔が悲痛と絶望に染まるのを眺めながら、自決します。その方が私も死に甲斐があると言うものです。貴方お一人が望んだ結果を手に入れるくらいなら、最後に爪をたて消えぬ深い傷を付けましょう」


いやまて、それは誤解であり恥をかかせる機など毛頭…………嗚呼、成る程。もしかしてあのムービーの時の彼女の表情はこの笑顔だったのかもしれない。凄まじい迫力と滅亡を前にしたが故の背徳的なまでの美しさを秘めた笑みだ。


 目に宿る黒い炎の猛々しさは彼女が本来押さえつけていた中身なのだ。


 あー、まずったぞ。まさかそこが地雷だと思わなんだ。価値観の相違がここで致命傷になったぞ。


「ええ、勿論ですが、デブーダ様のお邪魔は致しません。失う物も無いのですから、手先として動けて言うのなら従いましょう。喜んで協力させていただきます。貴方を籠絡する為ならば、身も捧げましょう。私は貴方を許しません、絶対に。貴方の希望と成りて華々しく死んでやります。

 貴方がそれを気に入らないとするなら、自決を妨害しようと言うなら、私は全てを暴露し貴方の計画を壊します。独り勝ちなどさせませぬ。私が貴方を籠絡仕切れば私の勝ちです。私は貴方の企みをバラし城から逃さぬ様にした上で自決し、デブーダ様には私の味わった絶望に浸っていただきます。デブーダ様が私を籠絡したならば、私は過去の全てを清算し貴方に全てを捧げましょう。腕を切りおとせと言われてもオークと交れと言われようと私は全て従います」


 そこで言葉を切り、今一度リリスは俺をその恐ろしく炎を宿した瞳で見つめる。


「どうですか、デブーダ様。スカした内面をひた隠しにしていらした様ですが、この賭け、乗りますか?」



 美しい笑顔で詰め寄りながら問いかけるリリス。目の奥から溢れ出たタールのような淀みからメラメラと揺らぐ漆黒の呪炎。リリスという女性の本性。本来の彼女は末恐ろしく斯くも美しいのか。

 死人の様な表情よりこちらの方が余程ゾクゾクして相手し甲斐がある。


 これが完全な自暴自棄で言っているなら俺ももう少し考えた。だがコイツは本気だ。失う物もなく後もないからこそ何かを恐れる必要も無い。リリス・トリスタンスではなくリリスとして、デブーダ・ペンドラゴンではなく”俺“に喧嘩を売っているのだ。


「ククククククク、思い上がるな。幻影で逃れる様な意気地のない者に何が出来る。最後に尻尾振って跪くのはリリス、貴様だ」


「フフフフフフ、つまりは受けて立つということですか宜しいですか?」


「ああ、デブーダ・ペンドラゴンではなくデブーダとして、リリス・トリスタンスではなくリリス自身の賭けにのってやろう。吠え面かかせてやる」


 暗に家の方に責任は問わないでやるぞ、と上から目線で煽ってやるとリリスの笑顔はさらに鮮烈で恐ろしくそして美しくなった。


「フフフフフフフフフフフフ、デブーダ様……貴方は最高で最低な殿方です。その奢り、私の死体にすがりつき泣き喚く時とくと後悔なさるでしょう」


 よっし、ファンブルかと思ったが、最終的に言いくるめ(98)はクリティカルで決まったようだ。

 嗚呼、ほとほとハードモードな世界だ。

 だが…………実に楽しい。


実績:なまくらと申したか


いえ、安定のハードモードです。やり直しはききません。余裕ぶちかましてるのも今のうちだぞ。リリスを激怒させるなんて君は実にバカだね。

ギャグしょうせつと申し(ry


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