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4話 女性のガチ泣きは割と困るやつ





 うーむ、風呂があんな苦痛とは思わなんだ。

 皇族ってメイドさんに身体洗われるんだ。デブーダは幼少期から当たり前だったからなんとも思わないようだったが、俺はどうしてもソ◯プの記憶とかががががが、素数を数えるのをリアルにやるとは思わなかった。


 精神は間違いなく俺だが、肉体は脳味噌含めやはりデブーダよりなのか、味の嗜好に僅かに変化があるし、羞恥心も耐え切れる程度で済んだというかたたなかったというか。そればっか心配しちゃったがちょっと反応はしたが思ったよりは……てかこいつの結構でか…………待て、何考えてんだ俺?

 精神衛生上悪すぎる。いや、まずこんな現実逃避してるのも、風呂に入って汗を流し湯船に浸かったおかげで和らいでいるものの、猛烈に筋肉痛に身体が侵されているからだ。


 夕食の時も…………華麗なテーブルマナーを披露して皆をエネル顔にしたかったのに、筋肉痛で脚が上についた脂肪という名のお守りのせいで圧迫され僅かな動きでもピキピキ痛む。そのせいで腕がかくついてうまくいかなかった。ちくせう。


 今再びお付きを下がらせてベッドの上でストレッチしているが変な声が出そうだ。こいつ身体が硬すぎる。腹がつっかえて長座体前屈できなかったときは笑えばいいのか泣けばいいのか、どっちが正解だったんだろう。なに?笑えばいいと思うよ?やかましいわ。


 そういえば、お付き達は人払いし続ける俺の事を奇異の視線で見つめる……ことはなかった。ちょうど15歳くらいの年頃になるとたまにそういう事をしたがる貴族もいるようだ。ま、生まれた時から当たり前でも思春期になると価値観とかも色々変わるからな。大体暫くすると不便なので結局妥協するらしいから下もとやかく言わないらしい。ありがたいことだ。


 というのは、一丁前にインテリ感出そうとして読まないけど沢山ある本の中、ストレッチしながら気を紛らせる為に読んでた本に書いてあった。

 そういえば小耳にはさんだたことがあるが、書斎にズラッと並んだ本というのは過去の貴族にとってはステータスだったらしい。本が量産できない時代だっからだろう。ひどい時は中身まっさらな装丁だけの本もフェイクで本棚に差し込んでいたそうだ。

 確かローランは読書家で、なかなか博識という設定だった。

 デブーダの部屋の、壁に設置された無駄にでかい本棚にズラーーーッと並べられた本は間違いなくそれに対抗したからだろう。おめえこんなんぜってえ読まねえだろ、という本がジャンル構わず並んでいる。


 だが今の俺にとっては最高の情報源だ。誰が本棚にメイドの教本なぞ誰が本棚につっ込んだが知らんが、読んでて普通に面白い。


 そんな事をしながらストレッチをしているとコンコンと扉をされた。


「殿下、ダリアで御座います。クレアラの準備が整いましたのでお連れ致しました」


 クレアラ……クレアラ?え、誰だっけ…………?あ、メイドさんか。そういえば夜に呼んだな。完全に忘れてた。がっつり眠ろうとしてたわ。


 とりあえずちょっくらシーツを直して、メイドの教本は本棚へ。不自然な点はないのを確認してソファーに座り暫し呼吸を整える。よーし、オッケー。


「入れ」


「…………失礼致します」


 スーッと開く扉。そこから部屋に入ってきたのはベビードールのような扇情的な衣装に身を包んだメイドさんことクレアラだった。

 見ている方も恥ずかしくなりそうな衣装だが、クレアラの表情は羞恥ではなく絶望。目が死んだ魚みたいだ。DHA豊富そうである。


「さて…………」


 暫く何を話そうか考えて大体の構想が纏まって俺が口を開くと、クレアラはビクンッと震えた。

 どうしよう、凄え怖がられてる。君にはこの豚腹がTNT爆弾かなにかに見えてるのかい?まさか、純100%脂肪である。


「クレアラ、そこに座れ」


 俺が顎でしゃくって示した先はベッドの上ではなく、対面のソファー。クレアラは絶望100%からキョトンと10%ほど困惑を覚えたようだ。


 俺はクレアラが座ったのを確認すると、机の上にあるランプのような魔道具を弄る。

 LDOではマジックアイテム、魔道具などと称されるアイテムも存在する。その中でも俺が今起動したのは覗き、盗聴を防ぐ結界を作り出す魔道具だ。


 これはマジックアイテムでも古代級と最高レアリティの一歩手前のレアリティで、宮廷魔導師ですら結界を打ち破るにはとてつもない労力と時間を要する、とても高度な失われた技術を用いられた一品だ。ところで、失われた技術ってロストテクノロジーっていうとかっこよさ300%UPしない?



 これは完全に第2皇后のコネで手に入った一品だが、このクソガキは安眠道具として使ってやがった。これを売れば小さな城変えちゃうのに。デブーダほんとなんなの?今はありがたく使わせてもらうけどさ。


「そう怯えるでない」


 俺はそう切り出すと、クレアラにローランにした説明と似た説明をしてやった。一々突っかかってこないからローランより遥かにスムーズに話が進んだ。


 …………ん?あれ?なんか口開けたまま固まってるけど、反応がない。へんじがないただのしかばねのようだ。これ黙って聞いていたわけじゃなくて…………。


 俺がクレアラの目の前でパンッと手を叩くと、クレアラの目に光が止まり急に立ち上がろうとしてソファーごとガッターンと派手にすっこけた。なんか昼間も似たような光景を見たぞ。おいおい、頭うったんじゃないか?


「大丈夫か?」


 俺はストレッチでマシになった身体で立ち上がり、こけたままのクレアラに手を差し伸べる。しかしクレアラは目を見開きプルプル震えているばかり。そしてなんかブツブツ言ってる。怖い。

 地球滅亡を翌日に控え、1人で部屋の隅で何かブツブツ呟やいてる人ってこんな感じかな、と思いました、まる。

 デブーダがまとも=翌日地球滅亡


 冷静に考えるとすごい等式だ。


 埒があかないのでクレアラの手を引いて強引に起き上がらせ(筋肉痛でうめきそうだが耐えた)、ソファーも戻した。そして未だなんかブツブツ言ってるクレアラをベッドの上まで連れてくる。ここならオーバーリアクションでも安全だ。


「クレアラ、いい加減目を覚ませ」


「え、は、はい」


「どこまで聞いてた?」


「は、話は全て伺っております」


 フリーズしてたけど聞いてなかったわけじゃないのか。ふと見ると、クレアラの挙動が少し怪しい。おかしいな。完璧超人メイドだった気がするのだが、今はただの可愛いポンコツメイドである。いや、呆然としつつ話を全部把握できてるのは逆に凄いかもしれない。


「なんだ。何か言いたいことがあるなら申せ。いや、命令してやろう。今考えていることを自由に申せ」


「そ、それでは、そのお伺いしたいのですが、何故私にそのような話をしてくださったのですか?」


「ふむ、そうだな。まず1つとしてはお前個人とは関係ないが、第1皇子がもう長くないと確定したから、前から動き始めるには頃合いだと考えていたのだ。第2に、お前には余計な首輪が付いていないからだ。何処そこの派閥とかそう言ったものに無縁ながら、俺の御付きでいる。故に都合が良かった。第3にお前の仕事ぶりを評価させてもらった。お前は気配りができ、頭も回る。仕事も極めて丁寧だ。更には若くしてお付きの中でも纏め役に近い位置にいる。実際他より数段有能なのは気付いていた」


「も、勿体無いお言葉で御座います」


 まずは相手を褒める。社会人に必要なスキルだ。おべっかと言い訳させたら学校イチといわれた俺を舐めるなよ。


「よいよい、謙遜するな。そしてお前にはそれを見込んで、ちょっとしたことをしてもらいたい。別に法に触れるようなものではないぞ。お前にはまず、こうして定期的に俺と話す時間を設けてもらう。表向きは情婦、裏向きは我の協力者として。同時にお前はその身分を使い悲劇のヒロインを装い周りのメイドの関心を集めよ。我の相手など同情を買うだろうからな。なに、おべっかはいらぬ。事実だ。我がクレアラだったらまず舌を噛んで自決しておるわ」


 俺が薄く笑いながらそういうと、クレアラは目を見開いた。


「続けるぞ。お前は悲劇のヒロインになった後、俺の指示した噂をさり気なく流せ。メイドどもはお喋りだ。お前がその発信源となれ。例えば今回流してもらう噂だと、デブーダは急に礼儀作法なんてやっているが実際は次の皇帝候補になりそうだから付け焼き刃でやってる無様な奴だと。このまま言う必要はないが、それを仄めかせばいい」


俺がツラツラと指示を出すと、クレアラは恐る恐る手を挙げた。


「1つ、よろしいでしょうか?」


「構わぬ」


「私には何故殿下が自らを貶めるような真似をなさるのか私ではわかりません」


この目は、疑っているというよりは、純粋に理解に苦しんでるみたいだな。


「ふむ、その答えはシンプルだ。周りを油断させるためだ。目を覆いたくなるほど馬鹿で安直、癇癪持ちの扱い易い高慢ちきな奴だと周囲に思わせておくのだ。ここから我も積極的に動いていくが、計画の為には我は悪評をそれなりに維持しなくてはならない。その協力をしてもらいたいのだ。なに、お前の身の安全は保障しよう。使いつぶす気は毛頭ない。報酬は我の小遣いから払おう。それと、デザートも良いぞ」


 このデブ、夜にはいつもデザートを作り置きさせて部屋に置かせていたようで、腹が空いたら食ってたらしい。そりゃデブーダじゃなくとも誰でも太るよ。

 指示しなかったお陰で今日も枕元の台座にはデザートがいくつもある。


「何か好みがあれば申せば良い。我がリクエストしておこう。さあ、申してみよ。別にいらぬなら要らぬでも良いが」


「それでしたら、シュークリームを……」


「ふむ、ほれ。結界がある限り周りはなにをしても知らぬ存ぜぬだ。今食べしてまえ。なに、遠慮はするな」


 クレアラにシュークリームと渡すと、恐る恐るではあるが両手で掴み、はむっと小さい口で噛り付いた。思わずときめく可愛さだった。甘味でわずかに緩む表情と今更ながらベビードールが牙を剥きやがる。

 見てられずにシーツをかけてやったがあまり意味なかった。

 しかし今の、久しぶりに来た孫におやつを勧めるおじいさんみたいだったな。まだそんな年取ってねえよ!若くてぴちっぴちよ!こころはいつまでも永遠のガキンチョなのだ。ガハハハハハ!よし、メンタルリセット。


「それとだ…………お前、想いを寄せる奴とかいるか?」


「な、何故そんなことを?」


あらやだ、ちょっとした恋バナしようと思っただけなのに!また警戒されてしまったわ!まあ、冗談だが。


「いや、全てが終わった暁には其奴と顔つなぎをしてやろうとな。我がクーデターを起こせばお前も仕えるものがいなくなるが安心しろ。ローランとはすでに話は通してあるからな。便宜を図ってやろう。

一応世間一般ではお前は俺に傷物にされたと言うことになる。だがそれで悲恋など招いたら申し訳が立たぬのだ。故に全てが終われば、其奴には我の今までを全て説明しクレアラは清らかな乙女であることを証明してやろうと考えている。結ばれれば僻地に飛ばされようと皇族には変わらぬし、援助はしよう。勿論、公爵家に身分云々に関しては掛け合ってやってもいい」


 俺がニヤッとしながら言うと、クレアラはハッと息を飲んだ。


「公爵家の血が流れているのだ。むしろ相手から寄ってくれるだろう」


「お、お待ち下さい!何故、何故殿下が、皇帝陛下ですらご存じない筈ないのに…………!」


やはりこれもLDO通り。クレアラはとても慌てている。


「それほど我は本気と考えてくれれば良い。お前がそう言った秘密を持つように、我にもいくつか手はあるのだ」


 全部ゲームの知識だけどね……………そこ、ずるいとか言わない!攻略本が辞書サイズで10冊になるいい意味で頭のおかしいゲーム相手に俺はがんばってんだよ!



「殿下は、殿下はそれで宜しいのですか?それ程の手管と頭脳がありながら、周囲からは蔑まれ行き着く果ては僻地。本当にそれで宜しいのですか?」


 クレアラはベビードールをギュッと握りしめて俯きながら、そして震えながら問いかける。おう、いきなりシリアス?俺のメンタルが追い付かない。

 こんなのゲームにあったかな?こいつが内通者になる時のイベントと全然違うんですが。まぁ、クレアラの考えてることはわかるが。



「お前が考えていることはわかる。大方、我に対する言葉というよりは、公爵家の血を引き令嬢としての才能も十二分ありながら、こんな産廃相手にメイドなどしている自分に向けた言葉だろう?」


 俺が率直に言うと、クレアラはバッと顔を上げ驚愕に支配された表情で俺を見つめた。

 さあ御覧じろ!パラノイアで鍛えたプロパガンがに言いくるめ(98)をお見舞いして差し上げよう!うなれ俺の言いくるめ(98)ダイス!!目指せ世界一かっこいいデブ!


「帝位がなんだ。周りがどうした。“我は我だ”。誰がどう捉えようとなんと言おうと我はデブーダ・ペンドラゴン第3皇太子だ!金があれば幸せか!?権威があれば幸せか!?そうではない。そうではないのだ。この国で一番の最も幸せ者が皇帝陛下と聞き、お前は同意できるか?できぬだろう?この国で金も権威も誰より持っている。だが一番幸せか?幸せと言うのは、最低限の尊厳と週に一度贅沢できるだけの金……そして自由があって初めて成立する。貴族は土地に縛られ家名に縛られ結婚相手すら選べない。我の婚約者の公爵令嬢など最たる例だ。

 どうだ、ここでもう一度自分の幸せを見つめ直してみよ。我は僻地でも自らの幸せを掴めると考えている。皇帝などと言う国という名の牢獄に囚われることが幸せなどとそんな愚かな話はない。幸せなど自分がどう感じるかだ。例えば大人になっても砂いじりや虫捕りが楽しくて幸せなど良いではないか。幸せに感じれることが多い者こそ本当の幸せ者よ。それを勝手に蔑んでいるものこそ、本当の幸せを知らぬのだ。因みにだが、我の幸せは自由だ」


 よしイケる。ダイスの女神は俺に微笑んでいる!


「それを踏まえて問う。クレアラ、お前の望みは公爵令嬢と生きることか?周囲のおべっかを笑顔で流し、言い寄る男は丁重に下がらせる。常に身の回りの情勢に気を配り気を抜く時などないだろうな。うむ、実に幸せそうで楽しそうだな、公爵令嬢という生き方は。望まぬ相手と結婚させられ、身を委ね、そのうち後妻にうつつを抜かし始めるだろう。そう言った管理をするのも恐らく正妻の公爵家の令嬢がするのだ。

 どうだ、公爵令嬢はクレアラの真の幸せか?別にシュークリームを食べてる時だろうが、ベランダからボーっと綺麗な景色を眺めてようが、飼い犬を撫でてようが、それは本人が幸せに感じるかどうかだ。公爵家の血を引いていないと、お前は幸せになれないか?『どうして自分はこんな豚の世話を焼いているのに異母姉妹はちやほやされてるんだ?』と不満に思ったのだろう?だがな、そういうのは大体無い物ねだりなのだ。どんな貴族も皇族でも、金は積んでも真の自由など得られないのだ。それは公爵令嬢であろうと…………真に自由はない。狭い鳥籠の中、欺瞞と妥協に満ちた霞のような幸せを抱いて一生を過ごすのだ」


 決まった。我ながら頑張った。そう思いクレアラを見たのだが、クレアラは予想外のリアクションをしていた。


「………………何を泣いておる」


 つい饒舌に語ってしまったが、気づくとクレアラがボロボロと涙を流して嗚咽で肩を震わせていた。こう、ツゥーとかポロポロじゃなくて、ガチ泣きのやつだ。こういう時ふとティッシュが欲しいと思うのはなんだか笑える。


 失って初めて気づく文明の有り難みだ。


 しょうがないからハンカチを渡してやったがなんかもうぐしゃぐしゃになってるし。どうすんだあれ、洗ってどうにかなるのか?



 いかん、女性のガチ泣きとか面ど…………慣れなくて少し現実逃避してしまった。

 貸したハンカチ君はもう犠牲となったのだ。犠牲の犠牲にな…………別に執着もなんもねぇし一枚や二枚本来の用途で使われればハンカチ君も許すはず。許せハンカチ君…………君のことは忘れない…………じゃねえよ。ナチュラルにまた現実逃避してしまったな。


 でもどうしろというのだ。今の俺はどうしようもないデブスだ。撫でて慰めるとかラノベコマンドは使えん。とかベビードールの状態でデブーダに触られるとか、あ、想像しただけでサブイボが。

 あーあぁ、完全に蹲って泣き始めたし。


 もうどうにでもなーれ☆、と泣き止まぬクレアラを放置して(許せクレアラ。ベッドを貸し出してあげたのだからな)俺は本棚の気になっていた本を眺め始めた。タイトルは『魔道具製作と錬金術』となーんの捻りもねえ本だ。それにちょっと古臭い。だが読み始めると俺は熱中してしまった。LDOのシステムに留意した上で、あまり触れられていなかった魔道具という物の構造と製作方法。錬金術を用いてつくられる家電製品みたいなもんだが、これの要である魔法陣がまた複雑怪奇でフロム脳が活性化する。ヤバい、この世界娯楽ねえと思ったけど錬金術超楽しそうだぞ。

 LDOでも見たような紋章とかあったりすると本当に滾る。


 気づけば時を忘れて読み耽ってしまい、時間の感覚がいつの間にか凄い薄れていた。


 そこで凄く遠慮がちに肩に何かが触れて、んだよ?と横を見ると凄く困惑した様子のクレアラがいた。


「あ、あのお話の途中でみっともなく大変な無礼な真似をしてしまい申し訳ございませんでした。く、繰り返しお呼びしたのですが…………その、殿下、もう少しで夜明けでございます…………」


「ん?ヨアケ?」


「はい、あと一刻程で朝日が昇り始めます」


 待て待て、クレアラが来たのって別に深夜でもなんでもなかったぞ。

 いや、この本、A4サイズの辞典みたいな本だって…………あ、もうあと索引か。へえ、索引なんてあるんだ…………じゃねえよ、俺どんだけ熱中してたの?その間クレアラ放置してた?俺のせいで寝られずに……目も真っ赤だし。いや、待て。目の周りも赤い。


「クレアラ、お前、もしや泣いたまま腕の上に顔を載せて寝落ちしたのか?」


 俺がそう言うと、クレアラは深く俯いた。図星だったらしい。


「別に咎めはせぬ。放置したのは我なのだから。気が晴れたか?」


「…………ぁい。ありがとう、御座います」


 消え入るような声で返答するクレアラ。うん、わかるぜ。年下の今まで見下してた異性の前で号泣したら居た堪れねえよな。


「そうか…………ではヤルか」


「え、は、え、その」


「違うぞ。ただ誤魔化しは必要だ。ということで…………」




「はっ、はっ、くっ、はっ」


「殿下、もう少し、上へ」







 だーーーーーーーーー!腹筋できねえ!

 腹がつっかえるというか、ペンギン一匹横たわってるみたいに身体が重い。重すぎる!超頑張って脚を抑えてくれるクレアラの顔がギリギリ見えるくらいだ。


「くぅうううううう」


「殿下、最後の一回です」


 どんなになろうと30回はクレアラの顔を見るようにと腹筋をやったが、最後の一回が終わると俺は息荒くどさりと布団に倒れこみ服も布団も汗びっしょりだ。


 これで誤魔化せるか?あったら今度はイカでも持ち込もうかな。


 ぐしゃぐしゃのシーツとムワッとするベッド。信憑性を上げるためにクレアラに頼んで血を少しシーツの上に垂らした。


「殿下、大丈夫ですか?」


「はあ、はあ、はあ…………いくら欺くためとはいえ、やり過ぎた」


 どうすんだこれ、筋肉痛で死んじゃうじゃねえか?睡眠もとってないからジョギングの筋肉痛も残ってる。詰んだ。これは詰んだ。だがまだやるべきことは終わってない。


「クレアラ、今更だが、我に力を貸してもらえるか?」


「…………はい、不肖クレアラ、謹んでお受け致します」


「すまぬな、我の都合に巻き込んで」


「いえ、そのように仰らず。私も真の幸せについて、もう一度見つめ直そと思います」


「そうか…………いい表情になったな。では本当の幸せの答えは全てが終わった後、聞こうか。叶えられるならば我が叶えてやる。これは我からの課題だ。………………さ、宮廷スズメが動き出す前に身を清めて参るのだ。お前がこの部屋を出たら俺はど畜生のデブーダに戻り、お前はただの悲劇のメイドだ。頼んだぞ。お前の働き次第では報酬も増やす」


「はい。それでは私はこれにて…………」


 クレアラは優雅に礼をすると、部屋から出ていった。俺は魔道具の機能をオフにするとベッドに戻った。



 結果、クレアラとのアレは誤魔化せたが、俺は筋肉痛で死んだ。

 おおゆうしゃよ、しんでしまうとはなさけない!

 やかましいわ。

実績:パーフェクト放置


メイドを号泣させて放置なんてひどいやつだね!!しかも寝落ちしたの指摘するとか女心わかってないなこのデブ!

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― 新着の感想 ―
[良い点] 久しぶりにゲーム内悪役貴族転生の話が出て来て、楽しみながら読ませて頂いております。 [一言] 更新頑張って下さい!!
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