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3話 すぐに襲い来る筋肉痛に若さを感じる

 デブーダの立ち去った後のローランの部屋。


 部屋に残されたのはジークブルムとローランの2人。

 呆然としたローランの手から剣が滑り落ち鈍い音が響く。ローランがふらふらとよろめきつつソファーにドサっと座り込むと、部屋の角に急に現れた”揺らぎ”と天井からサッと落下してくる2つの影がローランに寄った。 壁の揺らぎから現れたのは白髪の老婆。背はしゃんと伸びており若い頃は大層美人であった面影がある。そんな老婆は2mを若干下回る程度の巨大な木の杖を持っており僧侶服を改造したような衣装に身を包んで厳しい表情。

 天井から降り立った黒づくめの男は、所謂イケオジと呼べる部類で困ったように頭を掻いていた。


「マーリナ、私は幻術の類に踊らされているのか?」


「殿下、私の探知魔法には一切のスキルや魔法的な干渉は無いと断定しています。デブーダに誰かが干渉している様子もありません」


「んなことより殿下、なんで俺たちの存在をアイツが知ってるんだ?」


 ローランの表向きの最強の剣は英雄ジークブルムに違いない。だがローランはそれ以外にも2つジョーカーを隠し持っている。

 

 突如原因不明の失踪を遂げた元宮廷魔導師長マーリナ。

 黒虎の異名で知られた超凄腕暗殺者サルド。

 常にローランの身を守る為に密かに付き従う英傑だ。

 その存在は皇帝、第1皇子、第2皇子、あとほんの一握りしか知り得ない最高機密の情報だ。当然ながら第二皇子と敵対関係にある第3皇子デブーダが知るはずのない機密情報であり、それを知っている上で発言をしたようなデブーダにローランは途轍もない衝撃を受けていた。


「あり得ない……あり得ないぞ!一体何者なんだあれは!?デブーダの皮を被った何かに違いない!」


「ローラン様、御気持ちは十分理解できますが、多少不自然さはあるとはいえデブーダの論法に大きな矛盾はありませんでしたぞ」


「いや、おかしいだろが!何故アイツが自分の母である第2皇后の排除を目的とするんだ!?帝位がいらないとか、そんなわけないだろ!アイツは、アイツは……!!」


 心の靄が晴れず、出処のわからない怒りのままに吐き捨てるローラン。それは周りに見せる穏やか且つ冷静でない、本当に心許せる者の前でしか見せないローランのむき出しの感情だった。


「でもあの話が本当なら、アイツは相当の食わせもんだし頭も超絶キレるということになるぜ。話してる途中も大きな動揺や焦りなどは感じなかった。そいつぁ暗殺家業と言う気を読む仕事に長けてなきゃできないことをしてた俺が、自分のプライドと生涯をかけてもいいってくらいに保証する」


「豚を人間にしてプライドだけを貼り付けたような男だと思っていましたが、先程のデブーダは容姿に目を瞑ればただのうつけではできぬ発言ばかりでした。まさかあの男から帝王学の話が出てくるとは、それこそ明日は大雨でも降るやもしれませんね」


 あくまで客観的に評価を下すサルドとマリーナ。

 だがローランは頭を抱えて首を横に振る。


「嘘だ。あんなのは全て私を騙す為の嘘だ」


「殿下、正直言うとな、嘘の方がもっとヤバいぜ。あれだけの嘘を“俺たち”がいると知っている上でいけしゃあしゃあと言えたらそれこそ稀代の詐欺師だ。どのみち俺らのデブーダに対する評価は変えるしかねえよ。アイツは今の今まで全てを欺くだけの能力があり、頭もキレる。あの堂々した態度、容姿のハンデを感じさせないカリスマ性さえ感じる超然した立ち振る舞い。下手をすると今までの評価を全て覆し、次の皇帝候補に血筋だけでない実力を持った奴が付いて躍り出るぜ」


「そうだ!それができるなら何故帝位を目指さないのだ!?」


ローランが激高したように叫ぶが、従者たちはそのおかげで比較的冷静だった、誰かがパニックになってると周りが落ち着くあの心理状態である。


「殿下、だからこそデブーダは引くのではありませんか?国内で争っている場合ではない、あの言葉は嘘偽りではありませぬ。権力に固執した者の発言ではありませぬ。あの時の目つきは達観した者の目つきでした」


「城に縛り付けられたくない、というのもかなり皮肉が込められていましたが、真に煩わしそうな目つきでしたな」


 マリーナとジークブルムの言葉を聞き、ローランは弱弱しく横に首を振ると頭を深々と抱えた。


「では、奴の言葉を信じろと?」


「いんや、信じるにはまだまだ甘いだろう。むしろ警戒のレベルは上げなきゃなぁ。俺らの存在を知ってるならあっちの派閥に送った間者にも気づいてる可能性は高い。今までは暴れ回る猪への警戒だったが、今度は暴れる猪の力を行使できる狡猾な烏への警戒に切り替えなくちゃな。それに、俺はアイツが誰かに入れ替わってる可能性は捨ててない。ちょっと信じるには変貌ぶりがおかし過ぎる」


 ローラン達はそれから何日も頭を悩ませるのだが、結局デブーダに変化はなく更にドツボにハマっていくのだった。






 ふー…………クソビッチも微笑んでくれたみたいで上手くいったみたいだな。


 マリーナとサルドについてはとりあえずカッコつけていってみたが、あの反応からいたっぽいな。


 確か、マリーナは元宮廷魔導師長。本当は第1皇子の後見人だった。だが第1皇子が発病し自身の死期を悟ると、第2皇子とは異母兄弟でありながら非常に仲が良かったのも後押しして第3皇子からの盾となるようにマリーナと皇帝に懇願したのだ。

 皇帝は悩み悩んだが、ローランへの警備がジークブルムだけでは限界があることに気づいており、いろいろなことを考慮した結果マリーナを失踪扱いにしたのだ。この事実はその時の宮廷魔導師副長、今の宮廷魔導師長も把握しており、ベストルートで序盤を終了するとヒロインの師匠として魔法とか仕込んでくれる忠臣として描かれる。

この時ヒロインに教えてくれる魔法がかなり使えるんだよな。しかも特殊習得魔法だから通常の方法では一切覚えられない魔法なのである。


 サルドの場合は、元は他国の間者だったはず。ローラン暗殺を企てたがマリーナとジークブルムのタッグに取り押さえられ、サルドは見捨てられて長らく拘留される。其のあと独房を訪れたローランの説得を受け、その気概を気に入り忠誠を誓ったという奇妙な経緯がある。

 ベストルートでは特に大きな関わりはないが、旅へと出立するまで城にいる間度々声をかけてきて色々な話をしてくれる。友好度を上昇させておくと、出立前には便利なアイテム類を主人公に惜しげなくプレゼントしてくれる気のいい奴だ。


 この2人はローランの隠し球として姿を常に隠し護衛を務めているという設定があるのだが、やはりこちらでも設定通りだったようだ。


 お付きの者達は一体俺が何を話し合っていたのかとても気になるようだが、デブーダに気安く声をかけられる訳がない。俺はメンタル休息もしたかったのでお付きたちを一切無視して自室に戻らせてもらった。


「殿下、昼食は何時頃お召し上がりになるでしょうか?」


 椅子に座って目を閉じてこれからについて考えを巡らせていると、大分時間が経っていたようだ。俺は朝起こしてくれた超絶美人メイドの声で目を開ける。


「構成はどうなっている?いつも通りか」


「はい。殿下の御命令通り、野菜は用いず牛肉を用いた物ばかりです。甘味もお付きします」


 やはりか…………この言いっぷりということはまだ作ってはいないっぽいな。なら軌道修正可能か。


「野菜だ。野菜中心にせよ。特に咀嚼するものだ。肉は鶏肉にせよ。甘味は要らぬ」


「は?」


 俺がそういうと目を見開くメイドさん。だが次の瞬間顔がサッと青ざめて口を手で抑える。


「貴様ァ…………何だその態度は?我の成すことに不満があるのか?ん?」


「た、大変申し訳ございません。どうかお命だけは…………」


 デブーダの言動をトレースしてみただけなのだが、今まで澄まし顔だったメイドさんが床に伏して顔を真っ青にしてガタガタ震えている。この光景を見るだけでデブーダが周りにどんな人物で見られているかよくわかる。

 だがこのメイドさん……確か、内通者の1人で色々設定があったはずだ。

 宮仕えのメイドは大体低位の貴族に娘だったり貴族関係で訳ありな娘だったりする。このメイドは確か訳ありなタイプで、確か公爵家の隠し子とかとんでもないステータスがあったはず。

 そしてとても優秀だったはずだ。この人ともう1人を味方につけられるとMルート序盤の難易度は半分位になると言われてるが、大袈裟ではなく本当に難易度が変わる。ただし仲間にするまでが異常な苦行なんだがね。


 頭がキレて口も固い。そして特定の貴族の派閥についていない稀有な人物だ。

 これからデブーダ生活する上でもこの人は協力者に引き込んだ方がいいのか?うん、そんな気がする。デブーダの悪評は維持しつつ俺の目的に沿ったセリフは…………。


「ふん、貴様のような者の首で事足りると?ま、我は寛大だからな。今夜、我の元へ来い」


 逃げたらとわかってるな?ジロッと顔を覗き込むとメイドさんの顔に絶望感がプラスされた。やべえ、このまま自決したりしないよね?こんな豚の相手をさせられるぐらいなら死んでやる……!って俺ならやるかも。

 てかここまで絶望感のある表情もなかなかないぞ。周りのメイドもすごく気の毒そうな表情に一瞬なったし。デブーダ嫌われすぎじゃね?俺も嫌いだけど。


 結局昼飯はオーダー通り野菜中心で鶏肉と白パンなどだった。

 いや、白パンとかめっちゃあったけど3個でやめた。腹7分目に満たないが、こいつ食いすぎなのだ。胃が拡張されすぎて物足りなく感じるが、俺の学生時代の食事の量で考えるとこれくらいが適量だった。


 周りからは珍獣かUFOでも見るような目で見られながらという居心地の悪い食事だったが、いい感じに食欲が下がったので結果オーライか。みんな何か言いたそうな顔だが、おそらく「お加減がよろしくないのですか?」とかそんなんだと思う。だがしかし、さっきのメイドショックで周りも藪をつつきたくないらしい。

あんたが言いなさいよ、なにばかなこと言ってんのよ、あんたが言えばいいでしょ、というチラチラと視線の激しいやりとりがあってこっそり見てる俺はちょっと面白かった。




 LDOの世界では確か18歳で成人だが、15歳となれば本来は皇族としての勉強をしなくちゃならない。ならないのだが、このクソ餓鬼、わがまま言って勉強を放棄してる。一応教官はまだ雇われて指定の時間、大体午後になると専用の部屋で待機しているがデブーダがその部屋に行ったのは最初の一回きり。この豚本当にどうなってんだよ。救いようがないな。テーブルマナーの知識がなかった時にゃ流石にビビったぞ。


 ということで、礼儀作法ぐらい学ばねば話にならん。いくらデブーダの身体とはいえマナーのなってないやつという視線が向けられるのはムカつく。うちの両親は礼儀作法に厳しい人だったが、外食に出かけた時にマナーの守れんやつを見るとイラッとくるあたり血は争えぬ。皇帝にはなりたくないが、常識しらずの烙印まで押される必要はないのだ。


 デブーダロールプレイも大事だが、さげすむような視線は俺の精神衛生に悪すぎる。いくら“デブーダ”に対する目線とはいえ、中の人は“俺”だからな。


 今日は確か礼儀作法の先生が来る時のはずだ。

 ということでお付きには何も言わずに、教育に為に用意された部屋に電撃訪問。教官がびっくりしすぎて椅子からすっ転げた。神経質そうなおじいさんだったが、腰をしたたかに打ち付けていた。大丈夫かしら?


 困惑とパニック状態になっていた教官だったが、俺はなんとか宥め賺し丸め込み、テーブルマナーを重点的に学んだ。基本的なテーブルマナーは高級レストランに行った時の物と大きな差はなく、一度口頭で説明を受け手本を見せてもらえれば、真似るのは容易だった。


 ただ、食器の音をかちゃかちゃたてないようにするのはちょっと精進が必要だと感じた。それでも見ててくれと指示してエア食事を摂ったが、それを見た教官の表情はエネル顔一歩手前だった。

『家の中でリトルグレイに遭遇した人の図』というタイトルをつけて飾りたいぐらいだった。


 とにかくその日の午後はテーブルマナーと絶対に押さえておくべき礼儀作法ベスト10みたいなものだけ教えてもらって口封じをした上で(金貨を数枚握らせて)帰ってもらった。


 夕食がちょっと楽しみだ。俺の上達したテーブルマナーを見るがよい!




 礼儀作法の講義が終わったとあとは、お付きの物を下がらせて無駄に広い部屋の中でジョギングした。なんだか重力1.5倍、酸素濃度80%の空間で運動させられているようですぐに呼吸は荒く脇腹は痛くなった。だがこんな歩くたびに恐怖を覚えるこんな腹では、ストレスで禿げる。この脂肪のせいで体の重心がおかしいのだ。

 巨乳の胸が揺れていたい、そんなレベルじゃない。腹に着けた脂肪のおもりが俺の体を振り回すのだ。


 転生ものだとフツメンがイケメンによく化けるが、どうしようもないデブに転生するとかふざけんな。誰の仕業か知らねえが引っ叩いてやりたい。神か、神なのか?神は死んだ!


 うん、こんなくだらない事考えてないとジョギングすらできんこの肉体が憎い。だが、だがな、俺もなんの期待もなく運動してる気はない。


 皇帝陛下はイケメソ、第2皇后も内面はゲロ以下の匂いがプンプンするぜー!と言いたくなるものだが、悪役公爵令嬢がちょっと大人になったぐらいの綺麗さはあるのだ。


 つまり俺だって、デブーダだって痩せればわからない。


 目とかパーツだけ見ると結構悪くないのだ。とにかくデブデブぽちゃぽちゃで高慢ちきそうな表情がムカつくど畜生…………おっと、言い過ぎた。

 何を言ってもMルートのベストルートを回避してもデブーダの人生がそこで終わっちゃうわけじゃないし、せめて容姿だけはどうにかしたい。


 しかし継続が苦手な俺にできるか…………ええい、悩むより動け!



 もちろん1時間そこらで過呼吸ギリギリ気味かつ筋肉痛になった。若いっていいね。






実績:肉体改造開始!


ストイックながら地道なダイエットを開始!こんなにストイックにしてダイエットは果たして続くのか?まずはショッカー隊員レベルのスリムさを目指して改造だ!

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