22話 嘘は呼吸と同じ
本日三人目のお相手は異国の美女、蛇人族のヒュギエアスさんです。
ルールル、ルルル、ルールル、ルルル♪
『デブーダの部屋』
いかん、疲れてきてあの妙に耳に残るBGMと変なテロップが脳内に。
しかもデブ以外入室お断りな感じの誰得部屋な名前だ。
おのれ黒〇氏。あなたが日本国民に与えた影響は大きいぞ。彼女、元気にしてるだろうか?一番長生きだった祖母はあの番組が好きだったから俺もよく覚えているのだ。ちなみにあのOP、歌詞があることが知った時は結構びっくりしたものである。
それはともかく、今は目の前のヒュギエアス。異国出身だけあって彼女の場合デブーダに関する知識がかけているのだろう。彼女の向ける目は純粋に恐怖を帯びた物だった。
「落ち着け、我は貴様に手を出すことはない」
俺がそういうと、ヒュギエアスは首をかしげるが警戒心が下がらない。はて、どういうことだろう。少し考えてみると、簡単に答えはわかった。
「なるほど、本当に、片言程度しか、話せないのだな?」
今度はゆっくり聞き取りやすさを意識して話しかけてみると、今度は聞き取れたようでヒュギエアスはコクリと頷いた。まあこの調子ではトラブっちまうだろうよ。逆によくこの状態で積極的に医療行為を行おうと思ったもんだ。俺には到底できない。
「もう一度、繰り返す。俺は貴様の体を、求めているわけではない。故に、安心せよ」
再び、今度はより分かりやすくいってみるとヒュギエアスも理解できたようだ。完全にとはいかないがほんの少し警戒度が下がった。しかしあれだな。ゲームでは言語の問題は無かったが、こうして実体をもつとこの様な問題が析出するのか。やはりLDOとの相違を早く理解しないと危険だな。
「ワタシ、カワレタ、ナンノタメ?」
おっと、それは後でいいんだ。また思考がそれてしまった。
それにしても、蛇人族だからだろうか?ヒュギエアスの声は微かなノイズがかかっているように聞こえる独特な感じだ。しかし耳障りというわけではなく、むしろ個人的には耳触りは悪くない。
「それはだな、貴様の知識に興味があるからだ。我は貴様の持つ知識を、知りたい」
「チシキ?」
「知っていること、と言い直そうか。貴様が奴隷落ちになる原因となったのは、病に苦しむ者に、毒を与えたり、切り裂こうとしたから、だと聞いている」
「アレハッ…………!」
この反応は、やはり事実か。
「分かっておる。分かっておるとも。貴様は、救おうとしたのだろう?薬も毒も、本質は、大きく変わりない。要は、使い方だ。貴様は毒を薬として、使おうとしたのだろう?」
俺がそういうと、なぜかヒュギエアスは涙をうかべて激しく頷いた。なんで泣いてるのん?状況についていけない。
「ミンナ、ミンナ、シナイ!リカイ!ワタシ、ヤリタイダッタ!スクウ! デモ、ミンナ、ワタシ、オソレル、セメル!デキナイ、リカイ!」
ああ、なるほどね。まあ彼女からしたら相当な理不尽だよな。自分の常識が全然通じない状況って凄い怖いよな。
しかし、魔法のある世界で外科手術などの知識が発達している場所があるとはな。
「安心せよ。我は貴様を理解してやる。故に保護したのだ」
「デキル?リカイ?アナタ、デキル、リカイ?」
「ああ、貴様が為そうとしたのは医療行為なのだろう?回復薬や魔法では治療できない、そんな物を貴様は、なんとか治療しようとしたのだろう?」
魔法や回復薬でなんでもかんでも治療できる世界なら、この世界はもっと俺の理解の及ばない状態になっていてもおかしくはない。しかしそうではない。回復薬や回復魔法の限界を乗り越えようとしたとき、やはり医療技術は必要なのだ。
だが、ここ二週間の間で学んだがこの国の国教ではそれは悪と断定されかねない危険な行動なのだ。治癒は神の御業であり、人が手を出していい領分ではないと信じられている。それは回復薬などの悪用を防ぐための決まりなのだろうが、それが結果的に医療技術の発展を致命的に遅らせている。
しかし、そんなことを全く知らない異国の民からすればそれは極めて歪な考えでしかなく、まるで異端のように扱われるのはとても恐ろしいことに違いない。地動説を唱えた人々も、こんな気分だったのだろうか。
彼女はただ救いたかった、理解してほしかった、それだけだったのだ。
誰かがもう少し、彼女に歩み寄り理解しようとすれば、彼女は今ここにいないだろう。卑しい俺はそれを幸運だと思ってしまう。彼らが歩み寄らなかったおかげで彼女はこうして俺の目の前にいて、しかもその心を無防備にさらけ出している。それを好都合だと、どこか冷静に考えてしまう俺こそ、彼女にとっては悪でしかないのかもしれない。
「アァ…………!イタ!リカイ、スル、ヒト!ワタシ、ナカッタ、マチガッテ!」
彼女は今まで抑えていた悲鳴をあげるように、嗚咽と共に魂の叫びを吐き出すと、ボロボロと涙を流しそのまま泣き崩れてしまった。
おっかしいな。デブーダになってからハイペースで女性の泣き顔を見てる気がする。
俺はなにもしちゃいない。ただ偶然知っていたから、歩み寄れただけだ。問題解決なんてしてない。特にクレアラとジエラはただ視点を変えさせただけだ。
クレアラもバステアもジエラもヒュギエアスも、大まかに見れば皆同じだ。そしてその幸運に胡坐をかいているばかりではいつか破綻することも、俺は自覚している。いや、自覚しているつもりだ。
だからこうして泣かれると、俺の中になぜか後ろめたく感じる感情があることに気づく。クレアラを放置したのは、面倒だったのも本音ではあるが、一番は特に何もしていないのにその心の最奥に触れすぎたことでどのような涙にせよ泣かせたことが後ろめたかったのだ。
そんな俺にとって、彼女たちの向ける真っすぐな感謝の念は重すぎる。あの怪異の専門家の 「 一人で勝手に助かるだけ。誰かが誰かを助けるなんてことはできない」という言葉が今はよくわかる。俺は彼女達を助けちゃいない。だからこそ、その感謝の念は俺をそのまま押しつぶしそうなのだ。
クレアラを信頼できないのは、信頼することが怖いからではない。
では裏切られること恐れている?いや、それは裏切りを見抜けない自分の落ち度だ。
本当に恐ろしいのは彼女を心を正面から受け止められないことだ。
わかってるさ、ただ逃げているだけだって。
手駒を増やすことは、背負い込む物がもっと増えるだけってことも、わかってる。
ある時非常に慕っていた祖父から言われた一言を、俺はまだ覚えている。
「お前は物を難しく考えすぎる」と。
しかし爺ちゃん、これが“俺”なんだよ。この恐怖を忘れたら、その時俺は“俺”でなくなる。
彼女たちの思いを受け止めることは息が詰まりそうなくらい辛いさ、リリスなんてどうしてやればいいのか未だに答えがでやしない。それでも、自分のしたいことをするときは最低限の責任は取るつもりさ。この苦しみは今は忘れてはいけないが無視していい。未来の俺がどうにかするだろうさ。他人が信じられなくても、“自分は信じてやれる”さ。
だからこそ今は、甘えを捨てろ。迷いがあっては人心掌握など上手くいくことはないのだから。容赦をすてろ、道徳をすてろ、嘘は呼吸と同じだ。いつも通りだ。俺は今は“デブーダ”になるんだ。
「そうとも、お前は間違っていない。“我だけが”お前を理解してやれる!」
嘘もここまで来ると酷いな。おそらくリリスあたりなら案外あっさり理解できてしまうだろう。地頭もいいし、なによりあの恐怖のプラン(物理脂肪切除計画)をプレゼンしてきた奴だ。
「故に、お前を守ってやれるのは我だけだ!」
酷い詭弁だ。しかし『貴方だけ、私だけ』構文は陳腐ながら常に一定の成果を上げてくる。
「我が貴様を保護してやろう。その代わり、貴様はその知恵の全てを捧げよ。誓うのだ、ここに。我に忠誠を誓い、その知恵の全てを捧げることを!新たなる知恵の創造に協力することを!」
まったく、嫌になっちまいそうだ。
こうして俺は、3つ目の手駒を手に入れた。
はぁ、あと3人か。面倒だ。
実績:デブーダの部屋
だんさん豚さんも面談慣れてきたね!
実績:手駒の獲得・異端なる識者
発展しすぎた技術は時に奇術に見える。彼女の知恵の価値を理解する識者は残念ながら存在しなかった。
裏実績:信奉者
2/6
三人目
真・裏実績:本音
彼は独りで抗う。彼は人を心から頼ることが苦手な生き物なのである。




