21話 ジョークとかくだらないことに案外一生懸命になりすぎるタイプだったりする
割と深刻そうだったので、バステアととの交渉が終わった後は面談を後回しにして先に手紙を認めた。もうそれは我儘おぼっちゃんの本領発揮で、理由も一切書かずにただその師匠とやらの特徴を書き記しできるだけ早く連れてこいと例の貴族に向けて書いておいた。それと一緒に『万が一傷つけたりするとその傷一つにつき100倍の傷が貴様に刻まれる』と言う帝国に伝わる昔話の詩から引用した一文と、2週間の修練でサッと作れるようになったルビーを嵌めた宝飾品級の小剣、首の千切れた人形とその千切れた頭の部分(口の部分だけ更にザックリと切り裂かれている)というウィットの利いた品々を添えて。
同封した品物はとてもシンプルな意味合いだ。人形は『余計な口を開くと君の首がこうなるよ。わかった?』という意味だ。小剣は『もししくじったらそれを使えばいいよ』というとても親切なメッセージだ。頭のいい小学生でもわかるね。お誂え向きに血を連想させる黒みがかったルビーをわざわざはめておいたのだから当然このブラックジョークを理解しくれるに違いない。
さて、そんなジョークに凝ってしまったせいで時間が押してしまった。次だ、次。こんなことやってる場合じゃなかった。傍若無人というより残虐皇子みたいになってるが細かいことは考えない!これ幸せに生きるためのコツね!
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2番目はThe有能美人秘書、ジエラだ。
「さてジエラ、貴様には我から直接命じる雑務などをこなしてもらうおうと思う」
色々とカットしていきなりやってもらうことを伝えてみたが、ジエラの場合はバステアと違い恐怖しているというよりかなり戸惑ってる感じだった。
「ふむ、貴様の聞き知っている第三皇子と我の印象が食い違って些か混乱しているようだな」
俺がそう指摘すれば、ジエラの体が強張ったのでビンゴだな。いくら国境付近に暮らしていても商人なら耳敏なはず。故にデブーダに関する情報をそこそこ持っているだろう。
バステアはどっちかといえば田舎出身な感じが丸出しでただ権力者に噛みついてるだけの印象が強かったが、ジエラはもう3段階知恵が回るようでこの状況そのものに疑問を抱いている。
「そう混乱する必要はない。これが我の本性だと理解すればよい。今はどんな駒でも欲しいところでな、貴様なような有能な駒を遊ばせておく暇がない。貴様は様々な物資の管理、情報の伝達などの様々な雑務を担ってもらいたい」
ここ2週間で思ったのだが、存外クレアラは気軽に動かせる駒ではないのだ。というより、公への影響力が予想以上に強くなりすぎたのもあるし、既にオーバーワーク気味というのもある。なんせ冷静に彼女について考えてみると、常人では1日たたず音を上げるデブーダの給仕を1日中付きっきりで行い、さらには本来自由に使える自由時間も俺の密命を受けて情報操作に励んでくれている。更に更に俺に役立とうとマッサージを学んできたり本を調達したりと隙が無い。むしろ分身してるんじゃないかってぐらいで怖い。俺が見てないと途端に超人化するのほんと面白いんだけど。
だが彼女が如何に有能と言えど、ここに奴隷関係の管理などを追加で任せるのは流石に俺も忍びない。そこで白羽の矢がたったのがジエラだ。大商会の跡取り候補だけあって対人スキルもあるし人を管理し動かす能力にもたけている。何より複雑な指示などを出しても固有スキル《完全記憶》できっちり覚えておいてくれるのはありがたい。上手く使えばスケジューラとしても機能してくれるだろう。秘書としては最強の武器を彼女は兼ね備えているのだ。
今後彼女は奴隷の中でも一番色々と動くことになるだろう。公の場ではクレアラ、裏の仕事はジエラに任せることで俺としても格段に動きやすくなるわけだ。繰り返すように、特にこの奴隷の件でクレアラの動かしづらさは痛感した。俺とクレアラのつながりが露呈するのはよろしくない。万が一ばれると全部おじゃんだ。
だがこれからしっかり分業すれば例え万が一のことがあってもクレアラは守ることができる。裏の仕事を担うジエラは奴隷であるが故に罪にも問われないしな。あれだけ献身的に尽くしくてる存在を未だ信頼しきれないのが俺の中でかなり後ろめたいのもあるが、巻き込むだけ巻き込んで捨てるほど俺も外道ではない、と思う。
アフターサービスもばっちりなのが俺の売りなのだよ。
「自由に発言してよい。なにか質問は?」
「…………では、自分は夜伽の為に買い上げられたわけではないのですね?」
「心配するな。手を出すことはない。衣食住も本職のメイド同様に保障しよう。業務において必要な物があれば幾らでも用意しよう。少々タスクは多くなるかもしれないが、2年以内には解放する予定だ」
「解放、ですか?しかも2年で?」
「案ずるな、捨て駒扱いする気は毛頭ない。寧ろ丁重に扱おう。それだけ質の高い業務をこなしてもらうだけの話だ」
うん、バステアよりは穏便に話が進みそうだ。しかしまだ気になることがあるみたいだな。
「構わぬ、自由に申せ」
「ではその寛大な御心に感謝申し上げ1つだけお許しください。その2年のタイムリミットは何を意味するのか、自分に教えていただけませんか?」
へえ、やっぱりここは食いつくか。うん、ジエラにはやはり頭脳労働を任せて大丈夫そうだ。
「逆に、貴様は何と予想する?正直に申してみよ。なに、どんな答えであろうと我は貴様を罰したりはせぬよ」
皇太子が病で公務をこなせないことは市民の間では噂レベルだが、商人なら知っていてもおかしくはない。ならばこれは比較的簡単なテストだ。これにどう答えてくるかで今後のジエラの扱いは決定する。
ジエラは長めの沈黙の後、重々しい声で答えた。
「……………………クーデター、でしょうか?」
おーーーーーーーー!!これは予想外!“一般的な正解”である継承権争いならまだしも、“本当の答え”を言い当ててきたぞ!
「ふむ、その考えに至った理由も述べることはできるか?」
「帝位の継承権争いならば、殿下には第二皇后陛下が強力な後ろ盾として存在していますので、そのお力があれば第二皇子殿下と競ることは可能だと推考致しました。ですが、そのような場合は自分のような奴隷など政敵につけこまれるリスクとなりかねません。加えて殿下には自分の様な者を求めずとも動かす事のできる駒があるはず。その状態で、わざわざ奴隷を駒として求めるとなると余程特殊な状況であると考えることが可能です。
そして2年というタイムリミット。皇位継承争いならば具体的なタイムリミットが設けられるのは些か不自然でしょう。となれば、多少後ろ暗いことがあっても急進的に進めるべき何かがある、と考えられます。
以上の点を総括するに、クーデターかそれに準ずる、兎角穏便ならぬ事を進めようとしているのではないかと愚考致した次第でございます」
俺は少し呆気にとられたが、ジエラの少し恐怖を帯びた伺うような目を見てハッとすると思わず拍手してしまった。
「その頭の回転、度胸や良し!お見事だと言っておこう!しかしそう心配するな、貴様の身が危険に晒されることも捨て駒扱いすることもない。貴様は“奴隷”であるが故に、“仕方なく”我の指示に従わざるを得ない“被害者”なのだ。それともう一つ、クーデターを起こすことは既にローランには伝えてあるのだ」
「っ!?…………大変申し訳ございません。非才なる自分ではその意を測りかねます」
「ふむ、詳しい話は貴様の働き次第で追々明かしていこう。しかし、これだけは心得てほしい。貴様が担がされるのは国に混乱を招く大罪ではなく、帝国をより良い物へと変えるための大掃除の準備なのだ。つまり全ては予定調和なのだよ」
「お、お待ちください。クーデターを起こした人物は幾らどのような意図が存在していたとは言え必ず然るべき沙汰が下されなければなりません!そうであれば、殿下は如何様になるのでしょうか!?」
「少なくとも、今の我のプランでは“デブーダ・ペンドラゴン”はこの世から消えるだろうな。帝国史に稀代の“おおうつけ”として燦然と輝かしい悪名を刻み付けてな」
俺が明日の天気の話でもするような気軽さでそう答えると、ジエラは唖然として
口が半開きになっていた。美人が台無しだぞ、ジエラ。
◆
「さて、少しは落ち着いたか?」
「はい、話を途切れさせるような無礼をお許し下さい」
「そう固くならずとも、我は有能な者にとやかくケチを付けることはない。むしろおべっか等は時間効率の無駄でしかない。必要最低限のマナーさえ守れば堅苦しい話し方をせずとも我は一向にかまわんぞ」
ついうっかり漏らした俺のプランは、ジエラにはあまりに衝撃的すぎたらしい。フリーズしたPCみたいになっていたが、ジエラは今ようやく再起動したようだ。
「では本題へと移ろう。貴様の安全を保障すると言ってはいるが、奴隷という非合法の状態で貴様を働かせる現状が良い物ではないことは承知している。しかしそれは誰も傷つかないための苦肉の策であることを理解してもらえるか?」
「はい、なぜ殿下が奴隷をわざわざ求められたのか、自分も理解することがかないました」
「うむ。しかし不当に拘束されていることは確かだ。故に貴様には何らかの対価を支払おうと思う。今すぐ開放してほしい、と言われると困るが、その手のもの以外はできるだけ検討しよう。なにか望みはあるか?なんでもまずは申してみよ」
ジエラはどんな要望をだすのか俺が少しワクワクしながら待っていると、しばしの静寂と逡巡の後、微かに仄暗い光を湛えた目でジエラは俺を見つめる。
「それは、復讐、だとしても構わないのでしょうか?」
「貴様が奴隷落ちした原因に然るべき償いを、というわけか?」
「ええ。ですが「構わんぞ」…………はい?」
「構わんと言っている。少し手間はかかるができなくはなかろう。むしろその手の裏作業をこなしてもらうために貴様を手駒に加えたのだ。貴様の能力を図るという意味でもちょうどよい試金石になりそうだ。それが心からの願いだというなら、それで構わないとも」
ジエラは再び唖然としていたが、今度は再起動までも早かった。
「本当に構わないのですか?」
「ああ、それが貴様の本心からの願いだというのならな。我からすればつまらなく思えるが」
「つまらない、でしょうか?」
お、食いついた。そうだとも、君はこの程度で一々唖然としてもらっちゃ困るのだ。そして俺の補佐をするうえでYESマンならぬYESウォメンもいらない。積極的に噛みついてもらって結構だ!
「貴様の人生は、これから何年あるのだ?我は復讐自体は否定しない。あれは非生産的だという者もいるが強ちそうでもない。復讐の計画を練っている間は少なくともその人物は生きる気力にあふれているし、復讐を果たすことは人生の節目として機能することもある。ただ、我に願うことがそれでいいのか?貴様の人生はこれからもあるのだ。復讐する機会はこれからもある。ならば、復讐する下地を作り長い時間かけてしっかり復讐したほうがすっきりするだろうに。故に安直に復讐を願うのは“つまらない”と我は思うのだ。貴様の器はそんなものではないだろう?」
ビジネスライクな関係で、上下関係がしっかりしている会話の上で重要なのはさりげなく褒めること。
誉め言葉は養分の原液だ。正しく使えば草木をグングン成長させるし、与えすぎは逆に草木に逆影響だ。
ちなみに俺の中では、クレアラはいくら褒めちぎっても大丈夫な超激レアタイプ。あの手の人種は褒めるほどパフォーマンスが上がる。ただし闇雲に褒めるのとは違う。“彼女が頑張った部分”をしっかり見逃さず褒めるのだ。のべつまくなし褒めると褒めることの価値が下がってしまうからな。
リリスは…………むしろ褒めずに挑発したほうがパフォーマンス上げてくる扱いづらいタイプなんだよなぁ。下に見られることが嫌いだと思うし、褒めるのは確実に逆効果だ。
アザゼルは、あれはあれで我が強いし欲しい物は自分で取りに行くタイプだから、褒めてほしいアピールしてきたら褒めればいいのだ。猫と一緒で構いすぎてはダメなタイプだな、あれは。構わないと視界に入ってくるところまでそっくりだよ。宝飾品作りの途中に何が面白いのか徐に顔を覗き込んできてかなり心臓にわるかった。結局何がしたかったのか全く分からなかったし。
バステアは、あれは暫く褒めずに焦らして焦らして、爆発しそうになったら褒めちぎってあげればいいタイプだな。プライドが高いタイプには見えないし、よく言えば素直で悪く言えば単純で直情的だ。というより擦れてないから周囲の影響を強く受けるタイプだろう。
なので褒めすぎると絶対調子に乗ってポカする奴だ。俺の部下に似たような奴がいた。一度褒めて褒められることの喜びを教えたうえで、あとはひたすら焦らす。すると褒めてもらおうとしてこの手の人種は頑張ろうとする。だが感情が原動力なのでだんだんパフォーマンスが下がってくる。ここで褒めてあげると一気にモチベーションを回復して勝手に調子を取り戻すのだ。
育つと従順で非常に扱いやすくなるので軌道に乗せるまでは細かいケアが必要だが、一度育ち切れば成金化するのも早いので使い甲斐のある人種だ。
そしてジエラは、おそらく経験などに裏打ちされた高いプライドがあるはずだ。この人種は褒めすぎてはいけない。過剰な満足感を与えるとそこで達成感を覚えて失速してしまうからだ。重要なのはこまめに褒めること。感情が原動力でないタイプは客観的評価が常に重要なので、常にその評価を保証するだけでいいのだ。
将棋で言うところの金将あたりの使い勝手の良さがある。
成らないが、平均的に確実に成果を上げてくるのもこのタイプの強みだろう。故に自分の側においておくのが最も効果的な運用法。まさしく秘書に適したタイプだ。
閑話休題。
「貴様にとって、本当の願いとはなんだ?“願い”というのは結局のところ生きることと快楽の追及にある。貴様ももっとシンプルにとらえてみてはどうだ?例えば貴様の趣味に関わる物の方とか、其方の方が建設的だろう?」
俺が彼女の心を鎮めるように静かに語りかけると、彼女の瞳から仄暗い光が弱まっていくように見えた。そう、それでいい。復讐とかできなくはないけど本音を言うと面倒なんだ。ならば彼女の“本当の願い”をすり替える。誰も損しない素晴らしいアイデアだ。
「では、貴重な書籍の閲覧などでもよろしいでしょうか?」
「うむ、構わないとも。ここでしか読めない物も多く存在するだろう。《完全記憶》の持ち主である貴様には大いなる糧になるだろうよ。取り寄せてほしい物があれば気軽に申せ。本を取り寄せる程度は造作もない」
LDOは中世~近世ヨーロッパがモデル。本が極めて貴重ということはないが、流通が安定しないこの世界では彼女の住んでいた国境付近となると容易くはお目当ての物は手に入りずらかったかもしれない。
日本では平安時代の有名な古典文学「更級日記」を思いうかべてもらうとわかりやすいかもしれない。
この更級日記の作者は田舎出身の女性で、都で人気の「源氏物語」が読みたくて読みたくてしかたがなくてしまいには仏様にお祈りまで捧げちゃうようなエピソードがあった気がする。
娯楽が少ないが故に、書籍などの娯楽の価値は結構重いのだ。なので本を読みたい、というジエラの願いはささやかなようでありながら実際のところそこまでささやかな願いでもない。確かに、彼女の労働の対価にしては些か劣る可能性もあるがそこは追々補填すればいいのだ。大事なのは本人が満足するかどうかなのだからな。安上がりで結構なことじゃないか。
「それでは、我の命令を受諾してもらえるか?」
「はい。不詳ジエラ、デブーダ・ペンドラゴン第三皇子殿下の命令の全ての遂行をここに誓います」
よし、宣誓を得られた。これで手駒は2つ。
残るはあと4つか。よし、今日中に全部終わらせちゃるぞ!
実績:ジョークセンス無し
豚さんジョークセンスないね
(´・ω・`)そんなー
実績:手駒の獲得・影の有能秘書
表は忠犬クレ公、裏はジエラ
早くクレ公ちゃんだしてあげたい
裏実績:信奉者
2/6
二人目
偽実績:ビビる
たぶん投稿作品の3つのうち2つも“小説タイトル”で誤字る世紀の大馬鹿は私ぐらいだと思う。気づいてすっごいおどろいた。




